人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべー夏休みは始まった

 

7月7日...夏休み初日。

 

俺とジャンヌは朝から部屋に籠ってひたすら一般科目の課題をやっていた。

 

ここが分からんだの、これが無理だのとジャンヌを頼ると、分かりやすい説明を付けて解き方を教えてくれた。

 

答えじゃなくて解き方を教えてくれる辺りがジャンヌらしいと思う。

 

そして、夕方――16時30分くらいまで課題をやって、続きを明日に回すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして少し暇になった辺りで、俺はジャンヌに声を掛けた。

 

「なぁ、ジャンヌ。祭りに行かないか」

 

「何?祭りだと」

 

「ああ、今日は七夕でな...上野の方で祭りがあるらしいから、行こうぜ」

 

「なら、すぐに着替えてくる」

 

「おー俺ぁアシを引っ張ってくるぜ」

 

「アシ?」

 

「見てのお楽しみだ」

 

そう言って寮から飛び出して、加速しながら車両科の格納庫へ向かう。

 

ギュンギュン加速していき、すぐに車両科へ着いた。

 

格納庫の方へ入っていくと、何名かの生徒が作業着を着込んで整備をしたり改造を施したりしているのが見える。

 

入ってきた俺に気付いたのか、1人の女子生徒が近付いてきた。

 

「あ、冴島くん、こんにちは」

 

「ああ、どうも...VMAX取りに来たんだけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、夜中も空けておくから...あ、これシャッターの鍵ね。帰ってきたら仕舞って、閉めておいて」

 

「悪ィな」

 

「ううん、夏休みだもん。走りたいよねー暑いし」

 

「だな...じゃ、急いでるから」

 

ヘルメットを2つ引っ張って、片方を被ってもう片方をケースに放り込む。

 

車両科の女子生徒がシャッターを開けてくれる。

 

エンジンを掛けて、女子生徒にお礼を言って出ていく。

 

男子寮の前まで来ると、着替え終わったジャンヌが待っていた。

 

「それが、アシか」

 

「ああ。いいだろ?」

 

「ふむ...デニムを履いてきて正解だったな」

 

ジャンヌは白いシャツの上に黒いジャケットを羽織り、濃い藍色のデニムを明るい茶色系のベルトで留めている。靴はヒールのやや高い物を履いていた。

 

小物入れはベルトに似た色のポーチを持っていて、それがいい具合に映える。

 

髪をポニーテイルのように一カ所で結って、ビジュー付きのバレッタで華やかさを演出している。

 

「似合うなぁ」

 

「当然だろう」

 

フフン、とジャンヌが胸を張る。かわいい。

 

「じゃ、乗れよ」

 

ジャンヌにヘルメットを渡して、着けさせる。

 

乗ったことを確認してからアクセルを吹かして走り出す。

 

風を切る感触を味わいながら、上野駅に着く。公園近くの二輪駐輪場にバイクを止めて、降りる。

 

そのまま緋川神社までジャンヌを連れて歩く。

 

神社に近付くに連れて人が多くなっていくので、手を繋いで逸れないようにする。

 

ベタだけど、やってみたかったんだよな。

 

道行く人々がジャンヌを見て、通りすぎて振り返る。

 

ジャンヌが「何故見られているのか分からない」と言うが「銀髪は目立つだろ、白人だし」と言うと納得してくれた。

 

ジャンヌと一緒にわたあめの屋台へ行き、わたあめを買う。

 

「理子から話には聞いていたが...こんな物があるとはな」

 

ジャンヌは甘い、甘いと言いながらわたあめを少しずつ確実に処理している。

 

俺はタコ焼きや焼きそばも買おうかと考えたがジャンヌが夕飯を作ると言ったので買わず、鈴焼を買った。

 

ジャンヌはクレープを買ってご満悦だ。

 

ジャンヌと鈴焼やクレープを摘みながら歩いていると、御輿が通るという話を聞いたのでジャンヌと一緒に端へ寄る。

 

