人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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逃げたのはやべーと思った

 

「どれ、若ぇの。ここで出会ったのも数奇な運命な悪戯だろうからよぉ、1つ!俺に悩み相談でもしてみるってぇのも......乙なモンじゃあねぇか?」

 

白髪の多い髪に皺の深い顔、登山家のような恰好をした老人の男は、カメラを構え、フラッシュを焚かせながら何枚も俺の顔を撮ってくる。

 

――いや、あって間もない人に相談とか出来るワケないと思うんだが......?

 

「いいか若ぇの。世の中にはな?どーしても、1つや2つ、自分で理解出来ていても納得の出来ねぇ事があんのよ。俺もそんな時があったわけさ、そん時にどーしたかって言うとな、ひたっすら絵を描き続けた!大好きだったから、大好きだった絵を描き続けたんだ......納得できない事から逃げるようにな」

 

――いやあの、聞いてない......んです、けど。

 

老人は俺の事なんかお構いなしに、喋りたいだけ喋ってくる。

 

「で、俺もそんな風に悩んで、逃げてた時もあったが仕事を始める歳になっちまった。仕事は何をするかで当然悩んだ。そして俺は当然のように逃げ方を覚えてしまったから、俺は絵が好きだからって自分をテンプレで納得させて画家になったのさ」

 

「――え?さっき、写真家だって」

 

「話は最後まで聞け。好きな事を仕事にするとな?俺の場合は――描きたくない物を描かなきゃいけなくて、自分の好きじゃない物まで描けって言われてなぁ。俺は......それが面倒になって、辞めちまった。次に旅をしてみたかったから、全国どこにでも行ける運送業に勤めた。まぁ、結局飽きて辞めちまった。だが写真はいい!自分の撮りたい物の為に、自分の足で旅をする......俺にピッタリな仕事だ!......ちょっとばかし、稼ぎが少ねぇのが問題だがな」

 

ガハハ、と笑いながら老人はアルバムを広げて、俺に見せてくる。

 

「この写真は、俺が富士山を撮りたいと思って20日粘り続けて撮った傑作だ」

 

説明を聞きながら渋々覗けば、そのアルバムの中には世界各地の山や草原、動物に青空、海や夕陽......人工物まで写真に収めてあるのが分かった。

 

だが、こんな物俺に見せてどんな意味があるんだろうか。

 

「けど、きっと今のお前さんが見たいのはこんなモンじゃあねぇだろ。どっちかっつぅと――こっちだろうな」

 

老人はそう言いながら、アルバムの一番最後のページを開いてみせた。

 

そこにあった写真は――

 

「――雑草?」

 

アスファルトを突き破って伸びている雑草だった。

 

「おう、コイツはただの雑草だ。何の変哲もねぇただの草だよ」

 

老人は俺の肩を掴みながら、身を少し此方に乗り出して語りだす。

 

「だがコイツは根性がある!養分を吸い上げて成長して、挙句の果てにはあの硬ぇアスファルトを下から突き破って伸びている!すげぇだろコイツ!」

 

「それが、どうかしたんですか......?」

 

「え?ああ、どうかしたってワケじゃねぇ。あー、まぁ、つまりだな?若ぇの、お前も折れるなよ。この雑草みてぇに......成長し続けろ」

 

「......はぁ」

 

「――いいか、一度の失敗や挫折や悩みで、手前を腐らせちゃいけねぇ......だから、オレみたいに妥協し続けた人生を送るなや」

 

黙ったままの俺に、老人は続ける。

 

「本当にそれでいいのか、その答えでいいのか、辞めていいのか。諦めていいのか。全部、悩んでいい。なにせ大人なんていうのは、悩みに悩んで、悩み続けて納得して、妥協して大きくなっていった連中だからよ」

 

――悩み。

 

「悩めよ、若ぇの。悩みは全ての事柄において最も優先されるべきモノだ。自分が納得できるまで悩めばいい。お前さんが生き続けている限り、悩み続けていい。そして――自分が本当に納得できる答えを見つけろ。な?」

 

「――随分、難しい事を言うんですね」

 

「ガハハ!何、要は簡単な事よ。一本!筋を通して生きればいい。妥協はするな、納得する答えが出るまで悩む!それだけさ」

 

老人はそう告げると、荷物を纏めてベンチから立ち上がった。

 

そして、じゃあな、と告げるとそのまま歩き出し――振り返って、またシャッターを切られた。

 

ニカッと笑った老人は、再度振り返ると、次に振り返る事はなく俺の視界から消えていった。

 

「――悩み、続けろ......かぁ。難しい.....なァー」

 

――でも、そうだよな......

