人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべーやつが宗教みたいな勧誘をしてきた

「よー、魔剣。アンタが女だとは思わなかったぜ」

 

「魔剣とはあまり呼ばないでほしいものだ、私の名はジャンヌ。ジャンヌ・ダルク30世だ」

 

ジャンヌ・ダルク?あのフランスの...農民の出だったっけか。でもたしか...

 

「あ?ジャンヌ・ダルクだと?そいつは焼かれて死んだんじゃねーのかよ、子孫がいるなんて聞いたことねぇぞ」

 

「死んだのは影武者。だが実際に火刑に処されかけたのも事実」

 

そう言いながらジャンヌは腕に何か、白いモヤのようなものを纏い始める。

 

―なんだ?

 

「だからこそ、この力を探求してきたのだ」

 

ジャンヌは腕を振るってモヤを消す。何をしたんだ?

 

「しかし、まさか一番乗りがお前だとはな...いや、ある意味予想通りではあったが」

 

「ああ、能力者同士の話合いなんだろ?俺も仲間に入れてくれよぉ~」

 

ニヤリと笑いながらジャンヌを見る。

 

「白雪だけ手に入ればよかったが...これは思わぬ物も持ち帰れそうだな」

 

「ジャンヌ!冴島くんに手を出さないで!」

 

どうやらジャンヌは俺も含めて連れ去るつもりらしい。

 

「おい、ジャンヌよォ。オメー勘違いしてねーか?」

 

「ほう?何をだ」

 

「なんでオメーが既に勝ったかのような口ぶりで話してんだ、まだ何も始まってねーだろ」

 

俺がそう言うとジャンヌは口に笑みを浮かべ

 

「確かに、あまり関わらなかったお前には分からんだろうな、私が既に多くの策を巡らせこの状況に至ったことに」

 

「何?」

 

「遠山とアリアの不仲も私が仕込んだことだ。予想以上に上手くいって驚いたが...だがな、私が最も嫌うのは『誤算』だ」

 

ジャンヌが現代に不相応な剣を握り直して持ち上げる。

 

剣の切っ先を俺に突きつけて言った。

 

「お前がその『誤算』の権化だ。アリアと遠山の不仲を互い互いの所で咎め、復縁をするよう説得し、いざ白雪が消えれば迅速な行動で周囲にそれを知らせていく...そして、その速さを以て単身ここに乗り込んできたことも、予想通りではあったが誤算だった」

 

「...」

 

「だが、都合がいい。一番戦闘能力の低いお前なら、時間を掛けずに斃せる。気絶したお前を引き摺るのは少々骨が折れるが何とかなるだろう」

 

ジャンヌが、構える。

 

「言っとくけどよォジャンヌ、勝ちを確信して驕るのはよくねーぜ」

 

俺もナイフを抜き、構えてジャンヌと向き合う。

 

「忠告痛み入る。だが、どうあれ結果は変わらん」

 

「けっ。そーかよ!」

 

全力でジャンヌの元に駆ける。姿勢を低くして突っ込む。

 

「フッ!」

 

ジャンヌが下方向から切り上げるような攻撃を放つ。それをナイフで受け止め、流す。

 

ぎゃりりりり、と金属同士の擦れ合う音が響く。

 

手首をスナップさせて、ジャンヌの剣を撥ね上げる。キィン、と甲高い音が弾けた。

 

「せいっ!」

 

その隙にもう片方の手でジャンヌの腹目掛けてボディーブローを打ち込む。

 

が、バックステップで避けられる。

 

距離を取ったジャンヌは再び剣を構え直して接近、横薙ぎの攻撃を仕掛けてきた。

 

「はぁッ!」

 

ブォン!

 

剣が風を切る音と共に迫る。ナイフの腹でそれを受け止める。

 

ベギンッ。

 

――え?

 

嫌な音がしたので、ナイフを見ると

 

「―折れたァ!?」

 

ナイフの刀身が綺麗になくなっていた。安物使ってたせいか!くそったれ!

 

「これは嬉しい誤算だなッ!はぁッ!」

 

ジャンヌが上段から剣を振り下ろす。ナイフの柄を投げ捨てて、横にローリングして回避する。

 

「我が剣は鋼鉄をも両断する魔剣。止められると思わんことだ」

 

―アンタさっき予想外とか言ってなかった?

