人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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ブラドとやべーバトル!

理子が、助けを求めた。だから助ける。

 

一時的にとは言え...俺たちは信用しあって、助け合った仲間なんだから。

 

助けたいって想ってるこの気持ちは間違いなんかじゃない。独善的でも、偽善でも、たとえ悪であったとしても。

 

俺がこの場において、抱いた感情は全て俺が感じた物なんだ。

 

だから、その気持ちを嘘にしたくない。

 

だから、伝説の怪物でも。

 

だから、ジャンヌに逃げろって言われていても。

 

俺は、俺たちは立ち向かう。

 

体の内側から溢れてくる熱は、その濃さと熱量を増し続けている。

 

「まずは理子の救出が最優先よ。キンジ!狼は任せるわっ!ハヤト!一緒に来なさい!」

 

アリアが甲高いアニメ声で叫び、突っ込む。

 

それを見たブラドの忠犬2匹がアリアを食い殺そうと牙を剥き出しにして飛び掛かろうとした。

 

「ゴメンよ」

 

ガン!ガン!

 

キンジが犬に謝りながら1発ずつ撃つ。外れたかと思ったが犬たちはその場にずしゃあ、と崩れ落ちる。

 

俺はアリアを追いかけながら自分の後方――1mあたりの地面にフックショットを射出して突き刺す。

 

キュバシュッッ!

 

モーターで一瞬加速した音がした後、すぐに点火して勢いよくフックが吐き出され、地面にガキャンッ!と派手な音を立ててめり込む。

 

それを確認してから顔を前へ向けてアリアの先、ブラドを睨む。

 

アリアの真後ろへ着き、アリアは一瞬手で右側を示した。

 

そのサインを見て、アリアと同じ右側へ飛び込む。

 

視線をこっちに集中させて、理子のことはキンジに任せるのだろう。

 

ガガガガガガガン!! ガゥン!!ガガゥン!!

 

アリアが2丁のガバメントからマズルフラッシュを切らすことなく光らせ、俺もXVRで射撃する。

 

「――そんな豆じゃあ、鬼退治はできねぇぞ」

 

ブラドはその銃弾の雨を浴びて、ニヤリと笑う。

 

――やっぱ目玉模様をやらなきゃ...ダメか。

 

45口径に46口径だぞ、可笑しいだろうと思いながらも頭は冷えていくばかりだ。

 

ブラドが銃弾を受けた場所からは赤い煙が上がり、傷口が塞がっていく。

 

その時、キンジが左側面へ回り込みバタフライナイフを使ってブラドの左手...理子を掴んでいる手の手首をザキシュ!と突き刺した。

 

「小夜鳴先生は色々教えてくれたが――俺も教えてやるよ、ブラド」

 

ザクッ!ザシュッ!と2度、刺して抉るように斬りつける。

 

ブラドの手から力が抜けていき、理子が落ちた。

 

「正しい女性の抱き方は、こうだ」

 

「...お!?」

 

キンジが理子を抱き寄せて、お姫様抱っこの体勢でブラドから離れる。

 

それを見た俺は、アリアを呼ぶ。

 

「来い!アリア!」

 

アリアは目線と銃口をブラドに向けたまま、器用に俺の膝に両足を乗せる。

 

それを確認して、左手でアームフックショットの肘側のボタンを操作してワイヤーを巻き上げる。

 

モーターの力で、グングンと巻かれていく。だが、フック部分は刺さったまま抜けず、ピンと糸を張っている。それを確認して、体を浮かせる。

 

アリアは器用にバランスをとっており、落ちる心配もなさそうだ。

 

ギャリリリリリリィィィ!!!!

