人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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夏の終わりと、やべーサッカーしようぜ

あれから、一か月が過ぎて――今日は8月22日。

 

あの戦いの後、俺はカナと共に救命ボートに乗り込んでキンジとアリアを引き上げて...信号弾を見た武藤ら車両科の生徒たちが持ち込んだ水上飛行機に回収された。

 

気絶するように寝込んでいた俺とキンジが目を覚ました時には武偵病院にいた。

 

イ・ウーのことはどうなったか知る術がない。

 

 

 

それから黒服の、『政府関係者』と名乗る連中が俺とキンジからイ・ウーの事を根掘り葉掘り聞いてきた。

 

あの黒服共は政府関係者を名乗っていながら面会時間を知らなかったのだろうか。

 

寝てるときに叩き起こされて、質問攻めにされるのは気分が良くなかった。

 

話を聞けるだけ聞いたら、「事後処理は我々が行う、今回の事は永久に他言無用だ」と言い残して出ていった事は覚えてる。

 

パトラは何処かに行ってしまい、カナもその流れに便乗しようとしていたが、ジャンヌを呼んで、寮の自室に滞在させることに成功した。

 

ジャンヌはひどく嬉しそうだった。最高の手土産が出来たと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジはあれから、もうこんな生活嫌だ、俺は武偵を辞めて一般人に戻るんだとか言っていたが無理だと思う。

 

で、そのキンジは俺の隣で武偵高校の制服に身を包んでいる。

 

今日は退院日。矢常呂先生に色々と文句を言われたが生きてるから大丈夫だと思う。

 

ジャンヌや武藤らは少し成長した俺に驚いていたが深くは追及してこなかった。

 

「さぁキンジ、寮に戻ろーぜ」

 

「ああ...」

 

キンジと共に制服を着て、ネクタイの位置を調整する。

 

そして、荷物を纏めて病室から出て退院手続きを済ませた。

 

病院のロビーに行くと、星伽とやや疲れた表情をしたカナが居た。

 

「キンちゃん、冴島君。退院おめでとうございます」

 

「退院おめでとう」

 

星伽はキンジの方を向いて、深く頭を下げている。

 

カナはそれに少し苦笑して、俺の荷物を持ってくれた。

 

「さぁ、行きましょう...キンジ、隼人くん」

 

カナが率先して、進んでいく。

 

二学期の話や、カナから『不可視の銃弾』の撃ち方を教えてもらう約束を取り付けつつ校舎の間を歩いていると、キンジが教務科の掲示板の前で足を止めた。

 

「キンジ?」

 

「どうかしたの?」

 

キンジは、目を擦って見間違いじゃない事をハッキリと理解すると、顔を驚愕の表情に染めて膝から崩れ落ちた。

 

それを見た俺たちは急いで駆けつけ、何処かまだ痛むのか、と聞こうとして掲示板が目に映った。

 

そこに書かれていたのは――

 

『8/20現時点での単位不足者 2年A組 遠山 金次 専門科目(探偵科) 1単位不足』

 

ああ、カジノの警備が円滑に出来なかったから単位差し引かれたんだったな。

 

俺はまぁ0.1単位だけだったから、どうとでもなったが...キンジはダメだったみたいだな。

 

俺はドンマイと言ってキンジの肩を叩く。が、ソレを許してくれなかったのが、カナと星伽だった。

 

「キンジ...?私、言ったわよね?単位は足りてるのかって...あなたはやるって言ったじゃない。あれは、ウソだったの?」

 

「う、ウソじゃない!パトラがカジノを襲わなかったら無事に終わってたんだ!」

 

「キンちゃん!夏休みはまだ10日あるよ!なんとかしよう!」

 

「そうしねーとやベーだろーなァ」

 

キンジと星伽は情報科で民間の依頼を探しに行き、俺とカナはジャンヌが待っている寮へと帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カードキーを認証させて、扉を開ける。この扉を開けるのも――1カ月ぶりだ。

 

玄関に入り、靴を脱いで廊下を歩く。

 

「ただいま」

 

カナを見ると、きょろきょろと辺りを見回していた。

 

「おいカナ、何してんだ」

 

「ちょっと新鮮でね」

 

「別にいいけどよ、ほら、言えよ」

 

「言えって...何を?」

 

カナはきょとんと顔を傾けている。

 

