人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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最近は暑い上に仕事も増えてきて効率がガタ落ちしてきてます(´・ω・`)

タイミングが悪い事にプロットも消費し切ってしまった......(´;ω;`)


やべーくじ引き

カナに肩を借りて、浅く掠れる呼吸を繰り返しながら震える足を引き摺るように動かして男子寮へ戻る道すがら、アリアを背負ったキンジは『眷属』の連中がUターンして襲ってこないかと警戒していた。

 

玉藻はそんなキンジを見て、

 

「ヤツらは所詮、使者に過ぎぬ。はなっからこの一帯には式神を放って見張らせておる。この長四角の浮島のどちらかに『眷属』が入ったら、すぐ式神が報せてくるから安心しろ。それに儂の耳によれば、どいつもこいつも海や空を渡って去っておるわ。ふふん」

 

と、キンジの不安を一笑した。

 

「隼人、喋れる?」

 

カナはそんな玉藻とキンジを見た後に、肩を貸している俺の顔を不安気に覗きこんでくる。

 

GⅢに何か打ちこまれた時に比べれば、首も据わり筋肉の弛緩もかなり収まった。

 

が、まだ声は出せそうになかった。

 

涎を口の端から垂らしながら、フル...フル...と首をゆっくりと振って、否定する。

 

「何を打たれたのか、分かればいいんだけど......キンジ、私は隼人を連れてこのまま武偵病院まで行くわ」

 

「......そうか、分かった。隼人を、頼んだ」

 

メーヤは男子寮の住所とキンジの部屋番号を聞くと......買いたい物があると言ってコンビニへ消えて行き、キンジと玉藻と気絶したアリアは男子寮へ、俺はカナに連れられ武偵病院へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またアンタか」

 

緊急で運ばれてきた俺を診てくれる人は、やはり矢常呂先生だった。

 

「先生、隼人が首筋に――注射器のような物を打たれ、内容物を注射されたようなんですが......それから呼吸困難、筋肉の弛緩、発汗、発熱を引き起こしました。意識レベルは0。極めて清明ですが呼吸が出来ない為か、発声が出来ないようです」

 

カナが簡単に俺の状態を矢常呂先生に説明していく。

 

「首に注射?またなの?」

 

そう呆れた様に言って、矢常呂先生は採血を済ませ、血圧、脈拍を計った。それから数十分ほどで血液検査の結果が出て、点滴――維持輸液を打った。

 

維持輸液とは...生体が必要とする1日の水分量、ナトリウムやカリウムが補充できる輸液だ。

 

汗をかき、筋肉が弛緩していた原因はナトリウムとカリウムの欠乏にあったようで、かなりの速度で点滴が落下していき、管を通して体内へ流れ込んでくる。

 

「さて、簡単に説明だけすると――まず最初にこれ、アンタの血液から出てきた奴よ」

 

そう言って矢常呂先生が出してきたのは、顕微鏡だった。

 

「ここを、よく見てなさい」

 

そう言って爪でガラスの一部を指しながら、レンズを俺の目線に合わせて設置する。

 

一気に拡大した視界に映ったのは、ガラス――その中に、小さな黒点が見える。

 

「何か、分かる?」

 

矢常呂先生の表情は真剣で、鬼気迫ったような感じだ。

 

首を横に振り、知らないことを伝える。

 

いつもより顔を白くさせた矢常呂先生は、ゆっくりと口を開いて、声を出した。

 

「顕微鏡で拡大してみたら......私も信じられなかったけど...コレ、人工的に作られた微生物よ。どの微生物とも一致しなかった」

 

「――――!」

 

――微生物?人工の微生物!?

