人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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先日、Indy500優勝を果たした佐藤琢磨選手のハイライトを見て、これは歴史に残る素晴らしい出来事を見る事が出来たと只々、歓心しておりました。

速いということは良い事です。


懲役年数のやべー人

アリアに止められた後、キンジはアリアの方に用事があったのか床に落とした紙袋を持ち上げ、そのままアリアのベッドがある方へカーテンを分けて入っていく。

 

聞き耳を立てるのもあれだしなぁ、ちょっと自販機に飲み物でも買いに行くか。

 

 

 

 

 

飲み物を買って戻ってくるとキンジは既に病室には居らず、少し憂鬱めいたアリアがカーテンを開けっぱなしにした状態で佇んでいた。

 

「キンジとよぉー、まーたなんか、やらかしたのかぁ?」

 

キンジの分も買ってきたのにな、と言いながらアリアの近くまで行って、紅茶のペットボトルを置く。

 

「ほれ、飲んどけ飲んどけ」

 

俺も微糖のコーヒーを開け、チビリと飲む。うーん甘苦ッ!ブラックってどーにも好きになれないんだよなぁ、微糖ならちょっと苦いだけで飲めるんだが。

 

「何も、聞かないの?」

 

なんて、しみったれた顔して、落ち込んだトーンで聞いてくるアリア。

 

「そりゃオメーとキンジの問題だろー?俺が首突っ込んでいいのか?」

 

と言うと、何か言いだそうとして言いだせずに、喉になにか詰まらせたみたいに黙ってしまったアリアを一瞥して、飲み干したコーヒーをゴミ箱に入れる。

 

そのままベッドに腰を下ろし、ギプスをまた宙吊りにして上半身を沈め、のんびり天井を見上げることにした。

 

 

 

それからは、アリアが自分から喋ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁからよー先生!俺ぁもう大丈夫なんだって!」

 

「ダメよ、あと1日は大人しくしてなさい」

 

あれから、日を跨いで。

 

俺はレントゲンを指しながら、ヒビさえ見えなくなった部分をビシビシと叩いて、自分の快復をアピールするも、矢常呂先生は経過観察であと1日は絶対にここから出してくれないらしい。

 

「退院したら自室で大人しくしてっからさー、頼むよぉ」

 

両手をパシッと合わせ、頭を下げる。

 

「...アンタが大人しくできるわけないでしょう、どれだけ頼まれてもダメよ」

 

ダメかー!

 

これ以上粘っても無理そうだし、素直に諦めるか。

 

アリアの退院は明日だし、一緒に出る形になるか。にしてもキンジの奴、一度こっちに来ただけかよ。

 

アリアとなんかあったのは分かるけどよぉー、そのままにしとくのはマズいだろ。

 

あれからアリアの機嫌も悪くなる一方だし。正直居心地悪くてたまんねーぜ。

 

時間が解決してくれるのか、キンジかアリアかのどっちかが近づくか。

 

そうしなきゃ溝が深まるばかりだと思うんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明け、今度こそ。

 

「完ッ全!」

 

グイッと体を伸ばし、あちこち捻って、腕を回して、ギプスのとれた左足をブラブラさせて、屈伸を数回して、また伸びをする。

 

「ふっかぁああああつ!!!」

 

「うるさい」

 

「はい」

 

機嫌の悪いアリアに一喝されて、せっかくの復活の喜びが表現しきれなかった。

 

「俺はこのまま寮に戻るぜ、お前はどーすんだ」

 

気を取り直して、アリアにこの後の予定を聞いてみる。

 

「あたしは...少し、出かけるわ」

 

「そーかい、じゃ、また明日ぁあん?」

 

アリアに服の袖をグイッと引っ張られ、別れることに失敗した。すっげー変な声が出た。

 

何事かと思ってアリアの方をジロリと睨むと、重い雰囲気のまま、静かに話し出した。

 

「アンタもあたしが巻き込んだにせよ、武偵殺しの一件に関わった、そうよね?」

 

「ああ、そーだ」

 

「...行きたい所があるの、ついてきて」

 

詳しい話はそこでするから、と言い残して進んでいくアリアを見て、何か言いたくなったが、とりあえず付いていくことにした。

 

 

 

 

 

 

「で、オメーは何してんだ」

 

俺の前にアリアがいて、先へ進んでいく。俺の隣には...キンジがいた。

 

「お前こそなんでアリアと一緒に」

 

「退院した瞬間からついてこいだ、ワンワン、ワンワン」

 

ちょっとチャラけながらも薄っぺらい経緯を話す。

 

「犬かお前は。俺は、その、ほら、アレだ」

 

キンジの語彙力がやべーくらいに下がったのを不審に思いキンジを見ると、観念したのか溜息を一つ吐いて話し出した。

 

「アリアが居なくなってなんか調子狂ってな。色々やって忘れようとしてクリーニングに来たら、美容院からアリアが出てきて、なんとなく尾行してた」

 

「んでバレたと」

 

「そうだよ」

 

ほーん、意識してんだー、ほぉおおおん。

 

「な、なんだそのニヤついた顔は!」

 

キンジが顔を少し赤くしながら怒ってくるが全く覇気がない。

 

「いやー別にぃー?思ったより険悪じゃなくてホッとしただけだぜ」

 

