有無を言わさず手に入れてしまったら?
その答えを己で見つけねばならない。
鈴が転校してきてから数週間が経ち、クラス代表戦の話題で持ちきりになっていた。
一組のクラス代表はセシリアが勤めているが、他のクラスはまだ明確は分かっていない。
「クラス代表戦か、見に行ってみるかな」
「鏡夜兄もセシリアの応援に行くのか?」
「いや、俺は純粋にISの戦いってのを見たいだけだって」
「そっか。それとさ鏡夜兄、相談したい事があるから放課後に中庭に来てくれないか?」
「今じゃなくてか?」
「ああ、放課後にさ。頼むよ」
「わかった」
一夏との会話を終えると鏡夜はアリーナへと向かう、話題となっているクラス代表戦の当日であり、試合を観戦する為に向かって行く。
アリーナ内部ではクラス代表の戦いを観ようと最上級生である三年生から、新入生に当たる一年生まで集結している。
第一試合は一年生のクラス代表同士の戦いである。男性操縦者二人が所属する一組と鈴が所属する二組の対決だ。
戦場に出て対峙しているのは一組の代表であるセシリアと二組の代表となった鈴だ。
二人の目には紛れもない闘志が宿っているが鈴の目には戦えるという喜びが、セシリアの目には全力で戦うという決意がある。
「アンタが一組代表の?」
「はい、セシリア・オルコットと申します。以後、お見知りおきを」
「二組の代表、凰鈴音よ」
「存じていますわ、男性のお二人に挨拶していた時に名前を言っていたでしょう?」
「そういえばそうね」
セシリアは鈴から鏡夜と似た感覚を抱いていた。鏡夜とは違ってはいるものの根本的な物が同じだ。鈴の左腕のネオアマゾンレジスターもそれを示している。
「私は今、甲龍を展開してるけどもう一つ機体があるの、どちらと戦いたい?」
「!そのもう一つの機体というのは全身装甲の?」
「その通りよ!でも、どうして分かったの?」
「わたくしは鏡夜さんと一度戦った事がありますので、もしやと思っただけですわ」
セシリアの返答に鈴はなるほど、と口にし笑みを浮かべた。
「それで、どっちにする?」
「全身装甲の方と全力で戦いたいですわ!」
「わかったわ。でも、怪我しても文句は無しよ。いい?」
「当然ですわ」
二人の会話が進む度に試合時間は刻一刻と迫ってくる。鈴はピットからの出撃の為に展開していた甲龍を解除し、ネオアマゾンレジスターに手をかけスイッチを押した。
「アマゾン・・・!」
僅かな衝撃波が起こり、鈴はクジャクアマゾンへと姿を変える。その姿にセシリアも観客席の生徒達も驚くが、鏡夜という前例がある為に全身装甲へ変身するのは見慣れている様子だ。
「アマゾンという言葉は共通ですのね、詳しく知りたくなってきましたが今は試合に集中しませんと」
「ケアアアアアアア!!」
試合開始のブザーと共にクジャクアマゾンは素早い動きでセシリアのブルー・ティアーズに接近してくる。その速さは対峙している相手からすれば驚異的なものに映るだろう。
「鏡夜さんと同等のスピード、ですが今のわたくしには恐れるものではありませんわ!」
たった一度ではあったが鏡夜との戦い以降、セシリアは一人でひっそりと動体視力を鍛える訓練を行っていた。
コンピュータープログラムによるものだが、セシリアは訓練を続けており、その成果が現れているのかアマゾンの早さが今のセシリアには遅く見えている。
「そこですわ!」
得意とするライフル射撃をクジャクアマゾンに向けて放つ。その一撃は鏡夜と戦った時以上に正確さが増している。
「ガアアア!ヤル、ジャナイ!」
「まだまだ、こんなものではなくてよ!行きなさい!ティアーズ!」
ブルー・ティアーズ特有のビットを展開し空間攻撃を仕掛け、クジャクアマゾンを追い込んでいく。しかし、クジャクアマゾンは己の羽根をボウガンのように発射し、セシリアを直接狙ってきたのだ。
「!くっ!あの羽根、攻撃にも使えるんですの!?」
「ビットノコウゲキハ、ソウジュウシャヲネラッテ、シュウチュウリョクをミダセバイイノヨ!」
鈴の本来の声が濁っているかのような声でクジャクアマゾンはビットの対策を口にする。
アマゾン態になっていても中国の代表候補生である鈴は相手への対策を怠っていなかったのだ。
「流石は中国の代表候補生、ビットの弱点を読んでいますわね。それでも」
「アタシダッテ!ゼッタイニ!!」
「負けませんわ!」
「マケナイワヨ!」
試合が白熱しかけたその時、アリーナの天井とバリアの上部分が破壊され、そこから何かが飛来してきた。
一体は機械でISのような何かだが、もう一体、いや正確には三体だが女性のようで人間のようではあるようだが様子がおかしかった。
「クウウウアアアアア!!」
「食べたい・・・食べタイ、タベタイ!!
