人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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前回の投稿からかなり間が空いてしまいました(´・ω・`)



皆さん熱中症には注意してくださいね。


衣装作ってたらやべー事になりかけた

文化祭の準備の為、武偵高はしばらく短縮授業となった。

 

アリアは――あのあと、体育館で「小学生やります」と言うまで、30回ほど連続で蘭豹先生にジャーマン・スープレックスを食らい続けていた。さらっとやってたけどアリアを一方的にシバく蘭豹先生ってやっぱり強い。

 

それから、『眷属』の連中どころか『師団』の玉藻やメーヤ、ジャンヌも姿を見せない。

 

平穏なことは良い事ではあるが、こうも静かだと反動でやべーことになりそうで緊張感と警戒心が増していってしまう。

 

キンジは、アリアが大人しくなり余裕が生まれたような態度を見て......精神的にかなり楽になったのか、笑顔が増えた気がする。

 

それ相応に警戒心も薄くなっているのが問題だとは思うが、リラックス出来ているのも事実だから余りそれを害したくもない。

 

 

まぁ、今は......そんな事を考えているよりも、手を動かさないとヤバい!

 

――ウィィイイイイイイイイイン

 

―ズダダダダダダダダッ!

 

小型機械の駆動音が響き、連続で打ちつけられる音が発生する。

 

音の方向に目をやれば理子が凄まじい速度で布をミシンにあてがい、裁縫をしていた。

 

――はっ、速いッ!

 

理子は常人がドン引きするような速度で布を自分の身体の一部の様に動かし、有り得ない勢いで縫い続けている。

 

見ればその布はどんどんと形作られていき、装飾品の一部になった。

 

「どうよハヤッチー!これが理子りんのぉー、ミシン縫い!」

 

変なポーズを取ってドヤ顔をする理子に称賛の拍手を送りながら、改めて俺たちが居る2年A組の教室を見回す。

 

教室内には多くの生徒が居り、誰も彼もが必死になって衣装を着用し、細かい調整をしたり、理子の様に小物の製作をしている。

 

時計を見ると現在時刻が21時を少し回った辺りだと分かるが......なぜこんな夜遅くに教室にいるかと言うと、『変装食堂』で使う衣装は、自分で用意するというルールがあり、〆切までに完成させないと教務科の先生方によるお仕置きフルコースを受けるからである。

 

その為、お仕置きを受けたくないが故に〆切前日には教室に集まって徹夜で衣装を完成させる風習、『仕上げ会』が創られた。だからこうして夜中に学校にきて、皆で最後の仕上げをするワケだ。

 

そんな事を考えていると、教室の扉が静かに開き――キンジがやってきた。

 

キンジは衣装入りの紙袋をぶら下げて、俺たちが作業している場所に足を向けようとして衝立の中を覗こうとしている。

 

――あ、そこ女子の着替え...

 

と、言うより先にキンジはバッと飛び退いて、ホッと息を吐きながら俺たちの元にやってきた。

 

「あっキンちゃん。衣装、どのくらい出来ましたか?」

 

女教師――白いブラウスに濃紺の膝上タイトスカートを着た星伽が、いそいそ。

 

隣を片付け、キンジが座るスペースを作った。

 

「ほぼ完成してる。後で違和感がないか見てくれ」

 

「はい。ふふ......なんだか楽しみ。キンちゃんのお巡りさん姿」

 

黒メガネを掛けて微笑む星伽は本当の新米教師に見える。

 

教務科から言われた『入室後、最低1時間はその役職になりきって行動すること』と言う言いつけを守ってか...星伽の口調は何処となく教師に寄せている様だ。

 

――これでアリアが来たら......マジに小学校の一幕が完成するな。

 

アリア・星伽・理子。まぁ随分と面白そうな3人組になるだろう、と思いながら理子の居る方を見ると――完成した小物が置いてある代わりに、理子が居なくなっていた。

 

