Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第三十四敗『僕は僕だ』

 

『あー!』『そういえばいましたね、そんなモブキャラ!』『どうもお久しぶりです一眼レフさん!』

 

「貴様……ッ! どれだけ私を愚弄すれば……!!」

 

 震える拳を握りしめ、恐ろしい形相に顔を歪めるレフだったが、何かを思い出したかのように、唐突に元の胡散臭い顔に戻った。

 

「ふ、まあいい。実を言うとね、私は君に価値を見出しているんだ」

 

 へらへら笑っていた球磨川も一転、怪しげな笑みを浮かべる。

 

『へえ?』『無価値(マイナス)の僕の、どこにそんなものがあったんだい?』

 

()()()()()()()()、さ」

 

『……?』

 

 不思議そうな球磨川に対して、レフは説明を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……人理でさえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういうタイプの人間だろう? それならば――こちら側でも問題ないはずだ」

 

『つまりあなたは、僕にカルデアを裏切れと?』

 

「ああ。何か問題があるかい?」

 

『――いいねえ』

 

 球磨川は口を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「こっちで合ってるんだよね、ドクター!?」

 

『ああ、そっちで間違いないはずだ! その廊下の奥の扉の向こうから聖杯の反応がある!』

 

 神祖・ロムルスを下した藤丸一行は、聖杯を回収して特異点を終わらせる為、豪華な王宮の奥へと向かっていた。シャングリラの下を駆け抜け、大きな扉の前に辿り着く――が、それは既に開かれており。その奥には、学ランの少年の姿があった。

 

「禊くん!」

 

『やあ、遅かったね立香ちゃん』『待ちくたびれたぜ』

 

 そう言って球磨川は笑う。いつも通りの笑顔で。しかし違ったのは、隣に紳士然とした、胡散臭い男がいた点だった。

 

「本当に遅かったね、少年。まあそのお陰で時間が取れたのだから、良しとするが」

 

「レフ・ライノール……!? なんでこんなところに! 禊くんと一緒にいるんだ!?」

 

『球磨川くん……まさか君は……!?』

 

「フフフ――ハハハハハハ!!!!!」

 

 笑い声と共に、レフは残酷な現実を告げた。

 

「その通りだよ。球磨川禊は実に賢い選択をした。無能な貴様らを捨て、私に協力してくれるそうだ!!」

 

「そんな……!?」

 

 マシュの澄んだ瞳は、悲しいくらいにいつも通りの球磨川を映した。面白いことなんてないはずなのにヘラヘラ笑って、片手で螺子を弄って遊んでいる彼を。

 

 レフの高笑いが広い王宮内に響き渡った。大きく見開いた目は、親しいものに裏切られた彼らを嘲笑い見下すようだった。

 

「悲しいか? ――悲しいだろうなぁ、悔しいだろうなぁ!! だが残念、これが現実だ。貴様らは、これから二人の希望(マスター)を失うのだ。だが、気に病むことはないさ。すぐに貴様らも後を追うことになるのだからな――! さあ、殺れ! 球磨川禊!」

 

『おっけー』『じゃあやりますか、っと!』

 

「禊くん……なんで……!? なんでだよ……!?」

 

 得物を構えた球磨川に、藤丸は悲痛な声を漏らした。親しくなっていたと思っていたのに。大事な仲間だと信じていたのに。こんな裏切りなんて、あんまりじゃないか――!

 

「球磨川さん……っ!」

 

『おいおい、どうしたんだよ二人とも』『そんな辛そうな顔をして』『大丈夫、すぐ楽にしてあげるから、さ――!』

 

 球磨川が螺子を振りかぶる。アルトリアが、ジャンヌが、マスターを守るように一歩前へ出た。そして球磨川の無慈悲な一撃が、無抵抗な体に突き刺さる――!

 

「なん……だと……ッ!? 貴様……裏切ったのか……ッ!!」

 

 驚愕と怒りに満ちた声がレフの口から漏れた。その言葉に球磨川は、おどけた様子で答えた。

 

『裏切るぅ? なんの事だかよくわからないな』

 

 レフの体に深々と突き刺さった螺子を抜き、球磨川は笑う。

 

『僕は僕だ』『過負荷(ぼく)過負荷(ぼく)だ』『弱いものと、ぬるいものの味方さあ』『君みたいな甘い奴に寝返るなんて、とてもじゃないが出来ないぜ』

 

『あと僕みたいなのを「彼女」と一緒にしたのが悪い』、と心の中で球磨川は付け足した。

 

「クソ……クソクソクソクソクソ……!!」

 

 片膝をつくレフ。しかし、藤丸は彼の異常に気がつく。

 

「レフのお腹が……!」

 

 螺子によって貫かれたはずの腹部には、孔どころか傷そのものがなかった。レフは輝く()()を手に、球磨川を睨みつけた。

 

「まあいい……こうなれば私が自ら引導を渡してやろう。哀れにも歴史に取り残された、貴様らになあ!!」

 

「フォウ、フォーウ!!」

 

 レフの体が眩い光に包まれる。それが晴れると、彼のかわりに()()があった。

 

「なんだあの怪物は……! 醜い! この世のどんな怪物よりも醜いぞ貴様!」

 

 美意識の高いネロでなくとも、誰もが醜いと思うであろう怪物がそこにいた。

 まるで巨木のように、どっしりとした肉の柱。そこに夥しい数の、巨大な目が付いている。怪物と呼ぶのが相応しいソレは、聞き覚えのある声で笑った。

 

「はは! はははは! ソレハその通り。その醜さこそが貴様らを滅ぼすのだ!」

 

『そうかな』『僕は割とイカしたデザインだと思うけど』

 

『この反応……この魔力……! サーヴァントでも幻想種でもない、これは伝説上の――()()()()()の反応か!?』

 

「改めて自己紹介しよう――私はレフ・ライノール・()()()()()! 七十二柱の魔神が一柱、魔神フラウロス――これが王の寵愛そのもの!」

 

「背筋が逆立つほどの、大量の魔力は……! ドクター……!」

 

『フラウロス、七十二柱の魔神と、確かに彼は言った。なら彼の言う王とは――!』

 

 無数の目が不気味に煌めく。溢れかえる疑問に答はなく、それでも戦いの幕は、容赦なく開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、わしら思いっきり空気なんじゃけど……」

 

「しっ、駄目ですよノッブ。よくわからないですけど折角シリアスなんですから、いい感じに乗っかりましょうって」

 

「ぐだぐだセプテムからぐだぐだ抜いたらそれただのセプテムなんじゃけど――ま、是非も無いよネ!」


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