人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべー一撃!『仮称桜花』!

防弾ベストに、防刃性能はほぼ無い。

 

遠距離から飛んでくる『破片』から身を守るのと、近距離から『斬られる、刺される』という動作から身を守るのは根本的に話が違ってくる。

 

故にこうして、いとも簡単に背後から刺され、刀の侵入を許してしまった。

 

「ぐ...う...」

 

地面に倒れ込み、持っていたXVRが手から放れる。

 

パトラはそれを見て、XVRを蹴り飛ばした。

 

「ほほ。小僧は床に倒れた妾の傀儡を攻撃しなかったのう...よし、妾は寛大ぢゃ。お前が立ち上がり構えるまで待ってやろう...ほれ、早う立ち上がれ」

 

パトラが、俺の近くで見下しながら俺が立ち上がるのを待っている。

 

腕に、足に力を込めて立ち上がろうとすると傷口からボタボタと血が流れ出ていく。

 

「っあ゛ぁ...!」

 

ハッ、ハッ、と小さい息遣いを何度かして、上半身を持ち上げるように起こす。

 

キンジを見ると、スフィンクスと戦っていた。

 

――ソレ、動くのかよ...!

 

パトラの方は見れないが、きっと笑っているだろう。絶対者として余裕の表情で俺を見下しているんだろう。

 

「ほれ...立て。立てぬのなら、妾が立たせてやろう」

 

パトラがそう言うと砂の腕が地面から生えてきて、俺を鷲掴みにしたまま持ち上げる。

 

「...ぎ、ぁ...あぁっ!」

 

腕は俺を掴んだままギリギリと締め上げるように力を強めていく。

 

体が、捻れてグシャリと潰れてしまいそうになる。

 

砂の腕に雑巾絞りをやられたみたいに少しずつ体が捻られて、砂の腕の握力が強くなっていくのが分かる。

 

「ほほ。そのままで良いのか?逃げぬと死ぬぞ?」

 

――言われなくても、分かってる...!

 

パトラは挑発するかのように欠伸を一つして、俺を見て嗤う。

 

「がぁ゛...!あ゛ぁ゛あ゛あ゛っっ!!!!」

 

力を振り絞って、身体的加速を使い無理矢理、腕を振る速度を上げて砂の腕を払う。

 

払われた腕は地面に砂となって消えていく。

 

それを見たパトラは刀を持って斬りかかってくる。

 

「ほれ、ほれ、ほれほれほれ!もっと動け、もっと避けろ。妾を愉しませろ。もっと苦悶の顔を見せい、もっと悲鳴にも似た慟哭を上げよ。――――ほほ。愉しいのう!」

 

パトラの振る刀を致命傷にならないギリギリで回避し続ける。

 

何度も、何度も、何度も――刀が振られる度に防弾ベストが斬られていく。

 

それだけに済まず、その内側。俺の体にも傷を付けていく。

 

「最初だけか!最初だけ妾に説教を垂れて終わりか!何ともあっけない無能ぢゃな!」

 

パトラが何度か刀を振り、それを避けきった所で回し蹴りを食らう。

 

「ぐ...ぁ゛!」

 

当たり所が、悪かった。腹を刺された場所を叩くような蹴り。ドッと刺さるような音がする。パトラの高いヒールが傷口にめり込む。

 

蹴りのあたった場所、刺された所がブシュッ、ブチィア、と音を立てる。

 

傷口が過度に圧迫されて血を吐き出す。

 

それを見たパトラは不快そうな表情をし、足を下げた。

 

そして―――

 

「小僧の血で妾の足が汚れた。拭え」

 

そう言って今度は、顔面に回し蹴りを叩き込んできた。

 

一度だけでなく、往復ビンタのように、蹴っては止め、逆サイドから蹴っては止め、というセットモーションを何度も浴びる。

 

ガスッガスッガスッガスッ...ドグァッ!

 

最後の一撃で強く蹴りつけられ、軽く飛ばされる。

 

「ふむ...ちと綺麗になったかのう?」

 

パトラはそんな事を言いながら自分のヒールを見て少々不満そうに呟く。

 

 

 

 

――今、分かった...

