人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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なんかすごいお気に入り登録増えてるんですけど何があったんですかね?



デメリットとやべー反撃

身体から噴き上がる蒸気を振り払い、全力でヒルダ目掛け、力強く地を蹴る。

 

踵を上げて、左脚を前へ。

 

左の足がしっかりと足場を踏み、次の一歩を踏み出す為の力が溜められていく。

 

そして、右脚が左の足を追い越して――身体がそれに引っ張られ、前に進む。

 

踵が浮いて、つま先で地面を蹴りつける。

 

その時、身体を動かす最高効率のパワーが、地面に向けて弾けた。

 

突如左脚がずん、と沈み――体幹が崩れる。

 

「!?」

 

何があったかと思い浮遊感を感じる左脚の方へ目を落として見れば、蹴りつけたはずの足場は砕けていた。

 

礫ほどの大きさに砕かれた足場の破片が空中で静止しており、代わりに削られた穴に、俺の脚が引き摺り込まれる様に嵌っている。

 

――ああ、蹴る力が強すぎたのか。

 

地面に叩きつけられるはずの上半身を両腕で受け止め、倒立をする様に下半身......左脚を丁寧に引き抜く。

 

持ち上げられた下半身が空を向いた所で、体の向きを変えて、側転。

 

なるべくゆっくりと、気を遣いながら着地して、今度は上手い具合に地面をしっかりと蹴る事ができた。

 

気を取り直して再びヒルダに接近すべく、地を駆けていく。

 

ほぼ3歩ほど走った所で、ヒルダの目の前へ。

 

そのまま止まる事なく、全力の右ストレート。

 

殴りつけた右腕がヒルダの左目へと突き刺さり――

 

「――ぐ、ぬぅ!?」

 

右手の人指し指と中指の中間が、裂けた。

 

殴りつけた時、ヒルダの皮膚はまるで厚さ20cm強の鉄の塊を殴りつけたかのように硬かった。

 

破損はそれだけに留まらず、伸ばしきった右腕は殴りつけた衝撃を逃がす事が出来ず右腕全てに伝達していく。

 

内側から伝わった衝撃が腕へと走り、骨が軋み、罅割れ――筋肉が膨張し弾けた。

 

まるで間欠泉から噴き上がる水蒸気の様に血管から零れた血液が霧状になり大気に霧散する。

 

肩が嫌な音を立て――右腕全体に力が入らなくなり、伸ばしきっていた腕はだらり、と重力に引かれて垂れさがった。

 

恐らく脱臼したのであろう、何時もより伸びたその右腕を一瞥して、俺は左腕を構えた。

 

かなり強烈な一撃を撃ちこんだ筈だが、何とも無さげに立つヒルダを睨みつける。

 

――次のは、どうだ!

 

これがダメなら、次の攻撃へ。

 

休む事のない連撃をやるしかない。

 

そう判断した俺は、姿勢を低くし斜め前方、ヒルダの右手側を抜けていく様にスライディングで移動。

 

右膝をブレーキ代わりに使い、即座に停止。

 

そのまま右膝を軸にして回転。左脚で地面を蹴って更に回転力を上げる。

 

独楽みたいに回転し、欲しい速度まで行った所で左腕を伸ばし、ヒルダの背中に狙いを定め手刀を放つ。

 

手刀がヒルダの背中に当たった瞬間、掌の骨が折れる。

 

被害はそれだけで無く、当然伸ばした腕にもそれは伝わった。

 

伸びきった腕は肘ごと右回転しながら上へ行き、肘が曲がらない方向へ曲がり、折れた。

 

「――う、ぐ......」

 

痛みとは別の、何とも言えない......このまま、この感覚を無視し続ければ死に至れるような気がする妙な何かが俺を襲った。

 

喉が真綿で締め上げられていくような、水中でずっと酸素を吐き続けていくような感覚。

 

簡単に言ってしまえば呼吸が出来ない、いや......難しいと言えばいいのか。

 

それに苦しめられつつも、目の前に、背中を見せて整然と立っているヒルダを見た。

 

眼前にはコウモリの羽のような翼。

 