 

しかし武装が無くなってしまった。剣相手に素手となるとかなり不利だ。

 

能力を使うか。加速して、蹴りをいれて終わらせよう。

 

「―来るか」

 

ジャンヌは俺の何かが変わったことに気づいたのか、剣の切っ先を正面に向けたまま、腕を引いて行く。あのまま突きを打つつもりだろう。

 

俺の蹴りか、オメーの突きか。どっちが速いか...勝負と

 

「いこうぜぇッ!」

 

世界が加速する。一気にジャンヌの目の前まで来て、蹴りを打つ。打とうとして。

 

ジャンヌが少し体を横に傾けた。

 

次の瞬間。

 

ジャンヌの背後からギラリ、と何かが光った。

 

その正体は、光。

 

暗闇に慣れた目に、外の夕焼けの光が突き刺さる。

 

――眩しいッ!

 

あまりの輝きに、目を細める。視界が点滅する。明暗がよく分からなくなる。

 

蹴りを打てずに、着地する。

 

顔をバッとあげると、上段で剣を構えたジャンヌがいた。

 

「これで終わりだな」

 

ジャンヌの振った剣の切っ先が迫る。予想よりも早く、俺に襲い掛かってきている!

 

バシンッ!

 

「...何!?」

 

ジャンヌの少し慌てた声が聞こえる。目がチカチカする。

 

「真剣白刃取りだと...」

 

今、俺の両手はジャンヌの剣を止めている。アリアとの訓練の中でやらされた、白刃取り。

 

―マジで使う機会が来るとは。

 

「形勢、逆転だな?」

 

と、言って足払いでジャンヌの体勢を崩そうかと思案していたところで。

 

―なんだ?

 

ジャンヌの剣を掴んでいる俺の両手...正確には剣に触れている掌が、異常に冷たい。

 

「形勢逆転だと?バカを言うな。確かに白刃取りは予想外だったが、結果は変わらん。過程が少し、複雑になった程度だ!!」

 

ジャンヌが止められた剣に力を入れていく。

 

ググッ グ、ググ、グッ!

 

手から、剣が滑り始めている。なんで、急に。

 

少し焦って、手に更に力を籠めるが、剣は此方に近づくばかりだ。

 

そして気付いた。

 

「水...!?」

 

手から、水が垂れていた。この水が、潤滑剤になっていたのか!

 

「ああ、そうだ。だが元々は冷気、お前の手は熱いのだな。すぐに溶けてくれたよ」

 

もう、3割ほど剣が抜けきっている。不味い、不味い、不味い!

 

――どうにか、しねーと!

 

「もう遅い!」

 

ジャンヌが更に力を籠め、剣を――振り抜いた。

 

咄嗟に後ろに飛び退くが、既に遅く。

 

ザシュウッ、と音がしてドタッと倒れ込む。

 

―ぐ、う、が、ぁ!

 

「あ、があああああッッッ!!!!!」

 

右目の、上瞼と下瞼を斬られた。肉がやや削げたが、眼球に刃は到達していないし、瞼もしっかり閉じれるから筋肉に傷は付いてないんだろう。

 

だが、血が溢れてくるし、焼けるような痛みが伝わる。

 

脳が警鐘を鳴らしている。汗が噴き出てくる。

 

「冴島くん!」

 

「―来る、なぁ!」

 

星伽が近寄ろうとするが、叫んで止めさせる。まだジャンヌはいる。

 

俺はまだ負けてない。

 

無事な左目でジャンヌを睨む。

 

「ほう、まだそれほどの胆力があるか」

 

「すぐにでも、その余裕そうなツラを歪めてやるぜ」

 

「威勢はいいが、その状態でどうするつもりだ」

 

「こう、するのさ!」

 

立ち上がって蹴りをいれようとするが、足が上がらない。

 

―な、に!?

 

「ふふふ、どうするんだ?」

 

ジャンヌが笑みを深めて聞いてくる。

 

足を見ると、この時期に、こんな場所には有り得ない氷が出来ていた。

 

氷が、地面と俺の足を固定している。

 

――これが、ジャンヌの超能力...!

 

「気付いたか、そうだ、そうだとも。私の能力は氷を操る。今のお前の状況も、その前のお前も、私の能力で追い詰めたのだ」

 

あの、光も。白刃取りの時も、今のこの状況も。最初から、負けていた...?

