キンジがやべー幻覚見たと思ったらマジだった
極々フツーの、当たり前の日。高校2年生になったっていうだけの、いつもと同じ当たり前の朝だと思ってた。
少なくとも、俺は。そーいう当たり前の話だと思ってたんだ。
だが―
俺の前にいるこの男、遠山キンジ。コイツにとって今日はいつもより随分とハードラックな朝だったみたいだ。
なにせ登校してきて、席について、俺が椅子ごと後ろに向いて駄弁ろうかとした矢先に、コイツはすげー変なことを言いだした。
「なぁ、空から女の子が降ってくると思うか?」と。
――春の素敵な陽気にやられて頭おかしくなったか?と思案したが、ああ、そういえばコイツ頭おかしかったわ(主にラッキースケベした時とか)、と考えを巡らせたところで。
キンジの隣にいる武藤と武藤の傍にいた不知火もキンジの話に興味を持ったのか会話に加わってきた。
「なんだキンジ、お前にも春が来たのか?にしては随分とアニメみたいな話だな!」と武藤が冗談交じりに喋る。
「おはよう、遠山くん。それに、冴島くんも。それで、空から女の子が?遠山くんはそんな事言わないと思ってたんだけどな」と不知火が揶揄うようにイケメンスマイルで混じってくる。
俺は不知火の挨拶に短く「おー」とだけ答えてキンジに話の続きを話すように目で訴える。
するとキンジはため息を尽きながら頭をガクリと項垂れさせ「お前ら、これは冗談でもなんでもない、マジな話なんだぞ...ピンク髪の小学生くらいの女の子が、空から降ってきて―」と、キンジの話の途中でホームルームが始まってしまったのですぐさま話を切り上げて椅子ごと前に向ける。
キンジに「その話はホームルーム終わったら聞くわ」と返して顔を前に向ける。
ホームルームが始まって、やれ教師の話だの、2年生になったからあーだのこーだのという業務的な話の後に、転入生が紹介されることになった。
そうして入ってきたのは、ピンク色の髪で、緋色の双眸をもつ、小学生くらいの身長の女の子。
あれ?これ、キンジの奴が言ってた奴じゃね?
「神崎・H・アリア」とだけ話し、口を紡ぐとその緋色の双眸でぐるりと見まわし、そして俺―いや、キンジだな、キンジを見てその目が止まった。
そして、アリアはとんでもねー事を言いだした。
「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」
クラス中がキンジを見て、大声を上げる。武藤が気を遣って席を変わる。
そんな中、峰理子...金髪ってすげーな。染めてんのかな?まぁいいか。理子がキンジとアリアの仲を不純な行為があっただのどーだのという推理を大声で言うと更に教室中が白熱した空気になった。
そんな中俺もようやく、ぐるりと体ごとキンジの方を向いて、絶望したような表情をしてるキンジに一声かける。
「わりーなキンジ、俺お前の話マジだと思ってなかったわ。疑ってすまんな」
キンジはその言葉でまたガクリと項垂れるのであった。