人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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ジャンヌの早期登場により、原作の時間がやや前後しております。

原作では、中間テスト&スポーツテスト→秋葉原で作戦会議→女子の再検査→ジャンヌと遭遇、ブラドの秘密を知る となっております。



本作品では、中間テスト&スポーツテスト、ジャンヌと遭遇→キンジ、ジャンヌと遭遇、ブラドの秘密を知る→秋葉原で作戦会議→女子の再検査 となります。



また小説情報ですが、感想がユーザー登録者しか付けられない状態になっていたので修正しました。


やべーくらいに幸せでやべー

微睡みの中で、夢を見ている。

 

目の前に広がるのは、青々とした草原。少し小高い丘の上で、俺は立っていた。

 

暖かい風が優しく吹き抜けると、草の青い香りが鼻を抜けていく。

 

空を見上げると、雲一つない青空と燦燦と輝いている太陽。

 

あまりにも居心地がいいので腰を降ろして横になる。

 

風が肌を撫でて、吹き抜けていく。太陽がやさしく照らしてくれる。

 

目を閉じて、眠ろうとするがその時、誰かに呼ばれる声が聞こえた。

 

体を起こして辺りを見回すが誰もいない。

 

気のせいかと思って再び寝ようとするが今度は後ろから声がかかる。

 

後ろを向くと、白いワンピースを着た人がいた。顔を見ようと、ゆっくりと顔を上げた所で、目が覚めた。

 

「――ト。―ヤト...隼人、朝だぞ。起きろ」

 

俺を呼ぶ声に惹かれてうっすらと目を開けると、部屋着姿のジャンヌが俺の体を揺すっていた。

 

あれ、なんでここにジャンヌが...と思うが昨日のことを思い出す。

 

そう言えばあのまま色々やってたら、夜も更けてきたから部屋に泊めたんだった。

 

「ん...おはよう、ジャンヌ」

 

寝ぼけ目を擦り、体を起こして腕を真上に伸ばす。

 

「ああ、おはよう。顔を洗ってこい、食事を摂ろう」

 

と、言われて意識を集中させると、鼻がコーヒーの匂いを感じとる。

 

「作ってくれたのか...?悪ィな、冷蔵庫に何もなかっただろ」

 

「別に構わない。私の部屋から色々と持ってきて勝手に作らせてもらった」

 

ジャンヌはそう言ってキッチンへと戻っていく。

 

俺も毛布をどけて、洗面台へ向かい顔を洗う。

 

ぼさぼさになった髪をざっと櫛で梳いてワックスで少し固める。

 

ワックスの付いた手を洗ってタオルで拭き、洗面台から出る。

 

制服に着替え、ジャケットを羽織れば何時でも出ていける状態にする。

 

キッチンを見に行くと、髪を後ろで纏めてポニーテイルにしたジャンヌがコーヒーをカップに注いでいた。コーヒーを注ぎ終わると、ミルクを混ぜてカフェオレにする。

 

そこでカップを持ってテーブルに置こうと振り返ったところで、俺と目が合う。

 

「ん?随分と凛々しくなったじゃないか、さぁ席につけ」

 

ジャンヌはそう言いながら微笑んで、椅子を引いた。

 

俺は言われるがままに席につく。

 

ジャンヌはそれを見て満足そうに頷き、俺の対面に座る。

 

「クロワッサンは私の部屋で私が作ったもので、コーヒーとミルクも私が持ってきたものだ。お前の部屋の冷蔵庫はなぜ水しかないのだ、普段何を食べてるんだ」

 

微笑みながら話してきて、説教をされた。切れ長の瞳が俺をじっと見ている。

 

「普段はコンビニ弁当やカップ麺でな。昼くらいだよ、誰かが作ったのを食うなんて事」

 

俺はそう言って、テレビを点ける。ニュースでは今日は晴れるそうで、傘の心配はないという天気予報が流れていた。

 

ジャンヌを見ると何か考え込んでいるようで、手を顎にあてて少し唸っている。

 

しばらくその様子を見つめつつ、腹が減ったので「頂きます」と言ってクロワッサンを頬張った。

 

「よし、決めたぞ」

 

