Armour IS Zone Re2   作:アマゾンズ

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喰らわれるのは一瞬

喰らう者にとっては糧を得る瞬間

それこそが獣の生きる手段にほかならない。


Prologue2 Beast 内なる獣

織斑家の養子となり織斑鏡夜と名乗るようになって、9年の歳月が過ぎた。

 

義務教育である中学校を卒業する、彼にとっては長い年月ではあったが充実もしていた。

 

「とりあえず、俺達も卒業か」

 

「そうだな、鏡夜兄」

 

 

鏡夜と一夏は帰り道を一緒に歩いていた。その手には卒業証書が入っている筒を持っている。

 

「三年間を勉強しながらの学校の許可有りバイトするとはな?一夏」

 

「千冬姉に負担をかけないようにしたかったしな、鏡夜兄だってやってたじゃん」

 

「俺は最低限しかやってない上、休日は道場通いだったからな。でも、これからは学校の許可無しで働ける」

 

二人は明るく話しているが鏡夜が養子となって13歳になった日に両親が蒸発したのだ。

 

それにより、千冬一人の負担が大きくなると考え、強引に学校に頼み込んで特別許可をもらい、アルバイトをしていた。

 

「いいよなぁ、鏡夜兄は早生れでさ。すぐに年齢パス出来んだもん」

 

「早生れでもさほどお前と変わらんさ」

 

一夏は鏡夜を兄と呼んでいるが鏡夜自身は一夏と変わらない年代であり、早生れの影響で周りより早めに年齢が加算されてしまう。

 

ただそれだけの事だが、一夏にとっては少しだけ追い抜かれたような感じがしていたのだ。

 

アルバイトと同時に鏡夜の方は休日に空手の道場に通って、己を鍛えることを忘れないでいた。

 

義理の姉である千冬から剣道を勧められたが、初めて自分の意思を見せ空手をやると宣言し、千冬自身もそれを咎めることはしなかった。

 

「あ、俺、弾達と約束してたんだ!」

 

「行ってこい、俺は先に帰る」

 

「わかった!それじゃ!」

 

一夏と別れ、鏡夜は一足先に自宅へ帰ろうと狭い路地を一人歩いていた。人通りも無く、鏡夜は口笛を吹きながら歩き続ける。

 

「サンプルの逸材を見つけた」

 

「了解、採取する」

 

鏡夜の後ろで誰かが指示を受け、何者かが鏡夜の背後へと音も立てず近づいた。

 

「!誰だ!?アンタ!?ぐあああ!あ・・・が・・」

 

振り向いた瞬間に鏡夜は謎の人物にスタンガンを浴びせられ気絶してしまった。

 

「ターゲット確保しました、これより帰還します」

 

 

 

 

世間から隔離された場所にある研究所、それは名も無い生体兵器の研究、製造をする一種の研究所であった。

 

「この子供は使えるな」

 

「所長、この子供の適合率は他のサンプル以上にずば抜けております」

 

研究員は横たえられた鏡夜の生体データを見て歓喜していた。それもその筈、自分達の研究成果に適応できるサンプルが目の前にいるのだから。

 

「この研究成果であるArmour(アーマー)細胞を人間に投与出来る日が来るとは」

 

鏡夜の腕に投与装置が着けられ少しずつArmour(アーマー)細胞が投与されていく。

 

「が・・・ぐ・・・ア・・アが・・あ!」

 

鏡夜の身体はガクガクと痙攣を起こし、白目を剥きかけるが次第に落ち着き始めてきていた。

 

「投与率85%、90%、95%、100%、投与完了しました!」

 

鏡夜の声が呻く中、研究員の一人は歓喜の表情でディスプレイを見ている。

 

「しばらくは培養槽にて定着させろ」

 

「はい、分かりました」

 

投与から約半年が過ぎ、実験体は目を覚ました。その姿はまだ人間だが、何の抵抗も動きもない、ただ目を開いて目の前にいる人物を見つめている。

 

「成功だ!私達は最強の生体兵器を完成させたのだ!ハハハハッ!!」

 

「・・・・・グ」

 

実験体は身体を動かす事ができず、ただ目の前の相手を見続けている事しかできないままであった。

 

 

 

 

 

「きょうくんが居なくなって半年、ようやく見つけたよ」

 

 

