人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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戦闘シーンの描写が苦手です(´・ω・`)


高度数千メートルでやべーバトル

ひとまず合流はできたわけだ。良かった。

 

「...さすが、貴族サマだな?片道20万くらいするんだろ、これ」

 

キンジが部屋に備え付けられたダブルベッドを見ながらアリアに話しかけると、アリアは座席から立ち上がり、俺らを睨んできた。

 

俺なんかした?

 

「断りもなく人の部屋に押しかけるなんて、失礼よ!」

 

「お前が言うな」

 

「うぐっ」

 

キンジはアリアにそう言うと、アリアは経験があるのか、睨んではいるが何も言ってこない。

 

少しの沈黙の後、アリアが静々と口を開いた。

 

「...なんで、ついてきたのよ」

 

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

 

キンジが変な例えを持ち出して、アリアに食いついた。

 

「うるさいっ!答えないと風穴よ!」

 

そう言うとアリアはすぐさまスカートの裾に手を持って行った。

 

ちょっとここでも喧嘩とかオメーら勘弁してくれよー。

 

そうやってキンジとアリアがぎゃーぎゃー騒ぎあっているのを尻目に、ベッドに腰かけて机の上に置かれていたパンフレットを手に取って読み始める。

 

へー、一階はバーになってんのか、セレブ御用達、ね。

 

ペラペラと斜め読みしながらパンフレットを捲っていると、元々薄いものだったせいか、すぐに読み終えてしまった。

 

まだ、キンジとアリアは口論を続けている。

 

「おい、オメーらよー。少しは...」

 

落ち着いたらどーだ、と言いたかったが機内のアナウンスがそれを遮った。

 

「お客様にお詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れることが予測されます」

 

それを証明するかのように、足場がグラリグラリと、気になるほどではないが確かに揺れているのが分かる。

 

そして、ガガン!と雷の音が聞こえた。

 

その音が響くと同時、アリアは俺を突き飛ばして、ベッドに潜りこんでしまった。

 

立て続けに鳴り続ける、雷の音にすっかり参ってしまったのか、アリアは弱弱しい声でキンジを呼び、キンジはそれにやれやれといった様子で応じ、アリアの近くへ来て、手を握っていた。

 

...ブワッ

 

「うぉお!?どうした、ハヤトッ!どっか痛むのか!?無茶させちまったか!?」

 

キンジは顔を此方に向け心配そうな表情で俺を見て、気遣ってくれる。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?急に泣き出して、どうしたのよ?」

 

アリアも布団から顔を少し覗かせて俺を心配そうに見つめる。

 

「俺の前でイチャつくんじゃねーぜッ!キンジィ、オメー!俺がモテないのを知って、見せつけてんのか!?」

 

おろろーん、おろろーん。

 

しょっぱい水が目から溢れてくる。

 

グシグシと袖で涙を拭って、キリリとするも、すぐにふにゃりと垂れて、またブワッと涙が出てきた。

 

 

 

 

 

キンジとアリア、両名に慰められること数分。その慰めが予想以上に温かいものでまた泣いてしまったことは割愛して、今は3人でテレビをつけて時代劇を見ていた。

 

「―この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねぇぜ」

 

たしか、遠山の金さん、だったかな。キンジの家のご先祖サマの話だと聞いている。

 

そんな事を思っていると、全く反省してないのか、キンジとアリアがまた熱くなってる。

 

俺の目の前で、手を握り合って―。

 

「また泣くぞ」

 

「すまん」

 

「やめなさい」

 

みっともねーと思うかもしれないが、こうでもしないとこいつらイチャついて止まないと思うんだ。

 

そうして落ち着きかけたとき、バン、バァン、と音が響いた。

 

――銃声。

 

キンジと目配せをして、コクリと頷く。

 

俺が先に廊下にでると、狭い通路は人で溢れ返っていた。

 

キンジが俺に続いて廊下に出てきて、音の方向へ目を向ける。

 

そこには、さっきのビビってたフライトアテンダントがいた。

 

フライトアテンダントの手には、2人のパイロットと思しき人物らが引き摺られていた。

 

――穏やかじゃあ、ねぇなぁ?

