人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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修学旅行・Ⅰ編
新学期早々にやべーやつに会った


9月1日。

 

武偵高の2学期が始まるこの日は、世界初の武偵高...ローマ武偵高校の制服を模した『防弾制服・黒』と呼ばれる黒尽くめの制服を着るのが国際的な慣例だ。

 

講堂には方陣状に並べられたパイプ椅子には武偵高の生徒たちが黒服を着てズラリと並んでいる。

 

中央の演台には我が高の校長先生...緑松校長先生が立ち、話をしている。

 

――校長先生って...なぁんか頭に顔が残らねーよなぁ...

 

ついさっき会ったばかりなのに、すぐに顔を忘れてしまう。そんな感じだ。

 

そんな事を思っていると、校長先生の話は少し熱の籠った口調に変わっていき、ある話へと移った。

 

「我が東京武偵高校は、当然の事ながら日本にある武偵高校です。日本も、近年の治安悪化を受けて危険な人物等多くが見受けられますが...国際的に見ればまだ安全な国です。全校生徒の諸君、貴方たちは武偵です。もっと緊張感を持たなければならない。昨今は国際協調、国際協力、という言葉が投げ掛けられるのが現状です。日本も、その世界の流れに乗らなければならない。そこで此処、東京武偵高校では...緊張感のある環境で育った、海外の武偵高の留学生を積極的に受け入れることにしました。留学生と諸君らと、互いに切磋琢磨し世界に雄飛し、立派な武偵になって貰いたい...武偵憲章第9条!世界に雄飛せよ。人種、国籍の別なく共闘すべし。これを思い、頭の片隅にでもいいので留めて置いてほしい。以上で、話を終わります」

 

成程、確かに校長先生の言っている事は御尤もだ。

 

俺も、アリアやジャンヌが来るまでは自分の実力がそこで終わりだと思い込んでいた。

 

違う場所で生きてきた人たちとの交流は、自分の限界が限界でない事を教えてくれる。

 

海外からの留学生の受け入れ積極化は、俺は大変素晴らしい物だと思う。

 

その交流で、何か得られる物があるかもしれない。

 

隣にいるキンジを見ると、勘弁してくれって顔をしていた。

 

「よう隼人。隣座らせて貰うぜ」

 

「おー、いいぞ」

 

「おはよう遠山くん、隣いいかな?」

 

「勝手にしろ」

 

そこに武藤と不知火がやってきて、それぞれ俺の隣と、キンジの隣に座った。

 

いつもの男4人組の出来上がりだ。

 

「聞いてくれよ隼人、キンジ。昨日乱射があったみてぇでよぉ...俺のサファリの窓ぶち抜かれてたんだ...まぁーた保険会社に連絡しなきゃいけねぇよ」

 

「何?乱射だぁ?そりゃぁ...ドンマイだな」

 

「だろぉ!?」

 

武藤は俺に肩を組んでガクガクと揺らしてくる。暑苦しい。

 

キンジの方を見ると目線を少し泳がせてソワソワしていた。

 

――昨日の乱射...やったのオメーか、キンジ。

 

目でそう訴えかけると視線に気付き、キンジは俺の方に顔を向けて、手をブンブンと振ってやってないアピールをしてきた。

 

「まぁまぁ、それよりも遠山君。また女性関係でスキャンダルを起こした?」

 

不知火がその場を軽く流して、新しい話題を持ち込んできた。

 

女性関係スキャンダルって...コイツいつも起こしてんな。

 

「またかよキンジ」

 

「なんでキンジばっかりぃいいい!!」

 

「大声出すなよ武藤。まだ始業式中だぞ。ていうか不知火、何でそんな事知ってるんだ」

 

「知ってる...っていうか、予想?さっき強襲科で剣道の朝練があったんだけど、神崎さんが大荒れだったからね。多分これ、遠山君関連じゃないかなって」

 

