京都駅から、大坂・心斎橋駅まで電車で小一時間ほど揺られ、到着した。
地下鉄の駅から階段を昇り、心斎橋をその目に映す。
街を見てみると若者が大勢歩いている。いや俺たちも若いんだがな?
東京でいう渋谷とか、原宿みたいな雰囲気に近い。
ほんの少し首を回しただけで、うんざりするくらい目に止まる服屋にアクセサリーショップ。
こんなに店があったってしょうがないだろ、と...原宿に買い物に行ったときにジャンヌに話した事があるが、その時反論してきたジャンヌの目が普通じゃなかったので、ジャンヌの前でその手の話はしない事にした。
まぁそんな事は置いておき...防弾制服に身を包んだ根暗と無口とヤクザ顔の3人が降り立ったこの心斎橋は若者の街だ。
何が言いたいかと言うと、派手な服に身を包んだ連中ばかりで、俺たちが凄い浮いてる。
特に俺なんか顔に傷があるからすごい目立つ。サングラスでも買っておくべきだったかな。
「来たのは、いいが...流行とか、分からないな」
キンジは此処まで来てそんな事を言い出す。
「私もです」
レキは何となく知ってた。
キンジとレキはそのまま黙ってしまい、キンジは目で俺に助けを求めてくる。
少しは自分で何とかしようとは思わないのかキンジ君。
「はぁ...レキ、オメー普段どんな服着てんだ?」
「私服はありません」
「はぁ!?」
「マジかよ...」
レキから帰ってきた予想外すぎる答えに驚愕する。
私服がないって何、え、普段何着るの?
「え、私服ないって...制服でも着てんのか?」
「はい」
「えぇ...」
参ったな、予想の斜め上を行く回答だ。コレじゃ普段着てる物から何かヒントを得る作戦はダメだな。
「よし、じゃあレキが気に入りそうな服でも探すか...こんだけ服屋がありゃあよォー、1つくらいは見つかるぜ?」
と、言いながら、キンジに目配せして移動を提案する。
「だな...駅前で待っててもどうにもならないし、移動するぞレキ」
「はい」
「げ」
心斎橋の街をあてもなくブラブラと歩いていると、途中でキンジが声を漏らした。
「どしたァキンジ」
「東京武偵高の生徒だ、見られたくない......あそこだ。隼人、レキ...あの店に入ろう」
キンジはこれ以上誰かに見られるのは嫌なのか、適当に店を探して...ある一店を指した。
その方向に目を向けると、そこに構えていた店に肝が冷える。
店の名前は『シャトンb』。女性向けのセレクトショップで、意外と人気のある店舗らしい。ジャンヌがそう言ってた。
ただ、かなり値段が張るらしく、キンジの財布がワンパンで粉々にされてもおかしくない。
そう思った俺はキンジを呼び止める事にした。
「おい、キンジ」
「なんだ」
キンジを呼び止めつつ、財布から諭吉さんを5枚ほど引き抜いてキンジの手に握らせる。
「ほれ...ここ...かなり高いぞ、使っとけ」
「げぇ!?5枚!?」
「それくらい持っとかねーと、オメー宿代も払えなくなるぞ!」
「え、お、お、おう」
ドモっているキンジを無視して、店に貼り付けられた『シャトンb』の張り紙やら、オススメの一品やらが描かれた公告を見る。
あった。
「キンジ、いいか?オメーとレキ...2人で入店して、店員さんにレキの服を選んでもらえ。その後、カフェに入って半額キャッシュバックキャンペーンのチャレンジに参加しろ」
キンジは諭吉さんを両手で持ってコクコクと頷いている。
「俺が一緒に居ても邪魔だろーし、その辺のベンチかカフェで休んでるからよォー...じっくり買い物を楽しんできな」
「え?お前も一緒に来るんじゃないのか?」
キンジは可笑しなことを聞いてくるモンだから、呆れて口が少し開いてしまった。
「バカヤロー...カップル限定だろーがありゃあ」
「あ...」
「ほれ、さっさと行って来いキンジ!」
レキとキンジの背中を押して、一歩『シャトンb』に近づけてやる。
キンジはスマン、と瞬き信号を送ってきた。
俺は、それにサムズアップをして、カフェを探すために歩き始めた。
『シャトンb』から徒歩5分程の所にあったカフェで、カフェラテを注文した俺はオープンテラスに座り、街を行き交う人を眺めながらカフェラテを飲んでいた。
――カフェオレより苦いけど、こういうちょっとした甘さも美味いなぁ...