これはマジだ。病室でアリアと二人きりの時のあの居心地の悪さを思い出すと今の状況は非常に良い。

 

そんな話で移動時間の暇を潰しながら黙々と進むアリアに付いて行くと、そこは警察署だった。

 

「アリア...オメー...」

 

俺は声を震わせて、アリアの肩をガシリと掴んで、ちょっと声のトーンを抑えてアリアに話しかけた。

 

「なんかやらかしたのか!?なにやったんだ!警察の世話になるなんて!」

 

「あたしじゃないわよこのバカッ!風穴あけるわよ!?」

 

アリアは肩に置かれた俺の腕をバシッと払うと今にも噛みつかんばかりの勢いでがるるる、と唸りだした。

 

「じゃあキンジか」

 

そんなアリアをスルーしてキンジの方を見る。

 

「ちげーよバカ」

 

「あれぇ?」

 

じゃあもしかして俺か!?なんかやらかしたかな...。

 

と、思案して。あっ、と声が出た。

 

あのスポーツカー...もしかしたら盗難車だった?

 

や、やべー!あんな高そうなの思いっきりぶち壊しちまった!

 

幾ら取られるんだ!てか行きたいところってもしかして嘘で俺を自首させるための罠!?さすがSランク武偵...やべーな...

 

一人で頭を抱えて悶絶していると、アリアが呆れたような顔をして俺の勘違いを正してくれた。

 

「ここにいる人に会いに来たのよ。持ち時間は3分しかないからサエジマ、アンタはなるべく喋らないように」

 

「あ、俺じゃないんだ。よかったァー!」

 

そんな風に喜んでた俺をスルーしてアリアとキンジは中へ入っていく。

 

置いて行かれるのは困るので急いで後を追いかけた。

 

 

 

 

 

「紹介するわママ、遠山キンジと、冴島隼人よ」

 

留置人面会所で会ったのは、アリアの母親だった。

 

「あらあら、アリアがお友達を連れてくるなんて」

 

ふふふ、と目を優しげに細めた母親にアリアは少し顔を赤くして言った。

 

「い、今はそういうのはいいのっ!」

 

その反応を見て、アリアの母親はまたにこりと笑って、そのままアリアから、キンジと俺の方へ視線を移した。

 

「...はじめまして、キンジさん、ハヤトさん。私、アリアの母親で神崎かなえと申します。娘がお世話になっているようで」

 

「あ、いえ」

 

とキンジが返事をする。俺もとりあえず頭だけ下げる。

 

にしても、こんな所にいるのに、随分とノンビリとした人だな。

 

...何やらキンジの対応がかたい。滑舌もいつもより悪い感じがする。

 

女の人が苦手だからって対面しただけでコレだよ。

 

そんなキンジにイラッとしたのか、アリアがキンジを押しのけて前に出る。アクリル板スレスレだ。

 

「ママ、キンジは武偵殺しの被害者よ。自転車に爆弾を仕掛けられたの。それに、一昨日はバスジャック事件が起こったわ。武偵殺しは、ここ最近活発になってきてる。なら、必ず尻尾を見せるはず。だからあたしは武偵殺しを捕まえて、ママの無罪を証明してみせる。そうすれば懲役864年を742年まで減刑できる。最高裁までの間に、他のやつも含めてなんとかしてみせるから」

 

そして、と続けて。

 

「ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を全員ここにぶち込んでやるわ」

 

と、覇気を感じさせる物言いをした。その言葉が本気だと伝えるかのように緋色の相貌がギラリと光ったような気がした。

 

「アリア、そう急いではダメよ。パートナーは見つかったの?」

 

「うっ、それは...まだ、見つかってない」

 

「ダメよ、アリア。あなたの才能も、短所も、一族の遺伝性のもの。パートナーを見つけなさい。あなたを理解し、世間とあなたを繋げる橋のような人を。あなたの能力を何倍にも引き出してくれる優秀なパートナーを見つけなさい」

 

「で、でも!」

 

「人生は、ゆっくりと歩みなさい。早く走る子は転ぶものよ」

 

 

 

 

―その言葉が、深く胸に刺さる。早く走る子は、転ぶ...か。

 

その言葉は、予想以上に深く、深く。俺の脳裏に焼きつくものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎、時間だ」

 

管理人が時計を見ながらそう言い放つ。

 

「焦ってはダメよ、アリア。一人で先走らないで」

 

「やだ!あたしはすぐにでもママを助けたい!」

 

管理人がかなえさんを羽交い絞めにして、2人がかりで引きずり込んでいく。

 

「やめろっ!ママに乱暴するな!」

 

アクリル板に張り付いて、必死に叫ぶアリア。その目に怒りを灯して管理人たちを睨みつける。

 

 

 

引き摺られていくかなえさんは、アリアが見えなくなるその瞬間まで―アリアを心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、アリアは帰り道で大いに泣いた。キンジの胸を借りて、大声で――泣いていた。どうにもいかない不条理な世の中を恨んでるのかもしれない。自分の力が足りなくて救えない事に嘆いているのかもしれない。

 

俺も、キンジも。何もしてやれない無力さを噛みしめて、ただ、ただ、無言のまま。

 

傍にいることしかできなかった。

 

追い打ちをかけるかのように降り注ぐ雨。

 

 

 

俺たちは静かに、立ち尽くしていた。

 


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