人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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修学旅行 2日目 やべー事件が発生!②

互いが駆け、距離が縮まる。

 

ココは途中でヘッドスライディングをするかの様に飛び込み、フワリと浮いたその体を宙で捻り――側転の体勢に入る。

 

だったったた!

 

側転を何度も行い、ココに向かって接近していた俺の眼の前に来ると、側転で振っていた足のつま先を俺の肩に引っ掛け、グイッと引き寄せられた。

 

引き寄せられた俺は上半身を捻じり肩に掛けられた足を払おうとする。

 

が、その直後に――

 

――ガッ!

 

側転で振り上げていたココのもう片方を足が、少し前傾姿勢になった俺の後頭部に踵落としを叩き込んできた。

 

「――ぐ...ぅ」

 

グラリと視界が揺れる。

 

「きひひ、やっぱりハヤト、大したことないネ」

 

ココは側転を終えず、逆立ちの状態になり、俺の肩に掛けていた足を少し持ち上げ――

 

ゴッゴッガッゴスッッ!!

 

フラフラと揺れる俺の顔、胸、肩にバタ足をする様に足をバタつかせて連続蹴りを放った。

 

それをガードする事も出来ず、頬を蹴られ、額を蹴られ、眉間を蹴りつけられ、心臓の位置に強い蹴りを貰い、鳩尾にも何度か蹴りを貰う。そして――せめて、閉じなかった右目に蹴りが当たった。

 

「が...っ!!」

 

「右目、しばらくダメになったネ」

 

ココはそう言った直後、下半身を捻り...ブゥンと振るい、勢いのついた蹴りが俺の顎を的確に捉える。

 

その蹴りの一撃に耐えきれず、フラフラと横によろめき、倒れ込んでしまった。

 

「ハヤト、そこにある物使う闘い得意、ケド実力はイマイチネ」

 

グラグラと揺れる視界で、ココを見る。

 

「口は達者だけど、弱いからダメヨ。もっと強くなれば...ココみたいに、強い事言えるネ」

 

ココはニヤニヤと笑いながら俺の額を人指し指で突いてきた。

 

「きひ...さっきココ、乱世になった言ったヨ。乱世、ビジネスの好機ネ......この列車ジャックも、サイドビジネスの一種ネ。ココ、日本政府に身代金として300億人民元要求したヨ。払えば良し、払わないなら――――どっかぁああん!」

 

ツインテールが跳ねる程の勢いで、上を向いて甲高く叫ぶ。

 

「列車粉々にして、パオパオのデモンストレーションにするネ!」

 

「......金、金......金、か。確かに...必要だよな...」

 

「そうネ、金、あればあるほど裕福ヨ。どれだけあっても困らないネ」

 

「――強、欲なんだよ...オメーは......その、欲は――身を亡ぼすぜ」

 

ココを睨みながらそう言うが、ココの笑みは消えない。

 

「欲を持つことは...――悪い事じゃない。むしろ......良い事だ。ただ......その欲を叶える為に...『暴走』することが悪いんだ」

 

「どういう事ネ」

 

「その、ままの意味だ...!お前はビジネスの為の金や...自分の欲しい人材の為に...『暴走』している!」

 

「それの、何が悪いカ?」

 

ココは欠伸をしてから、俺に聞いてくる。

 

「全部が全部――――自分の思い通りになると思うなよ......世の中努力したって、望んだって、足掻いたって、叫んだって......どうにもならない事があるんだ」

 

「フゥン...まぁ、ハヤトの言ってる事も分からなくはないヨ。でも、ココは中華の姫ネ。叶わない事なんてないヨ」

 

ココは俺との話に飽きたのか、ワイヤーで縛られてるアリアたちの方へ歩いて行く。

 

「きひひ...さっきのパオパオ、ほんの1ccネ。この列車には1㎡積んだアル」

 

「ちょっ!多すぎだってば!」

 

サラっと言ったココに、理子が喚いた。

 

アリア、キンジ、俺は......ココの発言に言葉が出なかった。

 

 

1㎡。そんな量の気体を詰め込んだ袋にせよ風船にせよ...隠せるわけがない。だが、もし――マジに積んでるとしたら、馬鹿げた表記になるが......威力は百万倍ってことになる。

 

新幹線も、線路も、その周辺にある建物も巻き込んで、ぶっ飛ばす事になる。

 

「パオパオ、目に見えない爆弾アル。何処にでも隠せる、誰にも気付かれない名品ネ。派手にふっ飛ばせば、注文、世界中から来るヨ。ココ大儲けで、藍幇の女帝の地位買うヨ」

 

――藍幇。シャーロックが言ってた組織の名前。香港を中心に活動してるんだったか...

