人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべー持久戦...必死の隠密行動

山の中を駆け上がっていく。息が上がるのも、大粒の汗が零れ落ちるのも構わずに進んでいく。

 

痕跡を残すように、音を立てて、辺りに生えている木の細い枝をバキバキと割りながら...泥濘に足を取られて、もたつきながら進んでいく。

 

俺は、隠密行動をしながら『アクセル』を使うなんて、そんな器用な事はまだ出来ない。

 

――キンジ、レキ...無事で、いてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い森の中を、明りになるような物を何一つ持たずに走り抜けて...途中で止まる。風で木の葉がざぁざぁと音を立てて、揺れる。

 

おそらく、既に狙撃手のキリング・レンジに入っているだろう。注意しなければならない...なにせ、今の俺はジャケットを羽織っていない...上半身にあるのは、あまりにも頼りない、女将さんが洗濯してくれたばかりの、真っ白な武偵高のカッターシャツ。

 

雪の積もった銀の森というワケでもないのだから、白は目立つ。

 

そう判断した俺は一度近くの木の幹に体を預けてから、カッターシャツを捨てて、下に着ていた黒色のアンダーシャツになる。

 

目の前にあった泥濘に匍匐の体勢で突っ込み、顔に泥を被って、髪にも泥を掛ける。

 

そして、XVRを抜いて...気付いた。

 

XVRの美しさを際立たせる銀色のコーティングがこの夜の森という場所では、かなり目立つ。

 

――クソ、これじゃXVRが使えないな...

 

XVRをホルスターに戻して、体を地面に付けたまま、匍匐状態で移動することにした。

 

第五匍匐前進の体勢になり、辺りと一体化する。その時に、一緒に目も閉じる。

 

ずり.........ずり.........ずり.........と、左手で地面から隆起している木の根や、乱雑に生えている草を掴み、両肘を支点に力を籠め、右足を伸ばして体を木の根や草の方へ寄せていく。

 

第五匍匐前進とは...伏せた状態から、両腕を前に出すと同時に右足を前方に出して、曲げ、両肘を支点として、右足を伸ばして前進する。その際には、左手で地面の草などを掴んで体を引きつける行為のことを指す。

 

ゆっくり、ゆっくりと慎重に、確実に近づいて行く。

 

相手がスターライトスコープ...所謂暗視装置を付けてるなら、目も開けられない。

 

目に映る光の反射だけは、押さえられないからな。

 

土に埋まるように、その体を引き摺って行く。民宿辺りまで、辿り着ければ...と、思いながら進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月とはいえ...山の中はかなり冷える。

 

体を泥濘に沈めたり、土に触れながら体を引き摺ってきた俺の体も体温を奪われ、体力の消耗が激しくなってきた。

 

息が少し上がるが、呼吸音一つで居場所がバレるかもしれない恐怖からか、息が上がっていても呼吸は逆にか細く、押し殺すような物になっていった。

 

呼吸で肩が上下しないように、肺が膨らまない様に、声が漏れないように...見えない敵が、これほどまでに怖い物だとは思わなかった。

 

『アクセル』を使って駆け抜けても良かったが、今回は短期決戦でもなければ、相手が眼前に居るワケでもない。

 

狙撃手との戦いは長期戦なのだ。この森の、どこかに居る相手を探しながら、撃たれた瞬間に『イージス』で掴む...なんて事をしていたら正直......持たない。

 

だから、いざという時の体力だけはどうしても残しておきたかった。

 

この匍匐の体勢になって移動を始めてから、どれだけの時間が経っただろうか。

 

たまに薄く目を開けながら、進路方向を確認しつつ移動を繰り返す。

 

時間感覚が、曖昧になっていく。

 

それでも、民宿のある筈の方向へ、体を向けて進んでいく。

 

静けさの中に、微かな呼吸音と、風が吹く度に擦れ合う木の葉の音、フクロウの声などが聞こえる。

 

俺はまだ、少し硬い地面の上を這いずるようにして、移動していた。

 

どれくらい移動できたか確認しようと、薄く目を開けた瞬間...