 

と、耳障りの音を立てながら浮いた体が引き寄せられる。

 

そのまますぐに、フックを突き刺した場所まで戻ってくる。

 

アリアはキンジの傍まで来たことを確認して俺から飛び降りた。

 

俺は地面に右手が着いた感触を受けてワイヤーを切るボタンを押す。

 

ピッと簡易的な電子音が鳴り、ワイヤーは切れた。

 

そのまま右手を軸に、後転して体勢を立て直し立ち上がる。

 

その間にマガジンから次のフックが装填され、ワイヤーに接続される。

 

レッドランプからグリーンランプへ点滅が切り替わり、次の射出が可能になる。

 

「さっきの話、よくわかんなかったけどね!理子!あたしを騙したいなら騙す、使いたいなら使うで...コソドロなんかじゃなくて!こういう戦闘に使いなさいよ!」

 

――あ、怒る所そこなんだ。

 

「それとブラド!アンタはあたしのコトをガキって言ったわ。あたしはもう16歳よ!その言葉は侮辱と受け取るわ!」

 

「人間なんざどれもこれもガキだろう。800年生きてるオレからしたらな」

 

「またガキって言った!もう許さない!アンタもルーマニアの貴族だったなら分かるでしょう!これからどうなるか!」

 

アリアが犬歯を剥き出しにして怒りの感情を迸らせている。

 

「どうしようってんだ。これからオレを、このオレを!どうしようってんだぁ!」

 

「決まってるでしょ、逮捕よ。アンタの冤罪99年分はしっかり証言してもらうんだから」

 

「タイホ?タイホだと?ゲゥバババババババ!!!オレをタイホと来たかホームズ家の娘よ!」

 

「アンタが一番正体不明でやり辛かった。けど、警戒もせずにあたしの前に姿を見せた。覚悟しなさい!」

 

ブラドは笑いに笑い、少々呆れた表情と声色でアリアを見て話し始める。

 

その金の双眸を前に、アリアは一歩も退かない。

 

――やっぱアリアって、強ぇんだなぁ...

 

「吸血鬼と人間は、捕食者と餌の関係だ。狼が鼠を警戒するワケないだろう」

 

「無駄に長生きしてる癖に知識はないのね。鼠にも毒を持ったものがいるわ」

 

アリアはブラドと会話しつつ、キンジに指信号を送る。

 

それを見たキンジは理子をヘリポートの陰――階段の下に隠しに行った。

 

「生意気なガキほど......串刺しにすると、いいツラになるんだよなァ」

 

アリアはそれを聞くまでもなく、キンジたちからブラドを遠ざけるように突っ込んでいく。

 

俺はそれを見てフォローに入る。

 

アリアが周囲を回りつつ、ブラドに射撃を加える。俺は一カ所に留まってXVRを構え2発撃つ。

 

ガガゥン!!

 

シリンダー内の残弾0。すぐにリロードをして、位置を変える。

 

アリアがブラドに掴まれそうになる度に掴まれないだろうと分かってはいるが伸ばした腕を撃ち抜いて妨害する。

 

「おいおい冴島ァ、あまり邪魔はしないでほしい...お前をうっかり殺したら俺たちは一生悔やみ続けるハメになりそうだ」

 

ブラドが動きを止めて金の目で俺を睨む。

 

「大人しく逮捕されるなら、血液くらいやるよ」

 

「なら奪った方が速いな」

 

「そうか、よ!」

 

ブラドは悩む素振りさえ見せずに俺に手を伸ばしてくる。それを回避する。

 

バックステップ、バックステップ、バック転、スウェー、側転、バックステップ。

 

距離と位置を調整して、アリアの反対側に回る。

 

ヘリポートの上、縁のギリギリで止まってブラドに銃口を向ける。

 

そこにキンジが合流した。

 

ブラドは3人揃ったのを見てニヤリと笑い、電波塔の方へと歩いて行く。

 

その隙にキンジたちと距離を詰めて、リロードをして目玉模様の話をアリアにすることにした。

 

「アリア、ブラドには弱点が4か所ある。あの目玉模様だ。4か所を同時に攻撃すれば奴を斃せる。イ・ウーのナンバー1はそうやって奴を従えたらしい」

 

「ど、どこで聞いたのよ...そんな話」

 

ジャンヌの事を話そうかとも思ったがそれよりも速くキンジがアリアの両肩を掴んで向き合う形にする。

 

「武偵憲章1条。仲間を信じ、仲間を助けよ」

 

「わ、分かってるわよ。そ、そんなに近くから見ないで」

 

アリアは赤面しながらもコクコクと頷く。

 

――以前の俺ならここで涙を流していたんだろうが、今の俺は違う。

 

「ハヤト、なんで泣いてるのよ!」

 

「え、まだダメなのか!?」

 

――ダメだったみたいです。

 

両の目から零れたのは、涙。くぅ...