「何が始まるんだ?」

 

「ま、見てろって」

 

ほんの少し待っていると、遠くからせいや!そいや!と大声を上げながら御輿がやってくる。

 

大勢に囲まれた御輿がかなりの速度で通り過ぎていく。観衆はそれを見て大いに盛り上がっていた。

 

「な、なんだアレは...チャリオットか!?それとも、形は違えど戦象のような何かか!?」

 

ジャンヌがアワワと顔を青くして持っていたクレープを落としかけながら俺の肩を揺すっている。

 

チャリオットとか戦象って何時代だよと思い、苦笑を漏らしてジャンヌの疑問に答える。

 

「違う違う。ありゃ御輿だよ、ジャンヌ。昔は、神様が乗る物として作られたんだ。神様はアレに乗って風を感じてたのさ」

 

「日本の神は多いと聞くが、こうアクティブな神もいるのだな...」

 

「そりゃ米粒1つにも神様が宿る国だからな」

 

「さすが黄金郷だな」

 

「それ今関係あるか?」

 

そんな話をしながらブラリと辺りを散歩して、ふと腕時計を見ると針は18時30分を指していた。

 

「そろそろ、帰るか?」

 

「ああ、楽しかった。異国の祭りをこうして肌で感じる日が来るとは思いもしなかった」

 

「そりゃ、良かった」

 

ジャンヌの手を引いて、駐車場まで戻ってくる。

 

駐車料金を払ってロックを解除する。エンジンを掛けて、ジャンヌがしっかりと乗ってヘルメットを被ったのを確認してから出発する。

 

学園島にはすぐに帰ってこれた。やっぱりこっち行きの道は空いてるな。

 

ジャンヌを降ろして、バイクを車両科の格納庫へ仕舞って、カバーを被せてシャッターを閉めて、鍵を掛ける。

 

「あ、もう帰ってきたんだ」

 

「ああ、意外と早く着いたんでな」

 

「ふーん、どうだった?」

 

「え?」

 

「しっかり走ってこれた?」

 

「ああ、勿論だぜ。はい鍵」

 

「良かったね。また、乗りたくなったら誰かに声掛けてね」

 

「あいよ」

 

そうして、VMAXを取り出す時に出会った車両科の女子生徒と会話をして適当な所で打ち切って帰る。

 

 

 

 

 

 

 

寮に帰るとジャンヌが夕食を作り始めていた。

 

「ただいま」

 

と言うとジャンヌがスリッパの音をパタパタを鳴らしながらひょっこりと顔を出して、言った。

 

「おかえりなさい」

 

もはやいつも通り。お約束の流れになった挨拶をして、ジャンヌは再びキッチンへと戻っていく。

 

俺はリビングに向かい、テーブルの上にある夕刊を拾ってからソファに座り、テレビを点けた。

 

テレビでは夜のニュース番組が淡々と今日起きた出来事を纏めて流し続けている。

 

夕刊をパラパラと捲って世間の注目しているものが何かを読む。

 

ゆっくりとした時間が流れていく。

 

素晴らしい。誰にも邪魔されない、居心地の良い空間だ。

 

それからだいたい1時間ほど経っただろうか。夜のニュースは終わり、バラエティ番組で芸人たちがあれやこれやとネタを振っているのを見て笑っているとキッチンの方から声が掛かった。

 

「隼人、夕食が出来たぞ」

 

「ああ、今いくよ」

 

そう言ってソファから立ち上がって、ダイニングの方へ向かう。

 

席に着いて、ジャンヌが料理を運んでくる。

 

鶏もも肉のグリルやキッシュが運ばれて、付け合わせで茹でたブロッコリーとニンジン

、ほうれん草のソテーが置かれる。

 

そこにバゲットとオニオンスープがやってくる。

 

「簡単に作ってみたが、合うだろうか」

 

