独自設定盛々です
第二十八敗『是非もないよネ』
「じゃあ一旦状況を整理しよう」
ダヴィンチの言葉に一同は頷く。
「超天文学的な確率で何故か、桜セイバーと魔人アーチャーのいた世界とこのカルデアの位相がぶつかってしまった」
うんうん、と桜セイバーと名乗った少女と、魔人アーチャーと呼ばれた少女は首を縦に振った。
「で、そちらの世界で行われていた聖杯戦争の途中で、聖杯が暴走。その際に誕生したちびノブがカルデアに押し寄せてきた」
「そうじゃ!」
「すいませんね、うちのノッブが……」
「何じゃとおき……桜セイバー!」
「いや、ノッブじゃなくてちびノブです魔人アーチャー。紛らわしいですねもう!」
魔人アーチャーと桜セイバーの夫婦漫才のようなやり取りに、周囲のぐだぐだ度がどんどん上昇していく。割とシリアスな緊迫した状況だというのに、どうにも真剣になりきれない不思議な空気である。
『ノッブちゃんが聖杯と乳繰り合って、イチャイチャネチョネチョの果てに生まれたのがちびノブなんだっけ?』
「違うわ! 何を聞いてたんじゃおぬしは! 若干間違ってる気がしないでもないけどその辺りは是非もないよネ!」
どうやら聖杯戦争の最中暴走した聖杯が、魔人アーチャーの潜在意識を形どって現実世界を侵食し始め、その影響で誕生したのがちびノブらしい。そしてちびノブは魔人アーチャーが元となっているため、逆説的に魔人アーチャーはちびノブをデフォルメしなかった場合の姿をしている。前話のちびノブの描写を参考に、魔人アーチャーの姿は各々の想像で補完して頂きたい。
「何か知らんけどわし、物凄くぞんざいな扱い受けてない!?」
「まあ……聖杯とイチャイチャネチョネチョなんて、なんといやらしうらやましい……どんな具合でした?」
「だから違うと言っとるじゃろうが!」
話を聞かないキアラの質問に、若干キレ気味のご様子の魔人アーチャーであった。彼女が怒ってる時の瞳はちびノブのそれととても似ていた。
『そのときにはちびキアラちゃんが生まれるんだろうね』『それは……』『うん、僕はちびノブの方が好きかな!』
「もしジャンヌなら一ジャンヌ二ジャンヌ三ジャンヌ四ジャンヌ…………さあ! 聖杯を得るのですジャンヌゥゥゥ!!!」
「なんかココ……めっちゃキャラ濃いのう……」
「大丈夫です! 多分我々も負けてな……コフッ!」
「コラ! ここぞとばかりに吐血してキャラ立てするな! ワシもやるぞワシも! 是非もないよネ!」
「……そろそろ話を進めてもいいかな?」
『あ、どうぞ』
球磨川が促すと、軽く咳払いしてダヴィンチが話し始めた。
「どういう理由があってかは分からないけど、一部のちびノブたちはコフィンに乗り込み、藤丸くんたちと共にレイシフトした。その辺の動きは今彼らと通信してるロマニから後で聞くとして……とりあえず、球磨川くんたちには桜セイバーちゃんたちの世界の問題を解決してきてもらいたい」
『構わないけど、僕らがいないとなると立香ちゃんたちのことが心配だよ』
「私としても二人揃ってくれていた方が安心だが、藤丸くんはこの前の特異点だって
そこを突かれるとどうにもやりづらい。球磨川は珍しく、素直に従うことにした。
『……まあ、そうしようか』『そうと決まれば早速レイシフトだ。もう出来るんだろう?』
「もうバッチリだよ。さあさあコフィンに乗った乗ったー!」
―――――――
『――そんな感じで、今頃球磨川くんたちも別の特異点に向かっているはずだよ』
「なるほど……後から来てくれるなら頼もしいなあ」
カルデアの状況を話し終えると、藤丸は安心したように肩を落とした。通信が繋がったのはつい先程のことで、それまでに彼は、既に何度か戦闘を終えているらしい。
「む、声はするが姿は見えぬ……もしや魔術師の類か?」
と、中央部分が大きく透けた、豪快というか軽快というか、無防備ともいえる奇怪な服装の麗人が声を上げた。鈴を転がすような、という形容詞の似合う綺麗な声だったが、何処か威厳が感じられる。
『魔術をお分かりなら話は早い。そう、ボクとそこの二名はカルデアという組織の――』
「まあよい」