「なんだキンジ...オメーまたアリアと喧嘩したのか?オメーらは月に1回は喧嘩しないとダメな呪いでも掛かってんのか?ん?ん?」

 

「お、落ち着け隼人。目がマジだし、笑いながら近付くな。怖えーよ」

 

「とりあえず謝れる内に謝れるだけ謝って早期の解決をしてくれ。『修学旅行・Ⅰ(キャラバン・ワン)』も近ぇのになんで喧嘩なんかするんだ」

 

「なんで俺が悪い前提なんだよ!」

 

「だいたいそーだろ...これまでの流れから行くと」

 

「うぐっ」

 

「あはは...それに、一部ではポピュラーな話題だよ。今朝遠山君が、レキさんと一緒に女子寮から登校してきたって」

 

「今度はレキか!...ああでも。根暗と無口で案外相性いいんじゃあねぇのか?」

 

「こっちの方もポピュラーな話題なんだけど...神崎さん、レキさんと仲良かったからね。暴れ回った後、軽く鬱入ってたよ。友達と恋人、両方失ったワケだからね...」

 

不知火がそう言うと、キンジが俺の肩を掴んで綴ってきた。

 

「隼人助けてくれ!俺にはもう解決法が分からん!」

 

「えぇ...俺も三角関係なんて相手した事ねぇから知らねーよこのバカ」

 

「そこを何とか!何時もお前に頼ってからやり方が分からないんだ!助けてくれ!」

 

「オメー本当にキンジか!?あんな啖呵切った奴とは思えねーぞ!」

 

キンジは今にも泣き出しそうな顔で俺に迫ってくる。ちょっと怖い。

 

「レキからは求婚されて『狙撃拘禁』されるし!気付いたらアリアは怒り心頭だし!どうすればいいんだよ俺ェー!」

 

キンジは顔色をコロコロ変えながら俺の肩を揺すり続けて情けない事ばかりを小声で叫んでいる。

 

てかちょっと待て。今とんでもない単語が聞こえたぞ。

 

「......え?何?キンジ、オメー...レキからプロポーズされたの?」

 

「ああっ!そうだよ!半径2km以上レキから逃れられないんだ!逃げたら殺すって言われてるしどうすればいい!」

 

キンジの目はグルグル回っていて、あうあう言っている。混乱しているのが見て取れた。

 

武藤も不知火も俺もドン引きである。

 

――今回は、三角関係かぁ....

 

昼ドラみたいな事ばかり起こしやがってと思いつつも、頭の中では真剣に対処法を考える。

 

やはり『修学旅行・Ⅰ』で関係の修復、強化をするしかない。

 

それでダメならまた別の手段を考える。

 

携帯している胃薬を取り出して口に含み、飲みこむ。

 

「っふぅ...いいか、キンジ」

 

「お、おう」

 

「『修学旅行・Ⅰ』で上手い事やれ。俺もサポートするからよォ。だがな、今回はオメーの言動で全部決まると思え」

 

「わ、分かった。やれるだけ、やってみる」

 

キンジは覚悟完了したのか、あうあう言ってた口をしっかり閉じて、目にはやる気が満ちていた。

 

「そう言えば、冴島君に遠山君は...どういったチーム編成をするの?やっぱり強襲科系?」

 

不知火が一段落ついた所で別の話題を振ってくる。

 

「俺ァジャンヌとどっか行こうかなって考えてるが...多分上手くいかねーだろーなぁ」

 

出来ればジャンヌも誘ってキンジを頭にチームでも組みたいが、ジャンヌはジャンヌで既に纏めているらしい。

 

故にジャンヌを引き抜いて同じチームに行く、という俺の計画は上手くいかないだろう。

 

「単位取得に必死でソッチの話は全くしてなかったな」

 

「あーあー...それは大変だ。次にコレ着る時は、どうなってるのかなぁ」

 

不知火はキンジの発言に同情の色を示して、黒服を指で指して不安気な表情をしている。

 

講堂から出ると、キンジの近くに白いモフモフが移動しているのが視界の端に映り、気になったので目で追っていくと...