「キイアアア!」
三人は奇声や食欲に関することを口にしながら、水蒸気のようなものを全身から出しその姿を変えた。
「っ!アマゾン!」
「あれが?」
「セシリア、ニゲテ!喰ワレル前二!」
「ど、どういう事ですの!?鈴さん!」
クジャクアマゾンに逃げろと促され、セシリアは混乱していた。突然逃げろと言われても当然の事だろう。
「アノ三体ハ、人間ヲ好ンデ喰ウノヨ!今、一番狙ワレテイルノハ、セシリア!アンタナノ!」
「なっ!?」
「カアアア!!」
「!!」
セシリアを襲おうとした一体のアマゾンの動きをクジャクアマゾンが羽交い締めにして止めると再び口を開いた。
「速ク、逃ゲテ!!セシリア!」
「わ、わかりましたわ!」
セシリアは急いでピット内部へと離脱したが、突然の出来事に生徒達はパニックを起こしていた。
「ハッ!イヤァ!」
「カカカカ!」
「アグッ!?」
三体のアマゾン相手にクジャクアマゾンは苦戦していた。数で勝り、飢えている三体のアマゾンの攻撃に反撃の隙が見当たらない為だ。
その様子を一夏と鏡夜は見ていたが、一夏が突っ走りそうになっているのを鏡夜が押さえている。
「鏡夜兄!離してくれ!!俺は鈴を助けに行くんだ!!」
「少しは冷静になれ、今飛び出して行っても喰われるだけだぞ?前に言った事を覚えてないのかい?奴らは人間が好物なんだ、だから鈴はセシリアを真っ先に逃がしたんだぞ」
「それでもだ!いいから離してくれよ!じゃないと鈴が!!」
「いい加減にしろ、何度も同じ事を言わせる気か?一夏」
冷静でいて怒気を含んだ鏡夜の声に一夏は怯んで暴れるのを止めてしまった。感情に任せず冷静に怒りを見せられれば誰でも恐怖するだろう。
「人間を襲うピラニアの群れがいる水の中に自ら飛び込もうとはしないだろう?今アリーナの中に入るって事ははそれと同じなんだから」
「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ!」
「アマゾンを俺と鈴が狩った後にあのISみたいな機械の相手を任せる。それならお前も戦えるだろう?っと、鈴がマズイな!先に行くぞ、アマゾンを狩った後にすぐに来い!一夏!」
「あ、鏡夜兄!」
鏡夜はISを展開すると破られたバリアの場所からアリーナ内部へと侵入し、鈴の傍へ着地した。
「きょ、鏡夜・・・」
クジャクアマゾンの姿から元の鈴の姿に戻ってしまっており、身体もふらついている様子を見た鏡夜は隠し持つのが常となっているゆで卵を取り出した。
「鈴、足りないだろうけど喰っとけよ。多少はマシになるだろ」
取り出したゆで卵を鈴に投げ渡し、自分の分のゆで卵も取り出すとアマゾンズドライバーも同時に取り出し殻を剥くために二、三回ゆで卵を軽くぶつける。
その間に鈴はキレイに殻を剥き終えて、ゆで卵をすぐに口の中へと入れて食べ始めた。
「んぐんぐ・・・んっ、ありがとう鏡夜」
「大した事じゃないって、さて・・・今回は大真面目に取り掛からないとな」
鏡夜自身もゆで卵を食べ終えるとアマゾンズドライバーを腰に巻き、待機状態にした。
鈴は再びネオアマゾンズレジスターに手をかけ、準備万端といった様子だ。
「行くか、鈴」
「ええ!」
「うおおおおっ!アマゾンッ!!」
「アマゾン・・・!」