 

 

 

パトラの蹴りは...そう、重くない。だから、食らい続けると痛いが...理子や、ジャンヌほどじゃない。

 

 

 

問題は砂の分身だ...どいつが本物で、偽物か...分からないが...刀を持っているコイツが、本物なんだろう。

 

 

 

 

「ぐ...ふぅ...ふっ...は...!」

 

 

 

闘志は燃え続けている。体の内側から漏れ出す力の渦は「まだやれる」と言いたそうに体中を駆け巡って暴れている。

 

闘争心は、消えていない。むしろ侮辱され、バカにされ、見下され、より一層激しくなった。

 

 

 

 

――――先月...ブラドになる前。小夜鳴先生が言っていたことを思い出す。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『冴島くんはただの人間にしては有り得ない程の速さで進化する遺伝子を持っているんですよ』

 

 

 

 

『我々はもっと貪欲に、進化できるようになる』

 

 

 

 

『派生して深化していく...進化ではなく、能力を理解し、考え、自分の欲しいものへと、深めていく』

 

 

 

 

『我々は更なる高みへ昇ることが出来る』

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その言葉が嘘じゃないのなら、本当だとしたら。

 

「パトラ...」

 

「気安く呼ぶでない。愚民」

 

「テメーは...はっ...ぁ゛...言った、よな...?はぁ゛...ぜぁ゛...ブラドを...呪い倒した...って...っ!」

 

腫れた顔で、吹き飛ばされた状態で、パトラを睨む。

 

「そうぢゃ!妾がブラドを呪い、倒した!それが何になる!」

 

パトラがニヤリと笑う。そして侮蔑の表情で俺を見下す。

 

当然のように。自分が王者だと疑わないから。

 

だからきっと。俺が倒れる間もルールとやらで攻撃してこないのだろう。

 

そういった慢心が、お前の欠点なんだろう。

 

「――いや、別に...つい、先月の話を思い出しただけだ」

 

急速にスタミナが回復していく。傷が血のような紅くて...赤い()()を上げて塞がっていく。あのブラドのように。

 

顔の腫れが途轍もない速度で治っていく。

 

 

体の中に渦巻く力が搾り取られ、血液に変わっていくのが分かる。

 

 

ボゴボゴと沸き立つような血液が血管に送られる。体の機能が異常な速度で正常に戻っていく。

 

 

「――何!!小僧、貴様一体何をしたのぢゃ!!こ、答えよ!」

 

 

パトラが信じられない物を見たかの様に震える。

 

 

恐怖を掻き消すように俺に問を投げかける...叫ぶような大声で。

 

「別に...言っただろ?先月の話を...『俺の遺伝子』の話を思い出しただけだ」

 

治癒速度を、意図的に速めた。ただ、それだけのこと。

 

「ずっと、不便だったんだ...」

 

体を本来の、いつものような調子で起こす。

 

「気まぐれに、俺が寝てたり、気絶したりする時だけとっとと治りやがって...」

 

体に着いた砂を手で払い、足を振って払う。

 

「俺から逃げるみたいに、俺の前を走っていく『治癒速度の加速』...ようやく、捕まえたぜ」

 

手足をブラブラと揺らして、ストレッチをする。

 

息を一つ吐いて、ようやく憑き物が落ちた気分になる。

 

 

 

「――俺の血でよォー...オメーらイ・ウーの連中が『深化』できるなら...その血の根源...張本人の俺が出来ねーっつぅのはよォ...」

 

首をゴキゴキと鳴らしてグルッと回して解す。

 

パトラは一歩後ろへ下がる。絶対有利な状態から、少しパトラが有利な状態になったことに怯えている。

 

「可笑しい話だよな?」

 

パトラが俺の独り言のような発言を聞いて、顔色を悪くする。

 

「ま、まさか...有り得ないのぢゃ!こんな、短時間で...能力を深めるなど!」

 

「時間なんて関係ねーんだよ」

 

『治癒速度の加速』...名付けるなら―――『リターン』。...安直すぎかなぁ?