以前ジャンヌにカフェオレとカフェラテって、何が違うのか...と聞いたことがある。
ジャンヌは...基本は一緒だ、コーヒーとミルクで作っている――――ただし、コーヒーが違う。カフェラテはその名の通り、イタリアから来た物だ。だからドリップコーヒーではなくエスプレッソを使う。エスプレッソコーヒーは酸味の少なく、苦みの多い深煎り豆を使って作るものだ。従って味が濃い。エスプレッソとは本来小さなカップに少量を注いで楽しむものだからな...だからカフェオレと違ってミルクの量も多くなる。カフェオレは通常、コーヒーとミルクの割合は5:5だが...カフェラテは2:8の割合だ...。
と、話していたな。
そんな事を考えながらカフェラテを飲んでいると、ふとピンク色の髪が見えて、そのピンク髪は『シャトンb』の方へ向かっている。ここでキンジとレキに鉢合わせたら面倒な事になる。そう思った俺は急いで携帯で電話を掛けた。
アリア、を選択して、発信!
Prrr...Prr
『ハヤト?どうしたの?』
「いやな、今お前が俺の目の前を通っていったもんだからよォー...頑張ってるみてーじゃねぇか」
『当然よ、ママの裁判だもの』
「まぁやる気を出すのは大切だが、少し話でもしねぇか?奢るよ」
『誘ってくれるのは嬉しいわ。でも急いでるの』
「ンなこたぁ百も承知だよ。だがアリア、カーチャンだって言ってただろ?『走る子は転ぶ』ってな」
『......そう、ね。少し、休憩しましょうか。アンタは何処にいるのよ』
よし、食いついた!
「今さっきアリアが通り過ぎた、カフェのオープンテラスに居るよ」
『そう。すぐ行くわ』
「あいよ」
ピッ、と通話終了のボタンを押して携帯を仕舞い、ホッと息を吐く。
――キンジ、頑張れよ。アリアの足止めはしたからな。
それから数分後に、コーヒーを持ってアリアがオープンテラスに入ってきた。
「おっ...アリア、こっちだ」
片手を上げながら声を出すと、アリアはこっちまで来て、席に座った。
「待たせたわね」
「いやァ、別にいいさ。俺が急に呼んだんだ、待つのは当然だろ」
「ふぅん...ハヤトはキンジと違って優しいのね」
アリアの表情はやや暗い。
「アイツだって、別に悪気があってそういう態度を取ってるんじゃねぇんだ」
「そうなの?」
アリアの瞳に、俺が映る。
「ああ...キンジは、女の子が苦手でなァ...たぶん、過去にトラウマか何かがあるんじゃあねーかと俺ぁ疑ってる」
「トラウマ...」
「それと...単純にアリア、オメーのタイミングが悪い」
「へっ?え、あ、あたし?」
ビシィッ!とアリアを人指し指で指すと、アリアは若干呆けた後、左右を見て自分の人指し指で自分を指した。
「ああ、そうだぜ。キンジが色々とストレス溜めてる時に限って、オメーが爆弾発言をしたりするからキンジもそれに釣られて爆発しちまうんだ」
ま、キンジの野郎にも問題はあるけどなー、と続けてカフェラテを一口飲む。
「...どうすれば、いいかしら」
アリアもコーヒーを一口飲んで、顔をコーヒーに向ける。
「別に、簡単な話だろ...キンジと遭遇したときに、その場で判断せずに一回キンジの話をしっかり聞いてやりゃあいいんだ。オメーがキンジに向かって『喋るな』とか言うから、キンジの奴もブチギレるんだぜ?」
「......分かってはいるんだけど、口が先に動いちゃうのよ」
「だったら、そこから先だ。一回口から零れかけた言葉を呑み込んで...冷静になるまで耐えて...そこから、話をすればいい」
