人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべー船内を駆け抜ける

手鏡に映る俺は、11時間前に洗面台の鏡で見た俺よりも僅かに成長していた。

 

髪は伸びて、汗でベタついている。

 

目つきは少し悪くなったように思える。

 

左頬と右目に付いた傷の痕は少し色褪せて、肉の膨らみがやや萎んで小さくなっていた。

 

これが、『リターン』のデメリット。自然治癒速度を上げた為に体がそれに伴い老化していく。

 

寿命が最も縮む『加速』だろう。

 

キンジは4月に病室で聞いた矢常呂先生の話でも思い出して、それが真実だと理解したのだろう。

 

カナは元々俺の能力をある程度理解していた。イ・ウーに所属していたから聞いていたはずだ。

 

だが、今は俺の事よりもアリアの救出が最優先だ。

 

「キンジ...泣くな。今はアリアを助けねーと...な?」

 

30分ほど前に話していた声とはかなり変わった、低い声。

 

自分の声だと思えないほど低くなった声が響く。

 

キンジの目から零れる涙を拭い、肩を数度軽く叩く。

 

「カナ...協力してくれ。俺とキンジだけじゃキツい」

 

「無理よ...『教授』には勝てない...!それに、あなたのその体では...」

 

「生きて帰れなければ寿命など意味がない。そうだろう」

 

真剣な表情でカナの目を見て話す。

 

「頼む...」

 

カナはじっと、俺の目を見つめ...頷いた。

 

カナは大鎌を後ろに捨て、キンジを立たせ話し始めた。

 

「キンジ...覚えておきなさい。あなたのその叫び声で確信したわ。今のあなたのヒステリアモードはノルマーレではない。女性を奪うためのもの...ヒステリア・ベルセに変化しつつあるわ」

 

「ベルセだと...?」

 

「気を付けなさい。ベルセは自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わって発現する危険なモードでもあるの...女性に対しても荒々しく、時には力尽くでその全てを奪おうとさえする。戦闘能力はノルマーレの1.7倍にまで増幅するけど、思考は攻撃一辺倒になるわ。言ってしまえば諸刃の剣...制御は不可能ではないけれど...初めてなら難しいかもしれない」

 

船が、ゆっくりとだが沈み始めていく。

 

「これ以上話している時間も無さそうね...『教授』、いえ...シャーロックを逮捕する好機が来たわ...厳しい戦いになるけれど、未成年者略取の現行犯で逮捕できる唯一無二の機会よ...」

 

3人が、目の前の流氷――恐らく、シャーロックが作り出したもの――を見ている。

 

「隼人...無茶ばかり、しないでくれ...俺はお前も守りたい」

 

キンジが俺の方向を見て、肩を掴んで話しかけてくる。

 

なんかちょっと気持ち悪い。

 

「キンジ、そういう甘いセリフは女の子に言ってやるモンだぜぇ?男に言ったって意味ねーよ」

 

そう笑いながらキンジの肩に手を回して寄せる。

 

「俺は守られるだけじゃなくて、お前と一緒に戦いたい」

 

「...隼人...」

 

キンジの方を見て、キンジの目を見て話しかけるとキンジも俺の目を見た。

 

そして、強く頷いた。

 

 

 

 

 

沈んでいく船上で各々が装備を確認する。

 

シリンダーを開け、残弾を確認し、ポーチに忍ばせたスピードローダーをチェックし、ナイフを確認する。

 

「即席トリオの完成、だな」

 

「ああ...行こう」

 

「2人共...気を付けて行きましょう。出エジプト記14章21節――主は海を退かせ、海を陸地とされ、水は分かれた――」

 

聖書の一節をカナが読み上げて、一番近い流氷へ飛び移った。

 

キンジと俺も後に続き飛び移る。

 

「まずはアリアを救出して――」

 

「シャーロック・ホームズを!」

 

「――逮捕するわ!」

 

銀氷の魔力...その残滓が、流氷の雪原を作り出している。

 

流氷の上を駆け抜け、飛び越えていく中で霜が降りてきている。

 

「恐れる必要はないわ...!私たちには拳銃(コレ)がある!フルメタルジャケットの弾丸が、秒速300mの弾丸が!隼人くんの秒速700mで進む弾丸が目標を撃破するわ!だから――恐れる必要はないの!」

 

ダイヤモンドダストが吹き荒れる中で、カナが叫びながら俺たちの先頭に立って駆け抜けていく。

 

