人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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ブラド編
速くもやべー気配がする


 

アドシアードの事件からほぼ一か月が経過した。

 

その間はアリアに戦闘訓練と、持久力増加の為のプランを組んでもらい、それをひたすら熟した。

 

星伽も星伽で、超能力の使い方や自己流ではあるが制御方法などを、星伽の規制に触れない範囲で教えてくれた。

 

そんなこんなで一か月を過ごしていた俺は、いつものようにアリアと星伽に指導を受けようと放課後の廊下を歩いていた。

 

だが、そこで携帯が震える。

 

取り出して確認してみると、アリアと星伽が急用が出来て俺に割く時間が無くなったという旨のメールが着ていた。

 

「気にすんな、今日はゆっくり体を休めるっと。送信」

 

携帯をカチカチ鳴らして、文章を作り返信する。

 

携帯をパタンと閉じて、俺はSSRに向かおうとした足を何処に向けるかで悩み始めた。

 

―装備科?

 

いや、用事が無い...用もないのに邪魔しに行くのはちょっとな...。

 

―キンジを探すか?

 

アイツもアイツで忙しいんじゃないかと思いそれも却下。

 

―車両科に行くか。

 

そう決めた所で、携帯が着信を伝える。

 

携帯を取り出して番号を確認すると、武藤からの連絡だった。丁度いいタイミングだ。

 

「もしもし、冴島です」

 

『おう隼人!この前のVMAX!手に入れたぜ!』

 

武藤からの要件は、先月アドシアードの時に仕入れてくれと言ったVMAXが届いたという話だった。

 

「マジか。代金払うよ、今からそっち行くわ」

 

『おう!待ってるぜ』

 

通話を終了して、ちょっと浮き足だった足取りで車両科へ向かう。

 

「お、冴島!お前いい買い物したなぁ~」

 

「武藤に感謝しろよ?アイツ、相当値切ってたぜ」

 

「くぅ~、俺も何時かあんな化け物バイクが欲しいぜ!」

 

等と車両科の生徒たちに声を掛けられながら武藤がいる格納庫に案内された。

 

ドアを開けて、階段を降りて、しばらく辺りを見回すと、武藤がそわそわと黒いカバーの掛けられた物体の近くをうろついていた。隣に業者らしき人物が見える。

 

階段の付近で声を掛ける。

 

「おい、武藤。待たせたか?」

 

武藤は俺の声を聞いてこっちにグルンッ!と凄い勢いで向き直ると、手をブンブンと振ってこっちに来いと伝えていた。

 

苦笑を漏らして駆け足で近寄る。

 

「コイツが、引き取り人です」

 

「毎度ありがとうございます、武藤さん。えーと、VMAXの海外仕様という事で輸入費用を含めお値段が197万9800円です」

 

「カード、一括で」

 

カードをみせると業者の人がカードリーダーを取り出して、端末に繋ぐ。

 

「ここにお願いします」

 

といって、読み取り口を指してくれる。

 

カードを挿入して、端末に表示された暗証番号を入力する。

 

業者の人も、武藤も顔を反らしたり目を瞑ったりして暗証番号を見ないように配慮してくれている。

 

入力が終わると、一括か分割か選択する画面に移ったので、一括を選択する。

 

ピッ、と無機質な電子音が決済完了を報せ、端末からレシートが出てきた。

 

「領収書お願いします」

 

業者の人にそれを伝えると、領収書を取り出して、金額を書き始める。

 

「名前は、どのように」

 

「冴島で。冴えるに島で、冴島です」

 

「畏まりました」

 

ビッと書き終えた領収書を渡して、業者の人は帽子を取って深々と礼をして、ありがとうございました、またご利用くださいませ。と言って帰っていった。

 

それを見届けた俺と武藤は、カバーの掛かった物体に目を向ける。

 

「へ、へへへ~お待ちかねの、VMAXだ!」

 

武藤が気持ち悪い声を出しながらカバーを恐る恐る引いて行き、完全にカバーが外される。

 

「――おお」

 

新車特有の、汚れのない、真っ黒なボディがその姿を現した。

 

「VMAXの2代目、初代VMAXをフルモデルチェンジして、完全な新型として作成。車体やエンジンの構造はYZF-R1の技術を応用して設計されてる」

 

武藤が目を輝かせてVMAXの情報を話し始める。

 

―すーぐこれだよ。

 

「隼人、コイツは海外仕様だが半年先くらいに国内でも販売される予定だ。だからそこを突いてやって3年間の盗難補償は付けてやった。ロードサービスや点検に関しては俺たち車両科のAランク以上の奴らで面倒を見る」

 

「そりゃ、至れり、尽くせりってやつだな」

 

「俺らもVMAXが触りたくて仕方ねーんだよ」

 

へへへ、と武藤が笑う。

 

「コレ、VMAXの鍵な。どうする?今日乗るか?」

 

武藤がVMAXの鍵を渡してくる。

 

「ああ、一発吹かしてみるか」

 

「よしきた!」

 

武藤が格納庫前のシャッターを開けて、車体の調子を確かめるためのサーキット場へとレーンを繋げた。

 

「何時でも出ていいぜ!あ、でもちょっと待っててくれ!」

 

そう言って武藤はシャッターの方から離れ、階段を駆け上がって格納庫から飛び出した。

 

しばらく待っていると、武藤がヘルメットと車両科の生徒を複数名連れて戻ってきた。

 