 

だが、ようやく元に戻れた。傷は塞がったし、殴られた痛みも、疲労感もない。

 

体の中に渦巻いている力が、少し減ったような気がするが問題ない。

 

「パトラ、テメーのそのお喋りな口が、俺にヒントをくれた。ありがとよ...おかげでブラドの再生を『イメージ』出来た...思い出せた」

 

パトラが更に一歩下がる。そして、必死の表情で床一面に砂を撒き始めた。

 

そして、天井から降ってくる細かな砂の粒子がパトラと俺の開いた距離――その全てを埋め尽くし、パトラの周りをグルグルと高速で回る砂の盾が出来上がった。

 

「小僧!お前がどれほどの速度で動こうと関係ない処刑方法を思いついたのぢゃ!この床の砂と、宙に舞う砂でお前の位置を常に把握し、砂の腕で攻撃する!」

 

「...分かって、ねーなぁ」

 

体に着いた砂が、動きを鈍くしてくる。その砂を手で、適当に払う。

 

「そして妾は!ここで!この完全な砂の球に籠る!非常に不愉快ぢゃが、お前の一撃を今受けるワケには行かんからの...!」

 

「砂の分身でも出して、逃げればいいんじゃねーのか」

 

「分かってて言っておるだろう!アレは複雑な物でそう簡単に用意できる物ではないのぢゃ!」

 

――へぇ、そうなのか。助かったぜ...また分身でしたなんて言われたら、やってられないからな。

 

ゲームみたいにポンポン召喚してくるモンだと思ってたが、違ったようだ。

 

つまり、アイツはもう身代わりを用意できない。

 

だから亀みたいに閉じ籠って、俺の攻撃を受けないようにしている。

 

――分かってねぇなぁ...分かってねぇ。全然、分かってねぇ。

 

砂で俺の位置を感知する?それじゃ遅いんだ。そこに居ると分かっただけじゃダメなんだ。

 

「まぁ、砂だろうが腕だろうが何しようが関係ねぇよ。俺の速さに追いつけるのは――」

 

そのまま、右腕を少し持ち上げる。

 

「――俺だけだぜ」

 

手首を大きくスナップさせる。

 

「行くぜ」

 

 

その言葉と共に視認情報の加速と身体的加速を同時に行う...これにも名前を付けるか。『アクセル』でどうだ。うん、そのまんまだな。

 

『アクセル』を発動させる。天井から降ってくる砂の動きが遅くなっていく。

 

――分かりやすくするって、大切なんだなぁ。

 

今まで感覚的にやっていた物に名前を付けて、制御しやすくする。星伽やジャンヌやキンジが技に名前を付けていた気持ちが分かる気がする。

 

そのまま走り始める。一歩目を踏み出した瞬間、地面から砂の腕が飛び出して俺を捕まえようとする。

 

「遅ぇんだよ!」

 

その腕を蹴散らして、更に前に進む。

 

 

 

 

床一面から、大量の砂の腕が生えて俺を狙い腕を振り始める。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!ドン!と俺が通った道を腕が押し潰していく。

 

 

 

空中に舞った砂が弾丸のような形状になり、密度の濃い弾幕射撃のような物までしてくる。

 

 

 

それを支柱に登り回避して、そのまま追撃を続ける砂の弾丸を転がって回避する。

 

 

 

転がった所から更に砂の腕が2本生えてくるが背中を床に着けたまま足を大きく開いて、腕を床について、腰の力と足の力で風車みたいに両足を回して砂の腕2本を吹き飛ばす。

 

 

 

パトラは更に砂の鳥を作り特攻させてくる。勿論砂の弾丸の雨も、大量の砂の腕も一緒に付けて。

 

 

 

それら全てを蹴散らして、スライディングをして、飛び退いて、勢いを付けたまま壁を走って回避する。

 

 

 

スライディングを使うとパトラは床から鰐の口を砂で作りだして俺を捕まえようとする。

 

 

 

「遅ぇ!」

 

 

 

だが、それもスライディングから両足を持ち上げてバック転を行う仕切り直しで霧散する。

 

 

そのまま体を起こして更にパトラに接近する。

 

 

遂には天井からも大量の砂の腕が生えてきて俺をすり潰そうと手を伸ばしてくる。

 

 

そして目の前、パトラの方から砂の津波が押し寄せてくる。

 

 

砂の波は高く6mはありそうだ。スプリングブーツを使ったジャンプでも回避は無理だと判断する。

 

 

横を見ると、回避に使った一本の支柱がボロボロになっていて、砕けて傾いているのが見えた。

 

 

あれで高さを稼げば、避けられるかもしれない。

 

 

そう判断した俺はすぐさま傾いた支柱に向けて走り出す。

 

