チビでピンクのやべーやつ
「あ~!終わったぁ!不知火、武藤!飯、飯いこーぜ!」
「うん、行こうか」
「おうよ、席空いてるといいな」
あれからキンジとアリアの仲が良くなって、星伽とキンジがやや疎遠になった。
それ以外に変わったことはなく、その日常は平和そのものだった。
不知火、武藤と共に食堂に入りハンバーグ定食を注文する。
「はい、お待ち。ご飯とサラダ、大盛にしといたからね」
「おばちゃんありがと!」
おばちゃんはニカッと笑うと次の注文を受けて奥へ消えていった。
「おし、行くか。相変わらず混んでんなぁ」
辺りをグルリと見るが席はだいたい埋まっている。
「あ、遠山くんと神崎さんじゃない?」
不知火がキンジたちを見つけたみたいだ。
「ちょうどいいや、相席させてもらおーぜ」
「うん、でも聞いてみないとね」
そう言いながら不知火はキンジたちの方へ真っ直ぐ向かっていく。
俺と武藤もそのあとに続く。
「やぁ、遠山くん、神崎さん。ここ、いいかな?」
「おう、スペースあけるから待ってろ」
キンジがテーブルの上にあった物をどかし、スペースを作る。
武藤がキンジのトレイを押しのけるようにして割り込む。不知火と俺が空いたスペースにトレイを置いて、昼飯を食い始める。
「おう、聞いたぜキンジ。お前白雪さんと喧嘩したんだって?」
「うげ、もう広まってんのか」
キンジは心底嫌そうな顔をしながら溜息を吐く。
「まー別になんだっていいだろうよ、んぐ、んぐ。キンジと星伽だ、どうせ何時の間にか仲直りしてらぁ」
痴話喧嘩に興味はないので話もそこそこにハンバーグ定食にがっつく。
「なんだそりゃ。そういや不知火、お前アドシアードはどうすんだ。代表かなんかに選ばれてるんじゃないのか?」
アドシアード――簡単に言えば武偵高校のインターハイ。年に一度開催される競技会で、武偵たちが自身の技を掛けて競い合う祭典。と言えば聞こえはいいがやってることはおっかないの一言に尽きる。
「うーん、補欠だから競技には出ないと思うよ」
「じゃあヘルプか、何か1つはやらなきゃダメなんだろうし、何にするんだ?」
「それがまだでね、何しようかってところなんだ」
不知火はあはは、と笑った後に溜息を吐く。
「アリアはどうすんだ、アドシアード」
武藤が焼きそばパンを食いながらアリアに話しかける。
「あたしはチアだけやるわ」
「チア...ああ、アル=カタの」
アル=カタ。ナイフと拳銃を組み合わせた近接格闘。その動きの演武をチアと呼ぶ。
「キンジ、男子はバックでバンドでしょ。アンタも出なさい」
パートナーなんだから、と言いながらキンジを見るアリア。
「あ、ああ...音楽か。それにするか」
「音楽かぁ、それもよさそうだね、僕もやろうかな。冴島君も武藤君も、一緒にやろうよ」
「バンドかぁ、カッコよさそうだし俺もやるか!」
「お、いいねぇ」
ギターは得意だぜ、任しとけ。
そんなこんなでアドシアードの方向性が決まったところで、アリアがやべーことを言いだした。
「キンジ、アンタの調教をするわ」
それとハヤトの面倒も見るわ、と。
顔がサッと青くなる。バッと武藤と不知火の顔を見ると若干引いている。
「そ、そういう遊びしてんのか?やべーなお前ら...」
「あ、あはは...」
キンジは気にしてないのか、調教ってどういうことだ?なんて聞いてやがる。
「とりあえず訓練よ、キンジは明日から毎日一緒に朝練よ」
「アリア、俺ぁどーすんだ」
「ハヤトはまず基本を覚える必要があるわ」
「基本だぁ?なんのだよ」
「格闘の基本よ。アンタ、理子相手に一方的に殴られたって言ってたわね」
「おう」
「ふーん。そうね、まずはあたしと直接組み合う。それでアンタの動きがどれくらいかを見て適切な訓練をさせるわ」
うへぁ、アリアとバトるのか、ヤバそうだな。
そんな話をしながら、解散した。
放課後。
「で、マジにやるのか、アリア」
「当たり前じゃない。アンタの腕前を見せてもらわなきゃ、指示することもできないわ」
場所は強襲科のアリーナ。
強襲科主任の蘭豹が自前のModel500をチラつかせながら強襲科の生徒たちを脅している。
周りには見物人が少なからず集まっており、その数は時間が経つに連れて増すばかりだ。
「はぁー、マジかぁ...」
「いい加減シャキッとしなさい。情けないわよ」
「ああ、へいへい」
スッとファイティングポーズを取り、足を開き、片足を後ろに下げる。
それを確認してアリアも構えを取る。