 

「グス、しかし3つしか見えんな...グスン。4か所目は、どこだ?」

 

「戦いながら探すしかないな...全く、俺も悪いとは思うが締まらないな」

 

「うるせー、俺だってビックリしてんだ」

 

「キンジ、残念だけどあたしはあと1発しかないわ」

 

アリアが苦々しい表情でそう言う。

 

「隼人は、どうだ」

 

「ラスト1発」

 

「3丁...足りない、か」

 

「どうする、キンジ」

 

「俺が脇腹と第4の目をなんとかする...それでいこう」

 

「分かったわ。『撃て』って合図をして。それで撃つわ」

 

アリアはそう言いながら二本の刀を抜く。

 

そのタイミングでバキン!と音がした。

 

音の方向を見ると、ブラドが通信用のアンテナをむしり取っていた。

 

ブラドはそのアンテナを地面に降ろす。

 

ゴズン、と音がして振動がこっちにまで伝わってくる。

 

5mはありそうな長さに、重さは数トンはあるだろうアンテナ。

 

正しく鬼に金棒。

 

「串刺しは久しぶりだな...作戦はたったか?なんでもいいぞ、好きな物を持って来い」

 

オレには銀もニンニクも効かねぇからよ、とブラドは続けた。

 

「ホームズ家の人間はパートナーが居ると厄介だと聞いたんでな...まずは遠山キンジ、お前からだ」

 

ブラドの金色の瞳がキンジを捉える。

 

「ワラキアの魔笛に酔え」

 

ブラドが体を反らして息を吸い始める。胸部が膨らんでいく。

 

風船みたいに、どんどん膨れ上がっていく。

 

そして―――

 

 

ビャアアアアアアアアアアウヴィイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!!

 

化け物の咆哮が、空間を揺らす。

 

太陽を覆い隠していた雲の一部が、音によって弾け、掻き消される。

 

目を必死に閉じて、鼓膜を覆う。制服がバタバタと音で揺れているのが分かる。

 

音の攻撃が、防弾ジャケットをすり抜けて内側から攻撃してくる。

 

内臓に直接響き、血管が揺れ、脳がグラグラと震える。

 

必死に耐えて、耐えて。

 

嵐のような咆哮が、終わった。

 

「ド、ドラキュラが吠えるなんて――聞いてないわよ!」

 

アリアは尻餅をついていたがすぐに体を起こす。

 

キンジは、少し呆けている。

 

ブラドはそんなキンジを見てニヤリと笑っている。

 

――キンジに、何かしたのか!

 

急いでキンジをカバーしようとするが、XVRの残弾は1発。どうにもならない。

 

「キンジ!逃げろ!」

 

声を上げて叫ぶがキンジの耳には届いていない。

 

ブラドはその巨体を迷うことなく前へ、キンジの方へと進めている。

 

そして、アンテナを持ち上げて――振るう直前。

 

揺れる視界でそれを捉える。脳はさっきの咆哮で完全に草臥れ、体は悲鳴を上げているが、それを無視して能力を使って加速する。

 

視界に映るものは全て遅くなり俺だけが何時もの様に動ける空間になる。

 

素早くフックショットを真下、ヘリポートの床へ向けて射出し突き刺さった事を確認して――そのままワイヤーを伸ばしながら移動する。

 

ブラドの前まで全力で走り、跳躍してブラドの腕に乗る。

 

そのままアンテナの方へ向けて走り、再び跳躍をしてアンテナを飛び越える。

 