兎の耳のようなカチューシャを身に付け、青いドレス、長く赤い髪を揺らしている一人の女性がコンピューターのキーを叩いている。

 

 

「場所は隠していてもコンピューターを使っているなら、この束さんにとって逆探知は簡単だよ」

 

そう、彼女こそが世界中が捜し求めているIS開発者、篠ノ之束である。彼女が行動している理由は二つある、一つは鏡夜の救出、そしてもう一つはこの研究所で研究されていた物のサンプルである。

 

 

「きょうくんは取り戻す、必ずね!それとこの生物研究所が何を作っていたのか見せてもらわないとね」

 

 

束の目は取られたものを取り返そうとする襲撃者の目であった。彼女は気に入ったものを横取りされるのが最も嫌いであり、必ず取り返す性分であった。

 

「お前らに地獄よりも苦しいものがあるというのを教えてやる」

 

逆探知した研究所に襲撃をかける為に束は手製のロケットに乗り、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が襲撃をかけようと向かっている最中、研究所は大混乱に陥っていた。

 

「全ての計器が使えません!セキュリティシステムがダウンします!」

 

「ま、まずい!プロトタイプの実験体が!」

 

研究所の地下に拘束されていた実験体が鎖を引き千切り、地下から脱走した。

 

その動きは野生のジャガーやヒョウを思わせる程に素早く、研究所の一階にまでたどり着いていた。

 

「ウオアアアアアアア!!」

 

「実験体が!ここに向かっています!」

 

 

アマゾン実験体は走りながら、あらゆる装置を破壊しつつ本能に従い、出口を目指している。

 

「オレハ・・・ニンゲン・・・ダ、オレハ人間だぁ!」

 

実験体は研究員の全てを殴り、失神させた後に暴走して建物を破壊し続けていた。

 

爆音と共に外での大きな音もかき消されていたが、人参型のロケットが研究所の外に突き刺さっていた。

 

 

「建物がボロボロになってる・・・どうして?」

 

ロケットから飛び降りた束は内部から破壊されている研究所を見て拍子抜けしてしまっていた。

 

「この束さんが徹底的にやってやろうと思ったにな、とりあえず中に入ろうか」

 

研究所内部はまるで銃撃戦か何かがあったのかのように壁という壁に穴が空いており、そこらじゅうには亀裂が走っていた。

 

「ただの人間がここまで壊すには重機でも使わなきゃ無理だよね。何かいるのかな?」

 

ウオオオオオオオアアアア!

 

「!?何?今の・・・」

 

研究所内部から獣の様な咆哮が上がり、束は身震いしてしまった。どうやら近くにいるようで恐怖心と好奇心が同時に溢れ出てきた束は好奇心が上回り、咆哮のした方角へと向かっていく。

 

「カハァァァァァ・・・!」

 

そこには緑色と赤色をした異形、何かを狩ろうとする雰囲気、人の形をした獣がそこにいた。

 

「まさか、きょう・・・くん・・なの?」

 

束は直感的に緑の異形の中にある知り合いの姿が重なって見えていた。どんなに異形となっていてもどこか懐かしさを感じるものがあった為だ。

 

「タバネ・・・サン・・・・?ウウ・・アアァ!」

 

「きょうくん、ごめんね!!」

 

束は襲いかかってきそうな緑色と赤色の異形に対し、自分の開発した機械によって何かを撃ち込んだ。

 

「ガ!ウア・・あ・・・・」

 

弾丸のような物を受けた異形はそのまま倒れこみ、織斑鏡夜の姿へと元に戻った。

 

「きょうくん・・・ん?」

 

束は鏡夜の隣の部屋に入り、扉が空いている金庫らしき物からベルトのような何かを二本見つけ出し、拾い上げた。持っていこうとした人物は間に合わず、この場に放置したのだろう。

 

「ふーん、面白そうな物を作ってたんだね、これはもらっておこうっと。きょうくんに埋め込まれた何かにも興味あるしね。気絶したままだけど、私の隠れ家に案内するね」

 

束は鏡夜とベルトを回収すると自作ロケットに乗り込み、自らが住んでいる隠れ家へ飛んだ。

 

 

 

 

 

「うう・・・ここはどこだ?な!」

 

鏡夜は目を覚ますと拘束されていることに気がついた。かなり厳重で鎖が二重になっている。

 

