Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第二十七敗『蛮行もそこまでです』

「昨日は失礼しました」

 

『ああうん、まあ別に気にしてないから気にしないでね』

 

 翌日。時間が経ってテンションが落ち着いた様子のジルと、球磨川は改めて顔合わせを行うことにした。無論アンリとキアラも一緒である。二人ともジルのことは一瞥したきり目もくれず、アンリはカルデアに置いてあった漫画を、キアラは成人向けの雑誌を恍惚とした表情で読んでいた。

 

「改めましてキャスター、ジル・ド・レェと申します。以後お見知りおきを……」

 

『あー』『そういう硬いのはいいから。もっと緩くいこうぜジルくん』『「緩い雰囲気・怠そうな空気・存在しないやる気」が僕らのモットーだからさ』

 

「はあ。それがあなたの意向ならば、私もそれに従わせてもらいましょう」

 

 球磨川は謎の標語を掲げながら、いつの間にか部屋の壁に設置されていたダーツ盤へと細い螺子を投げる。螺子は見事的を外れ、小綺麗な壁へと突き刺さった。

 

『…………』

 

「おお、素晴らしき腕前ですな」

 

『もしかして煽ってる?』

 

「いえ、今のは敢えて壁を狙っていたのだと私にははっきりわかりましたので」

 

『よくわかったね、その通りだよ』『螺子なんか投げたらダーツ盤が傷ついちゃうからね』

 

「じゃあ最初から投げんなよ」

 

 壁が傷つくことはどうでもいいらしい球磨川に、静観していたアンリが思わずツッコミを入れた。が、すぐさま視線は手元の本に戻る。あまり喋る気はないらしい。

 

「そういえば我が主よ。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうかな?」

 

『球磨川禊、それが僕の名前だよ』『気軽に適当に読んでくれていいぜ。僕はジルくんのことをジルくんって呼ぶから』

 

「ふむ。それではミソギ、と。そのように呼ばせていただきます」

 

『何気に呼び捨てで名前で呼ばれるのはレアだな』なんて考えながら、球磨川は追加で螺子を投げてみた。見事に壁に刺さった。

 

『見たかい、僕の腕前』

 

「本当に素晴らしい! それでこそ、我が主に相応しいCOOLな腕前です!」

 

『ジルくんもちょっとこれやってみる?』

 

「どの辺の壁を狙えばよろしいのですか?」

 

『あー……』『いや、折角だからダーツ盤の中心を狙ってみよう』

 

 そういって球磨川は、螺子ではなく普通のダーツを五本ジルに渡した。渡しながら、適当に会話を繋げていく。

 

『ジルくんの時代にはダーツってあったんだっけ?』

 

「ええ、ありました。尤もそれが生まれたのは我が祖国ではなく、戦争の相手であったイギリスの方ですが……」

 

『…………』

 

 石膏像の様な固まった笑顔が怖い。何分まだ召喚してから少しも絆を深めていない故、ただでさえ不気味なこの男の笑顔の裏に、どんな思いがあるのかなんてことは流石の球磨川禊にもよくわからないのだった。

 

『よし、それじゃ投げてみよっか』

 

「ハッ!」

 

 放たれたダーツが、トントントンと小気味よくリズミカルに盤を叩いた。中心から見て左上、左下、右上、右下へと綺麗に正方形を描くように刺さり、最後に盤のド真ん中へと突き刺さった。

 

「ふむ、なかなか難しいですねぇ……」

 

『……うん、まあ初見にしてはなかなかなんじゃないかな』『僕の次くらいには見どころがあるぜ』

 

「ありがたきお言葉」

 

 恭しくお辞儀するジルと、珍しく引き攣り気味の表情で頭をかく球磨川を見てアンリはクククと喉を鳴らした。

 

「お、そうだな。何をするかわからないって意味じゃ、今のところアンタの方が格上だもんな!」

 

『その点についてはみんな似たりよったりだと思うけどねえ』『ま、キアラちゃんはわかりやすいかもしれないけどね』

 

「まあ。一体何のことだか……?」

 