あれ、と思いもするが理子も理子で中々に自由な奴だ。急に居なくなる事もザラにある事だ。

 

キンジは星伽の隣に座りながら、警官の制服を揉んだりバッジで止める穴の部分を広げて使用感を出そうと奮闘している。

 

なぜ使用感が必要かと言うと、『汚し・ヨレ等のない、リアリティーに欠けるものは不十分と判断し許可はしない』と、教務科からプリントで通達されたからである。

 

俺は革靴――その、足の甲の部分の皺を出すために必死の工作をして皺を付けて、かかと部分の広がりや足全体を覆う革靴の草臥れの演出.......傷直しの意味合も兼ねて磨き直し等を何度もした。

 

靴底の擦り切れ具合もかなり本気を出して細工した気がする。

 

服装はこれくらいで十分だろうし、後は口調を直すだけだ。

 

――俺、チンピラみてぇな喋り方だって言われるし......どうにかしねぇとなァー。

 

頭の中でそう思いながら、喪服みたいな黒い上下スーツに、白いカッターシャツ、黒いネクタイ、黒い革靴、黒いベルト――そして、金に輝くバッジを身に着ける。

 

「これじゃあ......前にやったカジノ警備と一緒だ...」

 

と言いつつ、ピッと襟を正し、ネクタイをきつめに締めてスーツの第一ボタンを掛ける。

 

「おい隼人」

 

「どうした、キンジ」

 

キンジは俺の服装の何処かに異常を見つけたのか――3歩ほど歩いて距離を詰め、バッジを着けた部分を凝視して、俺の顔を睨みながら呟くように言った。

 

「なんでこの丸いバッジに『遠』なんて彫ってあるんだよ!しかも背景桜だし!」

 

ツンツン、と人さし指でバッジを突くキンジの肩を押し退けて、少し距離を作る。

 

「俺はバスカービルのメンバーだ......バスカービルが組なら、組長は――キンジ、お前になる......ってわけで、組長!俺に任せてください」

 

「誰が組長か」

 

やや股を大きく開き、膝に手を当ててキンジに頭を垂れると、キンジはツッコミを入れつつ俺の下がった頭にチョップをいれた。

 

「あだっ」

 

――つぅ......ぼた...ぽたっ

 

「......うぉ!?つ、強く叩きすぎちまったか!?悪い、隼人!」

 

鼻から伝わる違和感は、唇の方へ重力に従い垂れていきぽたりと床に落ちた。

 

下げたままの目線で、水音のした場所を確認してみれば赤い水玉が弾けているのが見える。

 

「あ、鼻血か......」

 

自分から垂れてきた鼻血を拭くために、携帯ティッシュをポケットから取り出して鼻に詰め込む。

 

「最近は妙に流血沙汰になるな......大丈夫か、隼人」

 

「鼻血ってだけで流血沙汰には...ならないだろ。平気だ」

 

床に落ちた血をティッシュでグシグシと拭い、頭を上げる。

 

近くに居る星伽を見れば「遠山くん......ダメよ。私たち、生徒と教師なのよ......?そんな、垣根を越えるなんて――で、でも......ナイショなら......い、いいよ?」と目を瞑りながら身体をクネクネと揺らして悶えていた。

 

見てられなくなったので視線をそのままレキに移すと、制服の上に白衣を羽織って、正座をして、萌葱色のブラウスをちくちくと縫っている。

 

作業を始めた時から少しも移動していない。レキは単純作業が得意なようで、ペースを一定に保って淡々と熟している。

 

キンジはレキが縫っているブラウスの袖を取って、縫い目を覗きこんだ。

 

俺も少し気になったので、キンジの後ろから頭を出してそれを見る。

 

――おぉ......