五点着地をしてすぐに立ち上がり、アンテナの下を潜ってまたブラドの方へ走っていく。

 

そして、再び跳躍、アンテナを飛び越えてさっき張ったワイヤーの隙間に体をねじ込んで抜ける。

 

抜けきった瞬間、ワイヤーを全力で巻き上げて締める。

 

弛んでいたワイヤーは急激に巻かれてピンと張る。巻き上げ切ったのを確認して、ワイヤーを焼き切る。

 

ヘリポートの床で固定されたフックから伸びるワイヤーはアンテナを独楽結びにしてきつく締め上げられている。

 

もう1つ手を打とうとしたがこんな所で完全に消耗するわけにもいかず、加速を終了する。

 

 

 

キャリキリリリ!!!!!!!

 

「む...お、お?」

 

ブラドが降り下そうと力を籠めるが逆にやや後ろに引かれ困惑する。

 

今のうちにキンジが逃げてくれているといいんだが!

 

だが、アンテナの拘束...それも一瞬のことで。

 

「は、小細工ばかりでは勝てんぞ」

 

ブラドは両腕でアンテナを持ち、思いっきり力を籠め始めた。

 

 

キャリリ...ギチッ......ブ、チィッ!

 

音を立てて、ワイヤーが引き千切れた。

 

そのまま、ブラドは野球選手のようにアンテナを振るう。

 

キンジは、まだ逃げていない。

 

「もう殺傷圏内よバカ!何やってるの!」

 

アリアがキンジに足払いをしかけ、自身は二本の刀でアンテナを受け止めている。

 

ギィイイイイインッ!!!と金属同士のぶつかる音がして、アリアが吹き飛ばされた。

 

ヘリポートからアリアが転がって落ちていく。

 

なんとか助けようと足を運ばせるが、上手く走れずに転倒する。

 

――ぐ、くぅ...

 

視界がぐにゃりと歪む。

 

しっかりしろ、立て。立ち上がれ!ブラドはいるんだ、まだいるんだ!と言い聞かせて立ち上がる。

 

足元が覚束ない。

 

キンジの方を見ると、キンジもアンテナが掠ったのか吹き飛ばされていた。

 

 

 

グルングルンと回転して、屋上の縁から飛び出た。飛び出てしまった。

 

 

 

「キンジ、ワイヤーを!」

 

張れ、と言う間もなくキンジの姿が見えなくなる。落ちた。あっという間もなく、落ちていった。

 

 

 

それを目の当たりにした俺は、絶望する。

 

 

 

 

 

 

きっとあれじゃ、間に合わない。キンジが――死んだ。

 

 

 

 

 

アリアも、無事じゃ済まないはずだ。

 

 

 

 

 

この場に残っているのは、俺だけ。

 

 

 

 

残弾数1発、奴に打撃は通用しない。

 

勝てない。

 

勝てない。

 

無理だ。

 

―――ああ、無理だ。

 

心が折れる。ようやく立ち上がった体から力が抜けて、膝から崩れ落ちる。

 

 

 

 

燃え上がっていた闘志の炎は誰にも消せない大火事なんかじゃなくて...ロウソク1本が静かに燃えている程度のモノでしかなかったんだろう。

 

まだ持ち直しきれていない、歪んだ視界が俺の方に歩いてくるブラドを捉える。

 

――逃げろ。逃げるんだ。

 

体が動かない。拘束されたかのようにピクリともしない。

 

「...いいなァ、良い...良いツラだ。その絶望したツラが、堪らなく、イイ...!」

 

ブラドが俺を見て嗤う。

 

「お前を傷付けることなく持ち帰れるのは、幸運だなァ」

 

ブラドが再び、ゲタゲタと大声で...気持ちの悪い声で笑う。

 

 

 

 

 

 

 

その時。本当に一瞬だった。

 

 

 

 

ブラドが突き破った暗雲から、太陽の光が俺とブラドを照らす。

 

ブラドは太陽光も克服しているのか焼けるような気配はない。

 

だが、そんなことよりも、もっと重要な物が見えた。

 

 

 

ブラドが笑って顔を上にあげた一瞬。

 

口の中に、それはあった。

 

 

 

――目玉、模様...