「それじゃあ、いくわよ」
アリアが空の薬莢を上に放り投げる。くるくると回りながら落下を開始する。
カツン、と薬莢が地面に落ちた。
次の瞬間。
「―ッ!」
アリアが素早く距離を詰めてくる。
「シィッ!」
バッと軽く横薙ぎの蹴りを放つ。
アリアは腕でそれを受け止めた。と、思ったら
「お、おお!?」
もう片方の腕で、下から打ち上げるように掌底をしてきた。
足が大きく浮く。
「たあっ!」
そして、スライディングをするようにして、足元に滑り込み、俺の軸足を払ってきた。
「フッ!」
わざと足を払われ、宙に浮く。そのままアリアに打ち上げられた方の足を、体を回転させて、叩きつけるように振り込む。
アリアが横に転がってそれを避ける。そしてすぐさま飛び掛かってくる。
地面に体を横にしたような状態になっている俺は、すぐにブリッジをしてそのまま勢いをつけて足をグアッと持ち上げる。
理子との闘いでその場しのぎに使った仕切り直しの動き。
アリアはそれにいち早く対応すると、両腕をクロスさせて顎を守っていた。
このままだとアリアの腕に拘束されるので、足を折りたたみ、屈伸の体勢になってグルリと後転。
更に畳んだ足を延ばし、バック転。
ズダン、と着地して顔を上げるとアリアが目の前に迫っていた。
「うっそだろ!」
「ていっ!」
アリアは何度か左右に体を大きく動かし接近してくる。
その動きに対応できずにいると、あっという間に懐に入られ―
「っやあ!」
視界が反転した。
投げられた!?冗談だろ!
急いで受け身を取る。衝撃が強く、反射的に目を閉じてしまう。
目を開けて状況を確認しようとしたら、目の前に足があった。
「―お」
グルっと横に転がり、踵落としを回避する。が。
ガスッ!
「ぐぇっぶ!」
アリアは転がった俺の顔をサッカーボールを蹴るように思いっきり蹴りつけた。
いってぇ、鼻が...
そして、二度目。今度はやられないように、顔に両腕をクロスさせ防ぐ。
ドグボッ
蹴られたのは、腹。
「―う、ぐぇ」
息が漏れる。苦しい―、痛い。
そのまま、3度目の蹴りがくる。
「オラぁ!」
アリアが振り抜こうとした足に合わせて、脛にパンチを叩き込む。
ガッ!
「いっ」
「シャアッ!」
出来た隙を無駄にせず、上半身を起こしてアリアの両足を掴み、一気に引いて、持ち上げる。
そのまま地面に叩きつけようとしたところで、アリアの両腕が腰をホールドする。
「はなせぇッ!」
「いやよっ!」
アリアが足に力を籠め、思いっきり振るう。拘束が外れてアリアの足が自由になった。
そのまま振った勢いで顔に2度蹴りをして、そのまま首に足を絡め、腰をホールドしていた腕を放して上半身を俺の頭の上に持ってくる。
ギチギチと首を締めあげられる。ヘッドロックってやつか...!
ご褒美とか言うやつがいるがこれのどこがご褒美だ。
「ぐっヒュッ...」
息ができずに苦しい。
両腕で、アリアの顔を掴もうとしたが、それもアリアの両腕で防がれる。
クソッ。
力任せに両腕を振り払ったはいいが、変に力んだせいで更に呼吸がし辛くなる。
「え゛、あ゛」
アリアの片足を何とか掴み、そのまま前転する。
「!?」
アリアは上半身を丸くして、俺の前転に合わせて転がり込んだ。
―ここで、やってやらぁ!
前転が終わる前にアリアの腹に頭をめり込ませる形で倒立をする。
「ぐ!?」
アリアの足の拘束が、若干甘くなる。
そして、倒立をしたことで、下半身には勢いがついており、その勢いにつれられて上半身も持ち上がる。
拘束が緩くなったことと合わさって、なんとかヘッドロックから逃れる。
倒立したまま、体を横に振って側転をする。側転を2回ほどして、最後に捻りを加え体の正面をアリアの方へ向ける。
アリアはすぐに立ち上がり、また此方へ走ってくる。
構えて、パンチを数発。
ビュンッ!ビシュッ!と、風切り音が鳴るばかりでアリアに当たらない。
「―シィッ!」
アリアがまた懐に潜り込もうとしてきたので、真っ直ぐの蹴りを放つ。
だがアリアは、俺の伸びきった足に飛び乗って、また跳躍して俺の顔面に狙いを定めている。
―オメーは猿か!?
そのまま膝蹴りを貰い、ぶっ飛ばされた。
「まぁ、こんなもんか」
と、何処か納得したようなアリアの声が聞こえた。
チビでピンクのやべーやつはマジでやべー。
なんとなく分かってた人もいるかもしれませんがオリ主は格闘能力が低いです。
身体能力はいいんですけどね。