 

逃げてるだけじゃ、ダメだよな。

 

老人の言葉に、少しだけ元気を貰った俺は――まずは、キンジたちとしっかり意見をぶつけ合わせようと思い、携帯の電源を入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ......悩める若人、再び歩き出す......ってな!」

 

カメラを覗きこむ老人は、さきほどシャッターを切ったばかりの、病衣を着た青年の顔が写った写真を見て独り言をつぶやいた。

 

話し始める前に撮った写真と、話し終えた後の写真を見比べる老人は、その2つを比較して更に笑みを深める。

 

「かぁ~......良い顔してんなぁ」

 

その発言は、誰の耳にも入ることは無く。

 

もう2度と出会わないであろう数奇な運命ではあったが、何、人生とはそういう物だと老人は心の中で語る。

 

願わくば、この老い先短い老人の言葉が彼を動かす原動力になってほしい。

 

妥協しかしてこなかった自分の様になって欲しくはなく、悩み続けてほしい。

 

それが、特に大成する事も出来なかった挫折と妥協に塗れた男の、願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯でキンジに連絡を取り、最初に謝罪をした。

 

逃げ出して済まなかった、押し付けて悪かった――と。

 

キンジは、キンジたちは、気にしてない、と軽く流してくれた。

 

「で、どうするんだ......隼人」

 

目の前に居るキンジは、時計をしきりに気にしている。

 

時間は10時25分を指していて、ワトソンたちも準備を進めてはいるがまだ輸血に取り掛かれたワケでもない。

 

「理子がヒルダと同じ血液型だと言う事は既に分かっている。お前がヒルダの存命を認めてくれれば、すぐにでも輸血を行える......どうする、隼人」

 

「――......こっちに戻ってくるまでの間、散々悩んだ」

 

「おう」

 

「俺は、ヒルダを許さない」

 

「――そうか」

 

「ああ、そうだ」

 

「分かった......ワトソン達に、それを――」

 

「だから――ヒルダの命を助ける」

 

「――何だって?」

 

キンジの発言を中断して、俺が割り込んだ。

 

「アイツの命を助けるのは、可哀想だからとか、そういうモンじゃない。アイツが......ヒルダが手に入れるのは、命なんかじゃない。罪を償う機会だ」

 

「......隼人......」

 

「罪滅ぼしくらいは、してもらうぜ」

 

「――ああ、そうだな。そうと決まれば急ぐぞ!時間が余りないからな!」

 

俺たちは病室に着いてから、全員に改めて話し、了承させた。

 

それからはトントン拍子で事が進み、ヒルダは無事一命を取り留めた。

 

――これからは、人の為に働いてもらうぞ、ヒルダ。

 

そう〆て、ヒルダ襲撃の事件は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやァーしっかし、まさかワトソンが女子だったとはなァ」

 

あれから10日前後経ち、すっかり全快復した俺はキンジ、ワトソンと共に誰も居ない食堂で飲み物を飲んでいた。

 

「そ、それは言わない約束だろう......」

 

目の前で顔を赤くしてモジモジしているワトソンを見ると、確かにボーイッシュな女に見えなくもない。

 

砂糖を大量に放り込んだコーヒーを啜りながら、ふと頭の中を過った話をワトソン目掛け投げつけた。

 

「そういや......アリアとの婚約の話はどーなったんだ?」

 

「ああ、破棄させてもらった。ワトソン家の事情についてもほとんど話した」

 

「おいおい、怒らなかったのか?」

 

「『そんな事だろうと思ったわ』、だそうだよ。ちょっと安心した様な表情にも見えた」

 

「アリアらしい」

 

「ただ、その......ボクが......」

 

人はいないのに、赤くなって周囲を確認してから、小さく、じょし......と呟くワトソン。

 

「......で、あることは、言ってない。言えなかったんだ。あまりにも恥ずかしくて......」

 

「それで正解だと思うぜェー。状況を呑み込めず、呑み込めたとしても発砲されそうだ」

 

