「隼人、起きて...もう、放課後だぞ」
ジャンヌに顔をペチペチと叩かれて、目が覚める。
「ん...おはよう、ジャンヌ」
「放課後だと言っているだろう、何時まで寝惚けているつもりだ?」
ジャンヌがクス、と微笑んでツッコミを入れてくる。
「悪ィな。足、痺れただろ?」
「いや、問題ない」
頭を上げて、体を起こす。ジャンヌには不便を掛けてしまっただろう。
ソファに体を預けて、隣にいるジャンヌを見る。ジャンヌは優し気に微笑むばかりで苦痛は感じていなかったと伝えてくる。
そんなジャンヌを見て、ふと思いついたことがある。
「なぁ、ジャンヌ」
「どうした?隼人」
「男勝りな時代がかった言葉遣いもいいけどよォー...たまには女らしい言葉遣いもしてほしい...」
ジャンヌの手を握りながら、お願いしてみる。
「な、ぁ...!そ、そんな真似できるか!」
ジャンヌは顔を赤らめて、俺から顔を反らす。
「頼むよ、な?」
「う...うぅ...隼人の、前...だけ...なら...やる、かも」
手を握ったまま、更に顔を近づけてお願いすると、ジャンヌは渋々と了承してくれた。
「よっしゃぁ!さっすがジャンヌ!」
「うぅ...理不尽だ、隼人が理不尽に私を辱めてくる...」
「フリフリのついた服とか着るならさ!それなりの言葉遣いをした方が箔が付くってもんだぜ!」
「それらしいことを言って捲し立てるのをやめろ...やめたら?」
ジャンヌは早速女言葉を実践してくれるが、まだぎこちない。
「く、くひひ...」
「わ、笑うな!私とて恥ずかしいのだ」
「ああ、でもいい感じじゃん」
「そ、そうか?」
「ああ。たまにでいーからさ、そういう喋り方してくれよな」
「き、気が向いたらな...」
そんなことを話しながら、乾ききった制服を羽織ってジャンヌと共に寮を出る。
「さて、行先はSSRか?」
「いや、その前に装備科に寄ってく」
平賀さんからメールが届いていて、内容は頼んでいた物の試作ができたということだったので取りに行くことにした。
「やぁーやぁー、冴島くん!頼まれてた物の試作品、出来ているのだ!」
平賀さんの元に向かうと、すぐに出迎えてくれた。
ジャンヌと共に奥へ通される。
少し待ってほしいと言われ平賀さんが奥へ消えていき、数分後に戻ってきた。
「お待たせしましたのだ!今回冴島くんに依頼されたもの、それの試作ができましたのだ!」
平賀さんがでかいスーツケースのような物を机の上にドンッと置く。
「これは...何が入っている?」
「今開けるのだ!」
ガチャリとロックを解除をして、上側を持って開けていく。
中に入っていたものは、ガントレットのような物と、軍靴のような物。
「頼まれていた物の1つ目は、フックショットを装備したガントレットなのだ。これはフックがチタン合金で出来ていて、途轍もなく頑丈なのだ」
説明の途中で取り出して、持ち上げて見回す。
腕に取り付けるタイプのもので、フック部分が内側に取り付けられている。フック部分の隣には、小さなランプのようなものが2つと、その反対側にマガジンのような形状のものがある。
マガジンのような物を見ると、中にフックだけが大量に入っているのが見えた。
マガジン部分よりも、更に手首に近い方に目をやると、レーザーポインターが装備されている。
「このフックショットはモーターで加速させつつ、途中で火薬による発破を行って射出されるのだ。射出される時の初速は毎秒700m、XVRと同じ速度で進むのだ。そして、射出されたフックの先端が物体に当たって3cm以上の貫通をした際に計測装置が反応して、貫通するために閉じていた爪が開いて対象の内側で固定されるのだ」
平賀さんがPCを起動して、3Dモデルを使った説明をしてくれる。
「ワイヤーは肘側に用意されたリモコンで巻き上げ、引き伸ばしが自由に出来るのだ。巻き上げる時はモーターを使って高速で巻き上げることが出来るようにしてあるのだ」
PCの画面には3Dモデルでフックショットを使っているキャラクターが動いている。
「ワイヤーの素材はピアノ線で、直径1.1mmの物を使用しているのだ。ピアノ線の引張強度は250~350kg/mm^2なのだ。つまり、1mm^2(直径1.1mm)で250kg~350kgの耐荷重能力があるのだ」
「ふむ...」