 

大量の砂の弾丸と砂の腕と砂の鳥、砂の鰐の口を左右に飛び退けながら回避して支柱に乗る。鰐の口が支柱を飲み込んで粉々に砕きながら俺を目掛けて襲い掛かってくる。

 

 

そのまま支柱の頂点まで走る。進路を妨害するように砂の弾丸が一列に並んで襲い掛かってくる。それを走り高跳びの様に背中を向けて跳躍し、体を捻って足を上げて、頭から落ちていく形で回避する。背中と足のスレスレのラインで砂の弾丸が通過していく。

 

 

頭が支柱にぶつかる前に手をついて、そのままバック転を2度行い、支柱の頂点ギリギリに到達する。砂の津波は今にも襲い掛からんばかりだ。心なしか勢いを増している気がする。

 

 

支柱の頂点でスプリングブーツを使って、跳ぶ。

 

 

 

そこで初めて気付いた。

 

 

砂の津波は1枚ではなく、何枚にも張られた物で絶え間なく襲い続けている。

 

 

――降りたら、飲まれるな...

 

 

どうしようかと思案した所で天井から俺を捕まえる為の砂の腕が降りてきた。

 

 

「おっと」

 

 

空中で身を捻り、掴まれないように避ける。一本の腕ではなく、視線を動かさなくても分かるくらいにはギッチリと天井を敷き詰める砂の腕が見えた。

 

 

そこで気付いた。コイツを使ってやればいいんだ。

 

 

口元がニィッと裂ける。

 

 

「この腕、借りるぜ!」

 

 

砂の腕を掴んで、蹴飛ばして次の腕に移動する。掴んで、蹴って、掴んで、蹴って移動し続ける。移動している間にも砂の鳥と弾丸の雨が俺を狙い、襲い続けてくる。それを体を捻ったり、砂の腕を盾にしながら進む。

 

 

その時、掴んでる砂の腕の隣の腕が動き、俺を掴もうと動いてくる。

 

 

が、腕を掴んだまま足をブラブラと揺らし遠心力が生まれ始めた所で腰を使って足を上げ、思いっきり振るい掴もうとしてきた砂の腕を破壊する。その直後、遠心力を利用して手を放して先に進む。

 

 

ターザンみたいに天井から生えた砂の腕を掴んで進むことも終わり、とうとうパトラの真上に到着する。

 

 

パトラはゆっくりと顔を見上げ、砂の壁の隙間から俺を見つける。俺と目が合うとその表情を更に恐怖に歪めた。

 

 

反対に俺の口元は三日月のように裂けていく。

 

 

掴んでいた腕を放してパトラの真上から飛び掛かる。

 

 

パトラが砂の針を生やすがもう遅い。

 

 

固まりきっていない砂を足で薙ぎ払い、砂の壁を重力に引かれた踵落としでぶち壊して、パトラの目の前に着地する。

 

 

パトラの顔が、ゆっくりと下に下がっていく。

 

 

見やすいように立ちあがる。

 

 

完全に目があったパトラは真っ青な顔で日本刀をゆっくりと振り上げる。

 

 

それを、後ろに回り回避する。

 

 

「さっきの言葉、もう一度返すぜパトラ。やはり前しか見てなかった様だな」

 

 

顔を半分だけ後ろに向けて左目でパトラを見る。

 

 

パトラは急いで此方に振り返ろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も言うが、もう遅い。

 

 

――この間合いは

 

 

 

 

 

 

 

キンジから教えてもらった技を使う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左足を軸にして、つま先を180度捻って後ろを向きながら腰、背中、腕、肩、手首の力で同時に加速していく。

 

 

つま先に円錐水蒸気が発生しつつある。だが、まだ加速は終わらない。

 

 

蹴る為の右足の太ももを振って加速、脛を振って更に加速する。

 

 

つま先を超えて...足の土踏まず辺りに円錐水蒸気が発生していく。

 

 

まだだ、まだ残っている加速点がある...踵を振って、更に加速!

 

 

そしてついに、円錐水蒸気は俺のつま先、足、踵よりも後ろに消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺の距離だ!

