人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

16 / 92
UAが7000を超えていました。見てくださっている皆さんに日々感謝です。

ありがとうございます!


地下深くでやべーバトル!

星伽の隣に立つ。星伽を中心に、波打つ様に暖かい空気が流れてくる。

 

キンジとアリアが、一歩下がる。それを見て星伽が一歩前に出る。

 

「ジャンヌ、もうやめよう。私は誰も傷つけたくないの。たとえそれが、あなたであっても」

 

星伽の発言を、何処かに潜んでいるジャンヌが笑う。

 

「笑わせるな。原石に過ぎないお前がイ・ウーで研磨された私に敵うものか」

 

「私は、G17の超能力者なんだよ」

 

星伽は少し溜めてから言った。

 

そうか、星伽はG17なのか...え?...G17ァ!?

 

「おいおいおいおい、星伽!オメーマジにG17なのかよ!」

 

余りの驚きについ聞き返してしまう。

 

「え、う、うん」

 

星伽は少し引きつつも頷いてくる。

 

―マジかよぉ...

 

「俺ぁ、G14でな。最高クラスじゃんって喜んでたらご近所さんにもっとスゲーやべーのが居たのかぁ...世界は狭いなぁ」

 

―俺もまだまだ研鑽が足りないんだなぁ

 

「...ブラフだ、G17など...世界に数人しか」

 

ジャンヌは笑うことなく、真剣な声色で否定してくる。

 

「あなたも感じるはずだよ、この力の波を」

 

星伽がそう言うと、星伽から流れ出る波がより一層強くなる。

 

「この波が、その証明か」

 

「え、波?」

 

「見えないのか?星伽、お前から波打ってるコレだよ」

 

と、説明するが星伽は困ったような表情をするばかり。

 

「俺にしか見えてないのか?」

 

「そんなことはどうでもいい、たとえそれが真実であったとしても、お前は星伽を裏切れない。それがどういう事を意味するか分かっているならな」

 

ジャンヌが俺の話を打ち切って、星伽に話をする。

 

裏切れないって、どういうことだ?

 

「ジャンヌ。策士策に溺れたね」

 

星伽はジャンヌの発言を聞いて少し口元に笑みを浮かべ、すぐに凛々しい表情に戻る。

 

「それは今までの私。でも、今ここにいる私は星伽のどんな制約だって破ってみせる...たった1つの存在の傍にいる」

 

――私の想いの強さまでは見抜けなかったみたいだね。

 

と、星伽は言った。

 

恐らく星伽が言ったのはキンジのことだろう。こんな告白みてーなセリフ言われやがって。

 

なんでキンジばっかり...

 

少し目が潤う。

 

泣くな、泣くんじゃない。隼人、お前は強い子なんだ!

 

グスンと鼻を少し鳴らしてキリっと表情を引き締める。

 

「――やってみろ、直接対決も、私が不利な状況も想定済みだ。お前たち2人はGが高い。消耗も速いだろう。特に冴島隼人、お前は私の戦いとアリアの援護でかなり消耗したはずだ。精神力がすり減るのを待てば、私の勝ちだ」

 

部屋の隅に残っていた発煙筒の煙も次第に薄れ、スプリンクラーが完全に停止する。

 

ダイヤモンドダストは消えていた。

 

目の前に、ジャンヌが現れる。今度ははっきりと見える。

 

部分的に体を覆う西洋の甲冑に、2本の三つ編みをつむじ辺りで結んだ銀髪に、鋭さを感じる蒼い瞳。とんでもない美人が立っていた。

 

「...キンちゃん、ここからは私を見ないで」

 

星伽がやや震える声でキンジに話しかけた。

 

「これから私は、星伽に禁じられた技を使います。でも、それを見たらきっとキンちゃんは私のことを嫌いになっちゃう...ありえないって思うっちゃう」

 

星伽の声は震えを増していく。

 

「白雪、大丈夫だ...ありえない事は1つしかない」

 

キンジが星伽に語り掛ける。

 

星伽の震えが少し収まる。

 

「俺がお前を嫌いになること...それだけは、絶対にありえない」

 

星伽の震えが、完全に止まった。

 

―いいコト言うじゃねーかよキンジ

 

星伽が顔だけ後ろに向けて、キンジに言う。

 

「すぐ、戻ってくるからね」

 

とだけ言うとすぐに顔をジャンヌに向ける。

 

