Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第四十四敗『ごめんなさい』

 

 ──カルデア、管制室。

 

「『契約の箱(アーク)』にアルゴノーツ、女神の生贄による世界の崩壊か……随分難しくなってきたね」

 

 その絵画のような端正な顔立ちを曇らせて、ダヴィンチはモニターを見つめていた。が、ドアの開閉音を耳にして振り向いた。

 

「お帰り、ロマニ。向こうの様子は良くも悪くも変化なしだ」

 

 現在藤丸たちは、アルゴノーツが求めているアークを捜して島を回っている。揺れる海面に反して戦況は静かなもので、アークに連なる手がかりはなければ敵からの接触もなかった。

 

「了解。楽な展開を期待していたわけじゃないけれど、今回も厳しくなってきたね」

 

「ああ。私も決して期待していたわけじゃないんだけれど、その様子を見ると、どうやらそちらも聞くまでもない展開だったみたいだね」

 

「そうしておいてくれると助かるよ」

 

『何が助かるって?』

 

「うおっ!?」

 

 背後から響く声。音も気配もなく忍び寄ってきていたのは球磨川禊だった。思いもよらぬ人物の登場にロマニは動揺し、ダヴィンチは眉を顰めた。

 

「く、球磨川くん……!? いつからそこにいたんだい!?」

 

『あはは、今来たところだぜ』『そういえばロマンちゃん、ご飯ありがとう。美味しかったよ』

 

「それはよかった。……球磨川くん、それでさっきの話だけど」

 

「ちょっと待ってくれ、ロマニ」

 

 話を遮ったのはダヴィンチだった。その言葉を受けて、『……何かな、ダヴィンチちゃん』と球磨川が応じる。

 

「ひとつ聞きたいんだが、君は()()()()医療スタッフとしてサポートするために来てくれたんだよね? いや、どう言った理由にしろ、この状況でのアシストには感謝しかない。いくらでも歓迎したいんだけど──」

 

『………………………………』

 

 閉口する球磨川。しかし、神妙な面持ちで頭を下げた。

 

『ごめんなさい』

 

「……え?」

 

 思いもよらなかった球磨川の反応に、ロマニが思わず声を漏らした。球磨川は姿勢を直して、言葉を続けた。

 

『今までレイシフト中の反応を誤魔化していたのも、所々で起きたおかしな事象も、すべて僕の魔術──じゃなくて、スキルの力なんだ』『あれこれ聞かれるのが面倒で、ずっと隠してた』

 

「……隠し事をしていたこと自体は、みんな気づいていた部分ではある」

 

 球磨川の言葉で場に生まれた重い空気を壊して、ダヴィンチは話し続ける。

 

「話したくないことがあるなら別に話さなくてもいいさ。でも──これから、私たちの味方でいてくれるかどうか。それだけはここでハッキリさせてほしい」

 

「──味方さ」

 

 括弧つけずに、球磨川はただ淡々と言葉を放つ。

 

「僕はカルデア(きみたち)の味方さ。こんな状況だって希望を捨てない愚か者(きみたち)の、絶望(マイナス)に抗う弱き者(きみたち)の味方だよ。それだけは、約束させてほしい」

 

「──よし、その言葉さえ聞ければ満足さ!」

 

 これまでの張りつめた空気を緩めるように、ダヴィンチは微笑んだ。

 

「それだけ聞ければ後はなにもいらない! 医療スタッフとしてサポートしてくれ、なんて指令は撤回だ! 球磨川くん、君には現地で藤丸くんとともにこの特異点の修正に挑んでほしい! 厳しい状況だが、どうか力を合わせてこの困難を乗り越えてくれ!」

 

「……いいのかい、そんなにあっさり信用して?」

 

「いいんだよ。だって、()()()()()()()()()()()()()()

 

 嬉しそうに笑うロマニを見て、球磨川はきょとんと間の抜けた表情を浮かべる。しかし再び破顔して、『あーあ……ロマニちゃんには敵わないぜ』と括弧つけた。

 

「もう霊子筐体(コフィン)の準備は出来てるよ。さあ、時間が勿体ない! レイシフトして、特異点の解決に赴いてくれ!」

 

『やれやれ、ダヴィンチちゃんも意外とせっかちだねえ』

 

 おどけたように笑って、球磨川は霊子筐体(コフィン)に乗り込んだ。もう二度もしている経験だというのに、やけに胸の奥がこそばゆくなるのは何故だろうか。『また勝てなかった』と小さく呟いて、過負荷は目を閉じた。


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