 

キンジは呆けているのか、まだ拳銃を抜いてない。

 

俺が肘をトッと当てると、慌てたように銃を引き抜いて構えた。

 

「動くな!」

 

キンジがそう言いながら俺の前に出てくる。もう一歩、前に出ようとしたところで。

 

フライトアテンダントがニヤリ、と笑い。

 

「Attention please でやがります」

 

何処からともなく、カンを投げつけてきた。

 

ブシュウッ!

 

勢いよく、カンからガスが噴き出す。キンジはそれを見て血相を変え、大声で叫んだ。

 

「全員室内に戻れ!扉をしっかりと閉めるんだ!」

 

通路に溢れていた人たちは、すぐに部屋の中に引っ込んだ。

 

俺もキンジも、急いで部屋に飛び込む。

 

「キンジ!無事!?」

 

ガスを少し吸ってしまったが、俺にも、キンジにも異常は見られない。

 

無害なガスだったみたいだ。

 

で、頭の悪い俺にもなんとなく話が見えてきた。

 

「なぁ、キンジよー...あのフライトアテンダントが、武偵殺しでいいんだな?」

 

「ああ、違いない。やっぱりだ、やっぱり来やがった」

 

「キンジ!どういうこと?」

 

「武偵殺しは、バイク、カーと始めて、シージャックである武偵を仕留めた。そして、それは直接対決だったはずだ」

 

「どうして?」

 

「お前は聞いてなかったんだろうが、知らなかったんだ。それは、電波を出す必要がなかったから。武偵殺しが現場にいたからだ」

 

そして、と一息置いてキンジは続きを話す。

 

「シージャックから一転。自転車・バスとジャックする乗り物はまた小さくなっていった」

 

「―!」

 

「分かるか、アリア。俺たちはずっと踊らされていた。シージャックの時の武偵と同じように、3件目で仕留めるために直接対決をしようとしている。この、ハイジャックで!」

 

ギリ、とアリアが苦い顔をする。キンジも似たような表情だ。

 

どうしたもんか、と思案していると、機内放送のポーン、という音が連続して聞こえる。

 

「オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ オイデ オイデ イッカイ ノ バー ニ イルヨ ...か、何処まででもふざけてやがる」

 

キンジは忌々しそうに愚痴を垂れる。

 

「どうする?誘ってるが」

 

キンジがアリアに尋ねるとアリアは拳銃を2丁取り出して一言。

 

「上等。風穴開けてやるわ」

 

「俺たちも行くぜ、一人よりはいいはずだ」

 

「来なくていい」

 

ガガーン!と雷の音が響く。

 

「...どーすんだよ、アリア?」

 

俺が聞くと、さっきとは一転。

 

「く、来れば」

 

と、随分弱気な声で言ってきた。

 

 

 

 

 

ぽつりぽつりと灯されている誘導灯に従って、慎重に1階へ降りていく。

 

1階は、バーになってたな。

 

そのバーに、着いた。シャンデリアの下、バーカウンターに足を組んで座っているさっきのフライトアテンダントがいた。

 

だが、服装が可笑しい。その服は、かなり改造されているものの、元は武偵高校の制服だったはず。

 

しかも、その独特なフリフリは、理子が着ていたそれだった。

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねぇ」

 

そう言いながらフライトアテンダントはベリベリと音を立てて、マスクを剥ぎ始めた。

 

その素顔は。

 

「理子!?」

 

「Bon soir」

 

見間違えるはずもない。あの、峰理子だ。

 

理子はパチリ、とウィンクをして微笑んでいた。

 

沈黙が広がる。構えた拳銃をそのままに、独特の緊張感が滲み出ている。

 

理子が、静かに口を開いた。

 

「アタマとカラダで人と闘う才能ってさ、ケッコー遺伝するんだよね。武偵高校にも、そういう遺伝的天才が少なからずいる。でも、お前の一族は別だよ、オルメス」

 

オルメス?誰それ。神崎、遠山、冴島、峰。

 

ここに、オルメスなんて名前の奴はいねーはずだ。

 

アリアが息を呑むのが分かった。

 

「アンタ...一体、何者なの」

 

問うアリアに理子はニヤリと笑い、両手を広げ、高らかに名乗り上げた。

 

「理子・峰・リュパン4世」

 

それが本当の名前、と続けた。

 

リュパン...アルセーヌ・リュパン。フランスの大怪盗。それくらい知ってる。

 

理子はその、リュパンの曾孫なのか...