「そりゃあ...決まってるだろ。帰ってきたなら...ただいま、だよなァ」

 

カナは目を丸くして驚いた後、少し微笑んで――

 

「ええ、そうね...ただいま」

 

これでいい?という感じで見てくるので、サムズアップで答える。

 

「おかえりなさい」

 

ジャンヌがリビングから顔を出して、返事をすると、すぐに戻っていった。

 

カナと一緒にリビングに入ると、ジャンヌはゲームをやっているのが分かった。

 

「ふふふ、隼人。お前のいない1カ月で私は随分と成長したぞ...私の力、見せてやろう」

 

「そりゃあ楽しみだぜ...だが、今日は辞めとくよ」

 

「む...そうか」

 

「ジャンヌは何をやっているの?」

 

カナが、ジャンヌの手元を覗きこむ。

 

「これか?これはゲームという物でな...これが中々に面白いのだ」

 

「ああ、ゲームね。キンジもよくやってたわ」

 

カナはソファから、ジャンヌの方を覗きこむようにしてゲーム画面を見ている。

 

それを横目に、布団に入り込む。

 

「隼人?寝るのか?」

 

「ああ...ちょっと、疲れたよ」

 

「...そうか、おやすみ」

 

「......おやすみなさい、隼人くん」

 

その言葉を聞きながら、瞼を閉じた。

 

眠りはすぐに、やってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「さぁ、来い隼人。近接格闘は苦手だが、何とか手伝ってみよう」

 

俺は強襲科のアリーナでジャンヌと向き合っていた。

 

1か月間ベッドの上で休んでいたせいで、体が怠けきっているのだ。

 

俺たちが向き合っている場所から少し離れた所で、カナは薄らと笑いながら俺たちを見ている。

 

「遠慮はしねぇ、いくぜ」

 

「来い!」

 

ジャンヌが構え直した瞬間―――

 

「――ズェア!!」

 

ブゥォンッ!!と風を押し退けるように右足が空を切っていき、ジャンヌ目掛けて突き刺さろうとする。

 

ジャンヌはそれを左腕で防ぎ、右手の掌底で俺の右足を跳ね上げた。

 

すぐに右足の膝を曲げて、即座に伸ばす。

 

ジャンヌは右腕でガードする。そして足を掴まれる前に、また膝を曲げ、構え直す。

 

ジャンヌは追撃されることを警戒して、一歩下がった。

 

「体は、怠けていないようだな?」

 

「いや、ダメだ。こんなモンじゃあねぇ...こんなのじゃ、足りねぇ」

 

腕をグルリと回し、息を深く吐く。

 

それを見て、今度はジャンヌが突っ込んできた。

 

右腕でパンチを数発打ち込んでくるが、手首のすぐ傍で受け、手首のスナップを使い、腕を体の外側へと持っていき、軌道を反らす。

 

「その動きは、見たことがないな!」

 

「まだ構想途中の、技にもならない技だ」

 

「技に...昇華させるのか?」

 

「いや、これを当たり前にしたい」

 

煙が物体に当たり、揺れ動き――流れを変えるような受け流す為の技。

 

『アクセル』を使った状態でも使えるようにしたいと思っている。

 

相手の動きが乗り切る前に、後手に回った俺が先手を取るような妨害技。シャーロックとの闘いで、俺に圧倒的に欠けていた物はそれだと気付いた。

 

だから、学ぶ必要があり、考える必要があり、何時でも使える必要がある。

 

ジャンヌは、蹴りを放とうと足を振るが、それを見た俺は、それよりも先にジャンヌの足にカウンターの蹴りを当てることで、動きを止める。

 

「...む!」

 

ジャンヌは足を引いて次の攻撃に移行しようとしている。だが、俺はそれよりも早く一歩詰めて、ジャンヌの腕を取って捻る。

 

そのまま力を加え、ジャンヌの足を押さえていた足で、ジャンヌを払い腕を引き寄せていく。

 

ジャンヌはそのまま、踏ん張ろうとしていたが俺の力と、自身の体勢が悪かったのか、投げられた。

 

 

ダンッ!と音が響く。

 

「ぐ...!」

 

「...ふぅ。まずは、一本だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな組手を何度か繰り返して、息が上がってきたので休憩していると...キンジと星伽と...星伽の親族か、関係者みたいな奴が入ってきた。そして、その後ろからゾロゾロと見たことのない連中が入ってきた。