 

 

――――タァァァン...

 

と、銃声が響いた。俺の方には着弾の痕跡はない。

 

という事は...撃たれたのは俺じゃなくて、キンジたちか。

 

あまりモタモタしていられない、という事を再認識して、再び動き出す。

 

それに、発砲音が聞こえる距離に来たということだ...確実に、差は縮まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く匍匐を続けると、指に地面とは違う感覚の物が当たった。

 

それに違和感を覚え、目をほんの少しだけ開き、手に触れたソレを確認する。

 

――ガラスだ...

 

顔を本当に少しだけ上げて確認すると、破壊された扉と、粉々に砕け散ったガラス片が辺りに散乱していた。

 

そのまま更に、もう少しだけ顔を上げると、ポッカリと開いた民宿の玄関口が見えた。

 

――やっと、スタート地点に戻れた。

 

少し体を起こして、しゃがんだ状態で民宿の中へ入っていく。

 

XVRを抜き、体を壁に押し付けて警戒しつつ、クリアリングをして...匍匐をしながら俺がいた部屋へ入っていく。

 

幸いにも扉は出ていくときに開けっ放しにしていたので、扉の開閉をしなくても済んだ。

 

敷かれた布団の横に置いたアームフックショットを掴み、両腕に装着する。

 

時計を見ると、時刻は0時数分前を指していた。かなり長い時間を、森で過ごしたらしい。

 

警察の応援は、未だに来た痕跡がない。

 

俺は少し息を整えて...匍匐で部屋を出て、廊下を移動し、民宿の勝手口から脱出した。

 

勝手口から出た所はアスファルトで、駐車場の様だった。

 

泥に塗れた俺はアスファルトの上では良い的だろう。そう考え、体を起こしてしゃがんだ状態になり、そのまま素早く駐車場を抜けて、木々の陰に身を潜める。

 

そして、そのまま...また、匍匐の体勢になり、ずり........ずり.........ずり.........と、ゆっくり、ゆっくりと移動を始める。

 

林を抜け、深い森へ...凹凸の激しい地面の一部を掴んで、両肘を支点に体を引きつける。

 

濡れた落ち葉や土の匂いが、立ち込めている鬱蒼とした森の中を、慎重に進み続けた。

 

暫く移動を続け、凹凸を掴もうと腕を伸ばした時に、変な凹みに触れた。

 

今までの形とあまりにも違う、外部からの侵入で出来たようなソレを見てみようと、目を開けると...男性のものと...大型犬のような足跡が確認できた。

 

きっと、キンジたちだ。

 

足跡を追跡しながら、移動を開始する。少しずつ、少しずつ...ゆっくりと、距離を詰めていく。

 

まだ、夜は明けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フクロウの声に、木々の擦れ合う音...その森の世界に、僅かだが水の流れる音が聞こえてきた。

 

木の陰から顔を上げると...目の前に浅い川があり、その奥に――巨木が見えた。

 

そして、その巨木の根元に...キンジと、レキと...ハイマキが居た。

 

巨木を盾に隠れていることを考えると、もう狙われている状態であるということ...そして、俺が飛び出した瞬間に、撃たれる可能性もあるってことか...

 

どうやって近付こうか迷っていると、レキが体を乗り出し、ドラグノフを1発撃って体を隠した。

 

顔を上げて、様子を確認しようとした瞬間――――

 

ぱぁ...と森の奥が明るくなった。

 

――閃光弾か...!

 

そして、そのままレキがさっき同じような体勢になり、2発目を撃った。

 

ギィイイイイインッ!!!

 

「...ぐ...!」

 

ここまで届く甲高い音...間違いない、武偵弾の一種...音響弾だ。

 

レキが、多分狙撃手を無力化したんだろう...と、思ったがレキがまたドラグノフを構えて――撃った。

 

その直後。

 

バチバチッ!バチッ!