これを使って逃げられても困る。

 

脱臼で使えなくなった右腕を恨めしく思いながら軽く流し見て、次に何とか肩は上がるが腕が曲がらない方向に曲がり切った左腕を見る。

 

両腕は使えなくなってしまったが、まだ両脚がある。

 

幸いにも俺の両脚は、腕に比べて頑丈らしく、その耐久性は地面をぶち壊してもピンピン動いてくれるのだ。使わない手はないだろう。

 

右脚を翼に向けて振るえば、つま先――足の甲の辺りがまるでバターに食い込むナイフの様に、翼へ刺さる。

 

そのまま脚を引き上げれば、何の抵抗も無く脚は上がりきり、翼はヒルダの背から生えている部分から綺麗に裂けて宙へ浮いた。

 

これは便利だ、と思い残ったもう片方の翼へ狙いを変えて振り上げた脚を、今度は薙ぐ様にして振り下ろした右足で翼を切り飛ばす。

 

踵が地面に当たりそうになった所で、先の一件を思い出し途中で止める。

 

――アブねー......また地面ぶっ壊すのはゴメンだぜ。

 

とにかく追撃をしようと、ヒルダ目掛け左脚を鋭く突き出そうとして――ヒルダの変化に気付き、動きを中断し、飛び退く。

 

かなり遠く離れた所から見れば、ヒルダの頭部左側は消滅しており、上半身は鋸で荒く切断された様な断面を晒しながら下半身から離れており、かなりの勢いで地面を数度転がった後、滞空していた礫に数度当り、上空へと吹き飛んでいく。

 

避けた、わけでは無く――俺の攻撃の影響がようやく現れたという感じだ。

 

高く、高く舞い上がったヒルダの落下地点を大凡で予測して、落下地点に歩いていく。

 

両腕が酷く痛むので走る事は出来ないし、出来たとしてもバランスが取れないだろう。

 

真っ直ぐ上を見上げ、丁度ヒルダの落下地点あたりに辿り着いたので、そのまま跳躍。

 

無様に風に煽られ、姿勢制御すら儘ならず墜ちていくヒルダの腹部へ右脚を振り抜く。

 

右脚はヒルダの腹部を蹴りつけ、少々の抵抗を受けるがそれは即座に消滅し、次第に脚はめり込んでいった。

 

最終的に肉を抉り飛ばし、膝辺りまで押し込まれた脚を引き抜き、ヒルダより一足先に落下していく。

 

身体を軽く捻り、両脚を地面に向けておきながら着地、と同時に前転。

 

両腕が使えない状態での前転は非常に難易度が高く、少し焦りこそしたが問題は無く、ほぼ理想的と言える着地に成功した。

 

だがそのタイミングで、本能か、身体か、どちらかが限界を悟った様で、『アクセル』と共に、『スーパーチャージャー』が切れた。

 

スイッチをOFFにする様に、突然消えてしまった。

 

副交感神経が狂ったのか、体郭に熱が溜まり、外郭温度が上がっていく。

 

身体は異常なまでの気怠さに覆われ、脱臼、骨折した部位は火が点いたかの様に熱い。

 

しかし、それの対処に余り長く時間は掛けられなかった。

 

 

 

 

 

上から墜ちてきたヒルダが原因だ。

 

奴は粘着質の、湿った着地音を立てながら、辺りに血液を撒き散らし何度も身体を痙攣させている。

 

この地球という星の重力が変動したのではないかと思う程に身体は重く、頭を起こすことさえ困難に感じる中、必死の思いで顔を上げれば、

 

「――た、かが、たかが、人間の、分、際......で......よくも、この......この、この、このこのこのぉおおおおおおおおおッ!!!」

 

肉と肉がぶつかり合うような水っぽい音を立てながら、小さな出来物のような球状の肉が端から端へと、膨らんでは分裂し、膨らんでは分裂し、という行為を何度も繰り返しながら本来の形へと、ヒルダが望むべき輪郭を創り上げる為に再生していく。

 

眼球も、骨も、歯も、筋肉も。

 