シャーロックの姿が、潜水艦の艦橋のような所でアリアを抱いたままゆっくりと歩いているのが見えた。

 

カナが『不可視の銃弾』で射撃するが、ギィン!と甲高い金属音が響くだけで奴に当たった気配はない。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)を使えるのか...!?」

 

「本当にチート野郎だな!」

 

「キンジ!」

 

「――分かってる!」

 

「キンジ!使え!」

 

キンジにXVRとポーチに入っているスピードローダーを3つ放り投げる。

 

キンジはそれを受け取り、スピードローダーも回収する。

 

そのままカナとキンジの同時射撃が始まる。

 

カナは隠し持っていたもう一丁のピースメーカーを抜き、キンジはベレッタのマガジンをロングマガジンに交換して射撃し続けている。

 

甲高い金属と金属のぶつかり合う音が断続的に響いていく。

 

その音を奏でる銃弾の数は、時間がコンマ1秒経つ度に累乗的に増えていっている。

 

この光景を、俺は信じられない。『銃弾を弾き合う応酬戦』など、到底信じられる物ではない。

 

だがそれが現実で起こっている。

 

俺たちは真っ直ぐに銃弾の嵐の中を駆け抜けていく。

 

一瞬の油断が命取りになる。

 

吐き出される弾丸の数は増していき、銃弾が銃弾を弾く感覚も短くなっていく。

 

 

 

 

 

 

シャーロックにある程度近づいた所で、俺たちの方に体を向けた。

 

キンジとカナの射撃が止まった。

 

シャーロックは抱いたままのアリアの両手を動かして、耳を塞がせた。

 

――何を...している?

 

シャーロックはそのまま上半身を反らす。ヤツのネクタイがビリビリと裂けて、ボタンが弾け飛んでいく。

 

風船の様に胸部が膨らんでいく。

 

――あの技は!

 

「キンジ!カナ!魔笛がくるッ!耳を塞げッ!」

 

キンジは知っていたおかげか即座に対応するが、カナはやや対応が遅い。

 

加速してカナの両手を無理やり掴んで耳に押し付けて、それからすぐに俺も耳を塞ぐ。

 

 

 

――イ゛ェゥゥウアアアアアアアアアアアアアアアアアアヴィイイイイイイイイイイ!!!!!

 

 

 

シャーロックの咆哮で、海は沸騰した様に泡立ち、雲は千切れ消し飛ぶ。

 

途轍もない轟音に体が震える。全身の器官が掻き回される、

 

肺が潰れるような感覚を受けて、臓器が口から零れ出そうになる。

 

目を閉じて、耳を塞いで...姿勢を低くして耐える。

 

その音の攻撃が終わると同時、俺は目を見開いてシャーロックを睨む。

 

キンジたちは、まだ堪えているのか目を瞑っている。

 

その時、シャーロックの手元が2度光るのが見えた。

 

『エルゼロ』を発動させて、光――銃弾の軌道を見る。

 

2発の銃弾はそれぞれ、キンジとカナを狙っている。

 

その軌道を確認してから一歩――キンジとカナの前に出て、両腕を伸ばし銃弾を掴む。

 

両手を使った『イージス』は初めてだが出来た。

 

そしてここから、さっきの銃弾で銃弾を弾く応酬を見て、聞いて――閃いたもの。

 

シャーロックの手元が、また光る。銃弾が射出されて飛んでくる。

 

両手に持った銃弾2発を指でコインのように弾く。

 

2発の銃弾はゆっくりと落下していき、放物線がクロスする。その瞬間、そのまま体を捻り込み、足を上げて銃弾を蹴り飛ばす。

 

蹴りつけられた銃弾はグルグルと回転して、俺を狙って飛んでくる銃弾の軌道に重なる。

 

もう片方の銃弾は、そのままシャーロックを狙い進んでいく。

 

これが――『イージス』で手にした銃弾を相手に超スピードで蹴り返す反撃技...『シウス』!

 

そこで『エルゼロ』を終える。

 

 

 

――ギギィンッ!

