人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべー進化・深化

 

「いいか、隼人。まずは落ち着いてゆっくりと深呼吸を繰り返せ...そうだ、それでいい。そうしたら次はイメージするんだ」

 

SSRの講義室で眼鏡をかけたジャンヌが俺の超能力の指導をしてくれている。

 

―イメージ...

 

「能力の発現はほぼ完全な形に収まっている。だが、そこからの派生が問題だ。お前の能力の()()()()()()()、加速の対象が多すぎるんだ。身体的加速は勿論、その身体的加速に脳を追いつかせる為の視認情報の加速、更に無意識下とは言え治癒速度の加速。あとお前も知らないだろうし予測だが、薬や毒といった物の効果が現れるまでの速度も速くなる可能性がある」

 

薬の効果や毒まで浸透が速くなるのか...それは盲点だった。

 

「さて、それでは話はここまでにしておこう。集中しろ隼人。お前には今から自分の速さの限界...と、言うよりは人間の限界に挑戦してもらう」

 

ジャンヌが不穏な事を言い出す。

 

「何?人間の限界だと?」

 

「ああそうだ、人間の...お前自身の限界に挑戦するんだ」

 

「俺自身だぁ?」

 

「カリキュラムというものは実現可能性を考慮した物ではなく、生徒たちの平均を取ったもので作られているし、それらを指導する教師たちも平均的な伸び率を基準に指導を行う。それが一番間違えなくて済むからな」

 

「ほー」

 

「だが今から行うのは有象無象の大群を抜粋して取った平均ではなく、お前の自身によるお前自身の為のお前自身の限界への挑戦だ」

 

「...」

 

そう言われて、集中する。俺の為だけの、俺の限界。それを見極めること。

 

「今日の目標は限界を肌で、感触で、感覚で掴めればいいと思っている。私もそれ以上は望んでいない」

 

「分かった、ならすぐにやろう。時間が惜しい」

 

「まずは自分の限界だと思っている所までやってみろ、経験則に基く限界だ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...そして、その経験則に基く限界から、更にもう一歩先...自分のイメージで、自分の限界を超えた自分を想像しろ」

 

「限界を、超えたっ、て!どう、やってぇ!」

 

「お前の経験則がお前の常識になっている。まだ伸びる可能性に蓋をしている」

 

――何、言ってるか!わかんない!

 

「つまりぃ!どう、いうっことぉ!」

 

「最強の自分をイメージしていればいい」

 

「よく、わかんねぇ!」

 

全力で室内を走り回りながらジャンヌの話を聞いてるが結構キツい。

 

「思い込みを捨てろ、まだまだやれると貪欲になれ、強さを渇望しろ、もっと速くなりたいと切実に願って、何も見えない暗闇を我武者羅になって走り続けろ」

 

ジャンヌは簡単に言うが、それが簡単に出来れば苦労はしないだろう。

 

――イメージ、イメージ、イメージ!

 

ダメだ、全然分からねぇ!

 

「欲望を解放しろ、自分の願いを叫んでみろ。筋肉の切れる痛みや、骨が傷つく痛みを押し殺そうとせずに無様に声を上げてみろ。自分の不甲斐無さに、やりきれない思いを胸に仕舞わずに叫んでみろ」

 

「ぐ、く...う、お、あ、あああああ、ああああああああああああああっ!!!!」

 

言われるがままに叫んで、叫んで、走り続けている。

 

――こんなので、本当にはやく...

 

ふと、足が止まった。俺は今、ジャンヌを、ジャンヌの言葉を疑ってしまった。

 

苦々しい表情になるのが分かる。惨めだ。情けない。俺は自分が恋した人の言葉すら信じられないんだと自己嫌悪が駆け抜ける。

 

ジャンヌが怪訝な目で俺を見てくる。

 

――疑うなよ、ジャンヌは今...俺の教師だ。疑うな...信じろ、信じるんだ。

 

目を閉じて、顔を上げる。必要なのはイメージなんだ。

 

ギアチェンジのようなイメージか?いや、それだけじゃ限界を突破できない。

 

何かが足りない。イメージの決め手が足りない。

 

乱れた息を整えようともせずに、イメージを浮かべようとする。だが、纏まらない。

 

――どう、すれば。

 

いや、でもジャンヌも言っていた。1日で得ようとしなくていいと。そう、だから、仕方ないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうする?今日はこれまでにしておくか?」

 

ジャンヌが手に炭酸飲料水を持ってやってくる...シャカシャカと振りながら。

 

「ねぇ待ってジャンヌ」

 

「なんだ」

 

「なんでソレ振ってるの」

 

「炭酸を抜いて効率的にエネルギー補給させるためだ。ああ、冷やしてもいないからな」

 

「えぇ...温くて炭酸も抜けてるヤツなんて飲みたくねぇよ...」

 

「そう言うな、案外クセになるかもしれんぞ」

 

「ないない」

 

ジャンヌが炭酸を振り終えて渡してくる。

 

ジャンヌに掛からないように後ろを向いて、キャップを開ける。

 

ブシャアアッ!!と、勢いよく炭酸が噴き出す。

 

「うへぇ」

 

服の一部にもついて、やや変色している。とりあえず上を脱いで、床に置く。

 

――これだけ溢れるなんて、どんだけ振ったんだよ...

