Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第三十一敗『僕らにはまだ切り札がある』

 

 銃を構えるやいなや、織田信長は素早く発砲し、球磨川禊の脳天を撃ち抜きにかかった。敵の将を狙う。戦場においての基本であり、ことサーヴァントを率いたマスター戦に於いては最適解と読んでも差し支えない戦法である。

 だが無論、どんな戦法にも穴はある。サーヴァントという最強の矛にして最強の盾を無視した、一つ飛びのそんな戦略は、ショートカットしようとしたサーヴァントによって阻まれるのである。

 

「流石ノッブだけあって、姑息なことしますね!」

 

『助かったぜ沖田ちゃん』『どうもありがとう』

 

「いえいえー」

 

 沖田総司は球磨川めがけて放たれた弾丸を、即座に引き抜いた刀で弾く神業を見せた。その正確無比な剣さばきに一同は舌を巻く。流石は新撰組一番隊隊長といったところか。

 

「え、沖田も真名明かしてたの? それちょっとガバガバ過ぎな気がするんじゃが……」

 

「別に聖杯戦争じゃありませんし、真名バレで困るような弱点、沖田さんにはないのでいいかなーって」

 

『真名がバレようがバレまいが勝手に吐血するだけだもんね』

 

「長期戦持ち込んで自滅期待されるとか、そういう戦略取れそうな気がするんじゃけど……」

 

 悪いノッブが敵ながらまともなことを言った。良いノッブは思い出したように悪いノッブを責め立てる。

 

「いきなりマスターを狙うなんて、悪いノッブは卑怯じゃのう! 良いノッブと違って!!」

 

「ダイナミック自虐乙。夜の寺を焼き討ちとかも相当に卑怯じゃろ。卑怯って自覚してるだけ悪いノッブの方がマシだよネ!」

 

『そのあと本能寺でミッチーに謀反起こされて焼け死ぬの、なんか四字熟語を彷彿とされるよね』『何ていうんだっけこういうの? 自己完結?』

 

「"因果応報"だろ。ま、因果なんてあろうがなかろうが、死ぬやつは勝手に死ぬと思うがね」

 

 彼らお得意の、横道に逸れる雑談はさておき。現在の戦況は球磨川には芳しくなかった。アーチャーに不利なセイバークラスのサーヴァントが一騎(更にランダムでスキル:病弱が発動する)。自称最弱のエクストラクラスのサーヴァントが一騎(本当に弱い)。力を奪われ弱体化したアーチャーが一騎(レベル1フォウ0相当スキルオール1)。対して敵陣は、ちびノブ(×(インフィニティ))、魔神アーチャー(聖杯一個使用済みレベル84スキル10/10/10フォウMAX)。これなんて無理ゲじゃろ!

 

「ふん、貴様らなんぞわしが手を下すまでもないわ! それいけちびノブ軍団、彼奴らを蹴散らせ!」

 

 悪いノッブの声とともに、何処からか現れたちびノブ軍団が動き出す。

 

「ノブ」「ノブノブ」「ノノブノブノブ」『ブノブノブ』「ノブノブコフッ」「ノッブノッブ!」「……オレもやんなきゃダメか、これ?」

 

「不純物混じっとる!?」

 

『ちぇっ』『絶対上手くいくと思ったのに、今の確実にアンリくんのせいでバレたぜ』

 

「括弧つけてる時点でバレバレだろ」

 

「もう、本当ですよアンリさん」

 

「いや、アンタもあからさまに吐血してただろ!」

 

『というか、思ったより数いないね』『僕らが目立つレベルだし』

 

 球磨川軍団はどの集団にいようが明らかに浮いて目立つと思うが、確かにちびノブ軍団は数が少なかった。総勢約十名である。

 

「なんじゃなんじゃ、何処に消えたんじゃ貴様ら!」

 

「ノブノブノブ」

 

「え? 『人理の為に特異点にレイシフトした』……って何じゃそりゃ! わざわざ敵方に味方してどうする! それでもわしの端くれか!」

 

「ふん、どうやら良いノッブの因子が強かったようじゃな」

 

 恐らく良いノッブの因子が多少混ざったところでああはならないので、事故で聖人か何かの因子が混ざったのだと思う。真相は最早聖杯の混沌(ぐだぐだ)の中だが。

 

「だが、ちびノブがいようがいまいが、わしの強さに揺るぎなし! スキル1使用からのアーツクイックアーツぶれいぶちぇいんじゃあ!」

 