 

その縫い跡は工業用ミシンで縫ったみたいに精密だ。

 

その出来に感心しながら他の小物がないか見ると、レキの膝の前にはフチ無しの伊達眼鏡が置かれてある。

 

キンジもそれに気付いたのか、伊達眼鏡を持ち上げて――そーっとレキの顔に掛けた。

 

伊達眼鏡を装備したレキはゆっくりと顔を上げて、チラ、とメガネの上に開いた空間からキンジを上目遣いで見た。

 

キンジはそれを受けて――う、と声を漏らし、急いでレキから伊達眼鏡を外した。

 

何か来るモノでもあったのだろうか。

 

――そう言えばジャンヌも眼鏡を掛けていた......可愛かったなぁ。

 

キンジは「眼鏡は危険だ......」などと呟いて、天井を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、「みんな、おっはよー!」とガンマン姿の理子がやってきた。

 

――さっき教室に居たのにまた挨拶すんのか......しかも今は22時なんだが?おはようって時間じゃあねーぞ。

 

理子の発言に疑問を持ち始めるとキリがないので深く考えないことにしよう。

 

改めて、理子の服装を見る。

 

テンガロンハットを被り、厚手の生成ブラウスを胸の前で結び、ヘソは丸出し。

 

革のチョッキとブーツを身に着けて、デニムのスカートの裾には短い革紐がビッシリ並んでひらひらと揺れている。

 

拳銃を見れば、かなり古い......骨董品みたいなリボルバーを装備している様だ。

 

さっきミシンで縫っていた物は、どうやらあのデニムスカートの革紐だったようだ。

 

――芸が細かいなぁ......。

 

という俺の感心はさておき、ニッコニコの理子は教室のドア前で、

 

「ほら早く!絶対ウケるって!可愛いは正義だよ!」

 

ドアの裏側に居る、俺たちからは見えない誰かの腕を引っ張っている。

 

「~~~~~~!」

 

人の可聴域を超えた高音で叫んでいるらしいその人物の、ズリズリ引き摺られつつ足が見えてきた。

 

真っ赤なストラップシューズに......ピンクと白のしましまソックスが視界に映り――ソックスの上縁には、ヒラヒラした白いフリルが付いてる。

 

――これは......この格好は!

 

「や、や、やっぱり!い~~~や~~~よ~~~ッ!」

 

左右の胸の上部にでかいボタンをあしらったキッズサイズのブラウスを着て、アホほどミニなスカートを履かされたアリアが、腕関節が外れるんじゃないかという勢いで理子に抗っている。

 

とうとう全身図が明らかになったアリアちゃんは、ちゃんとピンクがかった赤ランドセルも装備し、その左側面にはソプラノリコーダーのホルダーがぱかぱかしてる。

 

この芸の細かさは間違いなく理子だ......理子が作った。有言実行したワケだ。

 

「アリア、諦めろ。それより衣装の細部を作り込んでおかないと、後で市中引き回しの刑をやられるぞ。その服で。オフッ」

 

キンジが自爆気味の笑いを漏らしたが、すぐに咳き込むような手つきで誤魔化した。

 

俺の隣で自爆したキンジが真顔で言い放つと、アリアはぷしゅううぅ......と頭の上から電線がショートしたみたいな湯気を上げつつ真下を向いたまま......酔拳を使うメイメイのようにフラフラとやってきて――キンジの隣にあぐらをかいた。

 

キンジの隣に座ったアリアに対して、ギロッ。

 

星伽が一瞬、刃物のような目つきをしたような感覚がしたので、そっちをキンジと一緒にチラッと見ると......にこにこ、と、何時もの穏やかな星伽が居た。

 

キンジは目を逸らして何も見なかったことにして、俺は目を閉じて山根と山柱の間を軽く揉む。

 

目を軽く開いてアリアを見れば――ランドセルの右側に『4年2組 かんざきアリア』と書かれた名札を付けている。

 

小学生の設定がツボってしまったキンジはダミーの咳をして、

 

「ンッ......秋は、空気が乾燥し始めるシーズンだな。風邪気味らしい」

 

こみ上げる笑いに震える声で、風邪気味宣言をした。

 

俺もそれに釣られて笑いかけるが必死に耐え、スーツの調整をするフリをして後ろを向く。

 

赤面したアリアは『笑ったら風穴!』という顔でキンジを睨みあげている。

 

頬を膨らませて、まるで本物の小学生みたいだ。

 

「ヘイ!アリアちゃん!お裁縫箱はこっちでちゅよ!アリアちゃん!」

 

ぽーん!