 

「これが、一体だけじゃなく、採取した血液から複数体見つかっているわ。きっと体中に居る筈よ。――――最も、ほぼ死滅したみたいだけどね」

 

「......?」

 

「あの、先生?どういうことですか、人工的に作られた微生物が、死んでるって?」

 

矢常呂先生は皺のついたよれよれの白衣を揺らしながら前に垂れた髪をかき上げつつ、

 

「誰に打ち込まれたのかは知らないけど、その注射――コレを殺す為のものだったのかもしれないわね」

 

ただ...この微生物を誰が何の目的で投与したのかが分からない、と矢常呂先生は笑みを浮かべる事無く、真面目な表情で話をした。

 

「微生物は死滅した...って言いましたけど......体内に残った物はどうなるんですか?」

 

「汗や尿、便などで外に排泄されるわ」

 

「――微生物が消滅した後の隼人の身体は、どうなるんですか」

 

「知らないわ、私がコレを作ったわけじゃあないし」

 

カナの質問に、矢常呂先生は素早く答える。

 

「まぁ――今日はもう休みなさい。嫌でも明日はやってくるわ......ゆっくり休んでおくことね」

 

病室に流れる重い雰囲気のまま、矢常呂先生は手をヒラヒラと振って出て行ってしまった。

 

「......ごめんなさい、隼人。守ってあげられなくて」

 

矢常呂先生が出て行き、少し時間が経って、カナがそう言いながらタオルで顔の汗を拭ってくれる。

 

――気にしてないのに......ありゃ俺のせいだって。

 

そう思うが声を出せず、もどかしさを感じながらカナの顔を見る。

 

カナは慈悲深そうな悲し気な顔をしたまま、タオルを畳んで俺の額に乗せた。

 

「さぁ、もう寝ましょう......大丈夫、私が守るから」

 

カナは俺の髪を軽く撫でてから――立ち上がって、スカートの皺を伸ばし背を向ける。

 

それを見て、話す事も、動く事も出来なかったので......瞼を閉じて睡魔の誘いに引かれるまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を、見た。

 

 

 

 

密閉された籠の中で、動いている人形が居る。

 

 

窮屈そうな籠の中で人形は満足そうに動いて、時には踊っている。

 

 

それは実に楽しそうで、見ているだけでも楽しくなる。

 

 

不思議な光景だが――どこか懐かしく、親近感を感じた。

 

 

それを暫く見ていたが、突如として大きな衝撃が走り、籠が砕けてしまった。

 

 

人形は、広がった世界に驚きながらも......自分の意思で籠の外へ出ていくのが見える。

 

 

外に出た人形は、その広さに感動し今まで以上にきびきびとした動きで走り回り、飛び跳ねて、喜びを全身で表現している様だ。

 

 

そして最後に万歳のようなポーズを取り、パタリと倒れ糸が切れたように動かなくなって、その光景は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

その不気味かつ幻想的だと思った光景をただ見続け――誰かに肩を揺らされる感覚を受けて意識が、引き戻されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――隼人、起きて」

 

微睡のなか、静かに肩を揺らされて......目が覚めた。

 

目を開けると、俺の肩を揺らしたのはカナで、その姿は昨日のコートにブーツの格好とは違って、武偵高校の制服に身を包んでいた。

 

首を動かして、病室内を見回すとカナ以外に人は居らず――そのことを確認して再びカナに目をやる。カナは壁側に立っていて、その手の中には俺の制服と、XVR、デュランダル・ナイフが綺麗に積まれていた。

 

「......おはよう、カナ」

 

少しイガイガした喉を擦りながら、発音し――体を起こして肩をグルグルと回す。

 

「もう、すっかり元気になったみたいね?」

 

「......ああ、体は少し重いけどよォー......まぁ、大丈夫だろ」

 

カナの問いかけに答え、ギシギシと軋む音を立てながら皺が多くついたシーツの上を移動して、ベッドから足を出して床に降り立つ。

 

病室の窓から差し込む淡い朝焼けの光を全身に浴びながら、背伸びを一つする。

 

深く息を吸い込んで、吐き出す。

 

あれだけ苦しんでいたのが嘘のように、清々しい気分に包まれる。

 

しかし――かえってそれが、不気味だった。

 

打たれたものが何なのか、GⅢに問い詰めるしかないが、奴は今......何処に居るのか分からない。

 