ジャンヌが顎に当てていた手を降ろしてカフェオレを口にする。

 

「決めたって、何をだよ」

 

「朝食と夕食をこれから毎日作ってやろう」

 

ジャンヌがそんな事を言いだして、少し驚く。

 

「そりゃ...マジかよ!うれしーけどよォ、オメーの負担にならねーのか?」

 

大変有り難い申し出なのだが、ジャンヌの負担も大きそうに思えてならない。

 

だから気軽に頼むワケにもいかない。

 

「構わん。いつも朝食と夕食は自分で作っているのでな、一人分量を増やすだけだ」

 

ジャンヌはそう言いながらナプキンを取り出し、クロワッサンの片方をナプキンで包み、包まっていない方を一口食べた。

 

「いや、でもよォ...やっぱ、気が引けるぜ」

 

「ならば交換条件だ」

 

ニヤリ、とジャンヌが何か企んでいる時に、それが首尾よく行った時のような笑みを浮かべる。

 

――何か企んでやがるな...

 

とは思ったものの、ここで聞き返す以外のカードは持ち合わせてないので素直に聞き返す。

 

「何を、交換するんだよ」

 

その俺の発言を聞いてジャンヌは嬉しそうにソワソワし始める。

 

「私を此処に住ませる、代わりに私が食事と掃除を受け持つ」

 

Win-Winの関係だろう?とジャンヌが目を少し伏せてニヤニヤしながら言う。

 

「成程ね、場所を提供する代わりに、食事と掃除を行う...か」

 

「どうだ、悪い条件でもないだろう」

 

「ああ、確かに良い条件だ。毎日お前と過ごせるし、美味い飯も食える。文句なしだぜ」

 

これほどの良条件、飲まずにはいられない。

 

ジャンヌが勝った!という顔をして、勝利宣言をしようとするが、それよりも速く、俺の言葉がジャンヌを穿った。

 

「だが、断る」

 

「――何...だと...」

 

ジャンヌのウキウキとした表情が一転、絶望的な表情になる。

 

その表情のまま「やはりお前は『誤算』の権化だ...私の想像する可能性とは違う答えをいつも突きつけてくる...少々急ぎ過ぎたか?」なんて言いだし始めたので、誤解を解くことにした。

 

「条件が足りねぇ」

 

その言葉に、絶望的な表情をしたジャンヌは今度は探るような顔に切り替わる。

 

――忙しい奴だ。

 

苦笑をしつつ、しっかりとジャンヌに言う。

 

「飯の材料費は、俺持ちだ」

 

予想していなかった答えだったのか、ジャンヌは少し固まる。

 

そのあと、肩を震わせて笑い始めた。

 

「く、くくく...そんな単純な事、そんなにも真剣に、言うことでもないじゃないか...くく、ふ、ははは!!」

 

「うるせー、これだけは言っておきたかったんだよ。そこまでヒモになる気はねーからな」

 

「く、くく...ふぅ。...で、ヒモ?ヒモとは何だ」

 

「一方的に養ってもらいながら生活する男のこと」

 

「―ああ、それは確かに世間体的にもよろしく無いな」

 

ジャンヌは俺の説明を受けて「確かにこの条件で行くと間違いなくヒモ男になるな...」と呟いている。

 

「だろ?それが、俺の出す条件だ。ここで初めて俺が3、オメーが7の割合になる。ここが最低ラインだ」

 

「真面目な奴だな、お前は...ふむ、しかし同棲する事には賛成なのか?」

 

「そりゃ断る理由がねーぜ」

 

「そ、そうか...よしっよしっ」

 

ジャンヌが小声で囁きながら、小さくガッツポーズをしている。可愛い。

 

「さぁ、俺はこの条件なら受けるぞ!」

 

堂々と胸を張って宣言し、手を机の上に持っていく。

 

「なぜそう偉そうなんだお前は...まぁいい」

 

ジャンヌがフッと笑って俺の手を掴む。

 

こうしてジャンヌに食費と場所を提供する代わりに、ジャンヌは飯と掃除を担当してくれることになった。

 

 

 

 

 

 