 

藍幇は非合法取引で金稼ぎをする闇商人のグループみたいなものだという事か。

 

「キンチ、レキ、香港の藍幇城へ連れて行くネ。アリア、ハヤト、買い手付くまで幽閉するヨ。きひ、きひひひひひひひひひ!!いい金蔓アル!緋緋色金高く売れる!ハヤトは金脈!きひひひ!!」

 

頭の中でソロバンを弾いて笑っているココに――

 

「ツァオ・ツァオっ!り、理子は!?ご一緒に理子もいかがですか!可愛くて強いよ!雇って損はないよっ!」

 

――セットメニューかな?

 

理子は一人だけ省かれた現状を打破したいのか、自分を売る営業をし始めた。

 

「峰理子、お前能力はともかく、人格に難あるネ。今から心入れ替えるカ?」

 

呆れたような声でココが理子に問うと、うんうんうんうん!と、必死の相槌が聞こえた。

 

「――藍幇に忠誠誓うなら、考慮してやるネ」

 

「藍幇大好き!藍幇万歳!アリア!キンジ!隼人!今から理子と一緒に藍幇のメンバーになろう!藍幇城は酒池肉林!超ッマジッ!良い所だよ!本場のももまん食べ放題だよ!」

 

「......本場の...もッ............ハッ!...こ、こら、理子!なに速攻で寝返ってるのよ!」

 

ももまんに支配されかけたアリアは強靭な精神力で、本場のももまんの呪縛から逃れ、理子に吠えた。

 

「話の腰を折るようだがな、ココ。俺は――お前の手下なんかにはならないぞ。こう見えても、一応、武偵ってことになってるからな」

 

と、キンジが話し始める。

 

たしかに、そういう組織に入ったら最後...武偵高のOBや鬼教官に狙われて裁判所に引き摺りだされ――武偵三倍刑に基いて即死刑だろう。

 

だったらここで潔く死んだ方がマシだ。

 

「――――良将、皆最初はそう言うヨ。でも人の子には『欲』あるネ。中国は地大博物人多。何でもある国ネ。魏の兵法書によれば、敵将が若い男の時、女責めにすれば自分の部下になる。お前の好みの女、百人集めてやるネ。美人、美少女、大きいの小さいの与える。よりどりみどりにしてやるネ。うふーん」

 

そのココの発言に、眉間の奥がピキリと不快感を訴え始める。

 

この感覚は、アリアだろう。物凄い威圧感を感じる。

 

「あ、生憎だが......それは俺には逆効果だと思うぞ。それにレキにも言ったが、俺は将軍でも何でもない。ただの平凡な男子高校生だ」

 

――平凡な男子高校生は拳銃やナイフをぶら下げないんだよなぁ...

 

「――キンチも、ハヤトも己を知る必要あるネ。お前たち、特別な人間ヨ。特別な人間、ただの人間から疎外される。表の世界には合わないネ。それより裏の世界で派手に生きた方がいいヨ」

 

視界の揺れが収まり、ようやく立ち上がれそうになったその瞬間、ココの言葉が俺の胸に突き刺さる。

 

脳裏に、色褪せた記憶が蘇る。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ハヤトくん、インチキいけないんだー!』

 

 

 

 

 

『ハヤトくんだけズルいよぉ!』

 

 

 

 

 

『うわ!ゴキブリハヤトだ!ゴキブリ菌が移るぞ!にげろ!』

 

 

 

『ハヤトは足が早いだけだな!』

 

 

 

『ハヤトくん『ハヤト『ゴキブリ

 

『ハエみたいに『足だけ『コイツいらなくね『死ね

 

『じゃーま!『じゃーま!『かえれ!『かえれ!