 

 

 

4か所目の目玉模様が、見つかった。

 

でも、もう遅い。

 

俺しかいない。その絶望感だけが、ほんの僅かな希望すら蝕んでいく。

 

俺の絶望とは裏腹に、どんどんと空は晴れていく。太陽が俺を照らしている。

 

 

 

太陽の光が見える。でも、もう...無理だ。

 

 

 

顔を下げて、あきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハヤト!武偵憲章10条!」

 

 

 

甲高いアニメ声が、響いた。

 

 

 

ハッと顔を上げると、ヘリポートへ体を乗り上げて刀を持ってブラドの足目掛けて駆け抜けているアリアが映った。

 

 

 

――武偵憲章10条...諦めるな、武偵は決して諦めるな。

 

何度目かの折れた心に再び火を灯す。

 

アリアが、ブラドを引きつけて俺から遠ざかっていく。

 

足に力を入れて立ち上がる。

 

ブラドがアリアに引きつけられ、ビルの縁へ誘い込まれた。

 

「どうした、冴島はもう折れているようだが...ホームズはまだ続けるのかァ?ゲゥバババババババッ!!!!」

 

ブラドはそんなことを言ってくる。確かに、さっきまでの俺ならダメだった。

 

――アリアが、いる。

 

1人じゃない。まだ、立ち上がって戦ってくれる仲間がいる。

 

――闘志が沸いてきた。

 

体から再び、この身を焼かんばかりの熱と力の奔流が駆け抜ける。

 

ブラドの笑い声が響き渡る。

 

そんな時に、声が聞こえた。

 

 

 

「撃て!」

 

 

 

その声は、屋上から落ちたキンジの声だった。

 

 

キンジは理子と一緒に着陸して、狙いをつけている。

 

 

―キンジ!生きてるなら、生きてるって言えよコノヤロー!

 

更に熱が溢れ出てくる。これだけの力なら...やれる!

 

 

「キンジ!理子!4か所目は俺がやる!」

 

キンジと理子はそれに素早く対応して、狙いを変更した。

 

アリアが叫びながら、ブラドの右肩を狙う。が、ピカリと稲妻が走った。

 

アリアは稲妻の光と音に驚いて、腕の角度が―――ズレた。

 

もう、修正する時間はない。信じろ、信じて俺のやるべき事をやるんだ。

 

キンジはベレッタを1発撃った。それを音で聞いて走り始める。

 

体が加速を始める。目に見える物全てが減速していく。

 

理子が左肩を正確に撃ち抜くラインに弾丸を乗せている。

 

後は、俺だけ。俺が動くだけ。

 

やるんだ、行くぞ。

 

 

イメージするのは炭酸を振る感覚。イメージした...

 

 

辿り着くべき加速は――――『エルゼロ』。そこに、到達した。

 

 

 

 

銃を撃っても遅すぎる。だから、俺はナイフを抜いた。

 

銃弾さえも遅くなった世界で、キンジが撃った弾丸はアリアが外した弾丸にぶつかり、機動を変えて――右肩と脇腹に刺さる機動へと変わっていく。

 

俺は勢いを更に増してブラドの方へ全力で駆け寄る。

 

3人の撃った弾丸が全て目玉模様の位置に置かれる。

 

ブラドは今の今まで高笑いをしていた...つまり、口が閉じていない。

 

ブラドの眼前まできて、体を思いっきり跳躍させ、両足に全体重を乗せて着地する。

 

 

 

ダン!と衝撃が伝わる。

 

 

 

その衝撃は...スプリングブーツに伝わり、空気圧が解除される。

 

 

 

靴底が上がっていく。グングンと、上がっていく。

 

 

 

そして地面から吹き飛ばされて――思いっきり体が宙に浮きあがった。

 

 

 

――最後の目玉模様。

 

 

 

ブラドよりも高くなった視点から、ブラドの口を見る。

 

そこには、しっかりと目玉模様が描かれていた。

 

 

 

右手に持ったナイフは、ジャンヌから貰った物。

 

 

 

――150年前の因縁...リュパンだけじゃない。

 

そう、リュパンとチームを組んでいた人物たちが居た。

 

 

 

吹き飛ばされた体を空中で立て直して、狙いを一点に定める。

 

――双子のジャンヌ・ダルクも共に戦っていた!