「ああ、そうだな......いや本当に」

 

キンジは俺の発言に何か思う事があったのか、肯定した後にブルリと身体を震え上がらせた。

 

そのまま何も無い所を見つめ始めたのを見て、俺は話題を強引に変更させる。

 

「あ、あー......理子は、大丈夫か?今朝フツーに登校してきてよォー......ケッコーびっくりしたぜ」

 

「救護科の先生も太鼓判をくれたよ。隅々までチェックしたが、すっかり健康だった。逆にちょっと心配なのは......ヒルダの方だね」

 

「容態でも悪化したのか?」

 

「どうせ暴れ回ってんだろーよ......」

 

「いや、うん......暴れ回っていた、が正しいかな」

 

「お?今は大人しいのかァー?」

 

「うん。確かに最初は這って逃げ出そうとするし、ナースに噛みつこうとするしで大変だったけど、理子のおかげで助かった事を聞いてからはとても静かになったよ。一言も喋らず、今は何か――考え事でもしてるみたいだ」

 

「まぁ、逃げたら教えろ。今度は戦車にでも乗って捕まえに行ってやる」

 

「戦車より俺の方がはえーよ」

 

「そういう意味じゃねーよ」

 

そう言った下らない事を言いながらも、話は徐々に雑談へシフトしていき――ワトソンが思い出したかのように俺に質問を投げかけた。

 

「ああ、そう言えば――サエジマ、君......あの、その......ナイフは、どうなった?」

 

気まずそうに聞いてくるワトソンの話で、一週間前の話を思い出す。

 

「あー......まず驚愕、安否確認からの説教のコンボだった」

 

ジャンヌが目に涙を溜めながら俺の体をベタベタ触って無事を確かめた後、たまにその綺麗な瞳から涙を零しつつ怒ってきたのは印象に残っている。

 

ジャンヌは溶けてしまったデュランダル・ナイフをまた鍛冶師に持っていくと言っていた。

 

「また、ナイフを作ってくれるのか」、と聞いてみたがどうやらナイフではなく、少し大振りの物に変わるそうだ。

 

......まぁ、あれだ。ジャンヌに散々怒られて、ナイフもダメにしてしまったけど、俺が生きてるならそれでいいって許してもらえた。

 

それくらいでいいだろう。夜の話なんてキンジや......ましてや女であるワトソンに聞かせるべき話じゃないだろうから。

 

ああ、そうだ。武装の話をすれば――平賀さんに預けていたフックショットだが、まだ改造案も納得のできる物が出来ておらず、ただ修理するだけでは面白くないと言われ、まだ預けたままだ。

 

XVRは綴先生から小言を言われつつも返してもらい、暫くの間何も無かった腰のホルスターに漸く収まった。

 

スプリングブーツは片方が破損して、もう片方は行方不明になったので、新しい装備の開発を平賀さんに頼んだ所、新作の試験を依頼された。

 

その新作はコンバットブーツと似た見た目だがほぼ全てが機械で作られているらしく、戦闘時に膝の辺りまで装甲が可動展開して脚を守り、敵に鋭い打撃を与える攻防一体の武器になる。

 

『O-V-E-R.H-E-A-T』システムも足だけで無く、展開した装甲部分全体に行き渡る様になった。

 

だが、この新型コンバットブーツの最大の特徴は、足の裏から瞬間的ではあるが展開した装甲に溜まった熱を一気に放出する排熱口が取り付けられているのだ。

 

これを攻撃目的で使えば、熱気弾を相手に近距離で叩き込む事も可能だろう。

 

ちょっと重いのが難点だが、まぁ慣れていけばどうにかなる、と思う。

 

 

 

 

まぁ、そんな感じで装備の更新と返却があった。

 

まとめると、

 

デュランダル・ナイフ→修繕の為離脱。

 

XVR→綴先生から返却。

 

コンバットブーツ→破損したので破棄。代わりに新作を供給される。

 

フックショット→修理に出すも、修復の目処が立たず。

 

こんな感じだ。

 

そうした話をキンジとワトソンに話した所でいよいよ話題も無くなったので食堂から立ち去り――キンジはワトソンに寮まで送ってもらうらしい――俺はジャンヌを迎えにテニス部へ向かうのだった。

 

久々に落ち着いた時間を過ごせて、結構リラックスできた気がする。

 

 

 


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