 

『しーね!『死ね『死ね

 

 

 

 

『死ね』

 

 

 

 

消えろ』死ね』失せろ』なんで学校きてんの』かえれ』

 

 

 

 

『隼人君なんですけど...正直不気味で......』

 

 

 

 

『怖いですよねぇ』

 

 

 

『こら!うちの子に近寄らないで!この化け物!』

 

 

『不気味よねぇ...人と同じ見た目なのに...エイリアンみたい』

 

『いい?あの化け物はエイリアンで悪いヤツだから、石を投げても許されるのよ』

 

 

 

 

 

 

『お前の星に帰れ!地球から出てけ!』

 

『死ね!死ね!死ね!!』

 

『化け物め!うちの子を殴るなんて信じられない!』

 

『うちの子が石なんて投げるはずありません!こいつがでっち上げた嘘です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隼人...隼人は、賢い子なんだから...暴力は、ダメでしょう?』

 

『お前は自慢の息子なんだ...さ、一緒に謝りにいこう。お父さんも一緒に行くから』

 

 

 

 

 

『どんな教育をしてるんだアンタ達は!それでも親か!』

 

『私たちはどれだけ謝罪されても許しませんからね!』

 

 

 

 

 

 

 

『なんでお前まだ生きてるの?』

 

 

 

 

 

 

 

『死ねよ、化け物』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隼人...ごめんな。お父さん、もう疲れちゃったよ......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンタのせいで、アンタのせいで!!アンタのせいでお父さんが!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンタなんか、産まなければ良かった!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このクソガキが!ワシの娘を、殺したのか!』

 

『落ち着いてくださいあなた!』

 

 

 

 

 

『ここが、お前の家だ...屋根があるだけ有り難く思え、気持ちの悪い忌み子め』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君が、冴島隼人君だね?』

 

 

 

 

 

『私と一緒にアメリカに来なさい。アメリカは自由の国だ。君が抑え続けてきた『欲望』をどれだけ望んでも...誰にも邪魔はされないし、怒られもしない』

 

 

 

 

 

 

『見返りは、君の細胞と、血液を1カ月に数回...ほんの少し、分けてくれればいいんだよ』

 

 

 

 

『そうか、そうか......ようこそ、アメリカへ。――――自由の国へようこそ。君は、ようやく自由になれる』

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

...ほんの少しの特別が、『異端』として捉えられる表の社会。

 

全てが平等でなければ許されない社会。間違っていると何度も思った社会。

 

たしかに、息苦しかった。辛かった。何度も、心を折られかけた。

 

『個性』が認められない社会が、とても辛かった、壊したかった。

 

意思を持つことを許してくれなかった『平等』が、堪らなく憎かった。

 

「そ、そうはならねぇっつってんだよ!俺は――至極一般的な人生を歩むんだ!」

 

キンジはココの言葉に少々声を荒げて言い返す。

 

キンジの行く道は、きっと将来的にキンジを苦しめるだろう。

 

「存在自体が一般的じゃない男が何を言うカ」

 

その通りだと思う。が...それも、キンジの『意思』だから、尊重すべき物だろう。

 

「キンチ、お前ココの同類ヨ。優れた潜在能力持つ人間、必ず引っ張り出されるネ」

 

その時、新幹線が少し揺れ――――クンッと速度が上がる。

 

体を起こして、電光掲示板を見ると...

 

【只今の時速 180km】

 

「うぅ......主よ――――みもとに―――――ぐす......ふぇ...近、づかん――」

 

泣き声混じりの讃美歌が聞こえてくる。

 

開け放たれた二重扉の向こうの、女性操縦士が歌っているらしい。

 

彼女の声は精神的にもういっぱいいっぱいって感じの声で...時間がない事を、間接的に示していた。

 

「アイヤヤヤヤヤッ!喋ってたらこんな時間ヨ!ココ、デートの準備あるネ」

 

ココは瞬時に立ちあがった俺に近づき、俺の両腕を一瞬で掴む。

 

そして、顎に一撃膝蹴りを一発打ち込んでくるが、両腕を塞がれてガードが出来ない。

 

ゴッ...と重い感触が伝わり―――揺れの収まった視界が、また揺らされる。

 

「ハヤトはそのまま寝てるがヨロシ。後でまたウオが取りに来るヨ」

 

ココが膝の裏を蹴り、そのまま両腕で俺の肩を押す。

 

「お、おお...!?」

 

抗おうと力を籠めるが力が入らず、結局床に叩き伏せられた。

 

その後キンジとアリアをずり...ずりり......と引き摺っていき――――

 

16号車の前方......先頭座席の更に先、自動ドアを潜った向こうまで引き摺られていった。

 

「あ......あたしたちをどうするつもりよ!」

 

アリアが叫ぶ。

 

必死に体を引っ張って、通路に顔を出す。

 

アリアたちから手を放したココは、袖からカラビナ・フックを取り出し、キンジたちを縛っているワイヤーに繋げた。

 

そしてもう一本、リード線のようなワイヤーをきりきりと伸ばしつつ......