 

「光を運ぶのは簡単だった。今はちょうど夕方で、最も太陽の光が入り込みやすい角度だったのでな。気泡を多く含んだ氷の板を張らせて反射に反射を重ね、私の背後からお前にぶつけたのさ」

 

ジャンヌは得意そうに笑う。

 

「白刃取りは少し焦ったが、何も問題はない。先ほど説明したが私の剣を一部凍らせた。あとはお前の手の熱で溶けて水になる。水になれば潤滑剤になる」

 

ジャンヌは勝ちを確信しているのか、剣を地面に立てて此方を見下ろしてくる。

 

「気絶させるつもりだったが、気が変わった。冴島、お前の能力は素晴らしいものだ」

 

「...勧誘、か、よ...!」

 

「お前の能力は未知数だ、限界が見えない。お前の速さには誰も追いつけない。今はまだ良い、お前が一人走っていってもお前の通った道を辿って誰かが追いついてくれる」

 

ジャンヌは目に同情の色を映しながら、優し気に語り掛けてくる。

 

「だがな?お前のその速さが将来、もっと進化したとしよう。お前はその速さを以て駆け抜け続けるだろう。だが、だが。そのお前に誰が付いてくる」

 

ジャンヌは腰を落とし、俺の肩に手を置いて真剣な眼差しで聞いてくる。

 

「今はまだ後ろを振り返ればお前を追いかけてくる者がいるだろう。だがもっと速くなった時、後ろを振り返ってみろ。誰もいない、お前一人しかいない」

 

「お前は孤独だ、お前の能力は世界すら置いて行く。お前は如何し様もなく一人になってしまう能力なのだ」

 

ジャンヌが、心を折りに来ている。考えないようにしていた事を言われ、ヒビが入っていく。

 

―やめろ。やめてくれ。

 

「お前は誰よりも速く駆け、誰よりも速くその命を燃やし、誰よりも速く散っていく。そして、それを知覚出来る者はその時、その場にいるのだろうか」

 

「お前の隣に立っている者は誰もいない。ああ、なんて―なんて孤独なのだろうか」

 

俺の表情を見て、ジャンヌは少し憂いを帯びた優しい笑顔を向けてくる。

 

「だが、大丈夫だ。イ・ウーなら、お前が孤独になることはない」

 

「...」

 

「イ・ウーには私や理子のような能力者もいる。お前の能力ならば間違いなくイ・ウーに来れる」

 

「...俺が、イ・ウー...に?」

 

「ああ、イ・ウーなら、お前の隣に並ぶ者どころかお前の先に立ち導いてくれる者もいるだろう」

 

だから、イ・ウーに来ないか。とジャンヌは言った。

 

どこまでも優し気な言葉で、俺に言った。

 

―俺は、俺は...俺は―――

 

 

「本当に、一人にならないのか...?」

 

「冴島くん!?ダメ!」

 

「フッ.....ああ、約束しよう。お前を一人にはしない」

 

「俺の隣に、誰かがいるのか?ついてきて、くれるのか...?」

 

「ああ、そうだ。だから、私についてこい」

 

ジャンヌは手を差し伸べてくる。

 

俺はその手を――

 

 

 

 

 

「―だが、断る」

 

 

 

パシッと振り払った。

 

 

 

 

「何!?」

 

ジャンヌはさっきの態度とは一転、慌てた表情になる。

 

―ようやくだ、ようやく。

 

「やっと、そのツラを拝めたぜ。マジに予想外、ってカンジのな」

 

血は止まったが、痛みはまだ続いてる右目を閉じたままジャンヌを睨む。

 

「なぜ、なぜだ...!?お前の心は、完全に折れたはずじゃ...」

 

「バカ言ってんじゃねぇ」

 

「なんだと!?」

 

「俺の隣に誰かが居る必要はねぇ、後ろに誰も居なくたって構わねぇ」

 

何処からか足音が聞こえてくる。

 

「俺は1秒前の俺よりも速くなる。俺の隣にいて、俺を追い越して先に行くのは」

 

足音が近づいてくる。複数人いるようだ。

 

「―未来の俺だけだ」

 

「白雪、隼人!無事か!?」

 

「見つけたわよ魔剣!ここで逮捕してやる!」

 

飛び込んできたのは、アリアとキンジだった。

 

それを見て、またジャンヌを見る。さっきよりも苦い顔をしている。

 

「それに、今は、今はまだこうやって、追いついてきてくれる人たちがいる」

 

――それだけで、俺は十分だよ

 

 

 

 

宗教みたいなやべー勧誘をされた。


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