 

ジャンプして崩れた星座をした理子が、星伽の裁縫箱を勝手にアリアの足の上に乗せる。

 

アリアは、ぐぬぬぬ......という顔をして、自分のスカートを、ぎゅうううううう、と思いっきり握って悔しさをガマンしている。

 

「アンタね......それ絶対、『アリアちゃん』って言いたいだけでしょうが......ッ!」

 

ドスの利いた声で言ったアリアの額を、人指し指で、つん。

 

穏やかな笑顔で星伽先生がつついた。

 

「ダメでしょアリアちゃん?小学生がそんな口調で喋っちゃ」

 

星伽は温かい微笑みを浮かべ、教務科の命令、入室後1時間の役作りの話をアリアにしている。

 

「......ぅぐう......!」

 

「はい、それじゃあ、道具を貸してもらったら御礼を言いましょうね?」

 

よく見ると星伽先生は、アリアの眉間に立てた人指し指......爪を立てている。

 

アリアがキンジから遠ざけられるようにジリジリとスライドしていくことに気付き、星伽先生がアリアの額を突いている指を見れば、かなり力が込められていることが見て取れた。

 

ルール上、いま服を着ているからには小学生として振る舞わなければならないアリアは、

 

「......あ、あ、後で覚えてなさいよ......!」

 

と...ノドの奥から唸るような声で言ったかと思うと、に、にぃぃ......

 

顔の筋肉を痙攣させながら、サーベルタイガーがムリヤリ笑うような表情を形作った。

 

そして体内で渦巻く羞恥心と怒りのマグマから立ち上がる煙を口から漏らしつつ、

 

「が、ぐ......は、はいッ!あいがとうございますッ!せん、せーッ!」

 

赤紫色の目をカッ!と見開いて星伽に叫ぶ。

 

ビキィッ!

 

と、アリアのこめかみに血管が――『D』の形に浮き出た。

 

俺にはそれが、『死ね(Die)』のDに見えて......身体のどこかにある、『I』と『E』の形の血管が浮き出て揃うと――多分俺たちは死ぬ。

 

――ちょっと怖すぎて洒落にならないッッッ!

 

「......!」

 

余りの殺気に、アリアをイジる怖い物知らずの武装巫女・星伽が引いているのが見えた。

 

ガンマン姿の理子も上半身を後ろに倒してズリズリ後退っている。

 

キンジは冷や汗をかきながら、D点灯モード・アリアのピンク色のスカートを軽く持ち上げて、帯銃してない事を確認していた。

 

「あ、アリア、演技はしなくていいッ!普通に作業をしよう。な?」

 

「そ、そうだぜアリア......普通でいいんだよ、普通で」

 

メルトダウン寸前の原子炉をキンジが決死の思いで宥め、俺もそれに便乗する。

 

レキは何時の間にかハイマキごと煙の様に消えていた。

 

危険察知スキルが高くて羨ましい。

 

キンジは居なくなったレキに気付いたのか、「後で逮捕してやるからな」と呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

夜11時を回る頃には、それぞれの衣装も完成してきて......帰る人は後ろに寄せていた机を1人3つずつ元に戻す決まりにしていたので、だんだん教室の光景は元に戻ってきている。

 

バスカービルの面子からも、レキが「就寝時間です」と帰り、星伽が生徒会の仕事で帰り、アリアもドナドナが聞こえてきそうな足つきでトボトボ帰っていく。

 