 

「お前たち、もう何も出来ない。知る必要もないネ」

 

前もって開いてたらしい天井の扉―――人がギリギリ潜れるような、恐らく整備用の出入り口―――に続く簡易梯子を昇っていき、車外に出ていった。

 

アリアは伸びていくフック付きのワイヤーを見て、呟く。

 

「アイツ、あたしたちをヨーヨー釣りみたいに釣り上げて――どこかに運ぶつもりよ」

 

「中国だろ。俺、パスポート持ってないけどな...隼人、無事か?」

 

キンジが茶化しながら、俺に話し掛けてくる。

 

「......あ、ぁ......なんとか、な......」

 

グラグラと再び揺らされた視界の中で、キンジたちを見る。

 

「キンジ!ふざけてる場合じゃないでしょ!とにかく、なんとか、脱出を......うーん......んっ!んんー!!」

 

アリアは身を捻り、よじり、なんとか抜け出そうと足掻く。

 

そのタイミングで、新幹線が加速する。

 

「うあっ!?」

 

アリアがその新幹線の挙動に弄ばれ、キンジに抱き着くような体勢になった。

 

「わ、わっ......!」

 

キンジを見上げたアリアの顔は、キンジの顔ギリギリの所に位置している。

 

キンジの後頭部にワイヤーが当たっているので、キンジは必然的にアリアの顔を直視せざるを得ない。

 

アリアの方も顔を下げられないらしく、キンジを見続けてる。

 

「う! う!うっ、うー!」

 

と、突然語彙力が急激に低下したアリアは顔を物凄い勢いで赤面させた。

 

「う! う! う...う、う、後ろ向きなさい!か、顔近い!近い、近いぃぃぃー!」

 

アリアは額を使ってキンジの首を180度曲げようと必死にキンジの顔を押す。

 

――アリア、人間の首って180度も曲がらないんだよ...

 

「お、おい!に、人間が首だけ後ろに向けるワケねぇだろ!やめろって!落ち着け!隼人ォ!助けてぇ!アリアに殺される!エクソシストの女の子みたいになっちゃう!」

 

キンジのキャラがブレ始めたのでいよいよマズいかと思って起き上がろうと力を籠めた所で事態は急変する。

 

キンジは首を折られたくないので必死にアリアの方に顔を戻そうとしていて、その時にアリアが額をつかってグイ、と押そうとしたタイミングが重なり、キンジの頬にアリアの唇がぶつかった。

 

だが、アリアはきっと『キスをした』と認識しているだろう。

 

その証拠に...

 

「~~~~~~~~!!」

 

きゃー、と声を上げてるようだが...悲鳴が甲高すぎたせいか人の可聴域を超えた様だ。

 

アリアが人の言葉ではない何かを叫びながら、バタバタと暴れ出し、ワイヤーから抜け出していく。

 

キンジは脱出出来る事に喜んでいたが――これからキンジはアリアのフルコースを味わうハメになる。

 

南無三、と心の中で合掌をして、まだグラついている頭を軽く左右に振って視界を安定させる。

 

体を起こそうとしたところで、アリアの甲高い悲鳴が再度聞こえた。

 

「みっきゃあああああああ!!」

 

大方キンジの顔がアリアの胸に収まったのだろうと適当な当たりをつけて立ち上がる。

 

「あー...痛ってェ...」

 

パン、パンとジャケットを手で叩き、襟を正す。

 

キンジたちの方はどんなモンかと思って見てみると――――

 

 

 

「ちょっ!キンジ!そ、それっ!そこは......こらっ!バカっ! あっ、あっああっ! か、風穴! 開く、あっ!風っ穴っ、やめっ、やめなさいっ!」

 

――――キンジがアリアの股間に顔を押し付けていた。

 

そしてそのまま、スポッとキンジがアリアの太ももの間から顔を出した。

 

両腕が自由になったキンジの目付きは鋭く...雰囲気が違っていた。

 

「......アリア、もう少しだけ我慢してくれ。すぐ終わるから」

 

その言葉は嘘ではなく、マジだったようで――キンジはワイヤーから抜け出した。

 

キンジはスッと立ち上がり、洗面室の扉を開けようとしている。

 

