人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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このお話は、番外編です。

胸糞悪い気分になるかもしれません。


番外編
【番外編】やっと見つけた青い鳥


 

こんなのじゃダメだ。こんなのじゃ満足できない。違う、違う、チガウチガウチガウチガウ。

 

「我々は、一番で無ければならない――『国民』全員が、一番にならなければ、意味がない」

 

我々には国としての歴史が足りない。厚みが足りない。土地は有る。資源もある。金も、人材も、軍事力も、影響力もある。

 

だが――『幸福』が足りない。

 

 

 

誰もが、満足できない。何処かで飢えを感じている。

 

そんな事、許されない。決してあってはならない。

 

 

これほどまでに強請って、戦って、血を流して勝ち取った大地に住む我々は――『満足』しなければ意味がない。

 

「この程度では、満足できない――」

 

世界中から同意の上で連れ込んできた超能力者、偉人の血筋を持つ者たち、特異体質者から手に入れた細胞・血液・DNA......あらゆる者の情報を手に入れた。

 

そして我々はその情報を集めていく中で、究極の兵士を作ろうとした。

 

我々は戦争によって歴史を成してきた国家だ。我々の歴史の一頁、一項目の全てが血塗られ、迫害と弾劾によって積み上げられてきたものだ。

 

故に戦争で、貴重な――『次の世代』を失ってしまうことも、多々あった。

 

経験豊富な『今の世代』を失うことも、多くあった。

 

その痛みは、想像以上に我々の社会を蝕んでいた。

 

戦争反対、などと平和ボケした連中が兵士たちを労い、この国の歴史に影を落とそうとしている。

 

ふざけるな、そんなことがあってたまるか。

 

我々は常に、最も先を征く者たちでなければならない。

 

食事会の時、円形のテーブルに座った主催者が一番最初に『ナプキン』を取ることで、後に続く者たちの『ナプキン』の取り方を決めるように、我々が『一番』でなければならないのだ。

 

今までは、兵士、軍、企業が『一番』であれば良かった。

 

 

 

だが、時代は変わりつつある。

 

もはや一国民にも、強烈な『愛国心』が必要で、一人一人の国民が、『一番』を目指し、競い合わなければならない時代が近付いて来ている。

 

 

 

 

故に私は、私の信じる事を――『成すべきと思った事を、成す』のだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

最初は、Gの遺伝子を使った、偉人の子孫を人工的に作り出そうとしているプランが、ロスアラモスの方で実行に移されたという話を聞いただけだった。

 

私はソレを鼻で笑った。

 

なぜなら、それで生み出されるのはたった数名の、『偉人の遺伝子から生まれた者』たちでしかないわけで、私が求めている者には遠く及ばなかったからだ。

 

私が掲げた計画は『アメリカ全土に住む、愛国心を持った国民たちの幸福の実現』である。

 

本当に些細なもので良い――他人より速くなりたい、他人より頭の良い学校へ行きたい、他人よりも時間を有効的に使いたい、他人よりもスポーツが上手くなりたい。

 

その些細な『欲』が生まれる原因を、作りたかった。

 

私はその計画遂行の為に、まずは世界各地のスポーツ選手のDNAを手に入れ、特殊な変化ケースがないかの確認にあたった。

 

5年を費やしたが、どれも似たような物ばかりで――人種による違いこそあれど、結局スポーツ選手たちは、長い時間をかけ、食事をコントロールし、自らの限界に挑み続けた者たちしかいない、ということが解った。

 

 

 

 

 

 

次に、Gの遺伝子を使った奴らに倣い、偉人の子孫のDNAを手に入れ調べたが、これもまた、普通だった。

 

偉人たちのDNAは思考が与えられ、生まれ育ってから親による教育を受けて、正しく偉人の子孫になっていくのだ。

 

故に、特異体質で強くなれようが、技を知らなければ――知性が無ければ、意味がないのだ。

 

それに3年を費やした。

 

 

 

 

 

 

そして、私は超能力者たちの遺伝子に手を出した。

 

遺伝子は、何処となく違った。

 

スポーツ選手とも、偉人とも異なる、そんなDNAが、グレードの高い物ほど、違和感が顕著に出ることが解った。

 

しかし、そこで私は喜べなかった。

 

その遺伝子を手に入れ、私の計画の為に使おうとしても――砂を操れるだけで幸福にはなれない。氷を生み出せても幸福には至れない。思考が読めても幸福にはならない。

 

違う、私の欲しいものはそんなものじゃないんだ。

 

 