「簡単?これが?冗談キツいぜ」

 

「いや...茹でて、焼いただけだぞ?」

 

「それでも美味そうだからいいんだよ!ほら、頂きます!」

 

「ふふ、そう慌てるな...頂きます。この日本の、頂きますというのは...良い文化だな」

 

「ああ...俺たち日本人にとっちゃ、当たり前のことだけどな」

 

そこからは口数も少なくなり、料理を頬張り続ける。

 

食い方が汚いとジャンヌに苦笑されたが美味い物は美味いんだから仕方ないと思う。

 

ゆったりとした時間が流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

夕食にたっぷりと時間を使い、食事を終えてソファに戻る。

 

ジャンヌはキッチンで洗い物をしている。

 

またテレビを見ていると、携帯が震えた。

 

携帯を開けて確認すると、メールが届いている。

 

送信者の名前を確認すると、キンジからだった。

 

メールを開けて中を見る。

 

『アリアと、一応仲直りできた。カナの話も、ちゃんとした。もう大丈夫だと思う』

 

その文面を見て、胃が解放される感覚を味わった。

 

しばらく胃薬に頼る必要は無さそうでホッとする。

 

返信用の画面を開き、文章を入力し始める。

 

『そうか、よかったな!これからはもっと仲良くやってくれよな?』

 

と打って送信する。

 

携帯を閉じて、天井を見上げて息を吐く。

 

「隼人。はい、どうぞ」

 

ジャンヌがいつの間にか洗い物を終えて、近くまで来ていたのかカフェオレの入ったカップを渡してくる。

 

「ありがとう、ジャンヌ」

 

「気にするな」

 

ジャンヌは俺の隣に座って、カフェオレを飲みながらテレビを見ている。

 

グッとカップを傾けて、カフェオレを飲む。

 

やっぱり甘い。俺の好きな、優しい甘さがある。

 

「何時飲んでも、美味いな」

 

「たかがカフェオレ1つで、大袈裟だな」

 

そう言いながらもジャンヌの口元は誇らしげに笑っている。

 

俺はそれを横目で見ながら薄く笑う。あ、そうだ...明日って何するんだっけか。

 

「明日の予定は、なんだっけか」

 

「ん...午前中に課題をやって、午後はゲーム機を買いに行く。私に色々と買ってくれるのだろう?」

 

そうだった。何時ぞやの時、ジャンヌにゲーム機を買う話をしていたのを思い出した。

 

「あー、そうだったな。よし...明日のことも分かったし、寝るか」

 

2人してカフェオレを飲み干して流し台に置いて、水を張る。

 

そのまま2人で洗面台へ向かい、歯を磨いて寝る。

 

今日のジャンヌは...やっぱり、俺の布団か。

 

「なぁジャンヌ、なんで最近ずっと俺の布団で寝るんだよ...暑くねーのか?」

 

「ん...人肌が恋しくなることもある。今の季節は有り得ないがな。簡単に言えば私はお前と寝たいのだ」

 

「...オメーそれ、誤解されるぞ」

 

「私は...別に、どちらの意味でもいいんだぞ?」

 

「なっ...あ...っ!?」

 

ジャンヌがサラリと言った発言に、赤面する。

 

「ふふふ...さぁ来い。一緒に、寝よう?」

 

ジャンヌが挑発的な笑みを浮かべて、布団に入り込んでいる。

 

そのままぽん、ぽん、と空いているスペースを手で叩く。

 

俺は顔を赤くしたまま、空いたスペースへと体を押し込んで、ジャンヌと布団を共有する。

 

「むぅ...まだ、耐えるか」

 

と、ジャンヌが小声で何か言っているがそれも無視して目を閉じる。

 

「俺ぁもう寝る...おやすみ、ジャンヌ」

 

「ああ。おやすみ、隼人」

 

ゆっくり、ゆっくりと睡魔がやってくる。

 

そして、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もどかしくて、やべー...


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