 

 

 

俺に向かって飛んできた銃弾と蹴り返した銃弾がぶつかる。

 

 

 

そして、俺が蹴り飛ばした...シャーロックを狙った銃弾はシャーロックの撃った銃弾で弾かれた。

 

 

「俺ぁ失敗すると...学習するんでな!」

 

シャーロックに向かって指を指すがシャーロックは知っていた、と言う表情で俺を見た後、船内に消えていった。

 

「隼人...助かった」

 

「気にすんなよキンジ、俺はお前と一緒に戦う...戦いたいから...頑張るんだぜ」

 

「隼人...」

 

キンジと拳をぶつけ合って、ニッと笑い合う。

 

キンジはリロードを済ませたXVRを俺に返してきたので、それを受け取る。

 

 

 

 

 

 

艦橋の側面にあった梯子をよじ登り、開け放たれていた耐圧扉に飛びこむように入っていく。

 

キンジが先頭に立ち、螺旋階段を警戒しながら降りていく。

 

螺旋階段を駆け降りた俺たちは、イ・ウーの表玄関ともいえる、劇場のように広大なホールに辿り着いた。

 

そこに広がる光景が潜水艦の物とは思えなくて、目を奪われる。

 

最下層から最上層までのデッキをぶち抜いて作った天井から、磨き上げられた大理石の床を巨大で豪華なシャンデリアが照らしている。

 

顔をシャンデリアから外し床の方へ向けると、恐竜の全身骨格標本が幾つも聳え立っている。

 

周囲の壁には天井まで届く木製の棚に、人間よりも巨大な貝や海亀の甲殻、ジュゴンやイルカ、ライオン、虎、狼...それに絶滅した動物たちの剥製が何らかの法則性に基いて並べられている。

 

 

 

イ・ウーの本拠地だと言うのに、一切の攻撃が無く、むしろ耳が痛くなるほどの静けさが船内を包み込んでいる。

 

壁をグルグルと警戒するように見回すと、肩を叩かれたので其方を向く。

 

肩を叩いていたのはキンジのようで、俺が顔を向けるとキンジが一つの扉を指した。

 

扉は自動的に開いていく。

 

――来いってことか...!

 

カナとキンジに目配せをして、頷き合う。

 

 

 

 

 

 

 

扉の向こうにあった螺旋階段を下りて行き、生きたシーラカンスが入った水槽や色とりどりの魚を入れた水槽が並べられた暗い部屋を駆けていく。

 

次の部屋に入ると、太陽光で照らされた植物園だった。孔雀が歩き極彩色の鳥が飛び交うそこも駆け抜け、金・銀、宝石を含む世界中の鉱石を陳列した広大な標本庫も突っ切っていく。

 

長い布のタペストリーや革表紙の本が並ぶ広大な書庫、黄金のピアノと蓄音機の並んだ音楽ホール...中世の武器や甲冑やらが集められた小ホール、金の延べ棒や各国の紙幣が山積みにされた金庫...ありとあらゆる部屋を駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

全く違う部屋やホールを走り抜けている筈なのに、同じ部屋を走り続けているような錯覚を覚える。

 

キンジがついに、膝から崩れこんでしまう。

 

「キンジ!...立てる?」

 

「はぁ、はっ...あ、ああ...」

 

カナの手を借りてキンジが立ち上がる。

 

そこで、部屋をグルリと見回す。

 

正面の壁には巨大な油彩の肖像画が掛けられ、それぞれの絵の前に石碑、十字架、六芒星の碑などが一つずつ並べられている。

 

一番左に掛けられている肖像画はは古い軍服を着た凛々しい日本人で、『大日本帝海軍超秂師団長 初代伊U潜水艦長 昭和十玖年捌月』という添え書きが読み取れた。

 

右隣には逆卍の徽章を着けたドイツ軍人の肖像画が見える。

 

肖像画は右に行くに連れ、新しいものになっていく。

 

きっとここは、歴代伊・U艦長の墓地なのだろう。

 

そして、一番右...一番新しいものはシャーロックの肖像画が描き掛けのまま飾られていた。

 

 

 

 

キンジはシャーロックの肖像画の方まで歩いて行くと、突然シャーロックの顔が描かれたキャンバスをナイフで引き裂き始めた。

 

何してんだと思い覗きこむと、シャーロックのキャンバスの後ろ...そこに隠し通路とエレベーターがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し通路を通り、下へ降りていく。

 

そこで、また開けた空間に出る。

 

開けた空間は...教会だった。大きな、大聖堂だった。

 

大聖堂唯一の光源であるステンドグラス。その下に...