4年を、費やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――遂に私は出会った。

 

優秀な部下が、全世界に配信される動画投稿サイトで、動画投稿タイトルが日本語で書かれたソレを、見せてきた。

 

日本語がある程度理解できる私は、その動画の情報を一通り見てから、再生した。

 

画面に映っているのは、ジュニアスクールに通ってそうな年齢の、日本人の子供たちだった。

 

タイトルは日本語で『化け物、現れるw』と書かれてあった。

 

タイトルの最後についている『w』の意味は分からないが、動画の内容的には、スポーツ大会か何かの、50m走の様子が録画されているだけの短いものだった。

 

これのどこに、化け物が居るのか、私には理解できず――

 

動画では、教師の合図で子供たちが一斉にスタートした所で。

 

「―――――」

 

言葉が、出なかった。

 

一人の子供が、同年代の子たちを引き離し、独走してゴールしてしまった。

 

一人だけオリンピックに出場する短距離走選手が子供たちに混じっているようなレベルとは言わないが――――それでも、異常な速度だった。

 

有り得ないと言うに相応しいその早さは、私の心を、掴んでいた。

 

 

 

 

 

急いでその動画に映っていた『子供』に関する情報を、部下、CIA、私兵を使い調べ上げさせた。

 

彼らは私の指示に従い、早急に資料を作り、情報を纏め――私に提出してくれた。

 

名前は冴島隼人。性別は男。年齢は12。日本人。現在イジメをクラスメイト、クラスメイトの親から受けており、心がやや摩耗した状態。両親との仲は良く、それが心の支えになっている様子。調査の過程で、『加速』という非常に珍しい超能力を持っていることが判明。両親は共に普通の人間で、何の特異性もない。

 

父方の両親は既に2人共死去。母方の両親は2名とも存命。

 

父の職業はサラリーマンで、特に大きくもない普通の会社で働いている。母は働かず、家にいる。

 

――どうすれば、『彼』だけを手に入れられるだろう。

 

私は考えて、考えて、余りに余っている金を使うことにした。

 

研究施設で管理している子供たちを部下と共に日本に送り、子供たちは日本の子供たちに接触しイジメを促し、子供たちの両親には『彼』を非難し、侮辱し、否定すれば金をやると言って、実行に移した大人たちには金をばら撒いた。

 

初動の火付けが上手く行けば、後は鼠算式に増えていく。

 

イジメは良くない、などと言う正義感を持った立派な大人もいたが、最終的には金に屈した。

 

 

 

 

 

 

『彼』が両親に縋る時間が長くなったと報告を受けた。

 

そのタイミングで、『彼』の父親を、辞職に追い込んでやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やったぞ、『彼』の父親が自殺した。ははは、やった。

 

遺書を残していたが、すり替え、『彼』が原因だと言う旨の物に変えさせた。

 

『彼』は確実に心が折れるだろう、心を閉ざすだろう。

 

もう少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

ははは!こうも上手く行くと笑いが出てしまう。『彼』の母親が父親の後を追って自殺した。あれも遺書を残していたそうだが、すり替えるまでもなく『彼』に対する呪言が書き連ねてあったそうだ。

 

『彼』は母親の両親に引き取られるそうだが、どうせ上手くいかないだろう。

 

もう少しで、助けてあげるからね。待っててね。

 

 

 

 

 

 

 

『彼』は物置に閉じ込められるような生活をしているらしい。酷い事をする奴もいたものだ。

 

そろそろ、よく熟れた立派な果実になっているはずだ。

 

取りに行かなければ。

 

誰かに奪われる前に、私が育てた、私の理想を。――――『青い鳥』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ...誰?」

 

私の目の前に居た少年は――泥と土に塗れ、元々は白かったTシャツは裂け、土色に汚れ、顔や髪にも所々に泥が付き、爪はひび割れている。

 

濡れた泥が乾き、白っぽくなった腕の部分を払うと、その土の下には打撲痕があるのが見えた。

 

腰を落とし、白衣の裾が泥に濡れることも気にせずに、少年の目をじっと見つめた。

 

程よく絶望に支配され、濁りきったその目は実に私好みで、私の計算通りに心が折れていた。

 

「初めまして、少年。―――君が、冴島隼人君だね?」

 

口が半月状に裂けそうになるのを必死に堪える。

 

喜びの感情が爆発して、愛が生まれて――抱きしめたい気分に包まれる。二度と離したくない程の独占欲が生まれる。

 

濁りきった瞳が、私だけを見ている。

 