それに、『眷属』が何時襲ってくるか分からないのだ。

 

自分自身が置かれた状況の把握が難しく、危険な状態であることに変わりは無かった。

 

そんな不安を抱きながら、受け取った制服、XVRとデュランダル・ナイフを装備してカナと共に病室を後にする。

 

廊下を歩きながら、昨日俺が注射を打たれてからの話を、カナから聞いた。

 

俺が注射を打たれた直後、アリアがSSRに網を張らせていた事でパトラ、カツェが放つ力を感知したらしく、単身空き地島に乗り込んできて『眷属』、『無所属』関係無しにガバメントを乱射――状況を理解したのか、俺をボートに乗せて戻ってきたキンジと合流し......

 

撤退する際に、ヒルダに襲われ『殻金』とやらを砕かれたらしい。

 

「カナ、殻金ってなんだ」

 

「緋緋色金を覆う、メッキのような物よ。本来、色金とは人に悪影響を及ぼすもので――それを人が扱っても問題がない様にする為に、殻を被せたの。それが殻金」

 

カナの説明に、俺はやや眉を寄せる。

 

「なァ......その殻金が、7枚に分かれて――えーと、2枚を玉藻とメーヤが戻したんならよォー足りねぇじゃあねーか」

 

その疑問にカナは真剣な表情のまま――

 

「そう。今のアリアは緩やかに緋緋色金に侵されている。一刻も早く残りの殻金を集めなければ――最悪の場合、緋緋神に成るわ」

 

廊下の先でピタリと止まり、長い三つ編みの髪を揺らし俺に向き直ってそう告げた。

 

「緋緋神になると、どうなる」

 

「緋緋神は恋心と闘争心を激しく荒ぶらせる祟り神よ。アリアが緋緋神になったら――――世界が戦火に包まれる前に殺すわ。隼人、あなたも覚悟しておきなさい」

 

――は?

 

殺す?アリアを、殺すって......!

 

「オイオイオイオイ!何も、そこまでしなくても――」

 

「――700年程前に緋緋神に成った者は、当時の帝を誑かし戦争を起こしたわ。その時は遠山と星伽で討ち取ったもの。隼人、あなたも武偵なら――世界を守る覚悟は必要よ」

 

カナは真剣な眼差しで俺を睨みつけて......そのままロビーへ抜けて行き、病院の外へと姿を消していった。

 

「世界...かぁ......大きく出るなー」

 

カナの言葉は重く、実感が沸かない。

 

アリアを殺さなければならない、その可能性が存在することがただ怖くて――そうなった時に、俺は本当にアリアを殺せるのかが、分からない。

 

恐怖心からか、それともまだ残っている昨日の影響からか......震える腕をもう片方の腕で押さえ付ける。

 

ぎちり、と音が鳴るほど固く握りしめた拳を見つめる。

 

――アリアが、緋緋神に成らない様にするのが一番だ。

 

カナの言う世界を守るなんて大それたこと、今はまだ考えられない。

 

だが、まずは――

 

「俺の手の届く範囲から、やるべきだろ」

 

誰に言うワケでもなく、独り言ちる様に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石に授業中は襲ってこないだろうし、話を聞いた限りでは、『眷属』は殻金を取り返されない様に迂闊に出てこないはずだ。

 

だが万が一、という事があるかもしれない。警戒しなければならないだろう。

 

カナに聞いた話ではジャンヌは『眷属』の追跡に入っているらしく、盗聴を避けているのだろう、携帯が繋がらなかった。

 

少し心配だったがジャンヌなら大丈夫だろうと思いとりあえず授業に集中することにした。

 

教室に着くなりキンジに肩を掴まれグワングワンと凄い勢いで振られながら大丈夫だったか、もう具合は良いのか、とすごい剣幕で聞かれた。

 

それにドン引きしつつも若干の嬉しさを感じたことは秘密だ。なんか知られるのって恥ずかしいじゃん?