「なぜ、遅刻ギリギリになるまで気付かんのだお前は!」

 

「うるせー!ちょっとノンビリできるかなって思ってたら予想以上に遅かったんだ!」

 

俺はジャンヌを後ろに背負って少し能力を発動させて走っている。

 

そう、テレビを点けたものの時間を見てなかった俺たちは、散々時間を食いつぶして朝食を摂りながら喋って、今何時だと時計を見て大慌てで寮を飛び出した。

 

ジャンヌに至っては制服も着ておらず、髪も結ってなかった為ポニーテイルのまま制服を着て出てきて、走っていても間に合わないと判断したので能力を使ってタクシーをすることにした。

 

「これが、お前の感じている速さなのか!」

 

背中に乗っているジャンヌが少し声を張り上げて、尋ねてくる。

 

風に靡く銀色のポニーテールが視界に映り、太陽の光を浴びて輝いている。

 

「ああ、そうだ!これが、いつも俺が感じてる速さと風だよ!気持ちいいだろ!」

 

負けじと声を張り上げて答える。

 

「ああ!心地の良いものだな!」

 

ジャンヌは楽しそうに笑っている。俺ら遅刻しかけてるんだけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の授業が終わって、昼休みに入る。

 

SSRの連中は昨日の夕方に合宿から帰ってきて、星伽も帰ってきたかと思ったがどうやらすぐに青森の星伽神社に出発したらしい。

 

流石に休みが長すぎて体が鈍ってきてる気がする。

 

「今日の夕方...アリア、暇なら訓練つけてくれよ」

 

体を後ろに向けて、キンジの隣にいるアリアに話しかける。

 

「アンタ...今日は秋葉原行く予定でしょ」

 

と、アリアに言われて思い出す。

 

「あー...アキバか...めんどくせー」

 

うあーと唸りながら思い出したくなかった事を思い出してやや憂鬱になる。

 

キンジの方をチラリと見ると、キンジの顔も悲痛に満ち溢れていた。

 

「やいキンジよう」

 

「なんだねハヤさんや」

 

「嫌だな秋葉原」

 

「ああ、今から想像するだけで嫌になる」

 

秋葉原...『武偵封じの街』。人が多すぎて銃は抜けない、路地が入り組みすぎてて犯人や容疑者の追跡が非常に困難。

 

そして――

 

 

 

 

「色違いのミクだ、ミクがいる」「ツインテールだ」「アホ毛だ」「可愛いなぁ」

 

秋葉原の街を進む度に、周りの連中がアリアを見て囁き合っている。

 

そう、ここは秋葉原。よく分からんが萌えとやらが溢れる場所らしい。

 

アリアはチビで、現実離れしたピンク髪で、ツインテールで、アホ毛で...理子がいう『属性』なるものを多く持っているせいか人の目がすごい。

 

とにかく人が多い。それにここはアリアを除いて俺たちの土地勘がない場所だ。

 

迷いに迷って、ようやく指定された場所へ着く。

 

キンジと俺が扉の両端に待機して、アリアが扉を蹴ってぶち開けた。

 

完全に強行突入のやり方じゃねーかと思ったがここを指定したのは理子だ。警戒しない選択肢はなかった。

 

ぶち開けられた扉にキンジと俺がアリアをフォローするように飛び出すと

 

『おかえりなさいませ!ご主人様!お嬢様!』

 

と、大量のメイドたちが待ち構えていた。

 

なんやかんやでボックス席に通され、アリアがメイドたちの格好に文句を言ったり、キンジが帰りたそうな顔をして天井を見上げ続けている。

 

俺は携帯のメールでジャンヌに、『今日の夕飯はどうする』と打ち込んで送信すると、1分も経たない内に返信が来た。

 

画面には『既に買い物は済ませた、楽しみにしているといい』と書いてあった。

 

それを見て『楽しみにしてる。なるべく早く帰る』と打って送信する。

 

携帯を閉じて、水を口にする。

 

そのタイミングで、理子がやってきた。

 

「ごっめぇーん!遅刻しちゃったー!急ぐぞブンブゥーン!」

 

なんて言いながら両手を広げて、飛行機のウィングを真似てるのかそのまま走ってきた。

 