『まずそのエロ本を置くところから始めた方がいいと思うぜ』『検閲の為に僕が没収しておこう』

 

「見る気満々かよ」

 

『ジルくんも見る?』『ちなみにどんな子がタイプ?』

 

「ジャンヌのように気高く、ジャンヌのように純真で、ジャンヌが如き可憐さを誇り、ジャンヌを思わせる誇り高き……ジャンヌゥゥ!!」

 

『ジルくんがジャンヌちゃんのことを愛してることだけは伝わってきたぜ』『じゃあこのモデルの顔をこんな風にしたらどうかな?』

 

「これは……いけません! ああいけません! なんと破廉恥な!!」

 

 何処で入手したのか、ジャンヌの顔写真をグラビアモデルの顔に貼り付けた球磨川。鼻息を荒くするジル。

 

「そんなことをしてはこの女性も可哀想です。まるで体にしか興味がないかのようではありませんか」

 

『そうだよ』

 

「それでは代わりに、私がその任を負いましょう……さあ! いくらでも私の体をお使いくださいまし!」

 

『うーん、キアラちゃんはなあ……ちょっと……熟れすぎかなあ……』

 

「う、熟れすぎですって……!?」

 

「肉体から浅ましさが滲み出ています。却下」

 

「まあ、そんな言い方……照れてしまいます……」

 

「なんで照れてるんだアンタは」

 

『なかなか賑やかで混沌としてきたなあ』

 

 混沌(カオス)な球磨川一行の雑談及び猥談は、廊下に響くほど騒がしく、夜分遅くまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――

 

「おはよう、三人とも。もう準備は大丈夫そうだね」

 

 そんなこんなで数日が経過。特異点の座標も割れ、本日は第二特異点へのレイシフト予定日である。

 やる気に満ち、何処と無く元気なオーラが溢れている藤丸と欠伸をして眠そうな球磨川が対照的だ。

 

「今回の特異点は一世紀のヨーロッパ、より具体的に言うと古代ローマで――」

 

 ウィーンウィーン、とロマニの説明を遮るように大きくアラート音が鳴った。カルデア内に入場資格のない者が存在していることを示すそれは、とどのつまり侵入者の存在を教えていた。

 

「このタイミングで侵入者!? え、なんだ! 一体どこから!?」

 

「どうやら別位相から直接侵入されたみたいだね。でもこの反応は……?」

 

「今すぐ迎撃に向かいましょう、先輩!」

 

「いやー、その必要はないんじゃないかなあ? だってほら、そこ」

 

 ダヴィンチの指差す先。そこには全長六十センチほどで慌ただしく動き回る、奇妙で珍妙な生物(?)が存在していた。軍帽に金色の花を付けたような帽子に、将校のような服を着て集団でこちらに向かってくる。悠に百は超えているだろう。

 

「な、何なんだよあれ!」

 

『さあ?』『一昔前にブームが過ぎ去っていった、ゆるキャラってやつなんじゃない?』

 

「ゆるキャラ……! 聞いたことがあります、日本で流行りの、可愛さに振り切っているわけでも格好よさに振り切っているわけでもない、どっちつかずの中途半端な名物キャラクターたちだと……!」

 

「うーん、否定したいけど否定しづらい……!」

 

 若干ゆるキャラに辛辣なコメントを寄せたマシュと球磨川に苦言を呈したいところだったが、ぐぬぬと歯噛みして堪える藤丸なのであった。

 

「って、そんな話をぐだくだとしてる暇はないよ藤丸くん!」

 

「ノッブー!」

 

「うぉおっ!?」

 

 隙だらけの藤丸のボディーに、一体のゆるキャラ(仮)が激突した。後ろに吹き飛ぶ藤丸。

 

「待て、そっちはまずい……!堪えたまえ、藤丸くん!」

 

「そ、そんなこと言われても……!」

 

「先輩っ!」

 

 一体飛び出したのを皮切りに、次々押し寄せるゆるキャラの群れ。マスターを守りに行くマシュの盾すら、圧倒的物量の前には抗えなかった。

 

「くそ……! 正体はわからないが、こいつらの狙いはまさか……!」

 