 

席に着いてからはアリアの容態の話をして、昨日の事を覚えていない、若干の記憶障害があるということと......もしもの時は、アリアを殺さなければならない事、そうさせない為にも早期の殻金回収が必要だ、という話をした。

 

そのまま話はどんどんと雑談へと移行していき――ホームルームが始まるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

英語、化学、漢文と一般科目の授業を受けていると、4限目、3クラス合同のロングホームルームが始まる直前、アリアは登校してきた。

 

キンジを見るなり赤くなったアリアは、ぽすん、とキンジの隣の席に座ると......あからさまにキンジの方を見ない様に努力していた。

 

時折チラチラと顔を赤くしたまま、キンジの方を見るアリアは恋する乙女といった感じで――非常にいい関係を築けているようだ。

 

俺としては是非ともその関係のまま過ごしていってほしい次第だ。

 

そんな事を考えつつ、ロングホームルームが行われる体育館へクラスの皆と移動していく。

 

体育館に着いたが......隣に立っているキンジは難しい顔をしたまま何やら考え事をしているようだった。

 

体育館に大勢の生徒が集まり、ザワつきが大きくなっていく。

 

―ドンッ!

 

「よォーし!ほんなら文化祭でやる『変装食堂』の衣装決めやるぞッ!」

 

天井へ威嚇射撃をして、生徒達を静まらせてから強襲科教諭、蘭豹先生が叫ぶ。

 

2年A・B・C組が集められているこの場所で、ジャンヌは居ないかとB組を探すが――見つからなかった。

 

「じゃあ、各チームで集まって待機ィー」

 

尋問科教諭、綴先生の言葉に従い、俺はそのままキンジの方を向く。

 

同じクラスの理子、B組の星伽、C組のレキがキンジの元へ集まってくる。

 

キンジはレキがヘッドホンを被っていることに不安を覚えたのか、レキからヘッドホンを取り上げて何を聞いているのか、探ろうとして――思いっきり顔を顰めてヘッドホンを外し、レキを睨んでいた。

 

レキはアリアの方を向いていて、此方からでは表情が理解できない。

 

「キンちゃん、くじ引きの箱が来たよ」

 

「あ、ああ」

 

星伽がキンジの真横に行きたそうにしていたので、場所を譲ってやると小さくお礼をしてから、キンジに話しかけていると、手伝いの一年が箱の上面に穴が開いたものを持ってきた。

 

この箱の中身は、文化祭でやる『変装食堂』、そこで各人が着る衣装を決めるくじが入っている。

 

まぁ所謂コスプレ喫茶なんだが――ここは武偵高校。着た衣装、職をしっかりと演じなければならない。

 

なんちゃっては許されない。

 

生徒の潜入捜査技術の高さを一般にアピールする機会なので、真面目にやらないと教務科の教師がオールスターでお仕置きするらしい。

 

「ささ師匠、引いて下され。こちらが男子の箱でござる」

 

――おっ。

 

箱を持ってきたのはキンジの徒友(アミカ)、風魔だった。

 

『桜花』の原型を作った立役者だ。俺と風魔は、そう親密というワケじゃあないがそこそこの間柄ではある。

 

「引き直しは一度だけ認められているでござる。ではご武運を」

 

ニコニコと笑う風魔はキンジに箱をずずい、と押し出す。

 

キンジはそれに眉を寄せながら手を突っ込み、祈るように弄ってからくじを引いた。

 

「ど......どうだッ!」

 

ちなみにこのくじ――ハズレは『女装』となっていて、それはもう戦慄しながらくじを引いて行くのだ。

 

キンジが引いたくじは見えなかったが、チェンジを宣言したのであまり良い物では無かったのだろう事が伺える。

 

「チェンジすると一枚目は無効。2枚目の衣装が強制になるでござる」

 

風魔の説明を聞き、キンジは恐る恐るくじを引いた。

 

「『警官(警視庁・巡査)』......ッ!いよぉおおッッし!」

 