口調を真面目モードに切り替えつつ...極々当たり前の事を言う。
「お前が怒りっぽいのは知ってる。キンジも知ってる。だから...もし、アリアが...キンジがそういう状況になってる時に遭遇した時――冷静にキンジから話を聞けるアリアになっていたら?」
アリアがハッと顔を上げる。
「誤解はなくなる。キンジも話を聞いて貰えてホッとする。互いを、理解し合える」
「そ、それは...上手くいくの?」
「それこそ正しく神のみぞ知る...いや、お前にしか出来ない事だ」
「私にしか...できない?」
「ああ。当たり前の話だろ...キンジの中でアリアは『特別』らしいからな」
「ふぇ!?」
カフェラテを飲み干して、アリアに千円札を渡して席を立つ。
「じゃあ、俺は行くぜ?これ、コーヒー代な」
「え...あ...とく、とく...とくべ....うぁ...?」
「...大丈夫か?」
真っ赤な顔をしてクラクラと揺れるアリアに声を掛ける。
「ハッ!だ、ダイジョブ!あたしは大丈夫!」
「お、おう...気張りすぎんなよ」
「え、ええ...ありがとうね、ハヤト。少し...楽になったわ」
「気にすんな」
ニィ、と笑ってからアリアに背を向けて、手をヒラヒラ振りながらカフェを後にする。
キンジたちと合流した俺は、キンジが予め予約をしていた民宿に来ていた。
場所は、比叡山の森の方。
鄙びた民宿、『はちのこ』はレトロな外見で、なんというか...気に入った。
キンジは玄関の戸をガラガラと開けて、入っていく。
俺たちもそれに続き玄関に入っていくと、民宿の奥から若い女将が出てきた。
「あらあら、おいでやすぅ」
「あ、えっと...ネットで予約してた遠山です」
「はいはい、2部屋予約してた遠山様ですね」
「はい......はい?」
「あら、違うとりました?」
「え...あ」
キンジはその時何かに気付いたかの様に体を俺の方にギチギチと回し、苦笑いをしていた。
「ごめん隼人...お前の同行を取り付ける前に宿取ってたんだった」
「あ、女将さん間違ってないっスよ。コイツと、この子が同じ部屋で...俺が1室取ってますんで」
「あらあら!うふふ、まぁ!」
「おい隼人てめぇ!」
「ソッチの方が何かと都合がいいだろ」
「ぐ...く、ぅ...そ、そうだ!俺と隼人で1室、レキで1室でどうだ!?」
「諦めろ」
「...理不尽だ」
「部屋取り忘れたオメーのミスだろうが」
「正論だから辛いなぁ」
キンジも諦めたのか、レキと同室になることを受け入れたらしい。
部屋に案内され、それから5分後くらいに運ばれてきた食事を食った。
天ぷらに、刺身に、味噌汁...それに白米が美味い。
ガツガツと食って、食事を済ませてから携帯を充電器に繋げて放り投げる。
それからシャツ1枚と短パンに着替えて、室内にタオルケットを3枚ほど重ねてマットにした物の上に乗り、筋トレを始める。
「ふっ...ふっ...!」
片腕立て伏せ200回4セット、背筋トレーニング100回5セット、腹筋200回5セット、懸垂は...できないな。
汗がボタボタと落ちてくるのも構わずに、ペースを上げ続ける。
『アクセル』を使いながらやれば、時間も掛からずにハイペースでやり続けることが出来る。
能力の細かい制御が出来るようにもなるし、持久力を養うこともできる。
それが終わり、ストレッチを20分ほど掛けて行う。
そして、最後にインナーマッスルを鍛える為に『プランク』を行う。
うつ伏せの状態で寝っ転がり、肘とつま先を肩幅に開いて身体を支える。
この体勢の時、かかとから首筋まで一直線になるように意識して整える。