 

 

――ズパァァアアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

 

銃声にも似た、衝撃波が聞こえる。

 

 

振り向いた状態で速度の乗った右足をパトラの側頭部目掛けて蹴りつけようとする。

 

 

パトラが急いで用意した分厚い砂の壁を、撫でる様に切り裂いていく。

 

 

 

そして、パトラの側頭部につま先が触れた瞬間、全力で足を引いて振り抜くのを止める。

 

 

足が地面に着いたのを確認して、『アクセル』を終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

途端に、右足よりも外側の床が砕けて抉られていく。

 

ゴッシャアアアアアアッ!!と凄まじい音がする。

 

 

「――――ぐ」

 

パトラがふらり、ふらりと揺れたかと思うと、膝を折って地面に座り込んだ。

 

 

 

「耳鳴りがうるさいのぢゃ...!この、吐き気は何ぢゃ...頭が、割れるように痛い...!目が、目が可笑しい...!」

 

パトラは立とうとするが手足はブルブルと震えるばかりだ。

 

 

「何を...した!妾の体に、何を!...ぐぅ、物が、ブレて見える!何ぢゃコレはぁああ!」

 

 

パトラが喚き散らしている。パトラの目を見ると、左右の瞳孔の大きさが違うのが分かった。

 

 

それを見て、全力で引いておいてよかったと正直内心ヒヤヒヤしている。

 

症状から考えられるのは...脳震盪だろう。しかも、極めて重度のものだと思う。

 

頭蓋骨の骨折もあるんじゃないだろうか。

 

「ぐ、くぅ...ぁ...!」

 

パトラは立ちあがろうとしてバランスを崩し、完全に床に倒れ込んでしまった。

 

それを機に砂の腕や天井から生えていた砂の腕、砂の鳥に砂の弾丸...砂の波なども崩れて消えてしまった。

 

「聞こえてるか、聞こえてねーかは分からんが...病院に行くことを強く勧めるぜ」

 

 

 

――『仮称桜花』。触れた瞬間蹴るのを止めて引いただけでも、これほどの威力とは...

 

目に見えた攻撃ではなく、内部にダメージを与えるというのが何とも恐ろしい。

 

――キンジの奴、なんて危険な技を考案するんだ...

 

「おのれ、おのれ、おのれ...!許さんぞ、妾を、覇王たる妾を...たったの一撃でぇ...!」

 

「...お前らイ・ウーってそういうやられた時のイベントボイスでもあるのか?」

 

そう思うくらいにはジャンヌやブラドと似たような事を言っている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

無力化できたし、超能力無効化用の手錠でも掛けようかとポーチに手を忍ばせた瞬間。

 

「っ!」

 

パトラの目がギラリと光り、砂の手が無防備だった俺を掴んで壁に押し付けて拘束してくる。

 

「は、はっ!掛かったのう...ざまぁみろ小僧...!お...前は!妾が...この手で!殺す!」

 

キンジの方に助けを求めようとするが、キンジはスフィンクスを相手に苦戦を強いられている。

 

パトラを見ると床の砂がナイフの形を作っていき、5本のナイフが完成する。

 

それが、投げられようかという瞬間。

 

がしゃああああああああんっ!!!

 

と、ガラスの割れた音が聞こえ、赤い色をした『オルクス』が、スフィンクスに突っ込んでいった。

 

「なっ」

 

「何ぢゃ!」

 

「まさか!」

 

スフィンクスは『オルクス』に突っ込まれて頭部を破壊され、砂になって消えていく。

 

赤い『オルクス』のハッチが開いていく。

 

パトラの作りだしたナイフの切っ先が、『オルクス』のハッチの方へ向かっていく。

 

そして、人影が見えた瞬間5本のナイフが人影に向けて発射された。

 

ガスガスガスッキィン!ガスッ!とナイフが飛んでいき、見当違いの所に1本が飛んでいき遅れて最後の1本が『オルクス』に刺さる。

 

「ぐぅ...まともに、狙う事も出来ぬかぁ...!」

 

忌々し気な表情で壁に張り付けられたままの俺を、パトラは睨む。

 

俺はその視線を無視して、『オルクス』の方を見ている。

 

正確には、『オルクス』の傍に立っている女を見ている。

 

武偵高校の制服に身を包んだその女は。

 

 

「兄さ...いや、カナ!?」

 

 

キンジの兄貴姉貴だった。どっちだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仮称桜花』の技名は、未だ決まらず。


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