 

「ガァウ」

 

レキの相棒、ハイマキがキンジにくっ付いて移動していた。

 

「お、ハイマキじゃん。おっすー」

 

「ガウ!バウ!」

 

俺がハイマキの名前を呼ぶと、ハイマキはキンジについて行くのをピタリと止め、その場で数秒留まって、躊躇ってから俺の方に突っ込んできた。

 

そのまま突っ込んでくるかと思ったが、ハイマキが俺の近くに来ると座り込んで転がり、腹を見せた。

 

「よしよし、よーしよしよしよーし」

 

ハイマキは気持ち良さそうに喉を鳴らしている。

 

「へへへ、アォオオオオオオオゥーン!」

 

と、遠吠えを真似してみると――

 

「ガァウォオオオオオオオオオオゥゥーン!!!」

 

ハイマキが遠吠えをしてくれた。レキも意外と芸を仕込んでるんだなぁ。

 

「よーしよし、賢いなぁ」

 

撫でれるだけ撫でていると、キンジが呆れた様子でそれを見て溜息を一つ吐いてから俺に声を掛けてきた。

 

「隼人...俺は頭痛がしてきたし、薬局に行ってくるぞ...」

 

キンジはフラフラとパレードの方へ進んでいく。それを見て、キンジを呼び止めた。

 

今日は始業式であるのと同時に、『水投げ』の日でもある。

 

『水投げ』とは――校長先生の母校で行われていた、始業式の日には誰が誰に水を掛けてもいい、という一風変わった喧嘩祭りだったそうだが...それが武偵高校風にアレンジされていき、始業式の日に、徒手でなら誰が誰に喧嘩を吹っかけてもいい......という大変恐ろしい物に改変されてしまったのだ。

 

で、なんでこんな説明をしたかと言うと、キンジの奴は悪目立ちしている。

 

アリアはどうか知らんが...星伽、理子に加えてレキまで誑かしたとあっては、それこそ撃ち殺されるんじゃないかと思うくらいに敵を増やしているワケで...

 

そんな中マジにパレードの中に入っていったら、リンチされて終わりだと思う。

 

だからキンジを呼び止めた。

 

「何だ隼人」

 

「キンジ、オメーなぁ...行くなら、コッチからいこーぜ」

 

キンジの肩を掴んで、裏路地を指した。

 

「......ああ、ありがとう。隼人は本当に良い奴だな」

 

「急に何だよ気持ち悪ィな」

 

「お前だけだよ、俺の身を案じてくれる奴は」

 

キンジが感慨深そうに、呟いている。

 

「オメーが知らねーだけだぞ、キンジ。星伽も、アリアも、理子も、カナも、ジャンヌや武藤、不知火だって心配してるさ」

 

「...そうか?」

 

「そーだよ!ほら、早い所行こうぜ!」

 

軽く滅入っているキンジの肩をバシバシ叩いて、背中を押して前へ進ませる。

 

「はは、分かった、分かった。だから押すなって」

 

キンジは少し笑いながら、俺の方を向く。

 

その時、キンジの目の前にキラリと光る何かが見えた。

 

「キンジ、あぶねぇ!」

 

背中を押していた手を一瞬で持ち上げて、襟を掴んでグイッと引っ張り、後ろに転がす。

 

そしてそのまま、俺も屈む。

 

キッ、と光る物体の正体を見ようと睨む。

 

 

 

 

ふよ。ふよ。ふよ。

 

 

 

そこにあったのは、3つのシャボン玉だった。シャボン玉は俺たちの頭上を通過していく。

 

 

「しゃ、シャボン玉ァ~?」

 

「隼人、なんでお前シャボン玉なんか...気張りすぎなんじゃねぇのか?」

 

「バカ野郎。校長先生も言ってただろ、俺たちは緊張感が足りねぇって」

 