「移動したあと、フック部分は抜けないから肘側にあるナイフマークのボタンを押して、ピアノ線をレーザーで焼き切って次のフックを装填するマガジンタイプにしたのだ。その手首側に付いてる2つのランプが射出準備OKランプなのだ。赤の内はダメ、緑に切り替わればOKなのだ」
「ほー、そりゃ便利だ」
「欠点は射出の際に腕に大きな負担がかかること、射出するときに手を外側に開いてないとフックで手が破壊されること、フックのお値段がとても高いこと、なのだ」
「...ちなみに幾ら?」
「フック1つで3000円、5つで13000円なのだ」
「たっけぇ!」
「いや十分安いのだ、振動探知から推進距離計測装置に、それを確認してから素早く爪が展開できる頑丈な機構。何よりもそれの小型化がとても大変だったのだ!」
そう技術屋に言われては黙るしかない。
「あと精密機械扱いだから、無茶な活用をすると壊れるのだ!決して雑に扱わないでほしいのだ!」
「分かった」
「次の物に説明を移すのだ。これはミリタリーブーツのつま先と踵に鉄を仕込んだ安全靴仕様で、靴底のゴムは3重構造になっているのだ」
靴を持ち上げて、側面から底を見る。確かにやや底が高い。
「一番足に近い部分には少しお値段の張る衝撃緩和剤をたっぷり仕込んで、2段目にギミックを仕込んで、3段階目に鉄とゴムを混ぜたグリップで仕上げてるのだ」
「そのギミックについて教えてほしい」
「空気圧縮装置をいくつも仕込んで空気圧で無理矢理スプリングを圧縮。圧縮されたスプリングを解除するときは強い衝撃を与えれば――靴底が伸びるのだ」
「む?意味が分からんぞ」
ジャンヌがそこでPCの画面を覗きこむ。
画面には丁度衝撃を与えた状態の3Dモデルが表示されていた。
――なるほどね。
簡単に言ってしまえば、ホッピングと呼ばれるオモチャ、あれをブーツ型に小型化、改良したものだ。
「これを使うことで最大4mまで跳躍が可能なのだ。飛ぶ高さを調節したいときは圧縮装置の圧縮比率をイジればいいのだ。圧縮装置をイジる時は、携帯からメールをすればブーツが受信、自動的に圧力を設定した数値に調整してくれるのだ」
「便利なモンだなぁ」
ブーツを持ち上げてグルグル回してみる。
「欠点は強い衝撃を与えないと反応しないこと、咄嗟の圧力変更が不可能なこと、室内での使用が難しいこと、飛んだ後の着地を上手くやらないと飛び続けることなのだ」
「癖が強ぇなぁ」
――でも、これで。
「これで、自由に動き回れるな。俺の速さに、三次元的移動が加わればもっと動き回れる」
「成程な...よく思いつくものだ」
「ゲームやってると、こーいうインスピレーションがよく降りてくるんだ」
「ほう、そういうものなのか...よし、私も今度やってみるか」
「そりゃいい!今度買いに行こうぜ」
「そうしよう」
「それはそれとして、お会計こちらになりますのだ」
俺とジャンヌの雑談を打ち切って、平賀さんが料金表をみせてくる。
「少し、見せてくれ...なぁっ!?おい隼人!額がおかしいぞ!」
ジャンヌが顔を青くして俺の肩を掴んで揺すってくる。
「えーどんなもんじゃい?」
―えーと百、千、万...ご、十万...
「ちょ、ちょっと高いねー」
声が震える。手が震える。
試作品でこの額ってことは、製品化したら一体どれほどの値段になるのだろうか。
震える手でカードを取り出して気付く。
―今月VMAX一括で払ったばっかじゃん。
あまりの高額の買い物が立て続けに起きて、ちょっとどころか結構胃がキリキリする。
平賀さんはそんな事知らんばかりにカードを掠め取って、読み込み始める。
もたつく手で暗証番号を入力する。
ピッと認識が終わると平賀さんは良い笑顔でカードを返してくる。
「毎度ありがとうございます、なのだ!これからも御贔屓にしてほしいのだ!」
ジャンヌは青い顔をして、少し口を震わせて此方を見つめている。
「まぁ...金は1年の間で死ぬほど貯めたし...大丈夫だろ...大丈夫だよね?」
「いや無理だ...これは無理だろう...」
2人で青い顔をしながら平賀さんの部屋を後にしてSSRに向かうことにした。
俺の財布と胃がやべー
今回登場したSFチックな有り得ない道具は、ゼ○ダの伝説の中に出てくる道具や、ソニ○クの高性能スプリングからインスピレーションを受けています。