 

 

 

これは、今は形こそ違えど元はジャンヌが持っていた、デュランダルのソレ。

 

その、先端が使われている。

 

 

 

つまり、何が言いたいかというと――

 

 

 

この一撃は、150年前からやってきた刺客。双子のジャンヌ・ダルクから続く悲願を乗せてやってくる。

 

 

 

――ジャンヌ・ダルクの仇は俺が討つ。

 

 

 

 

「デュランダルだああああああああああ!!!」

 

渾身の力を込めて自由落下しながらナイフを突き立てる。

 

ナイフは真っ直ぐに目玉模様に突き刺さり、それと同じタイミングで3つの弾丸が3つの目玉模様に着弾した。

 

 

『エルゼロ』が、終わる。何もかもが戻ってくる。

 

体中をシェイクされる不愉快さと痛みだけが体を覆う。

 

だが、ここで倒れるわけにはいかない。歯を食いしばって耐える。

 

 

 

完全に加速が終わり、元に戻った。

 

 

 

 

「ぐぅ、えあああああっ!!!?」

 

ブラドが驚きの声を上げて、アンテナを振り回し俺を攻撃しようとして失敗した。

 

その期を逃すワケもなく、ナイフを引き抜いて、フックショットを使って10m後方まで撤退する。

 

ブラドは力が抜けたのか、アンテナを地面にガツンと落とす。

 

そのアンテナは斜めに傾いて、ブラドの体に圧し掛かるように倒れていく。

 

ブラドはそれを押し返そうとするが、全く力が籠っておらず押し潰される。

 

「う、ァァアヴ...」

 

ブラドは苦しそうに呻き声をあげて、暴れる。だが、もうどうにもならないだろう。

 

弱点に当たった場所から、血が溢れ出てくる。

 

「哀れだな、ブラド...オメーが何百年も掛けて、手に入れたものがそれか...」

 

全身が痛むが、ブラドに声を掛ける。

 

「サ、冴島ァ゛ア゛...恐怖に...震えて、いた...お前が...なぜ...なぜェ゛...!」

 

「恐怖とは...克服するためにある、なんて立派なことは言えねーけどよォ」

 

「ぐヴ...ヒュー...ヒュー...」

 

「俺は、皆がいたから立ち上がれた」

 

そう言ってキンジたちを見る。そして、再びブラドに視線を戻した。

 

「ブラド...オメーは多すぎる弱点に恐怖して、その恐怖を乗り越える為に生きてきた筈だ」

 

「...!」

 

「1つ、また1つと弱点を...恐怖を克服していくソレは...敵であろうと尊敬に値するものだ」

 

「ヒュー...ヒュー...グ」

 

「えーと、何が言いたいかって言うと...つまりだな...」

 

「い゛や゛...もう、いい...十分......分かった...ァ゛」

 

ブラドは少し笑い、ピィピィと歯を鳴らした。

 

キンジに撃たれた2匹の犬が震える足でブラドに寄り添って、陰を作っている。

 

ブラドを見ると、太陽に焼かれていた。

 

弱点を全てやられたから、ダメになったんだ。

 

「グ、ゲバハハバババ...冴島、お前は...不思議な...ヤツだな...」

 

ブラドが掠れた、か細い声で俺に話しかけてくる。

 

「ん?どーいうことだよ」

 

「敵を...褒めるとは...ましてや、この...オレを褒めるとは...不思議な奴だ...グゲブハハハ...ああ、確かに...そうだった」

 

ブラドは何か懐かしむかのような目で、虚空を見ている。

 