俺も装備科からレンタルしてきたグロック19を胸ポケットの内側に仕舞って、小物周りは完全に整った。

 

グロック19は......グロック17のコンパクトモデルで、『第二世代』と呼ばれる新型フレームで構成されたグロックシリーズの拳銃だ。装弾数こそグロック17の頃より減ってしまったが、新型フレームと手頃な大きさで、使用者たちに親しまれる銃になった。

 

発表された同年にスウェーデン陸軍で採用されたのを皮切りに、ニューヨーク市警に警官用として4万挺が導入、ドイツのGSG9にも採用され国連保安要員用の拳銃として使用されている。

 

日本人の手にも十分馴染む大きさであり、SATにも採用されている。最近ではSOCOMにも採用され陸軍、空軍の特殊部隊で使用が開始された。

 

XVRのようなゲテモノ銃を扱っている身からすると、銃が小さすぎて不安になってくるが......これはこれで、いい銃だ。

 

制服に着替え、小物類などをジュラルミンケースにスーツと一緒に放り込む。

 

教室で出来る事は無くなったので、まだ残っているキンジと理子に帰宅する旨を告げ、一人夜の学校を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

自室に帰り、既に寝ているカナを起こさない様にダイニングの灯りを点けてから椅子に座って鞄からノートと筆箱を取り出して、ノートを開いてボールペンをクリックして文字を書ける状態にした。

 

更に鞄から一冊の本を取り出す。本の内容は簡単に説明してしまえば、光と人間の目が追いきれる限界速度の話だ。

 

条件によってマッハの定義自体が変わるため、具体的な話は出来ないがまぁ普段通りの場合、光は30万km/sを進むという計算がでている。これをマッハに変換すれば、マッハ88万2352.94になる。

 

俺の『エルゼロ』で到達できるのが、XVRの初速よりも早いのは確実だ。

 

XVRの初速が、700m/s。つまりマッハ2.37程になる。

 

俺はそれもよりも早い...マッハ3程度と仮定しよう。だが、マッハ3なんてまだまだ遅い。

 

V2ロケットの速度はマッハ4。戦車が撃ち出す装弾筒付翼安定徹甲弾(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot)、通称APFSDSはマッハ5。ICBMの速度はマッハ10で、終末速度に至ってはマッハ20~24にもなる。

 

俺はまだまだ最速には至れていないと言う事を痛感させられる。

 

速度の情報を書ききったページの反対側のページに、どうすればそれより早くなれるか、という題だけを書いて――筆が止まる。

 

――分からない。

 

『エルゼロ』......限界の到達点。自分自身の全力全開、100%の力を発揮した状態でマッハ3程度。

 

その先へ、どうやって辿り着けばいいのかが、分からない。

 

椅子の背もたれに思いっきり体重を預け、反りかえって天井を見る。

 

ギシッと椅子の軋む音が聞こえる。電灯がいつもと変わらない明るさを室内にまき散らしているのを眺め、溜息を一つ吐く。

 

――もっと早くなるためにはどうすればいい。

 

テレビを点けて、音量を絞った状態で夜のニュースを見る。

 

画面には建設途中のスカイツリーの情報が映し出されており......70%ほど完成した、という話が聞こえてきた。

 

あれが完成する頃...キンジはまだ、武偵高に居るのだろうか。アリアは......どうしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

――......俺は――生きていられるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

何もしていないのに、鼻から流れてくる血液を手の甲で乱暴に拭ってティッシュを鼻に詰める。

 

――ここ最近、妙に血が出やすい。

 

自分の体に起きた僅かな異変に不安を覚え、震えるが――それを押し殺すように手を強く握る。

 

深く深呼吸を一度だけして、ボールペンを筆箱に放り込み、ノートを閉じて本と一緒に鞄に乱雑に突っ込んで、電灯を消す。

 

布団の中に飛びこんで、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ああ、そう言えば今思い出した。アリアのかーちゃんの裁判......もう、すぐだったな。


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