 

「理子はね、家の人間たちからずっと、4世、4世、4世様って呼ばれてたの。どいつもこいつも、4世様って。ひっどいよねぇ」

 

「4世の何が悪いのよ」

 

「悪いに決まってるだろォ!あたしは数字じゃない!ただのDNAなんかじゃないんだ!」

 

さっきまでと比べて、苛烈に。怒りを露わにしてアリアを睨みつける。

 

アリアを睨みつけるが、アリアに言ってるわけではない。もっと別の、誰かに言っているようだ。

 

「イ・ウーに入って手に入れたこの力で、あたしは曾お爺さまを超えるんだ!」

 

理子はそう言いながら、アリアに歩み寄っていく。

 

「待て、理子。お前が、本当にお前が、武偵殺しなのか?」

 

キンジが恐る恐る尋ねると、まるで気にも留めていなかったことを質問されたかのように、呆け気味に理子はへらへらと笑いながら、話した。

 

「あぁ?ああ、あんなの、プロローグを兼ねたお遊びさ」

 

「な―」

 

「そして本命は、お前だ。オルメス。オルメス4世」

 

理子は獣の様にギラギラと眼光を光らせ、獲物を狙うかのように間合いを詰めていく。

 

「100年前の戦いは引き分けだった。だから今度こそ、決着をつける。オルメス4世を斃せば私は曾お爺さまを超えたという証明になる」

 

だから。

 

「お前も役割を果たせよ、キンジ」

 

と続けた。

 

...俺、完全に蚊帳の外!なんかもう眼中にない感じがする!

 

少し憂鬱になりながら、一応の警戒をする。

 

「―お前が、兄さんを....――お前が!」

 

ちょっと落ち込んでたら、キンジがキレかけている。

 

恐らく、理子がキンジの兄貴の話でもしたんだろう。理子がやった、とでも言ったんじゃないだろうか。

 

キレたキンジが、がむしゃらになって突っ込んでいく。

 

「ノン、ノン。だめだよキンジ。オルメスのパートナーは戦う役目じゃないの。パンピーから情報を引き出して、オルメスの能力を増長させる。そういう事してくれないと」

 

グラリと機体が揺れ、バランスを崩したキンジから理子はベレッタを掠め取り、それを素早く解体してしまうと、床に放り投げた。

 

そこでアリアが突っ込んでいった。チラリ、とアリアが俺に目を向ける。

 

キンジのことを見てろと言われた気がする。

 

アリアに任せて、キンジのクールダウンを優先させよう。

 

「おい、落ち着けよキンジ」

 

静かに、語り掛けるようにゆっくりと伝える。

 

「これが、これが落ち着いていられるか!」

 

キンジは吠えるように、怒りの感情を向ける。

 

「いいから、落ち着け」

 

キンジの両肩に手を置き、グイッと力を籠める。

 

「離せ」

 

「いーや、無理だ」

 

「離せって、言ってんだろ!」

 

キンジが俺の両腕を力尽くで振り払う。

 

「ダメだよキンジ、仲間割れなんて」

 

理子がそう言いながら、側頭部を斬られ、血塗れになったアリアをキンジめがけて投げ込んでくる。

 

「―アリアっ!」

 

キンジはなるべく優しく、アリアを抱きとめると、何度もアリアの名前を呼び始める。

 

――やっちゃあ、いけねーコトがあるよな?

 

今、コイツは。理子は、俺の仲間を傷つけた。

 

よくわかんねー話をされて、一人だけ除け者みたいに扱われて、かーなーりー、キテたんだが、今のでもう限界だぜ、この野郎。

 

「―おい、キンジよぅ。アリア連れて、応急処置してきな」

 

キンジとアリアを庇うように、ズイッと前に出る。

 

「で、でもお前...」

 

「いいから、行けよ」

 

キンジは、しばらく黙った後。

 

「すまん、無茶はしないでくれよ」

 

それだけ言って、バーから撤退した。

 

「どこに行くのォキンジー、この狭い機内に逃げ場はないのにィッ!」

 

理子が俺を無視してキンジの背中にナイフを刺そうとする。

 