「ごめんね、冴島くん。待たせちゃって」

 

「気にすんな、やってやろうぜ」

 

「...うん」

 

星伽がいつも付けている白いリボンを解く。

 

星伽が刀を片手で持ち、刀身を横にして上段で構える。

 

「ジャンヌ。これであなたを逃がす訳にはいかなくなった」

 

「――何?」

 

「星伽の巫女が、その身に秘める禁制鬼道...それを見る事になるから。貴方たちは600年、アリアは150年、その能力と名を伝え続けてきた」

 

星伽の頭上に掲げる刀が、紅くなっていく。

 

「そして、私たちは――――2000年もの、時を――」

 

刀身がグアッ!と一気に燃え上がる。眩い程の輝きと熱を放つ。

 

あれが、星伽の超能力!

 

「『白雪』っていうのは、伏せ名。私の本名は――『緋巫女』」

 

言い終わると同時、星伽は床をカツリと蹴ってジャンヌに接近する。

 

ジャンヌは少し遅れて、星伽の動きに対応する。背後に忍ばせていた西洋剣を使い、がぎん!と受け止めた。

 

そしてそのまま星伽の一撃を流す。ジャンヌの横にあった大型コンピュータが斬られる。ジャンヌはその隙を突き、攻撃...ではなく、後退した。

 

――なんで、下がった?

 

答えはすぐに出た。

 

「炎...!」

 

ジャンヌは忌々し気に、星伽の生み出した炎を睨みつける。

 

そうか、ジャンヌの先祖は火で殺されかけた。だから、氷を操る能力を手に入れた。

 

「炎が、怖いのか」

 

「っ!」

 

俺の発言に明らかに動揺するジャンヌ。

 

ジャンヌは更に後ろに下がり、少し開けた場所へ出る。

 

「冴島くん!」

 

開けた場所に、出てしまった。

 

星伽が俺を呼ぶ。

 

――情報と、身体能力の同時加速。

 

新たな応用。

 

瞬間、世界はスローモーションのようにゆっくりと流れ始めた。

 

9...

 

そのままジャンヌ目掛けて一直線に走る。

 

8...

 

距離を詰める。

 

7...

 

ジャンヌはその淡麗な顔を驚愕の表情に少しずつ変化させている。

 

6...

 

ジャンヌは左手をゆっくりと腰のポーチに手を伸ばそうとしている。

 

5...

 

ジャンヌが表情をそのままに首を少し上げ始める。

 

4...

 

「いくぜ」

 

ジャンヌの腹に体重を乗せたボディーブローを叩き込む。殴り込んだ瞬間に、捻りを加え更に押し込む。

 

3...

 

ジャンヌは殴られたまま、少しずつその衝撃が伝わってきたのか体勢が変わり始める。

 

そのまま脚を振り上げ、横薙ぎに3度振るう。

 

2...

 

ジャンヌの体が完全に吹き飛ばされた体勢に変わる。

 

そのままジャンヌの右肩を蹴り上げて回転の力を加えて、吹き飛ばされた時の被害を大きくさせる。

 

1...

 

最後に、無防備な顎目掛け、その場でしゃがみ、グルグルと2度3度回ってから、飛び上がって蹴りをいれる。

 

Time Up

 

 

世界に、音が戻る。

 

「ぐっ、ぎぼぐぁ!!!」

 

ジャンヌがほぼ同時に叩き込まれた複数の攻撃を受けてグルリと回転しながら吹き飛ばされる。

 

「一矢、報いたぜ」

 

ふぅ、ふぅ、と肩で息をしつつ吹き飛ばされたジャンヌを睨みつける。

 

――ズキン、ズキン

 

加速の反動が、体に伝わる。神経が磨り減る感じがする。目の奥が握り潰されるような痛みを訴え始める。頭が痛い。

 

「――ぐっ...」

 

視界がゆらゆらと揺れ動く。ピントが合わない。視界の端が暗くなっていく。

 

目を伏せて、手を置く。

 

「はっ...はっ...ふ...は...」

 

息を整える。目の痛みが、少し収まったので目を開ける。

 

「大丈夫!?」

 

星伽が、心配そうに駆け寄ってくる。

 

「問題ねーぜ...」

 

――それより、ジャンヌだ。

 

