人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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特にイチャつきも無く、隼人メインですが(´・ω・`)


【番外編】[IF]隼人とレキ【お気に入り1000件記念】

「......」

 

頬杖をついて、安っぽいテーブルに置かれた、プラスチック製のコップに入った温い水を飲みながら、俺は目の前にいる少女を何時も通り呆れ半分、驚愕半分で見つめていた。

 

目の前の少女――緑色の髪に、瑠璃色の目をした少女......狙撃科2年の、Sランク武偵......レキは、俺が見ている事に気付き、顔を上げ、首を傾げた後何事も無かったかのように顔を下に向けて、手と口を動かす作業に戻った。

 

レキの目の前に置かれているのは、超大盛?特盛?メガ?......まぁ、とにかくアホみたいに具が乗せられたラーメンで、それを無心で、一定のペースで食べ続けている。

 

――いつも思うが、ちっせぇ体に、よく入るモンだ。

 

この店は度々、レキと食事をする為に訪れるラーメン屋で、初めの1回は完食出来たら無料、という物を適用させてもらったが2度目、3度目となると申し訳なくなり代金を支払うに至った。

 

もっと別の店に行かないか、と提案したときもあったが、レキは頑なにこの店を推し続けた。

 

なぜそこまでこの店に拘るのか、と聞けばレキは感情のないその顔で、「隼人さんと初めて行った場所ですので」、などと返す物だから、俺も強引に誘う事は出来なかった。

 

そんな感じで、俺は食べ終えた炒飯の器をテーブルの端に退けて、レキが黙々とラーメンを食べ続ける様を眺めている。

 

何時頃から、レキとこんな関係を持つに至ったのだろうか。

 

水を少し飲んで、記憶を辿っていく。

 

――たしか、あれは1年の11月下旬あたり......だっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そこで寝ると、風邪をひきますよ。今夜の風は、冷えますので」

 

「――あ?......ああ、そうだろうなァー」

 

放課後、既に日が沈み、月が顔を覗かせた時間帯に、一人屋上に佇んでいた時に、すぐ傍で声を掛けられ、顔を見る事無く適当に返事をする。

 

クソみたいな内容だったが金払いは良かった依頼を終えたばかりの俺は、内心荒れていた。

 

――金払いはいい、サービスも良し。だがやってる事はつまんねぇ。

 

最近の依頼はどれもそんな物ばかりだった。

 

高校生なんだしオシャレでもしろ、と依頼主に言われ金一封を理髪代として渡されたり、アクセサリに気を遣え、と言われ使いもしねぇ高級腕時計やネックレス、指輪やイヤリングを渡され、一流のビジネスマンは足先まで整える、と言われ高い革靴を渡されたりもした。

 

どいつもこいつも、武偵を舐め腐ってやがる。

 

そんなバカみてぇにお茶羅けたアイテムなんか持ってたって意味はない。

 

当然全部売り払った。質屋に二束三文で買い叩かせた。

 

金は腐るほど手に入れた。満足感は欠片さえ手に入らなかった。

 

だが依頼を熟せば熟すほど、そういう依頼をやればやるほど。

 

教師達は「あの人がお前の事を褒めていたぞ、俺の評価も上がった」、「お前はよくやっているよ、この調子で頑張れ」、「私の恩師から、内密の話が......」と、自分達の都合の話ばかり持ちかけてくるようになった。

 

終いには、つい昨日の出来事だが――とうとう俺の超能力を便利な宅配便と勘違いしたのか機密性の極めて高い文書の輸送という、鼻で笑ってしまう様な依頼まで押し付けられた。

 

速くなれればいい。俺はその一心で簡単に終わる、金払いの良い依頼をやってきた。

 

だがその先にあったのは、歯車として扱き使われる俺だけだった。

 

そして今日も、重要な会議に使うデータの速達をやってほしい......そんな依頼だった。

 

正直、武偵という物に嫌気がさした。

 

俺は便利屋じゃねぇ、と叫びたかったが――教師たちも俺が依頼をやればやるほど武偵高全体の評価が上がっていくからか、俺に雑用みてぇな依頼を押し付けていく。

 

――こんなことをする為に、武偵になったワケじゃない。

 

誰にも相談できず、物に当たる事も出来ず。俺は一人、日の落ちた校舎の屋上で、行き場のない思いを夜風に乗せて呆けていた。

 

そんなタイミングで、声を掛けられた。

 

顔を見なかったが、声で分かる。

 

夏に、遠山キンジ、不知火亮、中空知美咲、武藤剛気らと共に共同依頼をした内の一人......狙撃科の麒麟児、ロボット・レキ。

 

つい最近まで、ロボットが名前だと思っていた......が、実際は侮蔑の意味で付けられたあだ名だったらしく、本名はレキだけらしい。

 

依頼以外では会話もする事の無かった俺たちだが、なぜか今日、このタイミングでこのレキは運悪く、俺と同じ場所にやって来てしまった。

 

「こんな所で、何をしていたのですか」

 

