多々良小傘の感情模様   作:SunoA

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こういったお話は書いてて楽しいです。




第1話〜出会いと憂い〜

「お腹すいたなぁ………」

 

1人夜道を歩きながらそんな言葉が溢れる。

唐傘おばけの私は心を食べる妖怪だ。人を驚かせて、その驚いた心を食料として食べている。しかし最近人間を見かけないせいで脅かす事が出来ない。その際で私のお腹は満たされないでいる。

いっそのこと人里まで出向いてみようか。でももしそれで騒ぎになったりでもしたら退治され兼ねない。妖怪の私は人間とは相容れない、恐れられる存在。私は妖怪であっても強い妖怪ではない。とてもじゃないが博麗の巫女に太刀打ち出来るほどの妖力なんて持ち合わせていない。

 

「ん?」

 

ふと視界に一軒の家が映った。人里の外れにポツンと立っているお世辞にも綺麗とは言えないような家。まだ明かりが点いてないところを見ると家主は帰ってきてない模様。いや、そもそも人が住んでるのかも怪しい。でももし誰か住んでるとしたら……

 

つい口元が緩む。

 

人里の外れにあるここでならもし騒ぎになってもすぐに逃げられる。そして家主を驚かせれば私のお腹を満たされる。完璧だ!

そう思った私は足早にその家に向かうのだった。

 

「お邪魔しまーすっと…」

 

玄関の鍵はかかってなかった。随分と不用心なんだね。まぁ私としては手間が省けるからありがたいんだけど。

部屋の中は6畳程の畳の和室に卓袱台とタンス、押入れがあるだけのシンプルな物だった。良かった、取り敢えず人は住んでるっぽい。

取り敢えず何処か隠れられそうな場所はないかと探してみる。シンプルなだけに隠れられる場所は限られてくる。少なくとも部屋に隠れるのはちょっときつそう。となると……

 

「屋根裏しかないかなぁ………」

 

服が汚れそうだからあまり入りたくはないがこの際仕方ない。そうして屋根裏に潜り込んだ私は家主の帰りを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

--------------

 

「これでよしっと……」

 

店の戸締りをして帰路に着く。今日は新しい珈琲の試作に夢中になってしまい帰りが随分遅くなってしまった。

熱中するとつい時間を忘れてしまうのは俺の悪い癖だな。なんとか直さないと。

ポケットから煙草を取り出し、咥えて火をつける。暗い夜道に煙草の火が小さく光った。にしてもこの辺りは本当に暗いな。街灯くらいつけてくれてもいいのに。

まぁこんな時間にこんな道を通るのなんて俺くらいのもんだけども。

 

歩くこと10数分、漸く家に着いた。たった10数分なのに暗い夜道では永遠に感じるかのように長く感じた。

 

「ただいまーっと」

 

返事が帰ってくることも無く静寂が続く。まぁ一人暮らしなんだし当然なんだけど。それでも、挨拶は一応したくなるものだ。とは言えやっぱり少し寂しく感じるのも事実だけどね。

部屋の明かりをつけて荷物を下ろす。今日はもう夕飯はいいかな。それよりも早く寝たい。そう思って布団を出そうとした時だった。

 

「わぁ!!!」

 

そんな声と共に天井を突き破って1人の少女が目の前に降ってきた。

 

「どう!?驚いた!?驚いた!?」

 

目を輝かせて、身を乗り出しながらその少女が聞いてくる。確かに少し驚いた。いきなり天井を突き破って見知らぬ少女が降ってきたら誰でも驚くと思う。だがそれはそれとして、だ。取り敢えず少女にデコピンした。

 

「痛ったぁ!!」

 

少女がおでこをおさえて倒れる。

 

「何すんのさ!!」

 

「いや、何すんのはこっちの台詞だよ」

 

怒りを抑えてあくまで冷静に言う。

 

「何してくれてるの君。見て、この天井。壊れちゃってるよね?なんでこんなことしたの?後なんで勝手に家入ってるの?いけないことだってわかるよね?」

 

「え、あっ、その………」

 

「何?言いたいことがあるならはっきり言おうか」

 

「…………ごめんなさい」

 

俯きながら少女が言う。半分涙声で。

しまった、ちょっと責め立て過ぎちゃったか。少女を泣かせてしまったという罪悪感に襲われる。おかしいな、俺は悪くないはずなのに。

 

「ごめんごめん、いきなり責め過ぎちゃったね。取り敢えず君の名前を聞いてもいいかな?」

 

「…………多々良小傘」

 

小傘ちゃんね。よし、取り敢えず名前は覚えた。赤と青の綺麗なオッドアイの瞳にはまだ涙を浮かべている。そのせいで何か凄い悪い事をしてる気分になる。

 