星伽と共にジャンヌを見ると、西洋剣を杖にして立ち上がろうとしていたが、上手く立ち上がれず膝をガクガクと震わせ、口から涎を垂らし、腕をブルブルと震わせていた。

 

「――ぐ、ク...クソ...!やはり、き、キサマは...『誤算』の権化...!」

 

ジャンヌは何度も立ち上がろうとするが、その度に足から崩れ落ち、床に体を沈めている。

 

「こんな...たかが、数度の格闘攻撃で...!この、私がぁ!」

 

ジャンヌの目が血走り、充血し始め涙を零し始める。

 

痛覚の訴えが酷いのだろう。

 

ジャンヌは床を這ったまま壁の方へ行き、剣と壁を支えにして震える膝を震える腕で何度も叩いて立ち上がった。

 

立ち上がったが、もう戦える状態ではない。

 

だが、それでも。壁を支えに震える足で剣を此方に向ける。

 

その剣を持つ両手はブルブルと震え、剣の切っ先はユラユラと動いている。

 

「――ジャンヌ、オメーの負けだぜ。諦めな」

 

「負け...?負けだと!バカを言うな!私は、負けてない!」

 

ジャンヌに降参を諭すが、ジャンヌは吠える。

 

「この、聖剣デュランダルが折れない限り...私は、負けない...!」

 

ジャンヌの目は、まだ輝いている。

 

「もう、無理なのは分かってんだろ...?壁を支えにしなきゃ立てないし、剣だって重心が安定してない」

 

「うるさい...だまれぇっ!こんなことで、私が負けていいはずがない...!」

 

ジャンヌはボロボロと大粒の涙を流しながら、時折激痛に苛まれているのか、苦悶の声を漏らしている。

 

「冴島くん、退いて。私が、ジャンヌを打ち負かす」

 

星伽が一歩前に出る。

 

「...ああ、頼む」

 

一歩後ろに下がり、星伽と位置を入れ替える。

 

星伽は刀を鞘に納める。

 

そのままジャンヌにダッと駆け寄る。

 

「ぐ、くぅ――!」

 

ジャンヌが焦ったような声を出すが、きっともう遅い。

 

「終わりだよ、ジャンヌ。――緋緋星伽神(ヒヒホトギカミ)――」

 

星伽はジャンヌを間合いに捉えると同時、居合のように刀を抜く。

 

鞘から眩いほどの光と熱を放ち、燦爛と輝く刀身を下から上へと振り上げた。

 

紅蓮の炎を纏った刃は、デュランダルをスッと透過したかのようにすり抜けた。

 

紅蓮の炎は渦となって、天井にぶつかる。

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!

 

と、派手な音を立てて、凍り付いた天井ごと炎の渦は吹き飛ばしてしまった。

 

ジャンヌを見ると、壁を背にぺたりと座り込んでいた。

 

ジャンヌの視線は、一点に固定されている。その視線の先には――

 

「あ...あ....」

 

断ち切られたデュランダルと、斬られて折れたデュランダルの先端があった。

 

完全に戦意を消失させたジャンヌは虚ろな瞳をそのままに、動かない。

 

がらがらと瓦礫が崩れてくる中、ぴくりとも動きはしない。

 

だがその時、ジャンヌの頭上の天井が崩れて。

 

――落ちる!

 

刹那、世界がスローモーションのようにゆっくりと動き出す。

 

9...

 

急いで、飛び出す。

 

8...

 

床に落下しきっていない瓦礫が宙に留まっている。

 

7...

 

宙に留まっている瓦礫を避けて、前に出る。

 

6...

 

床に転がった瓦礫を乗り越えて、更に接近する。

 

5...

 

最短距離は既に瓦礫が地面にも、宙にもあるため使用できない。

 

4...

 

少し回り道をして、ジャンヌの元にたどり着く。

 

3...

 

ジャンヌを掴み、ついでにデュランダルも折れた方と剣の柄がある方と回収する。

 

2...

 

ジャンヌをお姫様抱っこするようにして急いで走る。

 

1...

 

地面に落ちた瓦礫を飛び越えて、星伽の居る場所まで飛ぶ。

 

――間に合うか!?いや、無理か...!

 

...0

 

......Time Up

 

 

 

だんっ!ごっしゃああああああっ!!