「おっと、悪ィがそりゃナシだ」

 

理子の顔面めがけて蹴りを放つ。バックステップで避けられる。

 

「...ちょっとさー、脇役が、舞台に上がってきちゃダメでしょ?ハヤト」

 

ガッカリとした声で、諭すように俺に語り掛けてくる理子。随分と気に入らないみたいだ。

 

「...」

 

理子の話を無視して、蹴りを放つ。避けられる。パンチを打つ。受け止められる。

 

「無駄だって。レベル差がありすぎー、序盤に出てくるスライムが99Lvの勇者に挑むようなモンだって」

 

「知るか」

 

「―あ?」

 

「テメーの御託なんて、どうだっていいんだ」

 

血筋がどうとか、超えるとか、超えないとか。

 

「俺にはどうでもいい話でしかねーんだよ!」

 

巻き込まれたことはもういい、済んだ話だ。血筋の話は関係ない。

 

だが、だが!

 

「峰理子!テメーはやっちゃあいけねーコトを1つ仕出かした」

 

「―へぇ、何をしちゃったのかな、理子は」

 

「俺の前で仲間を傷つけた」

 

一瞬の沈黙。

 

そして。

 

「プ、ハ、アハ、アハハハハハハハッ!!!」

 

理子はげたげたと笑い始めた。

 

「おかしー、サイコーにおかしーよ!アンタ!仲間を傷つけただなんて――最っ高にくっだらない!」

 

叫ぶと同時、理子は姿勢を低くして突っ込んでくる。

 

髪にはナイフが巻き付けられていて、ウネウネと髪が動いている。

 

「アンタに銃は必要ない!ナイフだけで遊んであげる!」

 

髪に巻かれていたナイフが離れ、理子の手に収まる。理子は速度を上げて、此方に迫ってくる。

 

「シィッ!」

 

理子の顔面めがけて、鋭い蹴りを何発も打つ。だが、当たらない。

 

「そんなノロマじゃあ、理子に追いつくのはツライだろっ!能力を使えよ!」

 

理子は挑発するように、俺の懐に潜り込み、ナイフを使う事なくパンチで腹を叩いてきた。

 

「―っんのぉっ!」

 

ズビシィ、とパンチを打つもひょい、ひょいと避けられて、今度は顔面に一発。

 

「あはっ!」

 

そのまま体を捻り、すぐさま引き戻してくる。

 

ゴスゥッ!

 

「―ぐ、が」

 

理子の強烈な、肘フックを顎に貰い、視界が大きく揺れる。

 

その衝撃で、フラフラと後ずさり、バランスを崩して背中から倒れていく。

 

それを好機と見たのか、理子は間合いを詰め、今度こそ止めだと言わんばかりにナイフを逆手に持ち、頭上高くに振り上げたまま襲い掛かってきた。

 

「シャァッ!」

 

倒れた状態から、ブリッジ。そのまま両足をそろえて持ち上げ、振り切る。

 

ガスリと何かを捉えた感触が伝わり、そのまま回転。着地しようとして、足場がグラリと揺れる。

 

バランスを崩して着地に失敗し、体を床に叩きつけてしまう。

 

「がっ!」

 

「ぐぇ!」

 

吹き飛んだ理子と、床に倒れた俺。ほぼ同タイミング。

 

距離はとれた。

 

―能力を、使うべきか。

 

理子が立ち上がろうとしている。迷っているヒマはない!やれ!

 

 

 

 

 

――瞬間。

 

 

 

世界が 加速し―

 

 

「ぐぶぇ!?」

 

 

 

理子めがけて飛び掛かろうかと、能力を発動させ全力で飛び掛かった瞬間。

 

眼の前に壁が現れた。避けられるはずもなく、衝突した。

 

「な、にが――」

 

「お前、バカにしてんのか」

 

顔を打った痛みに耐えながら、声の方向へ体を向ける。

 

振り返った瞬間、ナイフが迫り目を突き刺そうとしていた。

 

「―!」

 

ナイフを避けようと、能力を使った瞬間。避けた方向の、壁に衝突した。

 

「がぁ!?」

 

―どうなってやがる!思い通りに動けねぇ!