 

溢れる......容器に、収まりきらなかった...?

 

突如、天啓がきた。頭の中に、さっきの炭酸の溢れ出るビジョンが鮮明に映る。

 

ペットボトルという限界に、強い衝撃を与えて自分の本来の力...炭酸を爆発的に増幅させる。

 

そうすると、自分の常識が揺れる。自分の常識という蓋...!キャップ!

 

それが外れれば!限界の突破が、出来る!

 

「――ふぅ...」

 

「どうした、炭酸に濡れて、服を脱ぎ捨てて...なぜ、そんなに真剣な顔をしている」

 

ジャンヌが回り込んできて、少し顔を朱に染めて話しかけてくる。

 

「いや、イメージが出来た」

 

「何?どうやって」

 

「コイツが答えだった」

 

そう言って炭酸を持ち上げて、ジャンヌに見せる。ジャンヌはよく分かってないみたいだったが気にしているヒマはない。今はそれよりも、このイメージを1秒でも早く確かめたかった。

 

何時もと同じように、能力を使う。視認情報の加速も、身体的加速も、一気に100%まで引き上げる。

 

そこから、先。

 

――未知の領域への到達...

 

自分の体の内側が、熱くなってくる。まだだ、まだ、耐えるんだ。

 

目が悲鳴を上げる。痛みを訴え続けてくる。

 

―力の、爆発

 

内側に溢れる力の渦のような物を、思いっきり乱回転させるイメージを作る。

 

痛みが酷くなってくる。だが、痛いからって止めていいワケにはならない。

 

――筋トレだってそうだったろ、痛いから止めてたら、筋肉なんて...

 

「つかねぇええん...だよぉおおおおおっ!!!!!」

 

体の内側に渦巻いていた力が、全身に広がっていく。

 

焼けると錯覚するほどの熱が全てを支配していく。

 

そして、その熱全てが体を覆い尽くした時。

 

 

「...?」

 

特に、変化を感じない。

 

――不発、か?

 

いや、そんなハズはない。確かに一線を越えた感覚があった。

 

XVRを抜いて、一発撃とうとして、壁に掛かっている的に狙いをつける。

 

照準がピタリと合ったので、トリガーを引く。

 

「...あれ?」

 

だが、トリガーを引いてもハンマーが下りない。

 

故障かと思いつつも、何やら嫌な予感がしたので決してそのまま腕を動かさない。

 

俺の能力を一番信じているのは俺だ。だから、何となく分かる。

 

そう、本当に何となく。でも、確信に似たナニカがあった。

 

目を凝らしてハンマーを見ていると、ゆっくりと、ゆっくりとハンマーが下りているのが見える。

 

――ああ、俺は...

 

ハンマーが完全に叩きつけられ、刹那――火薬が点火して衝撃がゆっくりと伝わってくる。

 

銃弾がバレルを通っていくのが伝わる。そのまま、弾丸がスローモーションのようにバレルから完全に吐き出され的目掛けて飛んでいく。

 

その動きはとても緩慢で、XVRを仕舞ってから歩いて弾丸を追いかけることが出来る。

 

――これが、限界の先。

 

これこそが、俺の能力の限界の先。銃弾に歩いて追いつくことが出来る。

 

「これが、俺の新しい到達点...!」

 

銃弾が、的に着弾する。それを確認して――世界は急激に加速を始めた。

 

――いや、この場合は俺が元の速度に戻ったとでも言えばいいのか...わかんねーな!

 

「!?隼人、どこに!」

 

ジャンヌが銃声を聞いて少し驚き、すぐに俺を探し始める。

 

「ここだ、ジャンヌ」

 

「なぜそんなところに...というか、何時の間に」

 

ジャンヌが駆け寄ってくる。目がズキズキと痛むし、体中もガタガタだ。

 

――だけど、光明が見えた。

 

今ので確信した。俺の限界はまだ見えないことを。

 

そうして気を緩めた所で、強い吐き気に襲われる。

 

「...ぐっ...う、おぇ...!」

 

体全部をガッシリと掴まれ、強く何度も上下に振られるような感覚。

 

――ああ、イメージって、そういう事も体が覚えるのか...!

 

俺の体はペットボトルで、俺の力が炭酸だとすれば、体を強く振るのは当然。

 

その途轍もない揺らぎに平衡感覚が狂い、倒れ込む。

 

――気持ち悪い、何もかもが揺れてみえる...

 

顔を青くして近寄ってくるジャンヌを見て、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌは俺の、この限界を超えた状態を簡単に出せるようにするためと言って名前を付けてくれた。その名も、限界突破(リミテッド・ワンオーオー・オーバー)

 

L・0・0と略されたソレは、呼び辛いので『エルゼロ』と呼称することにした。




ワンオーオーとは100のことを示しております。

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