Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第三十六敗『おまえたちは言う』

 

 

「クソ……! そんな、この私が人間如きに負けるなど……ッ! 英霊風情に膝を突くなど……ッ!!」

 

『どんなもんだい!』『これが絆の力さ!』

 

「お前が言うだけで絆(笑)になるな」と彼のサーヴァントたちは思った。

 

「終わりだ、レフ教授!」

 

「終わり……? ハハ、おかしなことを言う。君たちはもう終わっている。始まるのは、我が王が紡ぐ新たな歴史だァァァァ!!!」

 

 咆哮と共に空気が大きく震える。魔術師ではない球磨川にも、大きな力──魔力の躍動が、何となく感じられた。

 

「な、一体これは……!?」

 

「……古代ローマそのものを生贄にして、私は最強の大英雄の召喚に成功している」

 

 レフは淡々と語り始める。球磨川は『遊戯王かな?』と呟いたが、誰一人として反応している余裕はなかった。

 

「喜ぶがいい、皇帝ネロ・クラウディウス。これこそ真にローマの終焉に相応しい存在だ」

 

『え』『それなら最初っからその人使えばよかったんじゃないの?』

 

『レフにとっても最終手段だったんだろう。つまり、これから出てくるのは彼以上の化け物だ……!』

 

「さあ、人類(せかい)の底を抜いてやろう! 七つの定礎、その一つを完全に破壊してやろう! ──我らが王の、尊きお言葉のままに!」

 

 仰々しい口上。球磨川は尚のこと遊戯王を想起した。しかし大きくなってくる振動に、そんな軽口を叩いている余裕はなかった。

 

「来たれ! 破壊の大英雄、アルテラよ!!!!!!」

 

「────」

 

 ショートカットの白髪。その上に長いヴェールを纏い、露出度の高い──逆に言えば軽くて動きやすい──白を基調にした衣装。鍛え上げられていることが一目でわかる引き締まった肉体からは、隠しきれない威圧感が放たれていた。作り物のように整った顔の赤い瞳は一同を見据えている。殺意も憎しみもその瞳からは感じられなかったが、何か明確な、強い意志のようなものが垣間見えた。

 

「さあ、殺せ。破壊せよ。駆逐せよ。焼却せよ。その力で以て、特異点ごとローマを焼きつく──」

 

「──黙れ」

 

「え?」

 

 瞬殺。としか形容できなかった。アルテラは己の獲物で以て、狂ったように笑っていたレフの体を両断した。先ほどの傷もあっただろう。勝利への確信からの油断もあっただろう。それでも、人理焼却の末端である彼をいとも容易く切断して見せた彼女の実力は一体──

 

『なんだ……!? レフの反応が消えたぞ! そっちで何が起きているんだ!?』

 

「彼は……彼は、召喚したサーヴァントに両断されました。真名はアルテラ、恐らくはセイバーです!」

 

 ロマニの問いにマシュが答えた。アルテラは彼らを気にも留めない様子でレフの亡骸に近づき、輝く何かを手に取った。

 

「あれは……聖杯!?」

 

「聖杯がアルテラの手に! 吸い込まれて……え、吸収、している……」

 

「私は──」

 

 アルテラは静かに語り出す。

 

「フンヌの戦士である」

 

『憤怒の戦士だって?』『何か怒らせちゃったかな、気分を害したなら謝るよ』『めんごめんご!』

 

 むしろ気分を害されそうな謝罪だったが、彼女は球磨川に気づいていないんじゃないかってくらい自然に話を進めた。

 

「そして、大王である。この西方世界を滅ぼす、破壊の大王。破壊の──」

 

「何か、嫌な感じが……するぞ! マシュ! 何かが来る、余にもわかる!」

 

 魔力がアルテラの刃に集約していく。生身の人間にすら伝わるそれに、ネロはマシュへ注意を促した。

 

『魔力反応、増大! これは宝具の──それも対城クラスの解放だ!』

 

「マスター……!」

 

「ああ──! 頼むぞマシュ、こっちも宝具だ……!」

 

「はい……!」

 

「──おまえたちは言う」

 

()()()()()()()()が大きくなっていく中で、アルテラは呟いた。

 

「私は、神の懲罰なのだと。──神の鞭、なのだと」

 


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