 

と、レキの周囲で小さな光が弾け...そのまま、突き飛ばされたかの様に浮いた。

 

その場で、踊る様に半回転したレキのスカートが揺れ......よろり、と2歩...3歩、後退した。

 

レキはドラグノフを構えていたが、それを止め地面に立て、杖の様にしつつ――――ずり、と滑るように落ちていき、座り込んでしまった。

 

キンジが、レキの体を支えようとして、止めた――代わりに、太ももと、腕を押さえている。

 

どうやら、レキが負傷したらしい。

 

俺もいよいよこんな所で伏せてはいられないと思い体を浮かせたが、すぐにその動きも止まってしまう。

 

――ォォオオオオオオオオン!!! アォオオオオオオゥーン!!!

 

と、かなりの数の犬の遠吠えが、キンジたちを囲む様に聞こえる。

 

いよいよ逃げさなきゃ不味い状況になってきた。

 

狙撃手の無力化には成功した様なので、すぐに体を起こし、川を飛び越えてキンジたちの元へ合流する。

 

「キンジ!」

 

「隼人!?お前その恰好は...」

 

キンジに声を掛けつつ、更に接近する。

 

月明りに微かに照らされた俺の体は泥に塗れていて、無事なのは背中くらいだ。

 

キンジはそんな俺の格好を見て口を開けているが、今はそんなことよりもレキの傷の具合を確かめたかった。

 

「話は後で出来る!レキは!」

 

キンジの隣に回り込むと、左の太ももと...右腕を負傷し、ポタポタと血が流れ落ちているレキを見つける。レキの前髪は血で濡れていて、真っ赤だ。

 

「...流血が、酷い」

 

急いで治療しなければ...と思うが、道具がない。

 

俺の武偵手帳は女将さんに渡したジャケットの中だし、シャツも捨ててしまった。携帯もジャケットの中だ...クソッ。しっかり確認しておけばよかった。

 

だからキンジのシャツを使う。

 

「キンジ、ジャケット脱いでシャツをナイフで切れ」

 

「――!ああっ!」

 

キンジはジャケットを脱ぎ捨てると、シャツのボタンを千切りながら脱いで――ナイフでビイイイイイ...と、繊維を切っていき包帯にしている。

 

そのシャツで作った包帯で、レキの傷口を押さえて...応急処置は終わる。

 

応急処置を終えたキンジは、レキを見つめ――言葉を吐きだした。

 

「いいかレキ...2人死ぬより1人生き延びた方が良いのは確かだ...だが、それは最適解じゃない」

 

「...?」

 

血に濡れた眉間から、レキの目がキンジを見ているのが見える。

 

キンジはそんなレキの腕を掴んで...持ち上げた。

 

「2人生き延びるがいいに決まってんだろ」

 

キンジはそう言って、レキを支える。

 

「いいか、レキ――ダメだ。死ぬな。俺は見たぞ。お前は今――笑ったんだ。笑えたんだ、お前は」

 

レキは、その言葉を聞きつつ...気絶仕掛けていた。

 

キンジが、ドラグノフを背負い、レキをお姫様抱っこの体勢で抱える。

 

さっき吠えていた犬たちが、すぐ傍に来ている気配を感じる。

 

ハイマキもそれを感じ取ったのか、グルルルルル......と低い唸り声を上げ、所々が血に濡れた毛を逆立たせていた。牙と爪は剥き出しになっていて、月光を浴びて淡く輝いている。

 

きっと此処で、囮でもやるんだろう。カッコいい犬だ...。漢だな、ハイマキ。

 

「ハイマキ」

 

俺が小さく名前を呼ぶと、ハイマキは尻尾をブンブンと振った。

 

「ここから帰って来れたら――腹いっぱい魚肉ソーセージを食わせてやる。それに、いっぱいモフってやるぞ」

 

「俺も...魚肉ソーセージを箱で買ってやるぜ!」

 

ハイマキの目が、俺たちを映す。

 

「この場はお前に任せる...だから、レキは――」

 

「――俺たちに任しとけ」

 

ハイマキの左前足に、キンジと俺の拳をコツッとぶつける。

 