 

そんなこと、今までなかったのに。

 

理子はそんな俺の焦りを知ってか知らずか、ニヤリと笑い。

 

「あんた、制御できてないんだ、その能力」

 

これなら楽勝かなぁ、なんて言いながら、ナイフを持った手首をグリグリと回して余裕そうな表情を見せていた。

 

「へっ、言ってろ...すぐに苦虫を噛み潰したような表情にしてやる」

 

いざ強気な発言こそしてみたものの、どういうことだ。能力が思った通りに使えない。

 

考えてみるが、纏まるはずがなく理子は苛烈さを増して襲い続けてきた。

 

防戦一方。しかも、かろうじて避ける。そんな闘い、闘いとは呼べない。

 

どうにかして、勝たなければ・・・。

 

勝つために、能力を使って加速しなければ、決定打は与えられない。

 

事実、理子の攻撃の合間にカウンターを打ち込んではみるものの、全て防がれ、或いは避けられ、お返しのカウンターでダメージを蓄積させるばかりだった。

 

―くそったれ!自分の能力に振り回されるなんて、冗談じゃあねぇ!

 

「う、オオオッ!」

 

何度目かの能力使用。加速し、ガシャン! 壁にぶつかった。

 

理子は、音のした方向へ顔を向ける。そして俺を見つけ、嗜虐的な笑みを見せる。

 

けらけらと笑いながら、理子は

 

「もう、諦めたら?」

 

なんて、言うものだから。

 

「―ぜってーに諦めねぇ、意地でもテメーをぶっ飛ばす」

 

俺の反骨心に火が付いた。

 

矢常呂先生に言われただろう。ビビってるから体がヘタるんだ。信じきれてないから能力がブレるんだ。

 

 

――信じろよ、俺を。俺が俺を信じないでどうする!やれる、やれる!やれる!!

 

俺ならできるんだ!この程度の速さ、扱いきってみせる!

 

体が内側から熱くなるのを感じる。心臓の音が聞こえる。周りの音が消えていく。

 

機内に取り付けられた窓から、一筋の雷が見えた。

 

「やってやらぁ、理子。後悔すんなよ」

 

 

 

―瞬間。

 

 

世界は加速した。

 

 

 

一瞬だった。

 

足場が揺れ、狙いが理子からずれた。目の前は壁。またぶつかってたまるか。

 

―ビビるな、ビビるな!いけっ!いけぇ!

 

「オ、オオ、アアアアッ!」

 

勢いを殺さず、むしろ一歩踏み出した。

 

その勢いのまま。

 

 

壁を蹴り上げて、水泳のように、壁際でクルリと反転する。

 

 

そのまま壁を蹴って、更に加速する。

 

 

理子は、追いきれてない。俺の速度についてこれない。

 

 

狭い室内を、何度も何度も壁を蹴っては反転、加速して理子を狙い続ける。

 

 

 

 

何度も、何度も。何度も何度も――加速して。隙が出来るまで。

 

 

 

 

――理子が、背中の方へ目を向けた。今しかない。やるしかない。

 

 

 

 

「ッッッしゃアアアアアッ!!!」

 

 

 

特撮ヒーローの必殺のキックのように。

 

 

ほぼ水平に、理子の正面から。渾身の蹴りが突き刺さった。

 

 

 

そして、加速は終了した。世界に音が戻ってくる。体から熱気が排出される。

 

雷の光と音が、一瞬バー全体を包む。

 

 

 

「―え?げっぶっぁ!!?」

 

 

 

理子は何が起こったのか、理解できずに吹き飛ばされる。

 

 

俺は着地を取ることもできず、背中から盛大に叩きつけられ、ゴロゴロと床を転がり、壁に衝突した。

 

 

 

全身が痛い。筋肉がビクビクと変な痙攣をしている。汗が止まらない。骨が軋む感じがする。涙が出そうだ。

 

 

「理子...は」

 

 

動かない体を必死に起こして、這いずるようにして顔を向け蹴り飛ばした先を見るが、理子はそこにはいなかった。

 

次の瞬間。

 

ズシリ、と俺の体に何かが乗った重みを感じる。首を向ける暇もなく、声が聞こえた。

 

 

 

「―死ね」

 

 

 

首筋に、何かが刺さった感触を最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

 


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