その手には、パンパンに膨らんだ買い物袋ばかりでこれを買ってきたので遅れましたとでも言いたげだった。

 

キンジをチラリと見るとぶっ殺すと言わんばかりの目つきで理子を睨んでいた。

 

アリアに目を向けると風穴開けてやるという目で既にガバメントを抜いていた。

 

そして俺は、そんな2人を見たせいか萎えてしまって水を大人しく飲んでいるだけで済んだ。

 

「理子はいつものパフェといちごオレ!ダーリンには春摘みダージリン!そこのピンクにはももまんでも投げつけておいて!えーと...ワンコには...」

 

流れ的に俺がワンコだろう。だが、何かする気力もなく、速く話を終わらせて帰りたい気分で一杯な俺は特に歯向かいもしない。理子が何か注文する前に手早く打ち切る。

 

「俺ぁ帰ったら喰うモンあるから、水だけでいい」

 

「ん、そう。じゃあワンコくんにはキンッキンに冷えた水を持ってきたげて!」

 

そう言うとメイドは去っていく。

 

成程ね、ここは手前のホームグラウンド...話し合いで主導権を取りやすくするために呼んだのか...狡猾な奴だ。

 

すぐに飲み物やパフェやももまんが運ばれてきた。

 

「俺たちは茶を飲みにきたわけじゃない。まず確かめておくが、俺たちにした約束は守れるんだろうな」

 

キンジがジロリと理子を睨む。

 

アリアにはアリアのカーチャンの裁判で証言をすること。

 

キンジにはシージャックの事件で仕留めた武偵の話をすること。

 

だったか。

 

「もっちろんだよダーリン!」

 

「誰がダーリンか」

 

そんなどうでもいい話に脱線仕掛けたので、机を殴る。

 

ダンッ!と音が鳴り、理子とキンジが黙る。ガバメントを構えようとしていたアリアも動きを止める。

 

「俺ぁそんなどうでもいい話を聞きにきたわけじゃねぇ。元々ノリ気でもねーんだ、さっさと話せ」

 

――速く帰って、ジャンヌに逢いたい。

 

俺の心はそれ1つだった。

 

「黙れ、最弱。お前が命令するんじゃない」

 

理子が、あの時の理子になる。

 

ギロリと三白眼になり俺を鋭く睨みつける。

 

それを受けて、こっちは帰りてーのを我慢してんだ!さっさと帰らせろ!と思い、加速し始める。

 

スローモーションの様になった世界で、いつもと同じ速度で動いているのは俺だけ。

 

XVRを抜いて理子の真後ろに移動する。安全装置を外しハンマーを起こして、理子の後頭部に突きつけて加速を終える。

 

「...!?」

 

理子が少し驚いた後、頭部に突きつけられる銃の感触に気付き固まる。

 

「俺が一番弱ぇのは知ってる。さっさと話せ」

 

「...ちっ」

 

舌打ちこそすれど、理子の口元は半月のように裂け、笑っていた。

 

恐らく俺の能力が何処まで上がったか見るつもりだったんだろう。相変わらず食えない奴だ。

 

理子が鞄からノートPCを取り出したのを確認して、シリンダーを出してからトリガーを引く。ガチン、とハンマーが叩く音が聞こえるがシリンダーを出してあるので発砲は起きない。XVRをホルスターに仕舞って、自分の席まで戻る。

 

そのままゆっくりと席に腰を下ろす。

 

キンジとアリアは、ノートPCを見つつ瞬き信号で

 

『キョウ ノ ハヤト キゲン ワルイ ナニ シタ』

 

『ワカラナイ』

 

などとやり取りをしていた。機嫌が悪いわけじゃない、帰りたいだけなんだ。

 

理子の持ってきたノートPCを見る。

 

「横浜郊外にある屋敷、『紅鳴館』――ただの屋敷に見えて防御は硬くってねー」

 

キンジがノートPCを操作してタスクバーから計画表や起こりうる可能性、またそれが発生した場合のケースごとに対処法が書かれ、綿密なスケジュール表が記載されていたり、防犯装置についての資料が纏められていたりと内容はとても濃いものだった。

