Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第二十九敗『私は夜這いがよろしいかと』

 球磨川禊が目を覚ますと、何処かの草原の上に立っていた。

 

『ん』『よくわかんないけど無事レイシフトできたっぽいね』

 

 よくわからないなら無事ではないのではなかろうか、と一同(の中のまともな数名)は心の中でツッコむが誰一人おくびにも出さなかった。

 

「レイシフトしたら通信でバックアップをどうとか言っとらんかったか?」

 

 魔人アーチャーの指摘に『そうだったね』と頷いて、球磨川は手首に巻かれた腕時計型の通信機の、連絡用のボタンを押す。反応は何も無い。

 

『ふむ、どうも通信機の調子が悪いみたいだ』『これはカルデアからのバックアップは期待できないと思った方がよさそうだね』

 

 通信機をカンカンと叩いてみせる球磨川。乾いた音が響いた。

 

『で』『これからどうするんだっけ?』

 

「ジャンヌを増やしましょう、マスター」

 

「私も増えたいです、マスター?」

 

「増えんでいい増えんでいい」

 

 ジルとキアラに疲れた表情でツッコミを入れる魔人アーチャー。増える苦労を分かっている女の言葉には、確かな重みがあった。

 

「とりあえずそこに見えるサーヴァントでもやっちゃいますかねぇ?」

 

『あー、なんかいるね』

 

 アンリが指差す方を見ると、一同の潜む茂みを抜けた先の草原に、大量のちびノブ軍団と二騎のサーヴァントが見える。一人は仁王立ちしてそうな槍持の男性で、もう一人は、機能性に特化し過ぎではないかというくらい防御力が貧弱にして、その体型もコンパクトな少女。言わずと知れた武蔵坊雪齋とその主、今川よしつねである。

 

『え、誰?』『知らないなあ、どこのモブキャラ?』

 

「英霊ではあるみたいですが、何か妙な因子が混ざってるみたいですね」

 

「ふむ、どうするのですかミソギ?」

 

「私は夜這いがよろしいかと思います」

 

『キアラちゃんはおちゃめだなあ、夜襲と夜這いを言い間違えちゃうなんて』『とはいえそれは、なかなかどうしていいアイデアだ。不意を突いての奇襲であれば、ちびノブ分の戦力差も埋められるかもしれない』

 

「いえ、夜襲ではなく夜這……」

 

「夜襲といえば桶狭間じゃな! 腕が鳴るのう!」

 

 腕をブンブン回す魔人アーチャー。しかし今の彼女は力を失っているため、鳴るどころかむしろ、へし折られてしまいそうな勢いである。

 しかし、ガサゴソと叢を掻き分けてこちらに近づいてくる足音で、そんな彼女の勢いも削がれた。

 

「ん? そこにいるのは何者だ!」

 

「もう、ノッブが騒ぐから見つかっちゃったじゃないですかー!」

 

「え、わしのせい!? みんなも結構騒いどったじゃろ!?」

 

「ジャンヌジャンヌと五月蝿かった人のせいじゃないんですかねぇ?」

 

「はて。もしやマスターの立案の際の声が大きかったのやもしれませんぞ?」

 

『態度が小さく身長も小さいことで有名な僕の、唯一の取り柄だからね』

 

 球磨川が括弧つけた。くだらない戯言を吐き終えたところで先程の声の主が姿を現した。日に焼けた色黒い肌の、黒髪で短髪、弓持ちの青年。一同を見回し、勇ましい笑顔を見せる。

 

「さてはよしつね様を狙う不届き者だな!? この大軍に向かってくるとはいい度胸だ! その度胸に免じて、この松平アーラシュがお相手し」

 

『あ、いえ違います』

 

「違うのかよ!」

 

 偉大なる東洋一の弓取りのノリツッコミが入った。外野がずっこける中、あっけらかんと球磨川は騙る。

 

『僕たちは道に迷っただけの、通りすがりのマスターとサーヴァントです! よしつね様方に危害を加えるつもりはないので、素通りさせてくれると嬉しいなっ!』

 

「そうしてあげたいのは山々だが……この本陣を見られたからには生かしておけないな!」

 