「多分その通りだロマニ! でも、今それをされるのはまずい……!」

 

「誰かたーすーけーてー!!!」

 

「今行きます先輩!」

 

 ゆるキャラ(仮)が藤丸を押しながら進む先、それはレイシフトに使用されるコフィンだった。あれよあれよという間に藤丸ごと、ゆるキャラ(仮)はコフィンに乗り込む。

 

「レオナルド! こういう時こそ宝具を使って何とかしてくれよ!」

 

「あのねえ、確かに天才たる私の手にかかれば宝具で何とかすることも出来るが、そんなことしたらここの重要機材が壊れるかもしれないだろう?」

 

「天才なら重要機材くらい直せるだろう!?」

 

「直しづらいから重要機材なのさ。というか今の状態で下手に壊しちゃうと、材料が足りなくて修理できずに人理終了とか普通に有り得るからね?」

 

 雑談の間に、藤丸のコフィンの中には所狭しとゆるキャラ(仮)が侵入していた。

 

「ノブノッブ!」

 

「あ、ちょ、押し込まないで! 押し込まないで!!」

 

「じゃあせめて払い除けるとかそういう物理的な手段を行使してくれよ!!」

 

「や、やめてください! そういうところを触られるのは……その……困ります……」

 

『え、マシュちゃんどこを触られてるの?』『ねえねえマシュちゃんどこを』

 

「ちょっと球磨川くんは黙っててくれるかな……! っていうか球磨川くん暇なら助けに行ってあげてよ!」

 

『あはは、残念ながら僕も自衛で精一杯だよ』

 

 螺子で遠慮なくゆるキャラ(仮)を貫き屠っていっているが、その言葉は信じていいのだろうか。

 

「私が払い除けに行くのも駄目だ。だってこの珍妙なゆるキャラの狙いがレイシフトとわかった以上、ここを離れるとスイッチが押される可能性が――」

 

「ノブっ」

 

『あっ』

 

 ダヴィンチの死角より躍り出たゆるキャラが、レイシフト開始のボタンを押した。心做しか普段より大きくなったコフィンは二台、人類最後のマスターとそのサーヴァント+ゆるキャラ(仮)を乗せて一世紀のローマへと飛んでいった。

 

『行っちゃったね』

 

「まずい、まだ準備が終わってなかったのに……! くそっ、この子たちが邪魔で動けない!」

 

「「「「「ノブ、ノーブッ!」」」」」

 

『えっ』

 

 部屋を埋め尽くさんばかりに闊歩しているゆるキャラ(仮)は、球磨川を持ち上げてコフィンに押し込もうと流れていく。振り回していた螺子はゆるキャラに没収され、なす術なく詰められかけている。

 

「一歩音越え、二歩無間――」

 

 球磨川がゆるキャラ(仮)と仲良くコフィンに乗り込んだその時、何処からか女性の凛々しい声が響いてくる。ゆるキャラの波の中を縮地により一瞬で駆け抜け、

 

「三歩絶刀!『無明三段突き』!」

 

 球磨川の周りのゆるキャラを一体、一瞬のうちに放たれた鮮やかな三連続の同時突きという、とんでもないオーバーキルで屠った。というか、明らかに宝具だと思われるそれをゆるキャラ(仮)相手に放ってよかったのだろうか。

 

「ふっ!」

 

 手に持つ刀を弧を描くように振り、辺り一帯のゆるキャラを蹴散らす。

 

「蛮行もそこまでです! 私が来たからにはもう大丈夫ですよみなさん!」

 

「え、えーっと……君は?」

 

「あ、初めまして。私は新選組……じゃなくて、えーと、とりあえず桜セイバーとでも呼んでください」

 

 何処かハイカラな和装に、淡く輝く抜き身の刀。薄い桜色の髪を大きなリボンで束ね、一本抜きん出たアホ毛が自己主張する何処かで見たことがあるような顔の少女は、そういって笑った。

 

「コフッ!」

 

「吐血した!?」

 




次回、第二特異点 永続ぐだぐだ帝国セプテム!
この作品もなんかぐだぐだしてきてますね……

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