緑色の衝撃波に追従するように弱めの衝撃波も発生し、三体のアマゾンは怯み、ISのような物は危険アラートを鳴らしている。
「ウアアアア!!」
そこにいるのはとツリ目の複眼が特徴的な仮面ライダーアマゾンオメガと再び変身したクジャクアマゾンであった。だが、オメガの左側の複眼が白くなっている。
「鈴、左側のサポートを任せた。あんまり見えないからな」
「エエ、マカセテ!」
三体のうちの一体のアマゾンがオメガの顔を殴り、それを受けたオメガは腕を掴むと自分を殴ったアマゾンをそのままもう片方の拳で殴った。
「ウエアアアアアアア!」
「カカカカ!」
オメガは殴りかかったアマゾンを殴り続け、そのまま取り押さえるように押し倒し、腕を締め上げる。
実際は締め上げているのではなく、肘から下を上に向かせて引っ張り上げており、アマゾンの腕からは骨が軋みを上げ、肉が千切れる音がし始めている。
「ウオオオアアアアア!!」
叫び声をあげながらオメガは自分に殴りかかってきたアマゾンの腕を引きちぎる。その腕からは血の代わりに黒い粘液のようなものが吹き出し、そのまま形を崩していった。
「クアアア!」
クジャクアマゾンも自分の羽根を短刀のように扱い、別のアマゾンを追い込んでいる。素早さを活かした接近戦を仕掛け、関節部分に羽根を突き刺していく。
「ガグガアア!」
四肢の関節を貫かれたもう一体のアマゾンはそのままアリーナの地面に倒れかけるがそれを待っていたかのように背後へ回り込み、腹部を腕で貫き、引き抜いた。
腹部を貫かれたアマゾンも黒い粘液のへと姿を変えていき、赤く表示されているアマゾンレジスターだけが残った。
「ウオアアアアア!」
最後の一体もオメガに左胸を貫かれ、赤く光るアマゾンとしての心臓である核を引き抜かれていた。まるで鼓動しているかのように赤い光が点滅している。
「気持ち悪いな・・・ふんっ!」
引き抜いた核を握りつぶし、しばらくすると倒した二匹のアマゾンのように最後の一匹も黒い粘液となって消滅した。
「さて、残りは・・・!」
「アイツ、ダケネ!」
自律型のようなISは迎撃態勢になっているが、警戒しているのか自分から戦闘を仕掛けてこようとしていない。
それを見たオメガとクジャクアマゾンはゆっくりと構えを取ると、何かを待つようにその場で静止した。
◇
「う・・・うぐええええ!げええっ!!」
観客席からオメガとクジャクアマゾンの戦いを見ていた一夏だったが、敵アマゾンに対して止めを刺す瞬間を見てしまい、その場で嘔吐した。
無理もないだろう、アマゾンとは言えども人の形をした物の腕が引きちぎられた瞬間や、腹部を貫かれた瞬間、更には心臓に値する部分を握りつぶす所を続けて見ていたのだから。
一般的な感覚を持ち合わせていれば嘔吐しないほうがおかしいのだ。
「はぁ・・はぁ・・俺も、行かな・・・きゃ」
嘔吐した口元を拭い、白式を展開すると、鏡夜と同じ方法でアリーナへと入る。それを待っていたのかのようにオメガとクジャクアマゾンは一夏に視線を向ける。
「遅いぞ一夏、まぁ・・その様子じゃ仕方ないか」
「うう・・・」
「ソンナ事ヨリモ、アレヨ」
一夏の様子を見ていた鏡夜を注意するようにクジャクアマゾンが声を掛ける。目の前にはまだ敵がいるのだ。