「何って――別に......つまんねぇって思ってただけさ」

 

「つまらない?何が、でしょうか」

 

隣に腰を下ろしたレキに、パーソナルスペースを軽々と侵略された事に対する抗議の目を向けるが、如何せん反応が無く、暖簾に腕押しだと思い溜息を一つ吐いて諦めることにした。

 

だが――折角だし、校内でもそう会う事も無く、依頼でも共同する可能性は限りなく低いレキに――俺は、相談のような物を持ちかけてみよう。そう思った。

 

「――......面白くもない依頼を、テキトーにやって......それで金貰って、帰ってきたら誰も居なくて、何にも楽しい事が無くて――金だけは余っていってな。気付けば夜も更ける様な時間だ」

 

隣にドラグノフを抱えながら座る少女の方に視線を向ける事無く、夜空に煌々と輝く月を見てそう愚痴を零した。

 

「俺はもっと満足できる依頼を熟したかった。楽しいと思えるような依頼をな。だが、結局はこんなことばかりだ。つまんねぇ。面白くねぇよ」

 

「――依頼に楽しさを見出す方が、難しいのでは」

 

レキは酷く冷めた様な様子で、俺にそう言う。

 

「分かってるさ......だが、依頼が終わって、帰ってきて......誰も居ないっていうのが辛いのさ」

 

「隼人さんは、孤独に苦しんでいるのですか?」

 

「......どぉだろーなァー」

 

「私には、よく分かりません」

 

レキは、トーン1つ変える事無く、そう言った。

 

俺だってよく分からないんだ。それを、ましてやロボットなどと称される少女に理解できるはずがない。

 

次に繋ぐ話を見つける事が出来ず、暫くの間、無言が屋上を支配したが――レキの方からガサガサと音が聞こえ、俺の視界に小さな手が何かを握りしめて差し出されたのが映る。

 

「どうぞ」

 

月明りに照らされたソレは、栄養補給食で――お世辞にも、旨い飯とは言えない。

 

少女は片手を俺に突き出しながら、もう片方の手で栄養補給食をモソモソと食っている。

 

......少し腹も空いていたし、差し出された物を無碍にするワケにもいかず。

 

俺は引っ手繰る様にレキの小さな手からソレを奪いとって、乱暴に袋を開けて口に放り込んだ。

 

ボソボソとした触感のそれは、口に入った瞬間に口の中の水分を吸い上げていく。

 

噛めば噛むほどに出る筈の唾液は滴すら出ず、飲み込めば喉まで干上がっていく感覚を感じる。

 

栄養はあるかもしれないし、手早く食えるかもしれないが――

 

「......お前、こんなのを何時も食ってるのか?」

 

俺は、そう質問せずにはいられなかった。

 

「......?はい、食事は迅速に、栄養の多い物を。何か――問題でも?」

 

初めてレキの方を向いて、質問を投げかければ、レキはそれに呼応するかの様に俺を見て、返事をした後、首を僅かに傾けた。

 

――これが飯?これを、毎日?冗談じゃねぇ。

 

居ても立ってもいられずに、俺はレキの手を掴んで立ち上がり、有無を言わさずに屋上から校内へ行き、狙撃科へ連れて行った。

 

「......」

 

レキは無表情で、俺の奇行を眺めている。

 

「ドラグノフ、仕舞えよ」

 

「何故でしょうか」

 

「飯」

 

「はい?」

 

「飯。食いに行くぞ」

 

レキの瑠璃色の瞳が、僅かに開いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一件を皮切りに、このラーメン屋にはお世話になり続けている。

 

最初の頃は、俺が依頼を終える度にレキを無理矢理誘って連れてきたが、回数を重ねる内にレキから俺を誘う様になっていった。

 

今思えば、あの頃はかなり心中穏やかじゃなかった、と思う。

 

今でもやらされる依頼はクソみたいな物が多いが、依頼の後にはこうして心落ち着けて、誰かと食事が出来る。

 

それで全部流してしまえばいい。美味い飯を食って、嫌な事全部飲み干して、クリーンな気持ちでまた明日を迎える。

 

言ってしまえば、救いだ。

 

大袈裟なんだろうけど、この小さな行為が、荒れていた俺を宥めてくれた、救いだったんだ。

 

それが例え、余り物言わぬ少女との食事であったとしても。

 

誰かが傍に居てくれるだけで、助かる事だってあるんだ。

 

「レキ」

 

「――?はい、何でしょう」

 

「ありがとうな」

 

「......私は何か、隼人さんに感謝されるような事をしましたか?」

 

レキはあの時と同じように、瑠璃色の瞳で俺を見て、首を僅かに傾けた。

 

記憶の中のソレと寸分違わぬ動きに苦笑して、

 

「ばーか、そういうのは、素直に受け取っておけばいいんだよ」

 

俺はそう言い、水を飲み干した。

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんだよ」

 

今日も俺は、目の前の小さな少女に感謝する。

 

 

 

 

――ありがとう、レキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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