そのままの状態を2分ほどキープ...意外と、キツイんだ、コレが。
2分経ち、30秒休憩をする。
後4回、コレを繰り返す。
この時の効果的なやり方として、腹筋に力を入れて身体を引き締めること、腰や腹を絶対に下げないこと、カウントを口で数えながら行うこと、慣れてきたら顔を前に向けること、腕に力を入れないことが挙げられる。
「――...52、53...54、55、56、57、58、59...2分!」
力をゆっくり抜いて、タオルケットに体を沈める。
その時、部屋の扉がノックされた。
「開いてます」
俺がそう言うと、ガチャリと扉が開いた。
「失礼します。お食事の方、如何でしたか」
「そりゃあ、もう最ッッ高に!美味かったです!」
「ありがとうございます」
女将さんはウフフ、と笑っている。
「お連れのお方がお湯から上がられましたので、どうぞ。お入りください。本日は貸し切りですよ」
へぇ、そりゃあ良い事を聞いた。
服やら何やらを洗濯籠に放り込んで、裸になってからガラガラと戸を開けて、中へ入る。
岩と竹垣に囲まれたスノコを渡り、洗体所で体を洗い、髪もシャンプーでワシャワシャと汚れを浮かせた後にぬるま湯で流す。
石鹸やシャンプーの泡を丁寧に洗い流してから、スノコを渡り、掛け湯をしてから温泉に浸かる。
「...気持ちいいなぁ」
温めのお湯が、堪らなく心地良い。
色々と肝を冷やした1日目だったが、それももうすぐ終わる。
これ以上の厄介事はないだろうと思うと、本当に気が楽になる。
それから暫く浸かっていたが、のぼせそうになったので湯から上がることにした。
女将さんが洗濯・乾燥をしてくれたおかげで乾いていた制服を着込む。
部屋に戻ると、布団が敷かれていた。
携帯を開けてバッテリー残量をみると、満タンになっていた。
充電器から携帯を引っこ抜いて、ポケットに仕舞う。
さて、寝ようかな、と制服のジャケットのボタンに手を掛けた瞬間。
ガシャャァアッ!!
と、窓ガラスの割れる音が聞こえた。
それを聞いた俺は、即座にXVRを抜き、窓から転がるように駆けて、離れる。
――タァァァン
遅れて、銃声が聞こえる。
キンジとレキはツーマンセルで動いている。それにレキは狙撃手だ、なんとか対応できるだろうと思い、俺は女将さんのセーブに動くことにした。
匍匐前進をして、頭を上げないように低く、低く進む。
部屋のドアを開け、廊下に這って出る。
体を少し起こして、屈んだ状態になって移動する。
廊下に出た所で、電話を握っている女将さんを発見した。
「女将さん...無事ですか?」
「え、あ!武偵さん!」
「頭を上げないで!低くしてください!」
「は、はい!」
「女将さんは、警察に連絡を。それまでは俺が周辺の警戒をします」
「隼人」
「キンジか。コッチは対応しておく。ソッチは任せた」
「...ああ」
キンジとレキは、狙撃手の追跡・逮捕に向かった。
女将さんは警察に連絡が取れたのか、一安心して外に出ようとするが止める。
「ストップ。まだ狙撃手が居る...それに、相手が一人とは限らない」
「え、え?」
女将さんは困惑しているが、あまり悠長に説明もできない。
視界に映ったソレを見て、俺は息が詰まりそうになる。
機関拳銃を搭載したラジコンヘリという、ふざけた物を見た。
「女将さん!伏せて!耳塞いで!」
女将さんに叫ぶが、ぼうっとしていたので、足払いをして転倒させ、女将さんの体を跨いで盾になるように前に出て、XVRでラジコンヘリを射撃する。
ガゥン!ガゥン!
――ガシャッ バギャァッ!!