 

「...お?キンジじゃん」

 

「ひっ」

 

汗でグショグショに濡れたTシャツを脱ぎ捨て、カナが持ってきたタオルで体を拭きながらキンジたちの方に体を向けると、気の強そうな小さい星伽が肩をビクリと震わせて、怯えた。

 

「おい隼人、粉雪や中学生にその体と顔は毒だろ。とっとと隠せ」

 

「あぁ!?何だキンジ!やろうってか!」

 

「そうじゃねぇ、生々しい傷が多すぎるんだ!隠せ!中学生がいるんだぞ!」

 

「ああ、そういう...見苦しいモノ見せて悪かったな」

 

右肩に銃創が治り、ブヨブヨと肉が付いた傷跡や、シックスパックに割れた腹筋に付いたばかりの青痣、体中に薄らと残る打撲痕、小さな火傷の痕、割れた筋肉やガッツリとついたムキムキの腕に残る切り傷の名残や青痣。そして極め付けに左頬に残っている切り傷と、右目の切り傷...中学生が見るには、少しショックが強いと思う。

 

見学にきた中学生たちに一言謝って、新しいTシャツを羽織る。

 

「その傷は武偵高校に入ってから負ったものなんですか?」

 

男子中学生が、キラキラとした目で俺を見て、質問をしてきた。

 

「...ああ、そうだ。凶悪な犯罪者たちを捕まえる為に、武偵は体を張るんだ。薬莢で火傷して、刃物で斬りつけられて、時には撃たれることもある...」

 

そう言うと、何人かの見学者たちは、おおー!と歓声を上げていた。

 

そこで歓声を上げるのか...

 

ジャンヌも額に溜まった汗を拭き、俺の方に寄ってくる。

 

「隼人、そろそろ昼食の時間だ。帰ろう」

 

「ああ、分かった。カナ、行くぞ」

 

「ん、分かったわ。キンジ、また後で会いましょう」

 

「あ、ああ...」

 

ジャンヌとカナを連れて、アリーナから出ようとしたときに、また質問が飛んでくる。

 

「すいません!そうやって、傷付いた方が、モテるんですか!」

 

その質問に、ズコッと滑りそうになる。

 

「......はぁ、俺よりそこの案内人の根暗野郎の方がよくモテるぞ。俺はむしろモテない部類の人間だよ...じゃあな、キンジ」

 

キンジにそういう類の質問を全部押し付けて、アリーナから出ていく。

 

キンジは忌々しそうに俺を見ていたがそれをニッと笑って無視して、アリーナの扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな校内見学の話から更に数日経過したある日の事...キンジから電話が入った。

 

「どーしたキンジィ。単位は大丈夫なんかぁ?」

 

『足りないからこうして電話したんだろ...サッカーやるから、来てほしい』

 

「サッカー?なんで、サッカー?」

 

『サッカー部の連中が全員停学になったから代理のメンバーがいるんだよ』

 

「ほーん...じゃあジャンヌとカナにも声掛けてみるか...」

 

『いや、カナは無理だろう。武偵高の生徒じゃないしな』

 

「あー...じゃあ応援に連れてくか」

 

『早めに来てくれよ、明日から練習だ』

 

「あいよ」

 

電話を切って、ジャンヌにサッカーやろうぜと言って誘い、カナを応援に誘った。

 

カナは快諾し、ジャンヌも少し考えてから頷いた。

 

 

 

 

そして、準備を進めていた時に、ジャンヌがとんでもない事を言い出した。

 

「隼人、日本の女子生徒はスポーツをするときの正装は、このブルマを履いた格好なのだろう?少し恥ずかしいが――まぁ仕方ないか」

 

「待て待て待て、まって、まってジャンヌ」

 

「落ち着きなさいジャンヌ、ソレはダメよ」

 

俺とカナが立ちあがってジャンヌを必死に止める。

 

「な、なんだ?コレじゃないのか?」

 

「今時そんなの履いてる奴いねーよ!普通のでいい、普通の体操着で良い!」

 

「そうよジャンヌ」

 

「そ...そうか...」

 

ジャンヌは俺たちに押し切られて、ブルマを持っていくのを中止した。

 

良かった、これで日本が勘違いされなくて済む。

 

カナとほぼ同じタイミングで息を吐く。

 