 

アリアがいた。懺悔をするように、祈るように此方に背を向けて屈んでいた。

 

「......アリア!」

 

キンジが、叫ぶようにアリアを呼ぶ。

 

アリアは振り返って立ち上がる。

 

「キンジ!......ハヤトに、カナも...どうして、きたの?って隼人...アンタなんか、変わった?...傷は!?」

 

「ヘーキだよ、全然大丈夫。さ、帰ろーぜ!」

 

アリアは俺に質問を大量にぶつけてくるがそれを一言で済ませ、アリアに手を伸ばす。

 

「...ダメ。帰って」

 

「――何?」

 

「今なら、きっと...まだ逃げられるわ」

 

アリアは俺たちに帰れと言ってくる。

 

どういうことだ。なんで、どうして...そんな疑問ばかりが浮かんでくる。

 

「帰れってオメーはどうすんだよアリア!」

 

「......あたしはここに残る。ここで、曾お爺さまと暮らすの」

 

「なんで、だよ...なんで...そんな...」

 

キンジが一歩前に足を踏み出すと、アリアは一歩後退る。

 

「......アンタたちには、分からないでしょうね。今の、あたしの気持ちなんか...」

 

アリアの緋色の瞳には、拒絶の色がはっきりと浮かび上がっている。

 

「あたし...アンタたちに...全然話してなかったもんね......ホームズ家での、あたしのこと......いい?貴族には...一族が、果たすべき役割を正しく果たすことが求められるものなの。そうでなければ、存在することが許されない。いないものとして扱われるの――」

 

アリアの笑みは、今まで見たことのないもので...まるで、感情の欠落した...そう、言ってしまえば、壊れた笑い...それを浮かべながら静かに話している。

 

「あたしは卓越した推理力を誇るホームズ家で...たった一人、その能力を持っていなかった。だから欠陥品って呼ばれて――――バカに、されて...!ママ以外の皆から無視されてきたのよ。あたしは......ホームズ家から...いないものとして!扱われてきたのよ...!子どもの頃から!」

 

欠陥品。いないもの。バカにされて育ってきた...

 

あのアリアが。Sランク武偵で、格闘術が滅茶苦茶強くて、教え方が上手くて、射撃が得意で、剣術も出来る...スゲー奴が、欠陥品として扱われてきた。

 

その事実に、愕然とする。

 

「それでもあたしはずっと...曾お爺さまの存在を心の支えにしてきたの。世間では名探偵という一面だけ持ち上げられているけれど、彼は武偵の始祖でもあるわ。だからあたしは曾お爺さまの半分だけでも名誉を得ようと思って――武偵になった」

 

キリストの像に触れるほど下がったアリアが、制服の胸ポケットを押さえている。

 

「あたしにとって、曾お爺さまは神様みたいな人よ。信仰の対象と言っても構わないわ。その彼が、まだ生きていて......あたしの前に現れてくれた。その気持ちがわかる...?曾お爺さまがあたしを認めてくれた!ホームズ家の出来損ないって呼ばれたあたしを、後継者とまで呼んでくれた!アンタたちに、あたしのこの気持ちが分かる?――――わかるわけ、ないわ!」

 

そりゃあ、そうだ。分かるワケがない。

 

「アリア、冷静になって考えろ...かなえさんに無実の罪を着せたのはイ・ウーだぞ!シャーロックはそのリーダーだったんだ!」

 

「ママの事も、もう解決するわ。曾お爺さまはあたしにイ・ウーを譲ってくださると言ったわ。そうなれば、ママは助かるの。ここには、ママの冤罪を晴らす証拠の全てが揃っている。なぜ、イ・ウーがママを陥れたのか――その理由を知るためにも、あたしはここに残るわ。きっと一筋縄じゃいかない裏があるのよ、この事件には!」

 

「アリア!お前それじゃ本末転倒じゃないか!イ・ウーはお前の敵だぞ!その一員に、お前がなるなんて――――」

 

「じゃあ何!?」

 

金切声を上げたアリアは犬歯を剥き出しにして、腕を目一杯広げてイ・ウー全体を示すように腕を広げた。

 

「このイ・ウーを東京までしょっ引けると思ってるの!?無理よ、不可能なのよ!曾お爺さまがこの艦のリーダーだった時点で!」

 

「アリア......!」

 

「この際だからハッキリ言っておくけどね、シャーロック・ホームズを甘く見てはダメよ。曾お爺さまはただの天才じゃないの...強いのよ、とても強いの。歴史上――最も強い人間なのよ――キンジ、ハヤト、アンタたちじゃ勝てっこないの。敵わないのよ。ムリなのよ!」

