Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第二十三敗『また会いましょう』

 

 ジル・ド・レェはただ、救われたかった。

 もしくは罰されたかった。ただ、ただそれだけだったのだ。

 祖国を救った聖女を、この国は見限った。しかし、異端審問にかけられ救った(モノ)には裏切られ――それでも、それでも国を愛し。主を信じ続けた聖女に救いはなく。あったのは、全てを灰に帰す酷い仕打ちだけだった。

 許せなかった。全てが憎かった。己の信じていた――主すらも。

 

 狂気に駆り立てられた彼は、領内の年端も行かぬ少年たちを凌辱し、虐殺する。何人も何十人も、何百人も犯し尽くし嬲りつくし、昂り興奮し絶頂し――しかし。彼にはいつまでたっても罰は訪れない。

 贖罪の時は、訪れなかったのだ。

 

 明らかに()()()()()()をしているジルに対して、主が罰を下すことは無い。誤った道を正すことはなかった。

 それ即ち、己が認められているということか――主など、私の信じた主など最初からいなかったということか。

 私の信じる主がいたなら聖女に、あのお方にあんな末路を送るはずがない。

 ジャンヌ・ダルクに、志半ばの――己の信心すら踏み躙られた上での、終焉を与えるはずがないのだ。

 

 だから私は、私が、私だから救ってみせる。主が見捨てようが国が見捨てようが、私がジャンヌを甦らせる――! ジャンヌの意思は、私が継ぐ――!

 

 手始めにこの国を――滅ぼすッ!

 

 

「邪魔をするな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥゥ!!」

 

「貴方は……私が止めます!」

 

 しかしそんなもの――彼にとっては口実に過ぎなかったのかもしれない。己が思うジャンヌへの贖罪の為、目の前のジャンヌと殺し合う。誰が見ても明白な矛盾。

 手元の魔導書から召喚された海魔の触手が、ジャンヌの柔肌へと伸びる。素早く躱しつつ、躱せないものは旗で受け止め、貫き切り裂き吹き飛ばしていく。

 徐々に詰まる距離。一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「ハッ!」

 

「私の歌を聞きなさい!」

 

「燃やし尽くして差し上げます!」

 

「行きます、マスター!」

 

 敵は正面から来るジャンヌだけではない。アルトリアもエリザベート・バートリーも、清姫もマシュも。

 

「フッ、戦闘は専門外なんだけどね」

 

「あら、その割には楽しそうね?」

 

「君と一緒だからさ、マリー」

 

「ふふ、言葉だけでも嬉しいわ」

 

「余所見していては危険ですよ」

 

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトも、マリー・アントワネットも――ゲオルギウスも、全員が全員、ジルの元へと向かってくる。いくらなんでも、この人数の攻撃を捌ききることは難しい。もうワンランク上の海魔を呼ぶことも可能ではあるが――そのレベルになると、もう彼には制御することができない。

 

 

「だが! それでいいのです! それこそが……COOL!!」

 

 サーヴァント達を遮る海魔が消え、代わりにそれよりも殊更大きい海魔が現れる。誰彼構わず魔の手を伸ばし、全てを壊し尽くさんと蹂躙する――!

 

 

「マシュ、宝具をお願い!」

 

「宝具、展開します……! 仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 マシュの宝具の力により、自陣は守られ海魔の動きが止まって隙が出来る。

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!!」

 

転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)!!」

 

 展開されたエリザベートの巨大アンプ(監禁城チェイテ)が、素晴らしく芸術的な歌声(破壊的で壊滅的なエネルギー波)を、増幅し打ち出す。自陣もジルもその声に思わず耳を塞ぎ動きが止まるが、予め耳栓をしていた清姫だけは並んで宝具を展開する。渦を巻くように広がる炎が海魔の体を包み込み、音の衝撃波と炎の熱波で海魔の肉体は限界を迎え、消えていった。

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!! 任せたよ、マリー!」

 

「ぐうっ……!」

 

 天才音楽家により奏でられし旋律は、ジルの肉体の力を奪っていく。自分の仕事を終えたアマデウスは、マリーへと軽やかにウィンクした。

 

「ええ! 行きます……! 百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)!!」

 

「ク……ハッ……!」

 

 硝子細工の馬に騎乗したマリーは、キラキラと光の粒子を撒き散らしながら加速し、ジルを踏み跳ね突き飛ばした。

 

「まだだ……まだ、まだ私は……!」

 

「ごめんなさい」

 

 満身創痍の体に鞭打ち、立ち上がろうとするジルを遮ったのはマリーだった。

 

「貴方の気持ち、少しだけわかるわ。この国を憎みたくなってしまう気持ちも…… でも。それでも私は、フランスが好きだから。民が、人が好きだから」

 

 驚いたように目を見開くジル。ゆっくりとそれを細め、マリーとその隣のジャンヌを見る。

 

 

「……フッ……似ている。貴方も、王妃などよりも聖女の方が――――」

 

 最後まで言うことなく、ジルは消滅した。同時に何か光るものが出現する――聖杯である。

 

「よっと」

 

 聖杯を回収し、戦いを共にしたサーヴァント全てに藤丸は微笑む。

 

「みんな、お疲れ……! それとありがとう! ここにいる誰が欠けても、勝てなかったと思う……未熟な俺を支えてくれて、ほんとありがとう!」

 

「いえ、私の――いや、私たちの方こそ感謝を――っと、そう長々と喋れる時間はなさそうですね……」

 

 サーヴァント達の体が透け始める。特異点の異常が解決された為、座へと帰ろうとしているのだ。

 

「必ず会いに行きます。私を召喚して下さいね、安珍様(マスター)?」

 

「楽しかったわよ。また演奏を聞かせてあげるわ、子イヌ!」

 

 各々、思い思いに喋って散り散りに消滅していく。

 最後、小さく会釈した聖女は微笑み――

 

 

「――また会いましょう、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――――

 

 

『球磨川くん!? おーい、球磨川くん!? 聞こえてるかい!?』

 

『ああ、聞こえてるよ』

 

『よかった、無事だったか……! 通信が通じないものだから心配してたんだよ。体調の方はモニタリングしてあるから()()大丈夫だってことはわかってたんだけれど』

 

『大丈夫、とも言えないね』『戦争なんてものはどうやら僕には合わないらしい』『僕のことなんかより、立香ちゃんは!? 立香ちゃんは一体どうなったんだい!?』

 

『先ほど黒いジャンヌとジル・ド・レェ元帥を打倒して、聖杯を回収したところだ。おめでとう! これでこの特異点の異常は収まった! もうレイシフト出来るけれど準備はいいかい?』

 

『大丈夫さあ』『茶々っとやって頂戴』

 

『ああ。それじゃあレイシフト開始五秒前、三、二、一……!』

 

『―――――――――』

 

 球磨川が何か呟いたが、それに気づいたものは今のところ――誰もいないのだった。





















ちょっと新作投稿したので暇な方は見て頂けると嬉しいです(ダイレクトマーケティング)

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