人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

34 / 92
今回の話はやや官能的な表現があります。


ジャンヌはやっぱりやべー

「隼人、起きて」

 

ジャンヌに囁かれて、目が覚める。が、思った以上に抱き心地のいいジャンヌを離したくなくて顔を近付ける。

 

いつもと同じ若草の香りと共にシャンプーの匂いがする。

 

それが良い匂いで、心が安らいでいく。

 

「隼人...起きないと、夕食が...作れない...」

 

ジャンヌが身を捩っているのが伝わる。

 

このままでいい気もするが、食事も欲しい。

 

仕方がなくジャンヌを抱きしめたまま、体を左へ捻ってジャンヌを上に向けて腕の力を緩める。

 

「おはよう、という時間ではないが...目が覚めたか」

 

ジャンヌは俺に跨る形で上半身を起こす。その顔はやや赤く、口元には深い笑みを作っている。

 

「ああ...おはよう、ジャンヌ」

 

「さぁ、食事の準備をしよう。今日は隼人にも手伝ってもらうぞ。そして、夕食が終わったらアレの続きだ。フォロー・ミー」

 

「へいへい」

 

ジャンヌが先にベッドから出ていき、俺も体を起こす。

 

トイレに行ってからジャンヌの居るキッチンへと向かう。

 

ジャンヌはいつも通りポニーテイルにエプロンを付けて、パタパタとスリッパを鳴らして冷蔵庫へいったり、食器棚へ行ったりしている。

 

「で、俺は何をやりゃいいんだ?」

 

「野菜を切ってくれ。料理が下手でもそれくらいならできるだろう?」

 

「ああ、まぁな」

 

包丁とまな板を持って、そこにトマトやレタスやキュウリを持ってくる。

 

洗ったトマトを十字に切って四等分してヘタを切って捨てる。

 

レタスは食べやすい大きさに千切って、水で洗い流す。

 

洗ったキュウリを半分ほど使い、薄く切ってスライスする。

 

「出来たぞ」

 

「どれ...うん、よく出来てるじゃないか。偉いぞ」

 

「ただ切るだけだろーがよ」

 

――俺が苦手なのは味付けなんだ。どうしても濃くて、塩辛い味になる。

 

「ふむ、後は私がやろう」

 

「任せた」

 

ジャンヌはごま油、酢、砂糖、コチュジャン、中華スープの素を使ってドレッシングを作り、皿に盛りつけた野菜にそれをかけ始めた。

 

それと、パンと昼の残りのスープを食卓に並べる。

 

「さぁ、食べるぞ」

 

「ああ、美味そうだ」

 

『頂きます』

 

食事の際はほとんど喋らない。静かに食事をして、片付けのタイミングになってから喋る。

 

――このオニオンスープ美味いよなぁ...

 

サラダを食べて、オニオンスープを口に含んで思うのは、やっぱりジャンヌの飯は美味いということ。

 

今はまだフランスの家庭料理や簡単に出来る物で済ませていると言っていたが、本人は絶賛日本料理や中華料理を勉強中らしい。

 

何時この口に入ることになるのか楽しみで仕方がない。

 

「御馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

片付けも今日は口数少なく、いつもより手際良く終わった。

 

先に俺が風呂に入り、後でジャンヌが入る。

 

風呂から上がり、髪をポニーテイルで纏めたジャンヌがやってくる。

 

「よし、やるぞ」

 

ジャンヌが、胡坐をかいて座っていた俺の上に乗る。

 

「ここに座る理由は?」

 

「画面が隼人にも見えた方がいいだろう?それに、ここはお前の匂いがする。気に入った」

 

「犬かよ」

 

「隼人も随分と熱心に私の匂いを嗅いでいるじゃないか」

 

「だってジャンヌは良い匂いがするじゃないか」

 

「私もそう感じているということだ」

 

ジャンヌとの会話で少し顔が熱くなるが1か月前程ではない。

 

ジャンヌがそのままゲームをやり始める。自分で言ったことなので、ジャンヌのアドバイスをすることに決めてしばらく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこ、ガードできるだろ?ほら、今」

 

「こうか?おお、防げた!」

 

ジャンヌが盾を構えてモンスターの咆哮をガードする。それが出来たことが嬉しいのか、ジャンヌは喜んでいる。

 

「いいぞ、中々上達してきたな...奴が飛んだぞ、頭の方向はそっちで、閃光玉を投げるんだ」

 

「何?閃光玉だと...まぁいい。おお!落ちてきた!」

 

 

 

 

「そこだ、回避するんだ」

 

「避けられるのか!?ええい、やるしかあるまい!」

 

「そうすると...」

 

「岩に...!歯が刺さっているのか!」

 

「罠を仕掛けるんだ、捕獲するぞ」

 

「よし!」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこのでかい蟹は!」

 

「ソイツのゲロ当たると痛いから注意しろよ」

 

「胃液を吐くのか!?」

 

「ああ、皆ゲロって呼んでるだけで...なんて言えばいいんだろ。酸性の粘液?」

 

「悍ましいな...」

 

 

 

 

 

「あ、ジャンヌ。そこは不味い」

 

「え?あ、ああー!押し潰された!?」

 

「教えてなかったな、すまん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が空の王者だ...ずっと地上に居るではないか」

 

「でもアイツがずっと上にいたら面倒だろうからなぁ」

 

「何!もう一体だと!だが、緑色...?」

 

「あいつらは番なんだ。赤い方が雄で、緑の方が雌」

 

「夫婦でやってくるとは......隼人は来てくれないのか?」

 

「これ村クエだろ」

 

「むぅ...」

 

「此処にいるから、な?」

 

「しょうがない、今だけは許してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだコイツは、蟹よりもでかいぞ...!?あの頭の形...まさか、あの蟹の背負っていたものはコイツの頭だったのか!」