「......そう、冴島。冴島隼人」

 

その鈴のようにか細い、擦り切れてしまいそうな声が、私の耳を駆け抜け、脳を直接叩く衝撃を受ける。

 

ああ、愛おしい。愛おしい。愛おしい。

 

「君は――ほんの少しの『特別』が許されない社会を、どう思う?」

 

揺れる心を、感情を、必死に支配して、言葉を紡ぐ。

 

「......苦しいよ」

 

「――――そうだね」

 

ああ、待っててね、もう大丈夫、助けてあげる。私が、私だけが――アナタを、『特別』から、『当たり前』にしてあげる。

 

国民の為の『彼』なのではない。

 

 

―――――私は、ずっと間違えていた。

 

 

『彼の為の国民』なのだ。

 

 

 

「私と一緒に、アメリカに来なさい。アメリカは自由の国だ。君が抑え続けてきた『欲望』をどれだけ望んでも...誰にも邪魔はされないし、怒られもしない」

 

――勿論、石を投げられることも、否定されることもない、と、続けた。

 

彼の瞳は、アメリカという言葉に揺れたのが見えた。

 

「......僕は、何をすればいいの?」

 

ああ――ああ、嗚呼。

 

賢い子だ、聡い子だ、頭の回転の早い子だ。

 

この時点で対価を聞くなんて。

 

口元が、堪えきれなくなって――少し、歪む。

 

「君のやりたい事を、やりたいようにやればいい。」

 

「そういうのじゃない。僕は、アメリカに行く代わりに、アンタに、何を支払えばいいですか」

 

「見返りかい?......そうだね、見返りは、君の細胞と、血液を一カ月に数回...ほんの少し、分けてくれればいいんだよ」

 

「それだけでいいの?」

 

「貰いすぎなくらいだよ」

 

「――僕は、それだけで、我慢しなくて済むの?」

 

目の前の、泥に塗れた少年の、底の見えない暗い瞳が揺れている。

 

もう少しだ。焦るな、落ち着け。

 

私はそのまま少年を抱きしめて――

 

「もう、我慢しなくていいんだよ。泣いてもいいし、怒ってもいい」

 

「.....泣か、ない......ぜっだいに゛......な゛か゛な゛い゛!」

 

――ようやく、私の手に止まってくれた。

 

「辛かっただろう...苦しかっただろう?」

 

「うん、うん...」

 

背中を撫でて、愛おしい存在を逃がさない様にきつく抱きしめる。

 

「世界中の誰もが『君は要らない』と言っても、私は、世界の中心で、『君が必要だ』と、叫び続けるよ」

 

「僕が、いいの?」

 

「君じゃなきゃ、ダメなんだ」

 

泣き腫らしたその瞳に、微かな光が宿っているのが、見えた。

 

これで、どうだ。

 

「――僕、アンタに、付いてくよ」

 

――――堕ちた。

 

その言葉を聞いて、私はもう一度深く、私の手に収まった『青い鳥』を愛おしく抱き、顔を見られないように少年の顔を体に押し付けさせた。

 

こんなにも喜色満面の笑みを見られれば怪しまれそうだったからだ。

 

「そうか、そうか......ようこそ、アメリカへ。――――自由の国へようこそ。君は、ようやく自由になれる」

 

――私の、手のひらの上でだけ、自由になれる。

 

君には途轍もない広さの籠を与えよう。飛んでも、飛んでも、終わりがない、変わり映えのない世界をあげよう。

 

君の血と、遺伝子で――世界は変わる。

 

きっと君の『加速』は身体能力は勿論、思考能力だって『加速』するはずだ。

 

曖昧な能力は、分岐が多く、奥が深い。

 

だから、君の能力の全ては私が理解してあげる。

 

私だけが理解者になってあげる。

 

そうすれば何年後かには――私の目的の2つが、同時に達成される。

 

ある御方に言われた『愛国心のある国民を一番にしろ』という目的と――私自身の目的、『彼を当たり前』にするという2つが叶う。

 

彼の遺伝子を打ちこんでやればいい。加速が始まれば――皆平等になる。

 

彼も、苦しまなくて済む。

 

ようやく見つけた『青い鳥』。私の『幸福』への道。

 

 

 

 

 

 

そうか、これが――満たされる、という事。

 

 

 

みんなにも、教えてあげなくちゃ。

 

 

 

 

 

ねぇ、そうでしょう?と、私の腕の中にいる......希望に満ち溢れた顔をした『青い鳥』を見て――私は静かに、笑った。

 


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