 

少し関心して、理子に続きを話すように催促する。

 

「理子のほしいものは、ここ。地下の金庫にあるの...理子1人じゃ破れない。でも、息のあった2人組と通信役が1人、いざという時の妨害役が1人いれば話は別。」

 

「ブラドはこの屋敷にいないんだろうな?居るようなら俺は行かんぞ」

 

「大丈夫だよハヤッチー。ブラドはここには何十年も帰ってきてない。ハウスキーパーと管理人だけ。管理人も不在で、正体が掴めてない」

 

「は、ハヤッチー...?」

 

「隼人のあだ名、ワンコよりはずっとマシでしょ?」

 

ニヤリと理子が嗤う。

 

「けっ...嫌なヤローだ」

 

ジャンヌは理子の事を結構好意的に捉えていたが俺には無理そうだ。

 

「で、俺たちは何を盗み出せばいい」

 

「――お母さまがくれた、十字架」

 

「アンタって奴は!どういう神経をしてるのかしら!」

 

アリアが一気に、ブチ切れる。ガタンと席から立ち上がり、ガバメントを抜く。

 

そりゃそーだ、ここまでやってきて盗み出すものは母親がくれたとかいう十字架。しかもアリアのカーチャンに罪を着せた奴の、だ。

 

だが、分かる。分かってしまう。ジャンヌに聞いた話では、理子の両親は既に亡くなっている。

 

だから、形見を求めるのだろう。

 

「おい、アリア。落ち着け」

 

ジャンヌの話を一緒に聞いていたキンジが止めにかかるが、そう簡単に止まってはくれないだろう。

 

「理子は、アリアが羨ましいよ」

 

「あたしのっ!なにが!」

 

アリアはガバメントを突きつけてブルブルと怒りで腕を震わせている。犬歯を剥き出しにして、唸り続けている。

 

「アリアのママは、生きてるから」

 

「......っ」

 

アリアから、怒気が霧散する。ガバメントを下して、理子を見つめている。

 

「理子のお父さまとお母さまは、理子が8つの時に亡くなったの。十字架は、5つの時にお母さまがお誕生日に下さったものなの」

 

アリアはそれを聞いて、ガバメントをホルスターにしまって着席する。

 

「で、結局どう攻略するんだ」

 

アリアが落ち着いたタイミングで話を戻す。俺の足は貧乏揺すりを始めている。

 

――帰りたい、帰りたい。ジャンヌに逢いたい。

 

「内部の様子が分からないしーそれに、しょっちゅうトラップや配置を変えてるみたいなんだよー!だから、潜入して捜査してもらいます!」

 

キンジとアリアが露骨に嫌そうな顔をする。俺は諦めて天井を見上げていた。

 

「つまり――キー君にアリア、ハヤッチーには紅鳴館で執事とメイドちゃんをやってもらいます!」

 

理子はそう、高らかに宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速足で、帰る。自分でもビックリするくらい速足で帰っている。

 

男子寮に着く。階段を昇って、昇って、廊下を歩く。自室の前に着いて、カードキーを取り出し認証させる。

 

一度、深呼吸をしてから扉をがちゃりと開けた。

 

「ただいま」

 

前までと違って、室内には電気が点いていて、料理をしているのか良い匂いがする。

 

キッチンの方からスリッパのぱたぱたと言う音が聞こえ、エプロン姿のジャンヌが顔を見せた。髪はポニーテイルのままだった。

 

そして、俺の姿を見つけると、顔に笑みを浮かべ、優しい表情で言った。

 

「――おかえりなさい」

 

その一言で、安堵する。

 

靴を脱いで、リビングに進みソファに腰かける。

 

「もうすぐ、出来るから――待ってて」

 

ジャンヌが男勝りな言葉を使わなかったことに少し驚くが、可愛いので良し。

 

俺はテレビを点けて夜のニュースを眺めることにした。

 

―とても、幸せだ。

 

その日の夜はいつものように静かなものではなく、キッチンは明るくて、良い匂いがして、俺以外の誰かが居る。

 

暖かい空間が、広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やべーくらいに幸せです


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