あらゆるモノが異形の風景となって、視覚を通じて送られてくる。

 

まるで破損した物体が逆再生して、元に戻っていく様に。

 

両腕をダメにした攻撃は数十秒ほど、ゆっくりと時間を掛けて帳消しにされた。

 

ヒルダは再生した頭部の調子を確かめるよりも先に表情を歪め、俺を見て目を見開き叫んだ。

 

消滅した身体こそ元に戻ったが、感覚が追いついていないのか、地を這う様にして奴は俺目掛けて這い寄ってくる。

 

その口から、

 

「殺す......惨たらしく、殺してやる......何があろうと、絶対に......殺すッ!ドラキュラ家の、名に懸けて!」

 

呪詛を吐きながら。

 

再生した翼をもってして身体を浮かせたヒルダは、右手を突き出し、俺の顔面を掴むと第二展望台へ連れてきた時と同じ様にスカイツリーを大きく旋回し始めた。

 

ただし、先ほどのまでの穏やかな物ではなく――スカイツリーを支えている支柱全てにヒルダは、俺の身体を、どの部位でもいいのだろう、叩きつけていく。

 

俺の身体が支柱に衝突していく度に発生する不気味なまでの異音が鳴り響いた。

 

一度空中で静止し、これほど叩きつけても死なない俺を見たヒルダは不快そうに顔を怒りで歪めた後、支柱に俺を叩きつけ......何かに気付いたのか――すぐに笑顔に変わる。

 

「こんな不細工な楽器があったとは、思いもしなかったわ」

 

――な、に?

 

ヒルダの放った言葉の意味は、考えるよりも先に、身体が理解してくれた。

 

何らかの規則性を持った旋回、叩きつける支柱の位置、叩きつける強度。

 

それらすべてが意図して行われ、金属が振動する事で発生する音が――1つの曲を作り上げた。

 

それは――『魔笛』。

 

お前らイ・ウー関係はそれしか聞かないのかと思うくらいに聞いたものは、嫌でも耳に残っている。

 

だが皮肉な事に、この曲を奏でているのは蓄音機でも無ければ歌手の美声でもない。

 

この俺自身が、スカイツリーに衝突した音で奏でられているってことだ。

 

どれほど殴られ続けただろう、キンジは理子を説得できただろうか。

 

不気味なほどに耐久力の上がった俺は、ヒルダに楽器代わりにされながら思考する。

 

時折、血を吐き、背中に伝わる鈍い痛みに苛まれつつキンジたちを思う。

 

この状況から逃げ出すには、キンジたちの手助け、もしくは俺だけでの脱出が必要だ、と大まかに当たりを付ける。

 

ヒルダを蹴り飛ばして脱出しようにも、地面は200~450mも下だ。

 

ここでヒルダに反撃するのは悪手以外の何物でもない。

 

――どうにか、しねぇとな!

 

第一展望台当たりに下がるタイミングが、2度あった。

 

その時にヒルダを蹴れば、第一展望台の屋根に落下できるのではないだろうか。

 

そう考えた俺は、そのチャンスを伏して待とうとした......

 

が。

 

ヒルダは空中でその翼を広げ、停止。

 

そして右手で握り続けた俺を見て、

 

「――お前ではこの程度の音しか出せないのね、でも――まぁ良いわ。怒りは結構収まったから。じゃあね、サエジマ」

 

そう言って、ヒルダは俺を......空へ放り投げた。

 

一瞬の浮遊感。直後、重力に引かれていく。

 

両腕は骨折、または脱臼で使用不能。

 

フックショットは修理中で手元に無し。

 

身体は重く、自由に動かない。

 

救援の見込みは皆無。

 

重力に引かれ、風を切りながら墜ちていく俺を――ヒルダだけが見下ろし、嘲笑っていた。

 

 

 

「――う、ぉ、あ、おおおおおおおああああああああああああああッ!」

 

暗闇の中、どれほどの速度で落ちていくかすら理解できない恐怖。

 

ただ、コンマ1秒経つ毎に、俺の死は必然となっていくことだけが理解できていた。

 

 

 

 

 


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