Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第三十八敗『楽しくお喋りしてくるぜ』

 

 

 

「お疲れさま、みんな」

 

 聖杯の回収を終え、特異点は修正された。現地のサーヴァントとネロに別れを告げた藤丸たちは、無事カルデアへと帰還した。尤も、何故か浮かない顔をしている者が多かったが。ロマニはその理由を察しながら、それでも柔和な笑顔で全員を迎えた。

 

『お疲れちゃん、ロマニちゃん! いやー、今回も過酷な指令(オーダー)だったぜ』『一時はどうなることかと思ったけど、みんなの力で無事乗り越えられてよかったよ!』『それじゃ、お風呂入ってくるね』

 

「……禊くん」

 

 ぞろぞろと二人増えたサーヴァントを引き連れ、球磨川はレイシフトルームを出ていく。藤丸が何かを言いかけたが、騒がしい喋り声と、ドアの開閉音に紛れて消えた。

 

「藤丸くん。積もる話もあるだろうが、今はとにかく休んだ方がいい。君たちは──君たちは()()()一つの特異点を修正したんだ。気に病む必要は無いさ」

 

「……ありがとうございます、ドクター」

 

 藤丸は、力なく笑った。誰が見ても分かるくらい、無理矢理な笑顔だった。「それじゃ、俺もシャワー浴びてきますね」とだけ言って、退室する。

 

「……ドクター。球磨川さんは──」

 

「……うん」

 

 マシュの言いたいことを察して、ロマニは頷いた。

 

「嫌な役回りだけど、ボクが話さなきゃいけない。その回答によっては──」

 

 

 

 

 *

 

「お帰りなさいませ、マスター。ベッドインにします? お風呂にします? それとも……わ・た・し?」

 

『お風呂がいいな』

 

「わかりました。それでは裸の付き合いを致しましょう。お背中お流ししますわ」

 

『お、お願いします……!』

 

「お願いするな」

 

 頬を赤らめる主と同僚(アホ二人)にツッコんで、アンリは小さく嘆息した。

 

「おお、帰還しましたかミソギィ!! ということはつまり、ジャンヌも……!?」

 

『帰還したてだし、多分シャワー浴びてると思うよ』

 

「ジャンヌゥ!!」

 

「賑やかすぎるじゃろこの空間……」

 

 勢いよく部屋を飛び出していくジル。信長はそれを白い目で見つめる。

 

「私としては、新撰組の騒がしさを思い出せて面白いですけどね」

 

「流石人斬りサークル、民度激低でワロタ!」

 

 沖田の「五月蝿いですねノッブ! 燃やしますよ!?」という言葉を聞いて、キアラは「はて、お二人は何故まだここに?」と問う。

 

「わし、球磨川の(サーヴァント)じゃから。何の問題もないじゃろ?」

 

「いや、待ってくださいノッブ。不思議だと思いませんか。特異点は修正しましたし、そもそも我々の世界の問題が解決したんですから、修正力とかそんな彼是(アレコレ)で帰るはずですよね?」

 

『よくわかんないけど、そんな彼是が働いてないってことはつまり』『ここにいるのが君たちの運命(フェイト)ってことだよ。ステイステイ!』

 

「うーん、よくわからないですが……それならそれでいいんですかね……? 改めてよろしくお願いしまあっ身体が光り始めた!?」

 

「マジか沖田!? あっわしも光り始めたぞ!?」

 

 二人の体が光の粒子となり、徐々に解けていく。突然の別れに、全員に動揺が走った。

 

「マジかアンタら、このタイミングで帰還かよ!?」

 

『くそっ……! 折角美少女サーヴァントが二人増えると思ったのに……っ! まだえっちな恰好の一つもしてもらってないのに……っ!』

 

「ノッブ、今私、抑止力にちょっと感謝し始めましたよ」

 

「ま、是非もないよネ!」

 

『そうか! 抑止力をなかったことにすれば問題な』

 

「それはなくすな!!」と多少の良心を抱いたサーヴァントたちが叫ぶ。『実際問題どうなんだろう』と『大嘘憑き(オールフィクション)』で抑止力を消そうと試みる球磨川。二人の体に特に変化はないので、どうやら通用しないらしい。『過負荷(マイナス)以来か、劣化じゃない大嘘憑き(オールフィクション)で消せないのは』と小声で呟いた。

 

『まあしょうがないか、達者でね二人とも。地獄で会おうぜ』

 

「何故ここでそんな台詞を……そもそも我々、もう死んでるんですけどね!」

 

「まあ、また縁が合ったら会えるじゃろ! 短い間だったけど面白かったぞ! それじゃ、またのう!」

 

 笑顔で消えていく二人。元の世界に帰っていったのだろうか。マイルームが少し、静かになった。

 

「別れ際までぐだぐだだったな、アイツら……」

 

『そういえばあのノッブちゃん』『悪い方のノッブちゃんな訳だけれども、元の世界で何かやらかしたりしないかなあ』

 

「ハハハ、そんなわけないだろ」

 

『とはいえ普通に残念だぜ、面白い二人だったのに』

 

 沖田と信長は、結構仲間思いな球磨川の、仲間と呼んで差し支えない領域に入りかけていた。それが運命とはいえ、悲しい離別である。

 

「気を落とさないでください、マスター」

 

 神妙な顔をしたキアラが、球磨川の耳元で囁く。

 

「猥雑な恰好なら私がいくらでも引き受けますので……!」

 

『いや、聖職者に淫らな服装をさせるわけにはいかないし……』

 

 割と普通の理由で断られたキアラは、少し悲しそうな顔をした。

 

 *

 

 カルデアに帰還して三日。球磨川たちはひどく静かな日々を過ごしていた。誰一人部屋から出ようとはせず、また、訪ねてくる人もなかった。小腹が空けば食堂に行ったが、示し合わせたかのように殆ど誰とも遭遇しなかった。サーヴァントたちは夜になれば部屋に帰っていったし、朝になれば彼の部屋に溜まっていた。藤丸たちは変わらずトレーニングルームで種火と戯れているようだったが、球磨川は特に興味を抱かなかった。

 

『そろそろかな』

 

 ベッドの下の隙間に寝転んだ球磨川が呟く。「だろうな」とサーヴァントが答えた。

 

「マスター、何故発禁本を隠すように横になって居られるのでしょう? そんな必要はありませんわ、恥ずかしがることはございません。色に溺れるのは人の性というものですもの」

 

『おっと、そんなベタな隠し方をする僕じゃあないぜ』『キアラちゃんの想像もつかないような場所に、僕のお宝は隠してある』

 

「まあ、一体どこでしょう……私にはその学ランの中くらいしか、想像できませんわ」

 

『な……何故バレたんだ……!』

 

 学ランの内側から数冊の雑誌が零れる。『身体を撃たれた時の盾にする予定だったのになあ、計画がおしゃかだ』と言いながら立ち上がる球磨川を、アンリは心なしか冷ややかな視線で見守っていた。

 

『まあいいや』『で、キアラちゃんはロマンちゃんのお使いで来たのかな?』

 

「ええ。カウンセリングルームでお待ちしているそうですよ?」

 

『おっけー』『楽しくお喋りしてくるぜ』

 

 十中八九揉め事が起きる雰囲気を感じさせながら、球磨川は立ち上がるのだった。


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