「はあ、そこ本陣なの!? ウッソだろお前!」

 

 よく見ると彼の足元に、デカデカと『本陣』と書かれたレジャーシートが敷かれている。最高に意味がわからなかった。

 

『んじゃまあとりあえず』『茶々っとやらせてもらおうかなあ!』

 

 マスターが螺子を取り出し臨戦態勢に入ったのを見て、サーヴァントたちも各々戦闘準備を整える。それを見て不敵に笑うアーラシュは弓を構えて叫ぶ。

 

「月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身スプンタ・アールマティを見よ。この渾身の一射を放ちし後に――――我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!」

 

「待てよあんた! それって宝具じゃ……!?」

 

『よし、全力で逃げよう!』『あの辺のサーヴァントを巻き添えにする感じで!』

 

「ちょ、いきなり走り出すのはヤバ……コフっ!」

 

「吐血しとる場合か! ほれ、置いてくぞ!」

 

「固有スキルなんでしょうがないんですー!!」

 

『はあ、はあ……』『もう無理、限界……』

 

「我がマスターよ! 立ち止まってしまうとはなんと情けない!」

 

「何処まで逃げても無駄だぜ! 俺の矢の射程距離は2500キロメートル、おおよそ地球のどこへでも届く!!」

 

「それ本当に矢なのかと!!」

 

『じゃあもう走らなくていいや』

 

「仕方がありません……私がお運びしましょう」

 

 立ち止まってしまった球磨川を、キアラ(筋力:D)がひょいと軽く抱える。そしてすぐに走り出す(敏捷:B+)。

 

『何故お姫様抱っこ……!?』

 

「少々はしたないですが、人を運ぶ手段としては合理的ですので」

 

『キアラちゃんが頭良さそうなこと言ってるとなんか心配になってくるねうわめっちゃ気持ちいいしいい匂いする』

 

「うふふふふ」

 

『当てるどころか完全に押し付けて密着させてくるとは、何という色情魔……!』と呑気にこの状況を楽しむ球磨川。一同は何やかんやで、ちびノブを掻き分けながらよしつね達のところに辿り着く。

 

「む、曲者! 武蔵坊弁慶……じゃない、雪斎出番ですよ!」

 

「フルネームで呼びましたな、殿……しかしよしつね様、彼らは我々を狙っているのではなく、ただ移動しているだけに見えますが……?」

 

『はい!』『敵意はないのでどうぞ通らせてよろしく!』

 

「はあ、まあいいでしょう……」

 

 ちびノブの花道を抜け、球磨川たちは一目散に草原を駆け抜けていった。何だったのだ、とよしつねは首を傾げる。その時、視界の端に妙な光が映った。

 

流星一条(ステラ)ァァァ!!!」

 

「やっぱ宝具じゃねえかぁぁぁ!!!」

 

 アンリとアーラシュの絶叫と共に、空に光弾と見紛うような神速の一矢が打ち上がる。それが段々こちら目掛けて近づいてくる様は、まさに流星。しかしターゲットである彼らに、のんびりそれを眺める余裕はない。

 

「む、弁慶! 今度こそ敵の攻撃では――!」

 

「最早完全に素面(シラフ)になりましたな義経様――!?」

 

「ぬううう、ちびノブにつまづいてしまった! 主よ、何故私にこのような仕打ちを――!?」

 

 逃げ遅れたジル・ド・レェを含め、三人の視界は眩い光に包まれ、消えていくのだった。ギリギリ着弾範囲外に移れた彼のマスターは、溢れ出る悲愴と後悔に倒れそうになりながらも拳を握る。

 

『くっ、ジルくん……!』『まだ二桁も台詞を喋ってないのに……!』『安心して! 君の分まで、僕が喋るから!』『あと名も知らぬ英霊様方の分も!』

 

「無駄に括弧が多いもんなあ……」

 

 仲間が消えようが流星が降ろうが、道は続いていく。敵の想いも背負いながら、我らが球磨川禊は進んでいくのだった。







遂にうちのカルデアにアンリが来たり星五鯖ラッシュだったり色々ありました。今度こそ更新ペースを戻していけたらなーと思いますので今後ともよろしくお願いします!

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