「じゃあなんでこんなことしたのか教えてくれるかな?」

 

取り敢えず理由を聞いてみよう。何か特別な事情があるのかもしれない。

 

「………驚かせたかったから」

 

よしよしなるほど、驚かせたかったのね。とするとこの子は人里のいたずらっ子とかそんな感じかな?とはいえそこにどんな事情があるのだろうか。

 

「なんで驚かせたかったの?」

 

「……………お腹が空いたから」

 

あかん、さっぱりわからん。お腹が空いたから驚かせるってどう言うことだ。驚かせたって腹は膨れんだろうに。

 

「驚かすとお腹が膨れるの?」

 

「私は人の心を食べる妖怪だから……」

 

ん、妖怪?この子は妖怪なのか?この少女が?

 

「え、君妖怪なの?」

 

小傘ちゃんがコクンと頷く。

 

これまた随分と可愛い妖怪がいたんだね。妖怪っていうともっと凄い化物みたいなのを想像してたんだけど。こういう種類もいるってことか。まぁ取り敢えず事情は理解した。

 

「なるほどね、じゃあ取り敢えずこれ片付けるの手伝ってくれる?」

 

散らかった天井の破片を指差す。今更だけどこんな状態じゃ落ち着いて話も出来ないしね。

そう言うと小傘ちゃんはこちらを見て目を丸くした。あれ、何かおかしなことでも言ったかな?

 

「…………怖くないの?」

 

「何が?」

 

「私のこと」

 

私のこと?それは妖怪がということだろうか。そりゃあ毛むくじゃらのでかい妖怪とか人を喰らう妖怪とかなら怖いだろうけど……

 

「別に怖くないよ?」

 

どうみても少女にしか見えないこの子を怖がる理由なんて微塵もない。

 

「……妖怪なのに?」

 

「別に小傘ちゃんは脅かすだけで人を食べたりはしないでしょ?」

 

「うん」

 

「だったら別に怖くなんてないよ」

 

これが俺の本心。害のない妖怪なら別に怖がる必要なんて無いと思う。

 

「そっか……………」

 

そう呟いた小傘ちゃんは何処か嬉しそうにみえた。

 

「じゃあ片付けるの手伝ってくれる?」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

--------------

 

変わった人間だと思った。

少なくとも私が初めて会うタイプの人間であることは間違いない。

私が飛び出した時もいきなりデコピンしてくるし、説教してくるし、何より妖怪の私を怖くないなんて言い放った。その目からは嘘偽りなんて微塵も感じられない。綺麗な透き通った目。

取り敢えず掃除の後に色々彼に聞いてみることにした。

 

「貴方はここで1人で暮らしてるの?」

 

「うん、そうだね」

 

そっか一人暮らしか。家族はいないのかな?

 

「仕事はしてるの?」

 

「一応喫茶店を経営してるかな」

 

「きっさてん?」

 

なんだろうかそれは。聞いたことのない言葉だ。

 

「まぁ洋風の茶飲み屋みたいなもんだよ」

 

なるほど、茶飲み屋ね。

 

「そいや小傘ちゃんは家に帰らなくていいの?」

 

「私はいつもフラフラしてるから、住処とかはないよ」

 

「ありゃ、そうだったか。なら色々と不便なんじゃない?」

 

「そうだね、確かに不便かも。でももうその心配はないわ」

 

「心配はない?なんで?」

 

「これからここに住むことに決めたからよ」

 

「おい、なんでだよ」

 

彼が私の言葉を聞いて狼狽える。

 

「貴方の心食べ損ねちゃったし。妖怪の私が人間に泣かされただけって悔しいじゃない」

 

とにかく私はこの人間に興味が湧いた。もっとこの人間のことを知りたいと思った。

 

「いやでも……」

 

「それとも身寄りのない女の子を泣かせた上に追い出すの?」

 

「うっ…………」

 

少し意地悪をしてみる。この人間が私が泣いた時に少し申し訳なさそうな顔をしたことを見逃してない。こう言えば多分折れてくれる。

 

「…………わかったよ、好きにしてくれ」

 

やっぱり折れてくれた。ちょろいちょろい♪

 

「あ、そう言えばまだ名前聞いてない」

 

「そいやそうだったな。俺の名前は雪だよ」

 

雪か。うん、いい名前だね。彼に合ってると思う。

 

「じゃあこれからよろしくね、雪」

 

「あぁ、よろしく小傘」

 

今度こそこの人間を驚かせてやろう。今度こそ心を食べてやろう。そんな考えを胸に抱きながら、私は雪と握手を交わした。




雪は22歳の喫茶店を経営してる青年という設定です。

喫茶店の理由は自分が珈琲や紅茶が好きだからです。

それではまた次回お会いしましょう。

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