Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第二十四敗『どういった人なんでしょう』

 

「おかえり! いや、本当によくやってくれた!」

 

 カルデアへと帰還した藤丸、球磨川たちをダヴィンチが笑顔で迎えた。

 

「ただいま、ダヴィンチちゃん。……はー、疲れたあ……禊くんもお疲れ。大丈夫だった?」

 

『うん、まあ何とかね』『お互い、無事五体満足で帰還できて喜ばしい限りだぜ』

 

「物騒な事言わないでよもうー」

 

 球磨川は何処も無事ではなかった気がするが、実際問題、実力も乏しく戦力も十分ではない藤丸が、ほとんど傷を負うことなく、特異点の首謀者を打倒し、人理の歪みを一つ、綺麗に修復してみせたというのは喜ばしいどころか素晴らしい成績である。次回以降もそう上手くいくかといえば、それはまだ定かではないが。

 

「通信が繋がらないって聞いて、めちゃくちゃ心配だったんだぜ? そっちはどんな感じだった?」

 

『あはは、それは悪かったね』『でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一瞬、球磨川の視線がダヴィンチに向かったが、すぐにまた藤丸との会話に戻る。

 

『僕らは適当に襲い来るエネミーの群れから人々を守ったり、黒い性女に拘束プレイされながら遊んでたぜ』

 

「へー、そんな感じ……って黒い聖女に拘束されてたあ!? えっ、あの黒いジャンヌでしょ!?」

 

『色々と甘い子だったよ』『立香ちゃんが倒したんだろ? やっるー!』

 

「俺が倒したってより、周りのみんなに倒してもらったって感じだけどね」

 

 はは、と少し照れ臭そうに笑う藤丸。そうして談笑していると、ドタバタと慌ただしくこちらに向かってくる足音が聞こえた。

 

「二人ともお疲れ! 何事もなく……とはいかなかったけれど、無事に解決出来てよかった……! この戦力も物資も十分でない状態で、本当によく頑張ってくれたと思う……!」

 

「ドクターもお疲れさまです。サポート、色々とありがとうございました! ダヴィンチちゃんも!」

 

「いやいや、礼を言うのはこちらの方だよ。球磨川くんに関しては全くサポート出来てなくて申し訳ない……本当にゴメン! カルデアとの通信、サポートがない状態でのレイシフトが無事に終わるなんて、恐らく所長が生きていたら目を回して驚くレベルの幸運だと思う。次からはちゃんと通信出来るよう、万全に調整する!」

 

『頭を上げてくれよドクター』『大丈夫、人間誰しも失敗はあるんだから!』『大切なのは次からどうするか、だろう?』

 

 深々と頭を下げたロマニを、優しく窘める球磨川。ダヴィンチはそれを見て、深々と嘆息した。

 

 

「……うん、()()()通信機器の故障だとしたら私の責任でもある。すまなかったね球磨川くん」

 

『いやあ、別に気にしなくていいよ』『何とか帰ってこれたわけだしね』『それよりちょっと疲れちゃったから、シャワー浴びて休ませてもらっていい?』

 

「ああ、構わないよ。次のレイシフトまでまだしばらく時間がある。ゆっくり休んでくれ!」

 

『じゃあね』と一言。キアラとアンリを引き連れて、球磨川はマイルームへと戻っていく。藤丸も一安心したことで疲れが出てきたのか、大きく欠伸をして伸びをした。その隣で安心したように小さく息を吐き、脱力しているマシュにロマニが声を掛ける。

 

「マシュもお疲れ。慣れないことばかりで大変だったろうが、よくやってくれた!」

 

「いえ、大変なことも多かったですが……楽しいことや、学べたものも多かったです。ドクターもダヴィンチちゃんもお疲れ様でした」

 

「ああ、ありがとう。まあ私は大したことしてないし、お礼はロマニに言ってやってくれ」

 

「いや、ボク一人だったならきっとこうはいかなかったさ。キミの尽力のお陰だよ」

 

「いやいや君の……」

 

「いやいやいやキミの……」

 

「そうかい? じゃあ天才たる私のお陰ということにしておこう」

 

 ロマニは何か言いたげだったが、藤丸とマシュはその遣り取りを見てクスリと頬を緩めた。二人もつられて笑い、和やかな雰囲気になる。

 

 

「……ふう! さて、このまま色々話したいところだけど体を休めるのも大切だ。マシュも藤丸くんも眠そうだし、ひとまず今日は休もう!」

 

「そうですね……んじゃ、俺はとりあえず寝ます。めちゃくちゃシャワー浴びたいけど今はそれどころじゃないや……おやすみなさい」

 

 フラフラとした足取りで歩いていく藤丸。それも当然だろう、分割されているとはいえ、彼の双肩には今人類の命運がかかっているのだ。明るく振舞っていたとはいえ、背負っていた重圧は想像に難くない。

 

「マシュも疲れただろう。早く休んだ方がいいんじゃないかな?」

 

「いえ、そうしたいのは山々なのですが……少し」

 

 少し気になることがありまして。そう言って、藤丸の歩いていった廊下を見遣った。

 

 

「……もしかして、球磨川くんのことかな?」

 

「そうです」

 

 ダヴィンチの鋭い指摘に即答で頷く。球磨川禊、人理を背負った人類最後のマスターのもう一人。今回の特異点においては通信が故障していたため、実力・功績は未知数。それよりも何よりも、マシュが不安を覚えるのはその人格(キャラクター)だった。

 

「球磨川さんは、一体どういった人なんでしょう……」

 

「そうだねえ……何処か飄々と括弧つけていて、内面の読めない子だよね」

 

「悪い子には思えないけど……少し、不気味なところもある気がするな」

 

「……あの人を見ていると、何かこう……胸の内で、ざわつくものがあると言いますか……すいません、上手く言葉に出来ないのですが」

 

「アルトリアちゃんも召喚されてすぐに、信用していいのかとかそんなことを言ってたね」

 

「でも藤丸くんとは仲良く、上手くやっていけてるみたいだし……マシュも、あまり気にせずに打ち解けていきなよ」

 

「はい……」

 

 何処か釈然としない様子で、彼女は小さく頷いた。


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