『くっ、最前列にいたせいでアンリくんに甚大なダメージが!』

 

「紙耐久なんで辞めてくれませんかねえ!? おいマスター、何か魔術でサポートとかないのか!? 確かもう一人のマスターの礼装(ふく)なら霊基修復(かいふく)とか緊急回避とかあった気がする……が……」

 

『えー』『これ僕の学生時代からの一張羅だしい、そんな便利機能はついてないぜ?』

 

「あーそうですかそうですか、全く役に立たないマスターだな!」

 

 にへらにへらと笑顔で答える主人(くまがわ)に、悪態をつく使い魔(アンリ)。相対する第六天魔王は、そんな様子を呵呵と哄笑する。

 

「まずい、先程のはわしがえぬぴーを溜める最大効率の動き! しかも最後の一枚がくりてぃかると見た!」

 

「ふん、流石はわし。よくわかっとるな、つまり宝具解放じゃ!」

 

 概念礼装(ウラワザ)を使っていたのかもしれないが、第一スキル(全体NP獲得量バフ)は伊達ではない。一気に宝具の準備を整えた敵方は、高らかに口上を叫ぶ。

 

「三千世界に屍を晒すがよい……天魔轟臨! これが魔王の『三千世界(さんだんうち)』じゃあ!!」

 

「ぎゃあああ!?」

 

「きゃあああ!?」

 

「ちょ、わしまじで死ぬから……っ!?」

 

 激しい銃弾の豪雨は砂嵐を呼び、数刻の後にそれは晴れる。真っ先に目に映ったのは片膝をつき、ボロボロになった沖田で、アンリと信長の姿は何処にもなかった。

 

『……』『……え、もしかして沖田ちゃん以外ガチでやられた?』

 

「私はガッツ持ちの礼装付いてたおかげで生き延びたっぽいですけど、恐らく御二方とももう……」

 

「ふはははは! その通りじゃ、良いノッブを始末したことで、奴の1レベル分はわしに吸収された! 今のわしこそ、完璧に完全なパーフェクトノッブじゃ!」

 

「くっ、そのレベル帯の1レベルは大きいですね……!」

 

『聖杯もう六個くらい吸収してから言ったらどうかな?』

 

 一応球磨川もマスターであり、微弱とはいえ魔力回路(パス)も繋がっている。サッとスマホを開いて『編成』のリストからパーティ編成を確認すると、アンリと信長はその中から抜けていた。

 

『ふ、悪いノッブちゃん。君は大切なことを忘れているようだね』

 

「一体何のことじゃ」

 

『消滅した良いノッブちゃんは君に吸収された……つまり、君の八十五分の一が少し善性に傾いた!』

 

「あのコレ、光と闇の主人格争いみたいなもんじゃから、傾くも何もないんじゃけど。悪いノッブが勝った以上、ノッブのちょっと綺麗な部分は心の奥の奥の方に移住したのじゃ。貴様らの知るわしはもういない! わしこそ、冷酷さと残忍さと常識性が良いノッブより優ったぱーふぇくとな織田信長じゃ!」

 

「その三つって共存できるんですね」

 

『ふむ……』『だとしても、僕らにはまだ一つ切り札がある。だろう、沖田ちゃん?』

 

「ええ、そうですね」

 

 過負荷と人斬りは、誰がどう見ても劣勢という状況だというのに、まるで『詰め』の一手でも隠し持っているかのように、不敵で素敵に微笑む。尾張のうつけは少し眉を動かし、少し緩んだ心を強く引き締めた。

 

「どんな切り札だろうと、使う前に勝負を決めれば無意味! ゆくぞ! バスターアーツバスターでぶれいぶちぇいんを……」

 

 組む前に、攻撃を打ち込もうと見据えていた相手が一瞬で消えたことに信長は焦る。ずっと見ていたはずだ。()()()、いや、それよりも()()()()()()()()

 

「はっ、そこか!」

 

 彼等は一瞬のうちに、身を低くして体を丸めていた。そうして銃弾の絨毯爆撃をかわそうという策略か、そう思ったが、すぐに違うことに気づく。鉄砲(チャカ)の引鉄に指をかけたとき、球磨川と沖田は顔を上げ、両手も高く上げた。

 

「『ごめんなさい降参です、許してください命だけはお助け下さい!』」

 

「……えぇ………」

 

 理想形といっても過言ではないほど綺麗な土下座で、過負荷と人斬りは命乞いをするのだった。

 

 


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