『あっさり遮られた!?』
「では早速都へと向かおうではないか! 立香にマシュ、ちびノブーズ!」
「「「「「ノーブノーブ!!」」」」」
『え、ちょっと待ってちょっと待って!?』
「どうしましたドクター?」
不思議そうに聞くマシュに、ロマニの疑問が飛んだ。
『その人が誰か聞いてないしちびノブーズという謎の団体の説明ももらってないんだけど!?』
「ふむ、よくぞ聞いてくれた!」
キラキラと目を輝かせて、麗人は大きく胸を張った。膨らみが小さく揺れた。
「余こそ、真のローマを守護するもの。まさしく、ローマそのものであるもの。余こそ、ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウスである――!」
『皇帝ネロ……お、女の子だったのか……歴史とは……深いな……』
――ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウス。『暴君』と呼ばれた人物で、無論史実では男性である。
ロマニは感じるものでもあったのか、何処かしみじみとした声であったが、『いやいやそれも驚きだけどそれよりも!』と話を戻した。
『え、ちびノブーズって何? 彼らは目的不明のままレイシフトして、特異点を荒らし回ってるんじゃなかったの?』
「いえドクター、ちびノブさんたちは私たちの指示をよく聞いてくれて、大変統率も取れています」
「「「「「ノブノーブ!!」」」」」
――遡ること数時間前。藤丸たちはローマ郊外の丘陵地へとレイシフトした。無論ちびノブたちも一緒である。マスターを守るべくサーヴァントたちはちびノブに刃を向けたが、あろうことか彼ら(?)は恭しく頭を垂れるではないか。
「えーっと、どういうことだろこれ……」
「ノーブノブノブ、ノブノッブ!」
「ごめん、何言ってるか全然わかんないや……」
立ち上がった一匹のちびノブが身振り手振りで何かを伝えようとしてくれているようだったが、残念ながら全く要領を得ない。首を傾げていると、マシュの胸元から毛むくじゃらの何かが飛び出した。
「フォーウ!」
「フォウ!? またついてきちゃったの!?」
「ノーブノブノブ」
「フォーウフォウフォウ」
「……もしかしてちびノブの言葉がわかるの?」
「フォーウ!」
フォウは肯定の意を示すため元気よく返事をした。そしてフォウがちびノブと喋れるというなら、フォウを介してマシュはちびノブの意図を読み取れる。
「フォーウフォウ!」
「なるほど、把握しました」
「何かわかったの?」
「フォウさん曰く、『おうおうおう、人理の危機たあ大事じゃねえか! そりゃあ放っておくわけにはいかねえ。世界が違おうがなんだろうが、助けねえわけにゃあいかねえ。そんなことしちゃ夢見が悪いだろ?』とのことです」
「ノブ!」
「ちびノブ……なんかすごいカッコよくて俺、ちょっと震えたよ……」
「ノブノーブ!!」
「フォウフォーウ!!」
「フォウさん曰く、『俺らでよけりゃ力を貸すぜ。何でも言ってくれ、殿』とのことです」
「ありがとうみんな……!」
「「「「ノーブ!!」」」」
――と、そんな感じで藤丸はちびノブたちの協力も借りながら、単騎で軍勢相手に戦っていたネロ帝を助け、カリギュラを撃退し、自己紹介を終え、今に至っている、ということらしい。信長の潜在意識の具現化にしてはちびノブのキャラがおかしかったり勢いが変なのは気にしてはいけない。
『そうか……まあ、戦力が増えたなら安定して戦いを進めることが出来るだろうし、いい展開じゃないかな。多少空気がぐだぐだするデメリットはあるけど』
「愛いやつめ♪」
「ノブノーブー♪」
ロマニの話を無視してちびノブを撫でるネロ帝。仮にこの空間にぐだぐだな空気がなかったとしても、きっと彼女はマイペースにちびノブを撫でたと思われる。ちびノブも目を細めて喜んでいるようだった。
「禊くんは今頃どうしてるかなあ……」
『彼ならまあ多分、心配ないよ』
そう。球磨川禊は心配するに値しない。心配すべきはむしろ、
ちびノブは明治維新で割と普通に喋ってたりもしてたけど、まあそのへんは是非もないよネ!←