キンジはくじを握りしめて天井を見上げてから、安堵したのか体育館の床に座り込んでしまった。

 

「ささ、冴島殿......ジャンヌ殿は欠席でござるが、前もって代理人に冴島殿の名前を挙げているでござる。故に其方もお願いしたく......よろしいか」

 

「ん、相分かった」

 

俺はそう言いながら男子用の箱に手を入れて、くじを一枚掴んで引き抜く。

 

4つ折りにされた紙をそっと開いて行くと――

 

そこには、『暴力団員・幹部』と書かれていた。

 

暴力団員......観察がほぼ出来ないが、まぁそう目立つような事はしなくていいだろう。

 

「俺ァコレでいい」

 

「では続いてジャンヌ殿の分を」

 

風魔がズイッと女子用の箱を突き出してくるので、同じ様に手を突っ込んでくじを一枚引く。

 

ピラリと開いて、中を見ると『ウェイトレス(アットホーム・カフェテリア)』と書かれたものだった。

 

――ジャンヌのウェイトレス姿......

 

恥じらいながらも、しっかりと着るジャンヌ。

 

フリルの付いたひらひら系の服が好きだと言っていたジャンヌが、ウェイトレス姿に。

 

―たらり。

 

「うぉ!?隼人、鼻血!鼻血!」

 

ウェイトレス姿のジャンヌを想像して、鼻血が溢れてきた。

 

それをキンジが見て、ぎょっとした様子で立ち上がり小声で話し掛けてくる。

 

制服のポケットから使い捨ての携帯ティッシュを取り出し、鼻に詰めて――落ち着く。

 

――落ち着け、まだジャンヌのウェイトレス姿を見たワケじゃあねぇんだ......!

 

想像力の乏しい俺でさえ、想像しただけでコレだ――実物を、早く見たい。

 

「何鼻にティッシュ詰めてキリッとした表情してるのよアンタ......」

 

アリアが呆れ顔で俺を見ている横で、理子が女子用の箱からくじを一枚引いた。

 

「『泥棒(漫画・キャッツアイ風)』......えーコレじゃつまんなーい!」

 

滅茶苦茶お似合いだと思うソレを捨てて、理子は新しく引き直す。

 

理子が引いた2枚目には――『ガンマン(西部開拓時代)』――

 

本人は「おーやるやる!」と楽しげだが、何で女子の箱に『マン』で終わるものが入っているのだろうか。

 

続いて星伽、一枚目の『チャイナドレス』を「体のラインが出て恥ずかしいから」とチェンジ申請。2枚目で『教諭(小学校~高校まで任意)』を引き当てた。

 

レキは黙って一枚くじを引く。出て来たものは『魔法使い』

 

バスカービルメンバー一同が無言になる中、レキは向こうで手伝いをしている一年女子を睨みつけ――2枚目を静かに引いた。

 

――あ、やっぱり気に入らなかったんだ。

 

出て来たのは『科学研究所職員』。これなら無口っぽくてもそう言う感じの人っぽくていいんじゃないだろうか。

 

そして、最後にアリア。

 

深呼吸を繰り返して、不発弾処理をするかのような緊張感で信管を抜くように、そっと紙を取り出した。

 

ゴクリ、と喉を鳴らして紙を開けると......そこには『アイドル』と書かれていた。

 

――ジュニアアイドルかな?

 

口に出して言おう物なら即座に風通しの良い身体になるので、笑いを我慢するために鼻血を詰めたティッシュの位置を調整するフリをして口元を両手で覆い隠す。

 

見れば星伽も口元に手を当てて軽く笑っているし、理子は口を猫みたいに閉じて笑いを堪えている。口の端から息が軽く漏れているあたり、相当我慢しているのだろう。

 

「くっ......エンッ!」

 

キンジが耐えきれなくなって軽く笑うが、すぐさま咳払いをして誤魔化す。

 

しかし、それで誤魔化せるアリアか、と思いチラッと横目でアリアを見る。

 

アリアは顔を真っ赤にしてワナワナと震えた後――

 

だらり、だら......だらだらだら......