「これ付けとけよ!」

 

武藤がヘルメットを投げ渡してきたので、受け取って被る。

 

VMAXに跨り、キーを挿入する。

 

エンジンを掛けると、ヴォオオンッ!と唸る声が轟く。

 

ドッドッドッドッドッドッと重低音のアイドリングが、呼吸をする様に続く。

 

「くぅ~いい音!良い響き!流石最高級車両!」

 

武藤が感動に浸り、体をブルブルと震わせている。他の生徒たちも同じようだった。

 

車体を真っ直ぐにして、スタンドを蹴り上げる。

 

両足でバイクを支え、重さを確かめる。

 

「――重いな!!」

 

「ああ!!いいバイクだろ!!」

 

エンジン音に負けないように声を張り上げる。

 

クラッチレバーを操作して、足のつま先でギアを降ろす。

 

インジケーターのニュートラルランプが消えたのを確認して、アクセルを回す。

 

ヴォン!ヴォン!と音を鳴らしながら、ゆっくりと格納庫から出て、レーンへと入ってく。レーンに完全に入ったのを確認して、ニュートラルに戻す。

 

「いいか隼人!!コイツはABS装備だ!ブレーキは前後気にする必要はない!踏むときはしっかりと踏め!!いいな!!」

 

「おう!!」

 

「それと、コイツがシフトインジケーターだ!!今、ギアが何速なのかを教えてくれる!!エンジン音の感覚で分かるようになるまではコイツを頼れ!!」

 

武藤が、俺の正面やや下方にある電子板を指して教えてくれる。

 

「ギアをニュートラルに戻すときは、二速に落としてから軽くギアを降ろしていけ!!途中でこつって感じがする!!そこで止めればニュートラルだ!!」

 

「わかった!!」

 

その説明の間に、他の車両科の生徒が靴にガードを装着し、肘や膝にサポーターを装備してくれた。

 

そして、武藤達が離れる。

 

武藤達の方を見て左手を上にあげると、武藤は腕を上げたままグルグルと回し始めた。

 

それを見てからクラッチレバーを操作して、ギアダウンさせ1速へ。

 

そのままアクセルを入れて、加速していく。

 

ヴォォオオンッ!

 

ギアアップ。2速へ。 ヴヴァオオオオン!ヴァアアアアアッ!

 

3速、4速、5速と上げていく。

 

怒号のようなエンジン音が轟轟と鳴り響き、凄まじい速度で走っていく。

 

体を傾け、コーナーを曲がる。

 

――重い...!流石、直線番長と呼ばれるだけのことはある!

 

VMAXはコーナリングを苦手とする重量級バイクで、直線では負け知らずの車体である。

 

コーナーを抜け、立ち上がりに加速する。

 

――良い速さだ!

 

そうしてサーキットを何周か走って、レーンに戻っていった。

 

ギアを2速に戻して、ニュートラルへ入れる。

 

エンジンを切ってスタンドを立て、VMAXから降りる。

 

「いい、バイクだった」

 

ありがとう、と言って武藤と握手する。

 

鍵を武藤に渡すと、武藤は少し驚いたような表情になる。

 

「乗りたいんだろ?お前に融通してもらったモンだし、乗ってくれよ」

 

「い、いいのかよ!」

 

「あたりめーだろ!水臭いこと言うなよ」

 

「隼人...ありがとよ!」

 

武藤はすぐにVMAXに跨る。

 

「あ、そーだ、武藤。そいつ車両科に置かせてくれねーか。寮はチャリ置き場しか無くてよォ」

 

「任せとけ。しっかり管理しといてやる」

 

「助かる」

 

 

 

 

 

武藤らと別れ、寮へ戻ってくる。

 

風呂に入って、テレビを付けてのんびりしていると携帯に着信が入る。

 

「アリア...?こんな時間に、なんだよ...」

 

番号はアリアを示していた。携帯を取って通話を開始し、耳にあてる。

 

「へーい冴島です」

 

『ハヤト!今すぐ女子寮屋上に来なさい!』

 

「はぁ!?なんで!」

 

『理子が出たわ!』

 

「――!」

 

―理子が、出た?

 

それを聞いてすぐに通話を終了し、携帯を閉じずにソファに投げつけ、部屋着のまま飛び出す。

 

アリアと白雪の熱心な指導で身体的加速の制御を一応の成功へと漕ぎ着けた俺は、その制御を確認するが如く加速を始めた。

 

男子寮の階段を下りずに、踊り場まで一気に跳躍し、着地と同時にローリングをして反動を殺しまた同じように飛び降りる。

 

全速力で駆け抜け、女子寮に到達し、階段の壁と手すりを交互に蹴って上へ上へと昇っていく。

 

屋上へ通じるドアは既に開けられており、開けられたドアへと飛び込む。

 

そこには、満月を背に、理子が立っていて。

 

キンジとアリアはそれを見ていた。

 

俺が入ってきた事に気付いたのか、理子は俺の方をチラリとみて、笑った。

 

――ヤロウ!

 

瞬間的に加速して、あのニヤついた顔面をぶっ飛ばしてやろうかと詰め寄った時。

 

「ドロボーやろうよ!」

 

と、理子が声高らかに提案してきた。

 

それを聞いて思わず急停止してしまい、声を漏らす。

 

「はぁ!?」

 

キンジとアリアの方を見ると、どちらも呆けたツラをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

速くもやべー気配がする!


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