「一夏、俺と鈴で足止めをする。お前が倒せ」
「ああ、わかった!!」
「ウオオオオ!」
「!」
オメガとクジャクアマゾンは所属不明のISに向かって行く、しかし二人の攻撃を捌き逆に押し返し吹き飛ばした。
「ウガアアアアア!」
「ガハッ!?」
「鏡夜兄!鈴!!くそおおおお!」
一夏も向かっていくが相手は機械、正確さにおいては人間以上であるため一夏の一撃は先に向かった二人以上に簡単に捌かれてしまう。
「うあああ!ぐ、くっ!」
三人が苦戦している中、突如としてアリーナ全体に放送が響き渡る。
『一夏ァ!』
「!????」
『男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!』
「!ナニヲシテルノ!?アイツハ!」
その放送を行った声の正体は箒であった。敵を倒せない一夏に対して激を飛ばしているつもりだろうが、敵からすれば狙って下さいと言っているようなものだ。
所属不明のISは標的を変えて放送室を狙うために移動してしまった。
「あ!行っちゃった!!」
「箒ィィィ!」
「ああ、もう!叫んでる暇があったら動けって!!」
鏡夜はアマゾンズドライバーのアクセラーグリップの左側を捻り、必殺コードを起動した。
「ウオオオオアアア!!」
助走の勢いを利用した飛び蹴りを所属不明のISに打ち込み、放送室を襲うはずだった攻撃を機能が生きているバリア部分へ逸らすことに成功した。
視界を半分失っている状態で攻撃を逸らす事が出来ただけでも儲け物だろう。
そのままオメガはISの右腕に組み付き、押さえ込む。クジャクアマゾンも素早さを活かして左腕に飛びつき、押さえ込んだ。
「イチカ!イマヨ!!」
「お、おう!はあああああ!!」
一夏はクジャクアマゾンに催促され、正体不明のISに対し
オメガとクジャクアマゾンもすぐに離れ、両脇に待機する。火花が出ているが射撃をクジャクアマゾンに対し放ってくるが素早く動き回る為に当たる気配はない。
「こっちも構って欲しいな!一夏!斬ったら刀をすぐに回収しろ!」
「え?あ、あ・・わかった!」
オメガは再びアマゾンズドライバーのアクセラーグリップの左側を再び捻り、必殺コードを起動する。
「ウアアアア!」
右腕のレザーカッターで正体不明のISを切り裂くが完全に真っ直ぐではなく右寄りになってしまっている。
それでも、強烈な一撃とコアに届いていた雪片が致命傷となり機能を停止した。
動かない事を確認したオメガはアマゾンズドライバーを腰から外し変身を解いて鏡夜の姿に戻り、クジャクアマゾンも本来の姿である鈴の姿に戻る。
「やったんだよな?俺達が」
「ああ、でも」
「忘れてるの?織斑先生への報告が残っているわよ」
鏡夜と鈴は少しだけ気を重くし、一夏は箒の身を案じており報告の事を聞いてようやく二人が気を重くしているのに気づいていた。
「報告の後に一夏、お前の話を聞いてやる」
「ああ、鈴も一緒に聞いて欲しいんだけどいいか?」
「構わないわよ、それじゃ織斑先生の所へ行きましょ」
三人はアリーナから出て行き、教師部隊に任せて千冬のもとへと向かった。
時間が、時間が欲しいです。
そろそろ、仮面ライダーアマゾンネオが出てきます。
ネオの変身者は意外な人物です。誰になるかは伏せますが。