 

まるで漫画の様な滝汗を額から流しつつ、追い詰められた軍人のような口調で、

 

「チェ、チェ......チェンジよ。――チェンジ!」

 

と叫ぶ様に言い、右手を鈎爪のようにグバッ!と構えて箱に狙いを定めている。

 

「か、神崎殿!......それでは、次でッ!確定で......ッ!確定で、ござる......ッ!」

 

目力だけで小動物を殺してしまえそうなアリアから、風魔が後退る。

 

ドギャアアッ!

 

風魔の肩関節と、箱を破壊するような勢いで手を突っ込んだアリアは2枚目をその手に掴み、ゆっくりと開いた。

 

その、紙には――『小学生』とあった。

 

――しょ、小学生......ッ!

 

『かんざきアリアちゃん 8さい』とか洒落にならないから止めてほしい。

 

「やったぁぁあああああっ!やったよアリア!ある意味ハマり役だよ!きゃはははは!!」

 

と、絶叫した理子は、『小学生』の三文字を見た瞬間のまま時間が止まったかのように動かなくなったアリアの足元を転げ回り、あひゃひゃひゃと腹を抱えて爆笑している。

 

星伽も耐えられなかったのか、土下座するみたいに伏せて、声にならない笑い声を漏らしながらぱし、ぱしと床を叩いている。

 

俺も流石にコレには耐えられず、顔を思いっきり天井に向けてなるべく声を漏らさないように静かに肩を揺らして笑う。

 

旗から見たらすごいカオスな状況になってるのだろうが、どうせ他のチームも似たような惨状だ。

 

「ぅぐ、くく......――ハッ!」

 

遂にキンジも笑ってしまったかと思ったが、キンジは即座に笑いを止めた。

 

――殺気!

 

眉間の奥に強烈な不快感がビキリと走って、肌に痛いほどの殺気が突き刺さる。

 

――『眷属』の奴ら、此処で仕掛けてくるのか!?

 

XVRのホルスターに手をかけて、警戒をしながら殺気の溢れる方向に目を向けると――

 

『眷属』でも、『無所属』でも無い......アリアが居た。

 

がばっ!

 

俺が目を向けると同時、アリアはスカートの側面に設置したホルスターからガバメントを抜き取った。

 

「今のは無し!無し無し無し無ぁあああああああしッ!!!!まずアンタは死刑!」

 

風魔目掛けて二丁拳銃を突きつけたアリアを、キンジと理子が左右から飛びついて押さえる。

 

「止めろアリアッ!撃つな!蘭豹もいるんだぞ!?」

 

「諦めなよアリアちゃん!理子が衣装作り手伝ってあげる!ふひふひひひ!」

 

「誰がアリアちゃんよ!風穴!風穴流星群!風穴ビッグ・バーンッッッ!」

 

ばたばた暴れながらも、確実にガバメントの銃口を風魔の方へ合わせていくアリアに驚愕しながら、俺は風魔の方を見て叫ぶ。

 

「ふ、風魔ッ!俺たちは終わったから、早く次行け!次!」

 

「しょ、承知ッ!しからばこれにて!御免!」

 

煙玉とまきびしをばら撒きつつ、涙目の風魔は一目散に逃げていく。

 

「死ね!死ね!死ね死ね死ね!みんな死ね!見たやつ全員が死ねば、誰も見なかったことになるんだわ!むぎぃあああー!!」

 

等と途轍もなく物騒なことを叫びながら、アリアは当初のターゲットを見失ったにも関わらず暴れ続けている。

 

そんなアリアを後ろから俺が羽交い絞めにし、星伽が両足を押さえる。

 

レキは何時の間にか体育館の外に居り、扉から顔を半分だけ出してこの惨状をジーッと見つめていた。

 

――この惨状が分かってたなら......警告してほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ不安なことばかりだが――時間は、止まってくれない。

 

緩やかに、激流のような速度で流れていく。


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