人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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帰ってきたやべー日常

 

ブラドを逮捕してからすぐ、俺たちは教務科で窃盗を働いたことをメールで報告した。

 

これで俺たちも前科一犯かと思ったが黙認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

特にケガらしいケガもしてなかった俺は矢常呂先生の所で一応見てもらい、問題なしと言われたので寮に帰ってきた。

 

もう辺りは薄暗く、帰る足取りは疲労と相まって重たいものであった。

 

自室の前まで行って、カードキーで鍵を開ける。

 

2週間だ。2週間ぶりに我が家に帰ってこれた。

 

ガチャンとドアを開けて、中に入る。

 

室内は明るく、キッチンでは料理をしているのか包丁がまな板を叩く音が聞こえ、食欲を煽る良い匂いが鼻を抜ける。

 

「ただいま」

 

そう言って靴を脱いで上がる。

 

キッチンの方で音が止まり、代わりにパタパタとスリッパで駆けてくる音が聞こえる。

 

ひょこりと顔を出したのはエプロン姿のジャンヌだった。

 

2週間ぶりにジャンヌを見た。いつもと変わらなかった。

 

「おかえりなさい」

 

ジャンヌはそう言って笑いかけてくる。帰ってきた。帰ってきたんだ...。

 

「すぐに食事を用意するから、待っていろ」

 

「いや...」

 

「む?」

 

ジャンヌがキッチンの方へ戻ろうとするが、手を掴んで止める。

 

「少しの、間でいい...」

 

「...なるほど。わかった」

 

俺が全部を言い終える前に、ジャンヌは何かを悟ったようで、俺に膝をつくように言った。

 

言われたままリビングで膝をつくとジャンヌが頭を抱きしめてくれた。

 

少し困惑するが、言葉を話そうとする前にジャンヌが――

 

「ブラドに、遭ったな?」

 

話したかった事を一番最初に言われてドキリとする。

 

心を読まれているみたいで、少し焦る。

 

ジャンヌはそのまま俺を抱きしめ続けてくれる。暖かい...。

 

そのまま暫く無言の時間が続いて、俺が話をしようかなと思ったタイミングでまたジャンヌに先手を取られた。

 

 

 

「――頑張ったのだな」

 

 

――――ああ。

 

ジャンヌが優しい声で抱きしめる力を強めて、労ってくれた。

 

目から涙がジワリと滲み始める。

 

ああ、ああ、ああ...そうだ、大変だったんだよ。あんな...出会ったら逃げろって言われたような化け物に向き合って、対等なフリして戦って。

 

キンジやアリアを尊敬したくらいだ。あの恐怖によく向き合っていられると。よく喧嘩腰になれるなと。

 

涙は次第に大粒になっていき、とめどなく流れ出てくる。

 

「あ、ああ...頑張った、グス...頑張ったんだ...!俺一人じゃなかったから、頑張れたんだ!ヒッグ...でも、でも...アリアがやられて、キンジも吹き飛ばされて!マジで死んだかと思った時!グス、俺は、俺は動けなかった!」

 

ただ、ただ、叫ぶ。

 

「俺は...動けなかったんだ...!俺は、自分が情けない!キンジたちが生きてたと分かるとまた強気になって!意地を張って!...俺は...俺は、無力だった...」

 

あの土壇場において俺は何もできなかった。

 

下らないくらいに見栄と意地だけで切り抜けたんだ。

 

「キンジが生きてるって、アリアが生きてるって知りたくて、下らない事で喧嘩をふっかけた...終わった後の恐怖を打ち消すために利用した...」

 

ジャンヌは静かに聞いてくれる。懺悔にもならない、獣のような慟哭を聞いてくれる。

 

「俺は...最低だ」

 

流れる涙を拭うことすらせず、ただただ自己否定をし続ける。

 

そんな俺をジャンヌは優しく抱き続けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「...ああ」

 

感情の吐露が終わり、しばらくした後。

 

ソファに座った俺たちは静かな時間を過ごしていた。ジャンヌは隣で手を握り続けてくれている。

 

「隼人はさっき、自分を最低だと、恐怖で動けなかったと言ったが...」

 

少し俯いたまま話を聞く。

 

「私は、それでいいと思う」

 

その言葉に、顔を少し上げてジャンヌの方を見る。

 

蒼いサファイアの瞳の中に俺が映る。

 