「お久だねー、きょうくん。」

 

「束さん?これは一体どういう事ですか?」

 

鏡夜は束を睨むが束はどこ吹く風といった様子だ、異形の姿を見たとなれば警戒し拘束するのは当然の事だろう。

 

「きょうくんの中にある変わったものが欲しくてね?」

 

束は笑顔で平然と言ってくるが、科学者として自分の事を見ていることに鏡夜は気づいた。

 

「なら、拘束を少し緩めてください、全てをお話しますから」

 

「むー、仕方ないか」

 

拘束を緩められた鏡夜は拉致された事、拉致された研究所での事を包み隠さず束に話した。

 

「つまり、きょうくんの身体の中にはArmour(アーマー)細胞という細胞があるんだね?」

 

「ええ、完全に同化しているらしくて除去はできないみたいです。それに腹が減ると肉や卵(タンパク質)が欲しくて仕方なくなるんですよ」

 

鏡夜は自分の変化を話しながらも少しずつ空腹になっており、。食人衝動は微弱だがあるようで束自身を狙っているようだ。

 

「なら、少し待ってね?」

 

どこから取り出したのか、束は鏡夜にゆで卵を差し出した。最も簡単で手軽に肉と同様、タンパク質を取る事が可能な食べ物だ。

 

「!!」

 

それを見た鏡夜は起き上がって奪い取るように、差し出されたゆで卵を取ると殻を器用に剥き、貪り食った。

 

「はぁ・・はぁ」

 

「凄い勢いだねー、そんなにお腹空いてたんだ?」

 

「言ったでしょう?腹が減ると欲しくなるって」

 

束は笑顔のまま表情を崩さず、ゆで卵を食らった鏡夜を見ていた。人間では無くなっている事を目の前で見せられたのを隠すために笑顔のままなのだろう。

 

「束さん」

 

「なーに?」

 

鏡夜は顔を上げると束に頼み込むように頭を下げた。それは彼女にしか出来ない事であると言いたげな様子で。

 

「頼む、束さん!俺の中の獣を抑えてくれ!」

 

「君の中の獣?(あの姿のことかな?)」

 

束は少し思考すると研究所襲撃時に出会った異形(アマゾン)を思い出していた。あの姿が彼の獣としての姿なのだろう。それを抑えて欲しいと頼み込んできたお気に入りの相手だ。無下には出来なかった。

 

「他ならぬきょうくんの頼み事だもの、束さんにまっかせなさーい!」

 

「ありがとうございます、束さん」

 

「その代わり、君の中のArmour(アーマー)細胞のサンプルを採らせてね?」

 

鏡夜にとっては自らを差し出せと言わんばかりの条件を束は出してきた。抑制する物を作るとなればまずその抑制する物の原型を知らなければならない。

 

例えるなら蛇の毒の解毒薬を作るのなら、その蛇が持つ毒の特性を知らなければならない事と同じである為だ。

 

「構いませんよ、俺自身を使ってください」

 

「即決したね?」

 

「束さんの思考はちょっとだけわかるんですよ」

 

「生意気だぞー?きょうくん!ところで、ちーちゃんやいっくんの所へ帰るの?」

 

「いえ、もう帰れませんよ、今帰ったら二人を喰らいそうですから」

 

鏡夜は一瞬だけ目を伏せるとすぐに表情を引き締めた。

 

「そうだね、それならしばらく一緒にいよっか?2日もあれば抑制細胞できちゃうし」

 

「はい、そうします」

 

こうして鏡夜は束と共同生活する事となった。その間に鏡夜は出遅れてしまった学生としての勉学を束から教えてもらいつつ、更には束が開発した稽古用ロボットを使い、空手の稽古まで付けてくれていた。

 

空手の稽古には達人のデータや自分と同じレベルの実力者などのデータで難易度を変えて貰う事で稽古に変化を付ける事が出来た事で実力を上げていった。

 

そして宣言通り、わずか二日間でArmour(アーマー)細胞を抑制する人工細胞の開発にを成功させてしまったのだ。

 

そして、細胞の投与の日となった。

 

「さ、今日は抑制細胞の投与だよー!」

 

「お願いします、束さん」

 