 

 

世界が元の速度に戻る。

 

ジャンヌがさっきいた場所に瓦礫が落ちる。

 

「うっ...ぐ...へっ...間、一髪...!」

 

星伽の隣に、ジャンヌを降ろして自分も座り込む。

 

「あ゛ー!もう、もう無理っ...!体力、持たねー!」

 

胡坐をかいて上半身を反らして後ろに手をついて大きく呼吸をしながら愚痴をこぼす。

 

ジャンヌは、突然の事態の変化に少し固まったが、俺が助けたことに気付いたのか、顔を伏せたまま質問をしてきた。

 

「――なぜ、助けた」

 

―なんで、ってそりゃ

 

「別に、特別なコトなんて1つもねーぜ。何も死ぬことは無い。そう、思っただけだ。それに、オメーが生きてなきゃ、アリアのカーチャンの無罪を証明できない、それだけだ」

 

ズキンズキンと目の奥が痛む。悲鳴を上げたい。脳も疲労を訴えてくる。

 

――あ、でも。

 

「1つだけ...特別があったかもしんねー」

 

「...?」

 

ジャンヌが、顔をこっちに向ける。

 

「綺麗な人だなって思ったから、こんな所で死んでほしくないって思った」

 

へへ、と最低な理由だったが笑いながら言った。

 

「...変わった、奴だ」

 

ジャンヌはその返答に満足したのか、フッと笑って上半身を床に預ける。

 

キンジとアリアが近寄ってきて、ジャンヌに手錠をかけた。

 

「魔剣、逮捕よ」

 

「...ああ、もう、抗う力もない。私の、負けだ」

 

ジャンヌは負けを認め、逮捕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでアイツらがイチャついて俺がオメーを背負って上まで行かなきゃならんのだ」

 

ジャンヌを捕らえてからすぐ、星伽とキンジがイチャつき始め、アリアはジャンヌを持ち上げようとしたが出来ず、俺を呼んでジャンヌを地上まで運ばせるよう命令してきた。

 

「うん?...元の原因は、お前が私を吹き飛ばしたからだろう。手加減をしたらどうだ」

 

「悪ィがそりゃ無理だ。まだ俺にも手加減が効かない状態でな」

 

これは本当だ。あのスローモーは、まだON/OFFしか出来ない。アリアには段階別に出来る様にしろと言われたがまだそのラインに辿りつけていない。

 

「...お前は強い」

 

「いや、まだまだだ」

 

―そう、まだ俺は速くなれるはず。

 

「...お前を誘おうとはもう思わない。だが、お前のその速さ...いずれは本当に」

 

「分かってるよ。分かってるけど、俺にはこれしかないんだ。だから、これ一筋で行く」

 

「その先にあるのが、孤独で、茨の道でも、か?」

 

「ああそうだ」

 

「...やはり、お前は強いな」

 

俺の決意が揺らぎないモノだと知ると、ジャンヌは言った。

 

「何だと?」

 

「決めたぞ、冴島」

 

「何をだよ」

 

「司法取引で、この武偵高に来る」

 

「は?」

 

「そうしたら、お前を手伝おう」

 

「手伝う、って何を」

 

ジャンヌの意図が読めない。何を言いたいんだ。

 

「私がイ・ウーで磨いたものの一部、お前に使えそうな理論などを教える」

 

「いいのかよ?」

 

「構わん、敗者は勝者に従う。世の常だ」

 

これは、予期せぬ所でいい教師が手に入った。

 

「そりゃぁ、いい話だ。期待してんぜ」

 

「気の早い奴だ」

 

そんな事を話しながら、地上に付く。

 

既にパトカーが一台止まっていて、俺が近づくと敬礼をして、ジャンヌを連れて行く。

 

「待ってるぜ」

 

ジャンヌが乗り込む前に一言告げて、立ち去る。

 

 

 

 

 

こうして魔剣の引き起こした事件は未遂に終わり、俺は傷を増やして能力の応用を手に入れた。

 

だが、これで満足できるわけじゃない。段階別に出来る様にして、もっと体力をつける。ジャンヌを助けだしたあの一瞬、僅かにだが時間を伸ばせた。もっと訓練を積めば、15秒でも、20秒でも痛みを抑えて時間だけを伸ばせるはずだ。

 

痛みに耐えられるようにならないと、長期戦ができない。

 

課題の多くは、積まれたままである。

 

 

 

 

 

 

地下深くでやべーバトルをした後の夕日は、何時になく綺麗だった。




ヒロインはジャンヌで行きたいなぁと思っております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。