 

「ご名答。まさに山のような、怪物だぜ」

 

 

 

 

「砦を守らなければ街の人々が危険に晒される...やるしかない!」

 

「ここのBGMいいよなぁ」

 

 

 

 

 

「食らえ、この砦の槍を!...ダメか!? いや!やった、やったぞ!奴が退いて行く!」

 

「おめでとさん、守り切ったな」

 

 

 

 

ジャンヌに色々とテクを教えたり立ち回りを教えたりすると、スポンジみたいに吸収して上達していった。

 

まだ粗は目立つがフレーム回避を要求するワケでもないし、これくらいでいいだろう。

 

「さて、これで村クエなるものは制覇した。これで私も一人前だな?」

 

「ああ、下位クエストはこれで全部だ」

 

「...何?下位?」

 

「これからは、上位クエストだ」

 

「まだ、終わらないというワケか...!」

 

「ああ、だけどなジャンヌ」

 

「む?」

 

ジャンヌの顔を両手で掴んで壁の時計を見せる。

 

時計の針は23時50分を指していた。

 

「もう良い時間だぜ」

 

「おお...本当だ。よし、今日はこの辺にしておくとしよう」

 

「今度やる時は上位に行く前に集会所で俺と下位クエをやるか」

 

「ああ、そうしよう」

 

ジャンヌがセーブをしてゲーム機の電源を切る。

 

そのまま俺の足から退いて歯を磨きに行った。俺もその後を追う。

 

歯を磨きながら、ポニーテイルを揺らすジャンヌを見る。

 

――最近あの三つ編み見てないなぁ。

 

口を濯いで、ベッドに行くとジャンヌは相変わらず俺のベッドに入り込んでいる。

 

「明日の予定は、遠山とアリア、それに私が着いて訓練だ」

 

「おー、やるかぁ」

 

「やる気だな?」

 

「キンジが理論だけだが面白いモノを見せてくれるって言ったからなァ。ちょっと期待してんだ」

 

「そうか、私もお前に何か教えてやろうか?」

 

「例えば?」

 

ジャンヌは俺の質問に答えず、代わりに体を起こして俺の体の上に跨り、しな垂れかかってくる。

 

そのまま、顔を俺に向ける。目が合う。深くて蒼いサファイアの瞳に俺が映る。掠れるような声でジャンヌは顔を朱に染めて静かに言った。

 

「......私の味を、教えてやろう」

 

その言葉にドキリとする。心臓がドクンと一際強く唸る。顔が熱くなる。

 

静かな夜の雰囲気が、ジャンヌの色気をより強くしている様に思えてならない。

 

さっきまでゲームに一喜一憂していた少女のものとは思えない程の、色香にあてられる。

 

能力を使った覚えなど無いのに、音が消えていく。

 

視界に映るのは、銀の髪と蒼い瞳。そして、瑞々しい唇。そこから吐息が漏れるのを感じて、血潮が熱く滾るのを感じる。

 

目を反らすことが出来ない。まるで魔法でも掛けられたみたいに、首を、目線を。動かすことが出来ない。

 

世界が止まったみたいに、風の音も、感覚もしない。音は空気を揺らすことを忘却してしまったんじゃないかとさえ思う。

 

息を継ぐことさえ忘れて、彼女を見ていた。

 

白い雪の様な、華奢な造りの手は俺の顔をホールドして離さない。

 

蒼い瞳を持つジャンヌが、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 

そのまま、顔はゆっくりと近づいて、少し傾いて――――

 

 

 

 

「ん...」

 

「――――」

 

 

 

 

俺の唇と、重なった。

 

 

静かに、重なった。

 

その事実を、脳が受け止め始める。理解していく。

 

半開きになった口から、ジャンヌの息が流れ込んでくる。

 

ミントの香りがする。脳がビリビリと電気でも受けたかのように震える。

 

人工呼吸のようなキス。

 

ゆっくりと、ジャンヌの息が流れ込んできて、体が痺れ熱を持ち始める。

 

そこにあるという事を確かめたくて、自由になった両腕をぎこちなく動かして...何度か宙を切って、ようやくジャンヌを抱きしめることが出来た。銀の髪を撫でると、スッと抵抗なく梳くことが出来る。

 

さわれる。ジャンヌは、此処にいる。確かめるように、強く抱きしめる。

 

少し息苦しくなってくるが互いが互いの唇の感触を確かめ合うようにして、決して離れない。

 

 

 

 

数十秒、1分...時間が分からなくなる程の、キス。

 

 

 

 

 

舌を絡めることもない、触れ合うようなキス。

 

 

 

それだけで、俺の体、その血潮は溶けた鉄でも流れているんじゃないかと思うような高熱を発し始めた。

 

 

どちらからというわけでも無く、自然と唇が離れる。

 

 

「...はぁ...っ...ん...」

 

 

 

ジャンヌの顔は赤く、浅い呼吸を何度も繰り返している。

 

 

 

月の明りが、ジャンヌの潤んだ蒼い瞳を見せてくれる。

 

それを見て...今度は俺から、ジャンヌを引き寄せた。

 

ジャンヌもこれから何をするのか理解した様で抗うことなく、身を委ねて目を閉じる。

 

2人の距離が近付き、ゼロになる。

 

 

 

 

そのまま、俺たちはもう一度――――キスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

月の静かな光が、部屋を照らしている。

 

 

 

 

 

夜は、まだ明けない。

 

 

静かに、過ぎていく。

 

 

 

時折響く、粘着質な音だけがこの部屋を包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてのキスは、ミントの香りだった。




ジャンヌの魅力が、表現し切れない...

これほど悔しいことはありません...!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。