そして、手をどけて、ハイマキに背を向け、キンジの背中を俺の背中にくっ付けた状態で担いだ俺は、そのまま全力で走りだす。

 

泥水の小川を何本も渡り、茂みに手足を擦り付けつつ、崖みたいな坂道を滑るように降りていく。

 

だが、かなり疲弊している事もあってか、何時もの速度で走れない。

 

何とか逃げる手伝いだけはしようと意気込んで頑張ってはみたが、もう体力が持たない。

 

3時間以上に渡る匍匐が、俺の体力を予想以上に奪っていた。

 

秋桜が群生した広い野原に出る。足を一歩前に出そうとするが、踏み出せず...顔から地面に向かって落ちた。

 

「ぐぇ...」

 

「隼人!大丈夫か!」

 

俺が倒れ、すぐにキンジが飛び退いて、俺を心配そうに見つめる。

 

「キンジ...先に行け...俺も、すぐに体を起こして...追いつく」

 

うつ伏せになった状態から、腕に力を籠めて立ち上がる。

 

「分かった...!」

 

キンジはレキを抱えたまま、アゲハチョウのような虫に導かれるように...沢を超えて、雑木林へ入っていく。

 

俺もその後を、ゆっくりとついて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑木林の奥へ抜けていくと、小さな灯りがチラチラと見える。

 

きっと、車道の灯りだ。

 

キンジは既に車道に出ているのか――もう背中が見えない。

 

覚束ない足で、木に肩をぶつけながら、進んでいく。

 

息は上がりきっていて、絶え間なく俺の呼吸音が響き続けている。

 

必死に足を動かして、前に進む。

 

車道の灯りは、確実に近付いている。

 

そして――――とうとう車道へ転がり出る事に成功した。

 

だが、そこには――この状況で会いたくない奴...ココが、バイクに乗ったまま、キンジにサプレッサー付きのUZIを押し付けて立っていた。

 

「きひっ...ハヤト。やっと来たカ。テッポウ、捨てるネ」

 

キンジの頭部にサプレッサーの付いたUZIを押し付けるようにして、ココはニタニタと笑っている。

 

俺はそのまま、XVRを抜いて林へ投げた。

 

「レキ――90点。いい駒だから貰うネ。キンチは0点。だけど、戦績のいい駒。好きネ、貰って帰るヨ。ハヤトは80点。まさか銃弾を受け止めて、蹴り返してくるなんて予想外ネ。でも、ハヤトは超能力者だから、いらないヨ」

 

俺はココを睨みつける。

 

「どういう意味だ?」

 

「きひっ。超能力者、これから皆、滅びる。だから、『普通の、強い人間』が欲しいネ」

 

―――超能力者が、滅びる?

 

「おい、どういうことだ!超能力者が滅びるって、なんだ!」

 

「それを教える理由は、ウオにはないヨ」

 

ココはニタニタと、笑い続けている。

 

「それに...レキはベイディ、キンチはトンイー。中華の姫、ココの駒に相応しいネ」

 

何を言ってるんだ、コイツは...さっぱり分からんぞ...!

 

それに、超能力者が滅びるという言葉が頭の中を駆けまわっている。

 

どういう意味なんだ...!それに、中華の姫って...何だ。

 

キンジも混乱した表情で、ココを見ている。

 

それに気付いたココは、ふふんと鼻を鳴らす仕草を見せた。

 

「ココ、メンデ。知ってるカ?ココは、その血統ネ」

 

ココ...メンデ?