俺は明日のサッカー練習が、すごく不安になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。練習。

 

蝉の声が常に鳴り響く第2グラウンドに、俺たち3人はやってきた。

 

グラウンドに入って、暫く歩いているとキンジがイライラしながら待っていた。

 

「よォ...遅れたか?」

 

「...1分の遅刻だ」

 

「1分なら誤差だろーが...」

 

「まぁ良い...隼人、お前は俺と同じFWだ。俺がキャプテンを務める」

 

「げぇ...俺も攻めんのかよ」

 

「お前一人でイナズマ○レブンできるだろ」

 

「超能力使うのはダメなんじゃね?」

 

「ばれなきゃヘーキヘーキ」

 

「コイツ本当にシャーロック相手に正義だなんだ言ってた武偵かよ...」

 

そう言いながら軽く体を動かしてウォーミングアップをしていると、段々と人が集まってきた。

 

キンジ、アリア、理子、星伽、レキ、ジャンヌ、武藤、不知火、平賀さん、風魔、俺。

 

ギリギリ11人かぁ。

 

そこで練習を始める事になったんだが、ほとんどサッカーのルールを知らない奴ばかりで滅茶苦茶不安になった。

 

キンジと一緒にひたすらルールを説明して、ボール回しのやり方や役割について説明して――動き方の解説をして――実際に動いて―――という事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――試合当日。

 

 

 

「おい、なんだコイツら...可愛い奴らばっかじゃ...ひっ」

 

「どうしたぁ?へへ、上玉ばかりじゃねぇ...ひっ」

 

「たっぷり可愛がってやろうぜぇ...ひえ」

 

相手チームの連中は、舐め回す様に右のキンジから左の方へ視線を送り、俺を見て怯えた声を上げる。

 

「......」

 

「...なんで一人だけヤクザがいるんだよ...」

 

「...俺は武偵だ」

 

「ひっ」

 

相手チームの連中は俺を見ないように顔を上げたり、地面を見たり、チームメイトと話して顔を向けなかったりしている。

 

まぁそりゃ顔に切り傷2つも付いてりゃビビるよなぁとか思いながら、なるべく話はしない。

 

身長の揃わない凸凹の円陣を組んだ俺たちは、キンジの指示を待つ。

 

「いいか、俺たちは...」

 

「俺たちはまだオモチャに飽きてねぇ!一緒に進級させるぞ!」

 

と、武藤がキンジよりも先に宣言してしまい、それに呼応するように皆が叫んでしまった。

 

本当に大丈夫かこのチーム。

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始直後、身体的に劣っている平賀さんや風魔が体当たりでぶっ飛ばされた。

 

敵は女子の胸とか太もも目掛けて体当たりをしに行くゲス共だったが...反則じゃないので何も言えない。

 

まぁ女子にはそこまで期待してなかったので、キンジ、不知火、俺でボールを奪いに行く。

 

 

 

相手のチームは不知火の動きが一人だけ良かったことに気付いたのか、2人のマークを寄越して不知火を封じた。

 

 

 

その上、服を掴んだり足を蹴ったりして邪魔をしてくるのでもうストレスが半端ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時に、相手チームの一人がジャンヌに足払いをして、転倒させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを見て――

 

 

 

「あ゛?」

 

 

 

プツンと何かがキレる感じがした。

 

 

 

もうキンジの単位だとか、進級だとか、超能力は使わねーとか、そんなのはどうでもいい。

 

 

 

やっちゃあいけねーことをしたぜお前ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンジィ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

大声でキンジに叫び、パスを出させる。キンジは服を掴まれ上手くボールが蹴れなかったのか、俺の位置よりもかなり前にボールが飛んでいった。

 

 

 

 

相手選手が俺の服を掴み前に出ようとするが、『アクセル』を使って掴んだ相手を引き摺りながら、走っていき――次第に、相手の体が浮き始める。

 

 

「しっかり掴まっとけよ。俺の速度にご招待だ」

 

 

一瞬で加速した俺はそのまま宙に浮くボールまで走り、ジャンプして、胸でボールを受け取り、文字通りの高速ドリブルをする。途中で服を掴んだ奴が落ちた気がするが気のせいだろう。

 

 

ボールを常に足で遊ばせながら、相手のDFをぶち抜いて前に進んでいき、ゴール目掛けて思いっきり蹴り飛ばす。

 

 

 

『アクセル』を使ったまま蹴り飛ばされたボールは―――

 

 

 

キュボッッッッッ!!!!