「人間なんて、そんなモノだ。アリアや遠山とは違う...隼人は、隼人だろう?」

 

ジャンヌが微笑む。俺の手に両手を添えて包み込むようにしている。

 

「だから、その時に抱いた感情を嘘にするんじゃなくて...次に活かすことが、大切だ」

 

次に、活かす。

 

「そんなんで...いいのかな」

 

「大丈夫」

 

「また、動けなく...なるかもしれない」

 

「隼人なら出来る」

 

「俺は強い人間じゃない...身体的に、とかじゃなくて、精神的に弱い...んだと、思う...」

 

「分かってる。隼人はどうしようもなく独りが怖くて、孤独が嫌いで、平気なフリをしていつも誰かと居ようとする事も、心の底で色々と押さえながら頑張ってるのを私が知ってる」

 

「...次は...頑張れるかな」

 

ジャンヌが理解してくれている。それが、分かった。

 

それだけで、少しだけ立ち上がれる。後ろから背中を押された感覚になる。

 

――あとは、俺が、俺の意思で――進むだけ。

 

「出来るさ」

 

俺の一番近い所にいる大切な人が、俺を認めてくれる。俺を理解してくれている。

 

だったら何も、憂うことはない。

 

――落ち込むのは、終わり。

 

「...そっか、そうだな...うっし!落ち込むの終わり!飯にしようぜ!」

 

「そうしよう」

 

俺がニッと笑うとジャンヌも笑う。先に立ち上がって、ジャンヌの手を引く。

 

「ありがとう、ジャンヌ」

 

「私は何もしていないさ」

 

2人の時間は、終わらない。

 

夜は次第に更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだジャンヌ」

 

「うん?どうした」

 

「双子のジャンヌ・ダルクの仇、とったんだ」

 

ジャンヌにその話をするのを忘れていて、寝る前に思い出したように告げる。

 

「...何?」

 

「ジャンヌがくれた、ナイフでさ...ブラドの弱点を、ぶち抜いたんだ」

 

「...本当か?」

 

「ああ、口の中にあった最後の目玉模様を見つけて...あのデュランダルで突き刺した」

 

「そう、か...そうか。......ありがとう。我が宿敵を打ち倒してくれて」

 

ジャンヌが万感の思いを込めたような声で、静かに礼を言う。

 

「ご先祖さま...終わりました...この、極東の地で...150年続いた因縁が...終わり、ました...」

 

ジャンヌが声を震わせながら、話している。

 

「ジャンヌ?泣いてるのか...?」

 

「...今日だけ、借りる」

 

そう言ってジャンヌは二段ベッドの上から降りてきて、目を潤ませながら俺の布団に入り込んでくる。

 

「は、ちょ!おい!」

 

ジャンヌを静止させようとするが時すでに遅く、俺の隣に入り込んだジャンヌはそのまま俺の胸に顔を埋めて寝てしまった。

 

どうしようもないので、このまま寝ることにする。

 

それにほら、こういうのって役得じゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。教室にて。

 

「うぼぁー...」

 

「どうした隼人、ゾンビみたいな声だしうぉわぁ!?」

 

キンジが俺の顔を見て驚く。

 

「全っ然...寝れなかった」

 

「何か...あったのか?」

 

キンジが心配そうにこっちを見つめている。

 

「キンジ...」

 

「ど、どうした」

 

「女の子って、良い匂いなんだな...シャンプーとかさ...すげぇなって」

 

「どうした大丈夫か!ハニートラップにでもやられたのか!」

 

キンジがガックガクと肩を掴んで揺らし始める。

 

あ、まって。今それやられると意識が...

 

「キンジ...気を、付けろ...ジャンヌの...寝顔...かわい、い...ガクッ」

 

そこで目を瞑る。

 

「隼人ぉおおおおおおお!!!!」

 

「何漫才してんのよアンタたちは」

 

キンジが俺の名を叫ぶ。アリアがそれをちょっと離れた所から見ていて、呆れたような声でツッコミを入れてくる。

 

それからすぐに理子が教室に入ってきて俺たちの顔色は赤くなったり苦い表情になったり目まぐるしく変わることになる。

 

 

 

 

 

いつも通り?の日常が帰ってきて、ようやく落ち着ける。

 

梅雨の時期も終わって夏がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちのやべー日常は始まったばかりだ。

 

 

                                ブラド編おわり


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