夜の暗闇に蠢く小さな歪みの正体、ラジコンヘリに正確に銃弾が命中し、粉々に砕け散る。
「ひぃ...!」
女将さんが怯えているが、今はこうするしかない。
武偵高のジャケットを脱いで、女将さんに着せる。
「俺が、今から警察署まで女将さんを連れてくから!わかった!?」
女将さんに叫ぶように言うと、女将さんはコク、コクと涙を流しながら必死に首を縦に振っている。
女将さんを背中に乗せて、しっかりと首に手を回させる。
「行くよ!?口しっかり閉じて!目も閉じて!」
「は、はい!」
『アクセル』を使い、急激に加速しながら表口の玄関を突進でぶち破って脱出する。
そのまま全力で走り、止まらないようにする。
ジグザグに走り、狙撃されないように細かく位置を調整して走り続ける。
走っている最中に目の前に3機のラジコンヘリが姿を現し、弾幕射撃を撃ち始めた。
咄嗟に『エルゼロ』を発動させ、急激に減速していく世界を走る。
――ズガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!
轟音の合唱と、バチバチと光るマズルフラッシュを見ながら、体を限界まで反らしながら斜め前に滑り込むように避けていく。
銃弾の雨を回避して『エルゼロ』を終了し、即座にXVRの残弾3発をラジコンヘリに吐き出す。
ガゥン! ガゥン! ガゥン!
命中した銃弾が、プラスチックで出来たラジコンヘリを圧潰していく。
それを横目で見つつ、また全速力で走る。
その時。
「――――!」
体に...いや、脳...とにかく、眉間のかなり奥の方にピキリ、と不快な感覚が走り、『エルゼロ』を発動しながら、横に飛び退きつつ、後ろを向いた。
ギュンギュンと回転しながら、さっきまで俺たちが居た場所を通っていったのは、銃弾だった。
正確に女将さんの頭部を狙って撃たれた物だ。
相手は相当、凄腕の狙撃手らしい。
『イージス』で銃弾を掴み、放って、『シウス』で蹴り返す。
銃弾は正確に、とは言わないが狙撃手の方に帰っていくだろう。
それを見て、すぐに『エルゼロ』を終えて走る。
バスで移動する最中に覚えた山の地形と、地図と、道を思い出しながらとにかく高低差の大きい場所や、障害物の多い山の中を駆け抜ける。
そんな時に、またピキリと不快な感覚が脳裏を駆け抜けた。
体を真横に飛ばして、木を盾にする。が、まだ不快な感覚が抜けない。
嫌な予感がして、『エルゼロ』を発動させてもう1つ先の木に体を潜り込ませる。
そこで『エルゼロ』が終わる。
―チュゥン! バギャアッ!
俺たちを狙った銃弾が、木の根で跳弾して、俺たちが隠れようとしていた場所を、正確に抉り抜いた。
――あのまま残ってたら、死んでたな...
そんな事を考えるがすぐに止めて、とにかく走る。
走って走って――ようやく人気の多い場所に到達できた。
そして、警察署に駆け込む。
「な、なんだ君は!」
少し歳を食った警官が俺にライトを突きつけてくる。
「ぶ、武偵...だ!この人を、保護、してほしい!」
泥で汚れているのは知っている。
顔の汗を拭うと、木の枝で擦りむいたのかちょっと血が出ていた。
だが、そんなことよりも、と後ろに背負った女将さんを預ける。
「いいか!狙撃手が、その人を狙ってる!複数班の可能性があるから注意してくれ!ラジコンヘリに機関拳銃を搭載したバカみたいなオモチャも使ってくる!」
「あ、ああ!分かった!君は、どうする!」
「俺は武偵です...仲間が、まだ現場に残ってるし...犯人の逮捕は、絶対です」
俺がそう言うと、警官は応援を寄越すから待っていろと言って、女将さんを署内に連れて行った。
だが、応援なんか待っていられない。
軽く息を吐いて、両腕をブラブラと動かす。
XVRのリロードを終えて、つま先を地面にとん、とん...と、2度ぶつける。
『アクセル』を発動させて、来た道を女将さんが居なくなった分、軽くなったその体で駆け、戻っていく。
――待ってろ、キンジ...レキ!
夜は、まだ明けない。