 

 

 

 

と不可解な音を立てて、燃えながらゴールネットに突き刺さった。

 

ゴリラみたいな顔をしたドイツ人GKが口を開けて震えている。

 

たかがボールが炭になっただけだろう。驚く必要はない。

 

 

 

「さぁ、サッカーやろうぜ!」

 

 

 

良い笑顔で、俺はそう宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手選手が、武藤を押し退けゴールの近くまで入り込んでしまい、シュートを撃とうとするが、『アクセル』を使って瞬間的に相手選手の目の前まで移動し、蹴りつけようとしたボールを、こっち側からも蹴りつける。

 

ドゴンッ!と異様な音がして...

 

 

相手選手は電車に衝突してふっ飛ばされたようにグルグルと回転しながら宙を舞い――ボールは相手選手よりも宙高くに浮いている。

 

それを、ジャンプしながら反転し、オーバーヘッドキックを、相手ゴール目掛け蹴りつける。

 

 

 

 

ドゴッシャアアアアアアアアアッ!!!!!

 

 

 

 

なんかサッカーボールが燃えてるような気がするが問題ないだろう。

 

 

ゴリラ顔のGKは受け止めるかと思いきや、逃げ出してしまった。

 

 

誰もいなくなったゴールネットにボールのような物が突き刺さる。

 

ホイッスルが無情に鳴り響き、得点が入る。

 

 

ハットトリックまであと1点だ!

 

「サッカーって、楽しいな!」

 

「こんなの...こんなのサッカーじゃねぇ...っ!イナズマ○レブンだ!!」

 

吹き飛ばされた相手選手が嘆いているが、まぁこれも実力というやつだ。

 

何の問題もない。

 

審判が時折サッカーボールに細工がしてないか確認したり、俺の体から薬物反応が出ないか調べようとしたり、靴を調べたり...忙しかったが、俺は何の問題もない、極めて健全なスポーツ精神を持った高校生だと証明されたので、そのまま試合を続行する。

 

相手選手からブーイングが凄かったがそんなモノ知ったことじゃない。

 

生まれてから与えられた才能なのだ。使わないでどうする。

 

「最終的にィ!!」

 

服を掴んでいた奴が振り落とされる。

 

「ぐああああっ!」

 

ボールを奪おうと突っ込んできた奴がボールに吹き飛ばされる。

 

「勝てばァッ!!」

 

相手のDFが道を譲る。

 

「ひぃ、ひぃいい!!」

 

MFがビビって動かない。

 

「良かろうなのだァアアアアッ!!」

 

ボールを軽く宙に蹴り上げてシュートする。

 

「うわあああああッ!!」

 

ゴリラ顔のGKは土下座するような体勢で頭を抱え、悲鳴を上げている。

 

ネットにボールが突き刺さり本日初のハットトリックを決める。

 

「戦車だ、サッカーコートに戦車がいる」

 

「いやぁアレはどう考えてもジャガーノートだろ」

 

「俺は人間だぞ」

 

『どの口が言うか』

 

皆に一斉に突っ込まれた。

 

俺が一般社会に混じって部活なんかをすると、こうなるよっていう事か。世知辛いな。

 

「サッカーって、本当にいいスポーツだな!」

 

「今それを言えるのはお前だけだと思う」

 

キンジの冷静なツッコミに相手選手も、武偵高の連中も頷いていた。

 

 

 

 

 

結局後半は俺は能力を使って暴れるけど、お前らは好きにやらないのかと武偵高メンバーを炊きつけた結果――――悲惨なことになった。

 

ジャンヌや理子は演技力で相手のファウルを誘発するし、星伽は能力でサッカーボールを火の玉に変えるし、風魔も忍法使い始めるしで、すごい事になっていた。

 

マジでイナズマ○レブンだった。

 

 

もう本当にコイツらは一般社会に解き放つことが出来ない連中だと改めて痛感した。

 

...俺も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局ボロクソに叩きのめして勝ちを拾った俺たちは、そのまま単位を貰う事に成功する。

 

キンジの留年の危機は、これで去ったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忙しかった夏休みが終わって、9月がやってくる。

 

 

新しい戦いもまた、静かにやってくるのだ。

 

 

 

                                 夏休み編おわり


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