Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第三十二敗『終わらせに行こう』

 

 当たり前だが、球磨川禊は別に主人公でもなければ主役でもない。彼がいなくとも地球は回るし天気は変わる。人理が続くかどうかはまだわからないが、今のところ、彼がいたお陰で得られたと断言できるめぼしい成果は存在しない。ゼロであってマイナスでないだけ、彼にしては珍しい。

 

 

 そんな訳で、実質的に一人きりで、人類の運命をその肩に背負う四十八人目の魔術師・藤丸立香は、現地の協力者であるネロ帝と、己の三人のサーヴァント、それに現地のはぐれサーヴァントや思わぬ戦力であったちびノブーズの力を借り、栄華を誇るローマの地を駆け巡り、此処が特異点と化した原因、連合帝国の「皇帝」たちを各個撃破して回る。はぐれサーヴァントでありながら、決別する形となったアレキサンダー三世とロードエルメロイ二世を下し、藤丸一行は連合帝国の王宮へと向かっていた。

 

「皆の者!! 決戦である!!」

 

 ネロ帝は、数万(ちびノブーズで大分かさ増しされている)の軍勢の最後尾にまで響くほど大きく、カリスマたっぷりに声を上げた。

 

「時は来た! 民を苦しめ地を蹂躙し、余の世界(ローマ)を苦しめる悪逆不埒、傲慢不遜な「皇帝」を僭称せし者共を、偽物のローマ共々屠り去ろうではないか! ゆくぞ、我が剣たちよ!!」

 

 雄々、と空気がビリリと震えるほどの歓声が響く。と共に、軍勢は皇帝たちの都へと進撃を始めた。それは通信を通しても物凄かったようで、ロマンが驚いた声音で話す。

 

『こちらにも彼女の声と歓声が聞こえたよ。兵たちの士気は凄まじいね』

 

「はい、頼もしい限りです」

 

「そうだね」

 

 マシュと藤丸が頷く。しかし、彼の顔には何処か翳りが見えた。

 

「マスター、どうかしましたか?」

 

 心配そうにこちらを窺うジャンヌ・ダルクに、藤丸は慌てて両手を振った。

 

「あー、いや別になんでもないよ! ただ、すごいなーって圧倒されちゃっただけ!」

 

「禊のことを考えていたのでしょう」

 

「うっ」

 

 アルトリアの指摘は完全に図星だった。わかりやすい反応が藤丸の素直さを示すようで、マシュは少し微笑ましく思った。ロマンは『気持ちはわかるけれど』と続ける。

 

『球磨川くんなら大丈夫だよ。ジルとキアラさんは消滅して帰ってきたけれど、彼らの言によればあっちも佳境みたいだし。バイタルにも特に問題はないことを考えると、そろそろ帰ってくるんじゃないかな?』

 

「そっか、それならいいんだけど」

 

「……前々から思っていたのですが。立香、貴方は禊のことを気にかけすぎでは?」

 

「え……そうかな?」

 

 アルトリアの指摘に藤丸は首を傾げた。自覚はないらしい。マシュが「お二人は同性で同郷で同年代ですし、こんな状況であれば尚更、気にすることは自然ではないかと」と助け舟を出した。

 

「まあ確かにそうですが……」

 

「アルトリアさんが球磨川さんのことが信用出来ないだけでは?」

 

 ジャンヌが鋭く言う。アルトリアは一瞬間を置いて、「あの男は、人を簡単に騙せ、裏切れるタイプの手合いでしょう。信用する方が難しい」と中々辛辣な物言いをした。

 

『それには私も賛成かな? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、通信を行いたくない何かが彼にあるのは明白な事実だ。レイシフト先で何か問題を起こしていないとも限らない。今の段階で彼を信用し切るのは難しいね』

 

 ダヴィンチの言葉に藤丸は、反論したかった。したかったが、言葉は浮かばなかった。

 

「……禊くんが信用できないのはわかるよ……でも、信頼出来ない人じゃないと思う。だから、もうちょっと待ってほしいかな」

 

「……忠言はしましたからね」

 

 アルトリアは目を瞑り、顔をそっと逸らした。どうやらマスターの思いを汲んだらしい。ありがとう、と藤丸は嬉しそうにはにかんだ。

 

『参考までに聞きたいんだけど、ジャンヌは球磨川くんのことどう思ってるのかな?』

 

 ロマニの問に間髪入れず、聖女は答える。

 

「変な方ですが、悪人には見受けられません」

 

「そうだよね!」

 

 裁定者(ルーラー)クラスのサーヴァントとして確かな審美眼を持つジャンヌの言葉には確かな信憑性があった。そのお墨付きを貰った、と安心して頷く藤丸。善人とも言っていないのだが、そこには気がついていないらしい。

 

「異邦の客人達よ! 都はすぐ目の前だ、準備は出来ておるか!」

 

「ああ、大丈夫だよー! この戦いを、終わらせに行こう!」

 

 拳を握り、魔術回路を開いて戦闘態勢に入る。兵たちが地を蹴り、大地を駆ける。サーヴァント達が飛び出し、戦場を荒らす。過負荷を待たぬまま、決戦の時は近づいていくのだった。


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