Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第二敗『こんな状況に僕らを陥れた元凶に』

 

 アヴェンジャーという新たな戦力を手に入れた一同は、そこそこまともな状態で残っている廃屋の一角を使って状況を整理することにした。

 

 「……まさか貴方ごときが魔術師で、しかもエクストラクラスを呼び出すなんて…」

 

『この手の紋章、立香ちゃんとお揃いだね!』

 

 「そうだな、でも禊くんの方がちょっとカッコイイ気がするなー」

 

『そうかなあ』『ま、隣の芝生は青いって奴だろ。案外お互いの腕を取り替えてみたりなんかしたら、元の自分の方を選ぶんじゃないかな』

 

 「んー、まあそういうもんなのかもな?」

 

 「私の話を聞きなさいよっ!?」

 

 わざとなのか素なのか、オルガマリーを無視して軽く物騒な話を振る球磨川。

 

 「アヴェンジャーねえ……坊主、お前サーヴァントのクラスって知ってるか?」

 

『クラス?』『ああ、僕は三年マイナス十三組だったよ』

 

 「いや、そのクラスじゃなくて聖杯戦争における七つのクラスの話だ」

 

『一組から七組まであるのかい?』

 

 「……いいか。クラスっていうのは剣兵(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)の七種類あってな。生前の逸話に応じて、対応クラスで呼び出されるんだ。俺は本来槍兵(ランサー)の方が向いてるんだが、まあ……魔術師(キャスター)の適性もあったから今回はそれで呼ばれた」

 

『なるほどね』

 

 ん?待てよ?と球磨川は首を傾げる。

 

『え、それじゃあさっきのアヴェンジャーっていうのは?』『七つのクラスに当てはまってないだろ?一体アレは……』

 

 「アヴェンジャーっていうのはエクストラクラスっつーヤツでさ」

 

 答えたのはアヴェンジャー本人。無知なマスターに説明を入れる。

 

 「稀に七つのクラスに当てはまらない、いくつかのクラスが呼ばれることがある。その一つがアヴェンジャー……復讐者のクラスってわけだ!」

 

『おいおい』『物騒な肩書きだけど、一体君は何に復讐するんだい?』

 

 「さあ?」

 

 首を傾げるアンリマユ。同時にマスターも首を傾げる。外野に至ってはぽかんと口を開け唖然としている。だが球磨川は、不敵な笑みで己のサーヴァントを見る。

 

『ふーん』『じゃあそれならさ――』『マスターたる僕のため、こんな状況に僕らを陥れた元凶に』『たっぷり復讐して頂戴』

 

 「――いいねえ。なかなか良いマスターに巡り会えたっぽくて、オレも嬉しいぜ」

 

 ま、先述の通り戦闘には期待するんじゃないぞ?と念を押すアヴェンジャー。わかったよ、といやに明るい返事を球磨川がした。

 

『で、今どんな感じの状況なんだっけ?』

 

 「ここが特異点化している原因……恐らく、聖杯が何処かにあるはずだからそれを回収すればクリアよ」

 

『聖杯?』『あー、それなら知ってるぜ』『速攻魔法で選んだモンスターの効果を無効にする代わりに攻撃力を四百上げる……』

 

 「よくわかりませんが、全く関係ないことだけはわかりますよ球磨川さん」

 

『軽い冗談だよ、マシュちゃん』『聖杯といえば宗教の儀式において使われるアレだよね』

 

『魔術世界における聖杯は、それとは異なる様々な意味合いを持っているんだよ』

 

 ロマン曰く。冬木に於いての聖杯は、手にした者の願いを叶える万能の願望機であり。また、魔術師にとっては、根源に至る手段の一つなのだそうだ。

 

『そろそろ勘弁してほしいよ』『僕の矮小な脳味噌じゃ、とてもじゃないが一度にこんな沢山のことは把握出来ないぜ』

 

『悪い悪い。でも球磨川くんも魔術師であるというなら、このくらいのことはご両親とかから聞いてなかったの?』

 

『僕は両親からは煙たがられててね』『碌に関わりも持たないまま生きてきたから、そのへんの事情には詳しくないのさ』

 

『……ごめん、少しデリカシーのない質問だったね』

 

『あはは』『今はこうして幸せに生きてるわけだし、気にしないで頂戴』

 

 まあ、嘘は吐いていない。ほぼ事実そのものだ。人の良さそうなロマンの弱味につけ込んだ形になっているのは球磨川と言えども少し心が痛まないでもないが、よくよく考えるといくら同情されても足りなさそうな凄惨な人生を送ってきていたので考えるのをやめた。

 

 

 「戦況か。アサシンとライダー、ランサーは倒したし、バーサーカーは恐らく近寄らなければ問題ない。専らの敵といやあ――」

 

 ――最優のクラス、セイバー。キャスター曰く、彼女の様子がおかしくなってからこの聖杯戦争は狂い始めたという。挙句の果てに魔術協会の手の者も聖堂教会の刺客も敗れ、冬木の街はこの惨状と化したのだという。

 

 

 「聖杯も奴が握ってるはずだ。セイバーさえ倒せば、この特異点とやらの状態も解決するはずだ」

 

 「役に立つかは置いておいて、壁程度にはなりそうな戦力も増えたし、そろそろ向かってもいいんじゃないかしら」

 

『アヴェンジャー』『早速肉壁として扱われてるぜ、僕たち』

 

 「あ〜、最弱だ何だと張り合ってたからそのせいじゃねえの?ま、そもそもマスターはそこのお姉さんに嫌われてそうだが」

 

『失礼だなあ』『僕は割と好きだよ、所長』

 

 「私は嫌いよ!」

 

『自分を卑下するのはよくないぜ?』

 

 「わ、私のことじゃなくて貴方のことよっ!!」

 

 苛立ったオルガマリーは球磨川に殴りかかるが、周囲の説得とサーヴァントであるマシュの力強い拘束により、どうにか宥められる。

 

 「貴方といると調子を狂わされるわ……カルデアに戻ったら、真っ先にクビにしてやる」

 

『……全員揃って、無事に戻れたらいいけどね』

 

 「怖いこと言うなよ。キャスターとマシュがいるし、凄い魔術師である所長も、禊くんとアヴェンジャーだっている。これだけいれば、絶対何とかなるって!」

 

 「藤丸……」

 

 「先輩……!」

 

 彼の言葉にマシュもオルガマリーも、ロマンでさえも励まされた。キャスターもそれを見てフッ、と小さな笑みを浮かべる。

 

『……全く、飛んだ甘ちゃんだぜ』『この世の中には楽観していこうが達観していこうがどうにもならず、失敗することだってあるってのに……』

 

 「禊くん……?」

 

『だけど悪くない』

 

 精一杯協力させてもらうぜ、といって球磨川は藤丸を見据える。汚れのない、素直で真っ直ぐな瞳。それを少し、羨ましく思った。

 

 「ああ!よろしく、全員で絶対に生きて帰ろう!」

 

 そして一同はセイバーの待つ、大空洞へと向かうのだった。


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