 

「知らん」

 

キンジがぶっきらぼうに答える。俺も知らん。

 

「曹操孟徳」

 

ココが今度は日本語で答え、俺はその発言に、心底ビビる。

 

曹操孟徳...三国志で、魏国を背負い、三国統一を果たそうとした文化人にして、最優とも言える武将。

 

日本では人気が高く、中国では忌み嫌われている存在。

 

あの毛沢東が評価したから、中国でも人気があるんだろうと思って調べてみたら、意外と人気が無く、むしろディスりの方が多かった。中国の方で出版してる三国志も、日本の様に『魅力的な悪』ではなく、ただの『頭の切れる悪』でしかないらしい。

 

一度『悪』だと決まったら『悪』のまま...というのが、中国の思想だと言う話も、ネットで見かけた。ネットの情報だから全く信じてないが。

 

そしてこのココは、その曹操の血統だと言う。

 

「...中国じゃ滅茶苦茶評価低いじゃねぇかよ、その血統」

 

と、冷やかす様に言うと事実だったのか、牙を剥き出しにして、ココは吠えた。

 

「そ、そんなコトはないネ!テキトーな事言うと、その顔に銃弾をぶち込むヨ!?」

 

パシュッ!とサプレッサーが取り付けられたUZIを1発、威嚇射撃して...俺に向けようとしたその時――――

 

「......!」

 

ここは何かに気付き、バイクをグリン!と回して、何かを避けた。

 

しゃん!と鈴のような何かが鳴る音が聞こえたが、何だ、何が飛んできた?

 

何かが飛んできた方向を見ると、ワインレッドのオープンカー...ボンネットの部分に和弓を番えた巫女が立っていた。距離にして、150m程。

 

巫女は2mはあろうかという和弓を構え――キリキリと引き絞り...ヒュッ!と矢を放つ。

 

放たれた矢は鈴の音を鳴らしながら、飛んでいき、ココの跨るバイク...その燃料タンクに突き刺さった。

 

ゴボ...ゴポッ...と、燃料が漏れ始めたのを見て、ココはバイクを翻した。

 

「ココ、代々逃げるときは逃げるヨ。最後に笑えればそれでいいネ。ツァイチェン」

 

ココはアクセルを回し、けたたましい高音をかき鳴らして藪から木々の隙間へと消えていった。

 

引き際の見極めが出来る奴ほど、厄介な存在は居ない。

 

合理的に行動し、ヒット・アンド・アウェイを最大効率で行うようなタイプは...本当に面倒くさい。

 

キンジはレキのドラグノフで狙おうとしていたが、バイクのエンジン音は遙か彼方で聞こえるし、キンジの腕で狙撃は無理だろう。

 

キンジもそれを悟ったのか、スコープから顔を退けて、舌打ちをする。

 

俺は藪の中に入って、キンジが投げ捨てたと思われるベレッタとデザートイーグルを回収して、XVRも拾う。

 

「ほれ、キンジ」

 

キンジに回収したベレッタとデザートイーグルを渡して、近づいてきたワインレッドの車を見る。

 

ボンネットに座った巫女は、警戒するように山を見続けている。

 

助手席には、星伽が座っていた。

 

「......キンちゃん!冴島君!何があったの!」

 

「白雪...助かった。良く気付いてくれたな」

 

「山の方で音響弾か何かの音がしたから、悪い胸騒ぎがして......蠱術で様子を調べてたの。それと、キンちゃんに電話したら繋がらなかったから......私、私......ふぇぇ...」

 

涙目で自動車から降りた星伽はそのままキンジに抱きつき、近くに倒れているレキを見つけて顔を青くした。

 

「レキは――さっきの奴にやれたんだ。すぐに、病院へ――」

 

と、キンジが言い切る前に、ボンネットから降り立った巫女が、眉を寄せて発言した。

 

「――レキ?」

 

無表情な巫女が、星伽に何かを耳打ちすると――――星伽の顔色が、更に変わった。

 

「そ、そんな...間違い、ないのですか?」

 

星伽が慌てて振り返り、尋ねる。

 

無表情な巫女はコクリ、と頷き――少し間をあけて、衝撃の事実を口にした。

 

「この御方は源義経様――――チンギス・ハン様の末裔。大陸の姫君です」

 

――――今日は偉人の名前とその子孫がポンポン出てくるなぁ...

 

まるで偉人のバーゲンセールだ、と笑う。

 

偉人の末裔に、超能力者は滅びるという言葉の意味。

 

謎は深まるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアとの関係修復も果たせそうにないまま、俺たちの修学旅行・Ⅰは怒涛の2日目を迎えることになる。


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