俺とキンジが呆れた表情で立ちあがり、パンパン、と服に着いた汚れを払って先に進む。

 

「リーベンの武偵高、大したことないネ。けど、お前たちの警戒は見事ヨ」

 

そんな時に、頭上からいかにもって感じの中国訛りの日本語が聞こえてきた。

 

二人して見上げると、中国の民族衣装に身を包んだ女の子がいた。

 

...ああ、海外留学生の人か。

 

「...何か、用か」

 

キンジは機嫌が悪そうに、ぶっきらぼうに話しかけた。

 

「キヒッ」

 

女の子は手に持っていた瓢箪から、何かを器用に飲み――笑ってから、くるんっ!すたっ。という感じにサーカスみたいに身軽な動きで、着地した。

 

ひゅらり、と黒髪のツインテールが舞う。

 

「ウオ、名前、ココ言うネ。お前たちも名乗るがヨロシ」

 

髪型といい...身長といい...アリアそっくりだな。

 

女の子...ココの目尻には赤い塗料で化粧をしていて、キツめの目付きをパリッとさせている。

 

「...遠山キンジだ」

 

「冴島隼人だ」

 

キンジは渋々と言った感じで名乗り、俺もそれに続く。

 

「アイヤー!アイヤヤヤヤー!」

 

ココは、オーバーリアクションで天を仰いだ。

 

キンジはそんなココの態度が気に入らないのか、1秒毎に機嫌が悪くなっていく。

 

「......お前、さっきから酒臭いぞ。ガキが、そんなモノ飲むな」

 

「――ガキ違うネ!ココはもう14歳ヨ!」

 

あ、そこで怒るのもなんかアリアっぽい。

 

「しょうがないネ。ちょっとお試しするヨ。姫から離れたら、すぐ、イタイことあるネ」

 

ココはふらふら、ふらふら、と千鳥足で、倒れるような動作から、側転に入り、キンジに飛び掛かっていった。

 

――『水投げ』の挑戦者かよ!

 

キンジはそれに対応しようと、反射的に手を突き出していた。

 

「キンジ!そりゃ悪手だ!」

 

急いでキンジの後ろから足払いを仕掛け、キンジを転倒させる。

 

そして、転倒したときに上がったキンジの足が予期せぬ勢いで、ココの顎を蹴りつけた。

 

「――ぐ...!」

 

ココはそれに驚き、飛び退く。

 

「た、助かったのか?」

 

「知るか、とっとと体を起こせ!」

 

地面に寝たままのキンジの襟を掴んで、引き起こす。

 

あの動き、アリアと組手をしてる時に何度もやられた裸絞めだ。あれをやられると、身動きが一切出来ず、ギブアップをするしか手段が無くなる。

 

キンジと俺が再び構え直すと、ココはバック転で路地の奥へ退いていく。

 

「ウオ、『ワンウー』のココ――――『万能の武人』ネ。キンチ45点...だけどハヤトと組むと80点。ハヤトは80点、キンチと組めば85点ヨ」

 

点数を点けてきやがった。

 

「『万能の武人』ってワリに...不意打ちには弱いのな」

 

「キヒッ。アレは予想外ヨ、いい動きするネ...ココは大変満足ヨ。ツァイツェン」

 

すまん中国語はサッパリなんだ。

 

ココは路地の奥へと消えていってしまった。

 

俺とキンジは暫く警戒していたが、問題も無さそうだったので構えを解いて、歩き出した。

 

「たく、何だったんだ、一体」

 

キンジは愚痴を吐くように言う。

 

「さぁなァ...でも一つ言える事はある」

 

「なんだ」

 

「絶ッッッ対、また面倒な事の前兆だって事だよ」

 

「あー...」

 

キンジは確かになぁと頭を掻きながら呟いている。

 

『はぁー...』

 

キンジと同じタイミングで、溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期早々、やべーやつに会った。


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