「うんうん、Armour(アーマー)細胞のサンプルとデータから作ったこの束さん特性のZone(ゾーン)細胞を投与すれば大丈夫だよ」

 

束は鏡夜にZone(ゾーン)細胞を投与するための装置を着けた。身体の隅々にまで行き渡らせるために全身に装置が着けられている。

 

「投与はすぐだから楽にしててね?」

 

キーを叩くと投与が開始され、ほんの数秒で投与が完了した。鏡夜は立ち上がるが急激な視界の歪みに座り込んだ。

 

「う・・流石にクラクラしますね」

 

「それはそうだよ、活性化を抑制させてるんだもの」

 

鏡夜はゆっくり立ち上がるが、フラッと倒れ込んで何かに触れてしまった。

 

「え、嘘!!きょうくんがISを起動させた!?いっくんと同じように?」

 

「・・なんだよこれ?」

 

ISに触れた事に気づいていない鏡夜は驚愕し、それを目撃した束はその場で静止していた。

 

「きょうくん、IS学園へ行って」

 

「え?」

 

「政府を説得して入学できるようにするから、ここに居るよりも良いかもしれない」

 

「分かりました。いきなりで驚いてますけど、そうします」

 

束の表情から鏡夜は自分が此処にいるべきではないと悟り、束の提案に従った。

 

「それと、これを持って行って」

 

束が差し出したのは襲撃の際に回収したベルトだった。そのベルトは二本あり、一方は何かを注入しなければ起動しないタイプで、もう一本は左右にグリップが着いている。

 

「これは?」

 

「それを使えばArmour(アーマー)細胞を活性化させても、制御状態で姿を変えられるよ。薬物注入タイプは束さんがグリップを使うタイプのベルトを研究して、完成させたものだよ」

 

「なるほど、これを使えば」

 

「それと、ISの特性もそのベルトに組み込んでおいたからね、ISとして登録されるよ」

 

「さすが束さんですね」

 

「ただし、薬物注入タイプは身体への負担も大きくなるから気をつけてね?」

 

「はい」

 

「きょうくん、抑制は出来ても凶暴にならないわけじゃないからね?」

 

「ええ、俺は俺です。例え獣だとしても」

 

そう言って鏡夜は束からベルトを受け取り、自分の腰に装着した。そのベルトから鼓動のような待機音が響き渡る。

 

「きょうくん、私に見せて?きょうくんの内側に潜む進化した獣の姿を」

 

鏡夜は頷き、ドライバーの左グリップを捻った。その瞬間、ベルトの複眼の輝きが

強くなる。

 

ALPHAとベルトから姿を知らせる音声が響き渡る。その音を聞きながら鏡夜は獣の名を口にする。

 

「アマゾン…!!」

 

己自身の姿を変える言葉を言い放つと周りに衝撃波と炎が上がった。炎は消えており、衝撃波の威力の余波が束の髪を揺らしている。

 

「きゃっ!炎は大丈夫だけどすごい衝撃だよ」

 

 

BLOOD&WILD(ブラッド&ワイルド) WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WILD!(ワイルド!)

 

 

 

そこには赤い傷だらけの獣が立っていた。野生にとって傷とは畏怖するものであり、蔑む対象でもある。しかし、歴戦を刻んでいることに変わりはない。

 

「あれがきょうくんの中にいる獣の姿…すごいね」

 

「束さん、俺、行きますよ」

 

「うん、その前にZone(ゾーン)細胞と並行して完成させてたきょうくん専用のISを渡しておくね」

 

束はポケットからブレスレットを取り出すとそれを渡した。

 

「これはISだけどあくまでその姿のきょうくんを空中で戦えるようにしただけ、名前は天鎧!」

 

「なにからなにまで束さんにはお世話になりっぱなしですね」

 

「気にしないで!さ、早く行って!ここもバレちゃうから」

 

「はい!」

 

アルファの姿でISを展開すると機械の翼を身に付け、鏡夜は空へ飛び出した。

 

「きょうくん、君ならきっと」

 

これが鏡夜が力を得た追憶の記録である。

 

この出来事から2ヶ月後にIS学園へと入学し、家族と再会することとなる。

 

しかし、、それは新たな出会いと決別をも含めた現実に直面することになる。

 

異形(アマゾン)となった自分との戦いが始まる予兆として。




プロローグ終了です。

次回から本編です。

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