「最初は...恐怖だった。人間が、できる...当たり前が、許されず...勇気を...出して、行えば体に...痛みとして...帰って、きた...」

 

「...」

 

キンジ、アリア、理子が集まってくる。

 

「オレは、自身を傷つけるモノ全てに、恐怖した。そして、その恐怖を前に平然としている人間を見て...『尊敬』したんだ」

 

ブラドの声だけが響く。

 

「だから、オレは尊敬したモノ...人間になろうと、人間の血を吸い始めた。全ては、恐怖を克服するために...始まったものが、何処かで変わった...」

 

「アンタのした行為は、許されることではないわ」

 

アリアがブラドに近付く。

 

「ホームズか...分かっている、オレは...お前たちに敗北した...オレの罪を受け入れよう...。誇るがいい、4世...いや...峰理子...お前は、初代を...超えた」

 

ブラドが敗北を、罪を認めて理子に静かに話をする。

 

ブラドは、理子を認めた。あのブラドの口から初代リュパンを超えたと言われた。

 

理子の表情は、俺からじゃよく分からない。

 

でも、きっと。色々な感情が渦巻いているんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

遠くの方からバラバラとヘリの音が聞こえる。

 

 

 

これにて一件落着かと思っていたが、何やらキンジたちの様子が可笑しい。

 

「さて、理子...アンタこれからどうするの。逃げようっていうなら捕まえるし、ママのこと全部証言させてやる。観念しなさい、双剣双銃をやろうにも武器がない。得意なモノが一切ないと人間、何もできないものよ」

 

アリアはキンジに目配せして、キンジは苦笑しながら唯一の出入り口の前に立った。

 

「神崎・ホームズ・アリア...ホームズ家とリュパン家は宿敵の関係だ...あたしはそれを変えるつもりはない...だが、約束は果たそう」

 

理子はそう言いながらビルの縁まで歩いて行く。

 

「これからは対等なライバルとして見よう。騙しもしないし、利用もしない」

 

理子の髪が歪に蠢いている。風じゃない、何か、もっと別の力で。

 

「バイバイ、ライバルたち。アリア、キンジ、ハヤト...あたし以外の人間にやられたら、許さないよ」

 

――え、俺なんか理子にしたっけ。

 

勝手にライバル認定されたんですけど!!

 

「いやちょっとそういうのはいいかなァーって」

 

「...締まらないなー」

 

俺の発言に、理子が苦笑する。そして、その笑顔のまま――ビルから飛び降りた。

 

「えっちょおおおおお!!?」

 

――何してんだあのバカ!

 

そう思って駆け寄ろうとしたところで、理子が再びビルの縁より高い所に現れる。

 

背中に、パラグライダーを装備して。

 

目線でその動きを追っていくと、凄まじい速度で降下していき港の倉庫街へと消えていった。

 

「やられたな...これで2度目だ」

 

キンジが肩を竦めながらそう言う。それを横目で見て、俺も少し肩の力を抜く。

 

――あ、そうだった。

 

「おいキンジ」

 

「ん?どうした、隼人」

 

キンジが俺の方に振り向くと同時、キンジの顔を殴りつける。

 

「いっでぇ!」

 

「オメーが落ちた時はマジで死んだかと思ったんだぞ!生きてるなら生きてるって言えよ!」

 

「言えるワケないだろうがこのバカ!こっちだって必死だったんだ!」

 

キンジが殴り返してくる。

 

――うぶぇ!へへ、いいの持ってんじゃねぇか!

 

キンジとそのまま殴りあい、掴みあい、ヘリポートの上でゴロゴロと組み合いながらお互いなんて無茶をしたんだ、こんなの二度とやりたくねぇ、などと愚痴をぶつけ合う。

 

アリアが「なんでこんなにも締まらない終わり方になるのよ!」なんて言ってくる。だが「オメーも危ねーコトばっかしやがって」と言って巻き込んでやった。

 

 

その下らない喧嘩は、レスキュー隊員が到着するまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

生きてるって、すごい事だと思う。


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