 

無理か。そうか、無理か。勝てないか。そうか、そうか。アリアがそう言うならそうなんだろうな。

 

チラリとキンジの方を見ると、イライラしてるのか、かなりキてる。

 

カナを見ると、キンジの好きなようにやらせよう...と、目で訴えかけてきた。

 

それに頷きで答え、前を向く。

 

「『ムリ、疲れた、面倒くさい』...俺と会った日に、アリア...お前言ったよな」

 

「......?」

 

「『この3つは人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める、良くない言葉』だって」

 

「......」

 

「いいか、アリア。それなら俺もハッキリ言ってやる!イ・ウーなんて、ただの海賊なんだよ!お前の曾爺さんは長生きしすぎて!ボケて!ここでお山の大将やってんだよ!」

 

キンジが、吠える。

 

「曾お爺さまを、侮辱してはダメっ...!」

 

「俺は、俺たちは見逃さないぞ...イ・ウーを、見逃しはしない!武偵として!」

 

「今更武偵ぶらないで!嫌がってた癖に!辞めたがってた癖に!とっとと帰って――武偵なんか、辞めちゃいなさいよ!アンタこの間、あたしの背中の傷跡見たでしょう!あれは撃たれたのよ、13歳の頃に!誰かに!その時の弾丸は手術でも摘出できない位置に埋まっていて、今でも体内に残ってる。そういう危険な目に、家族や子供までも巻き込んでしまう......もっとも危険な職業なのよ!...だから、帰った方がいい...あたしの事を忘れて...かえって...あたしはもう......これで、いいの」

 

アリアが、涙を零しながら...掠れる声で...諦めている。

 

「お前の言う通り...武偵なんか、辞めたいさ...だが、まだお前とは......パートナーなんだ。パートナーの失策は、自分の失策でもある。お前が敵に寝返って、ハイそうですかで終われないんだよ」

 

何時もの、女に甘くなった気持ち悪いキンジじゃない...。

 

女にも厳しいキンジだ!

 

「――――もう、パートナーなんかいらないわ」

 

聖堂にアニメ声が響く。

 

「――武偵と武偵がパートナーとして行動する際には、双方の合意が求められる。だが今の俺たちにはそれがない。だから、俺はお前の合意を取り付けるぞ...力尽くでもな」

 

「力尽く...ですって?力尽くで、どうするつもり?」

 

「奪う......お前のパートナーは俺だ。シャーロックじゃない。だから...奪い返す」

 

「キンジ...俺も、やるぜ」

 

「隼人...ああ、手伝ってくれ」

 

「ハヤト...アンタも、くるのね...!」

 

アリアは、ホルスターに手を突っ込んで2丁のガバメントを抜く。

 

「なぁ...アリアよォー...」

 

「なによ」

 

「オメー、自分勝手すぎんだよ...勝手にイ・ウー追いかけてって...勝手に、寝返ってよォー...たかが、尊敬して、信仰して、敬愛してる奴1人に...靡きやがって」

 

「......」

 

「アリア、オメーはバカにされないように、認められたくて、公平に扱ってほしくて頑張ったんだろ...!家族に、認められたくて!頑張ったんだろう!?」

 

「うるさい、うるさい、うるさい!!」

 

「オメーの努力の結果が、Sランク武偵なんだ!!射撃の腕も、剣術も、体術も、行動力も何もかもが、オメーの努力で手に入った物なんだ!!」

 

叫ぶ。溜め込んだ物、その全てを吐き出すように叫ぶ。

 

「俺が認めてるぞアリア!!オメーは努力の天才で、俺の教師だ!!」

 

「――!」

 

「そして...俺って『生徒』はよォー...今、この瞬間...『教師』の自分勝手な態度にむかっ腹が立ってるんだ...だから、一発ガツンと『説教』を入れてやる...俺たちで、止めてやる」

 

ゆっくりと歩いて、キンジの隣に立つ。

 

「『教師』だって人間だ...間違えることだってある。それを間違ってないと信じて疑わない奴こそが、本当の間違いなんだ...だから...俺たちが正す!」

 

「隼人...アリアを奪い返す。手伝え」

 

「応!」

 

キンジと、拳をぶつけ合う。

 

何度目かのタッグ。

 

『生徒』2人と『教師』1人の構図。

 

「いいわ...話し合いは、ムダね。かかってきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちを振り回したあのピンク髪のチビを説教してやる。


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