第四十一敗『邪魔だからだよ』
「──って感じだったんだ」
「なるほどね」
──カルデア、メディカルルーム。少し冷め始めたコーヒーを片手に、ロマニとダヴィンチは話し合っていた。議題は勿論、球磨川禊である。
「ふうん、球磨川君がそんなことをね……」
「レオナルド、君はどう思う?」
カップをゆっくりと傾けてから、ダヴィンチは答えた。
「そうだね、
困惑した様子のロマニを見て、ダヴィンチは言葉を続けた。
「君の言う通り、恐らく彼との会話の九割には意味なんてないんだろう。でも残った一割に意味があるとしても、そこから彼の心情の全てを読み解くなんて、名探偵にだって難しい問題だ。じゃあ推理なんて、推測なんて初めからしないほうがマシさ」
「でもそれじゃあ──」
「とはいえ、何も手を打たず放置、というわけにもいかない。なら私たちがとるべき手段は──」
*
『待たせたね、みんな』『昨夜はちょっと緊張で眠れなくてね、そのせいで寝坊しちゃったんだ』
寝癖のついた頭で、寝ぼけ眼を擦りながら、球磨川禊は現れた。口の割に自然体な様子だったが、「わかるわかる、俺も今来たところだし大丈夫だよ!」と声をかけた藤丸以外は特にそこには触れず、ロマニが説明を始める。
「それじゃあミーティングを始めようか。今回の特異点は西暦1573年、大航海時代のオケアノスだ」
「大航海時代……! もしかして、海賊とかに会えるのかなマシュ!?」
「そうかもしれませんね、先輩。あくまで海賊ですから、積極的に接触するのは危険かもしれませんが……私も気になります」
「いくら大航海時代とはいえ海は広大だからね。航行距離にもよるが、普通に行く分には海上で出会う方が難しいと思うけど、特異点化している今ならわからないね」
ダヴィンチの解説に、『まあ僕なら間違いなく遭遇するだろうし、何なら海賊船にレイシフトするだろうな』と密かに確信している球磨川だった。
「いずれにせよ今回も気をつけてくれ、藤丸くん、マシュ」
「「はい!」」
『おいおいロマニちゃん』『誰か忘れてないかな?』『とても大事な誰かを』
「……球磨川くん」
おどけた様子の球磨川に、ロマニは静かに、諭すように言う。
「君は今回マスターではなく、スタッフとしてサポートに回ってもらう。いいね?」
「え……なんでですか、ドクター!」
『そんなの聞くまでもないでしょ』『円滑な特異点修復において、僕が
「そんな……そんなことないよ! 最初の特異点だって禊くんがいなかったらどうなってたかわからないし、それからだって……!」
『別に気を使わなくていいよ。どの特異点だって、結局立香ちゃんが解決してきた』『僕はただ、そこらへんでうろちょろしてただけの奴だよ』
言いたいことはたくさんあるのに、藤丸にはロマニに抗議する言葉も、こんな状況でも飄々とした球磨川を説得する言葉も出てこなかった。お茶を濁すようにダヴィンチが、「決してそういう訳じゃないよ。ただ今回は、適材適所でいこうってだけさ。球磨川君はそもそも医療スタッフとして配属されてたわけだし、これまでの様子を見ている感じ、今回の特異点でも
『まあ何でもいいよ』『君たちの判断には何の不服もないぜ』『僕としても、カルデアでぬくぬく立香ちゃんを見守ってた方が気が楽だからね』
『それじゃ頼んだぜ、立香ちゃん!』と、球磨川は藤丸の肩を叩いた。「……うん」と小さく返事をして、藤丸はコフィンに乗り込んだ。
《全肯定
室内に響くアナウンスを尻目に──藤丸の思考の中には、乾いた笑みの球磨川の表情が回っていた。