扉は開かない様だった。が、それはそれで納得した様な顔をしていた。

 

「隼人、見つけたぞ」

 

「何をだよ...」

 

「1㎡のパオパオだ」

 

「何?」

 

「この洗面室に満たされてるんだ」

 

「ほー...てことはシリコンかなんかで密閉されてるワケか」

 

「流石隼人...そういう事は頭が回るな」

 

キンジと言葉を交わすが――何か様子が可笑しい。

 

さっきまでのキンジと違う。

 

この感じは、シャーロックとやり合ってた時の...もうちょっと、柔らかめ版みたいな感じだ。

 

「キンジ、オメーもカナと同じである条件で人が変わる感じか」

 

「......隼人になら言ってもいいか。...まぁ、そんな所だ...耳貸せ」

 

「あぁん?」

 

キンジの近くまで歩いて行って、耳をキンジの顔にグイッと近づける。

 

「...誰にも言うなよ?」

 

「言わねぇよ」

 

キンジは声を更に潜めて、俺にボソボソと吐息を漏らすように話してくる。

 

「俺は、女性に性的興奮を覚えると――カナみたいに、なるんだ」

 

その言葉を聞いた俺は、ちょっと考えて、納得した。

 

「あー...成程ね」

 

――キンジは、アリアに興奮して...ちょっとした賢者状態になってるワケか。

 

「分かってくれたか」

 

こんなことが知られでもしたら本当にやっていけなくなるだろうし、何よりキンジを利用しようとする奴が出てくるかもしれない。迂闊に喋るワケにはいかないな。

 

「よし分かった。この事は俺が墓場まで持ってく」

 

「スマン、恩に着る。いやぁ、結構恥ずかしいな」

 

キンジの頬はやや赤く、照れてるのか後頭部をポリポリと掻いていた。

 

その後、キンジとアリアのイチャつきをこれ以上見ない様に、俺は一足先に15号車へ乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼人!ダメだ、武偵はオレたちを合わせて10人だけだった」

 

15号車に戻ると、高齢の女医が冷静に妊婦さんの診察・手当をしていて――武藤が、話しかけてきた。

 

「そうか...犯人と、爆弾を見つけた」

 

「何だと!」

 

その言葉に武偵たちが俺の周りに寄ってくる。

 

「だが落ち着け、犯人の戦闘能力は非常に高い。そこで、キンジに指揮を執ってもらうことにした」

 

「キンジに、指揮?」

 

「アイツはああ見えて土壇場には強い。それに元とは言え強襲科だ...こういった時の対処法も知ってるだろうよ」

 

「...ああ、やってやるよ。全員、コッチに来てくれ」

 

そのタイミングで、キンジが戻ってきた。

 

15号車と16号車の間を作戦会議室にした俺たちは、キンジがざっと状況説明をして――それぞれを配置につかせる。

 

「犯人が車内に戻ってきた場合の事を考えて――鷹根、早川、安根崎の3人は1号車、4号車と5号車の間、11号車と12号車の間、白雪は此処を守ってくれ。不知火は対テロリスト訓練の経験が豊富だから、7号車と8号車の間...中央を守ってほしい」

 

キンジは素早く配置を決めていく。

 

「それと、待機中の間に鷹根たちは武偵高・警視庁・鉄道公安本部に連絡して爆弾の解除方法を模索してくれ」

 

「――キンジ、オレはどうするよ」

 

「もう新幹線の運転士がグロッキーなんだ。運転を変わってやってほしい。3分に10キロずつ加速する繊細な操作だ。できるか?」

 

「出来るに決まってんだろ。車両科なら1年だって出来るぜ」

 

「爆弾は運転席の真後ろだ。逃げ場はないぞ」

 

「お前なら逃げるか?」

 

武藤は自信たっぷりに言った。

 

「よし――――始めよう。アリア、隼人、行くぞ。銃刀法違反と監禁の容疑で、ココを逮捕する。あの子に、もう子供は家に帰る時間だって事を教育してやろう」

 

その言葉に腕時計を確認すると、時刻は18時22分を指していた。

 

東京まで、あと一時間。

 

ここからは危険運転扱いになる。

 

「う、うん!」

 

アリアはコクコクと素直に首を振っている。

 

「ああ、現在時刻18時22分34...35...36秒...作戦準備、開始」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの武偵が、それぞれの成すべき事をやりに行く。

 

 

東京まで、あと1時間。


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