Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第十九敗『君の軍門に下るよ』

 

 三対一。十把一絡げの兵ではなく、英霊を二人と未だ実力未知数のマスターを相手取る。ジャンヌ・オルタが不利であることは誰がどう見ても明白である。

 しかしジャンヌは慌てず騒がず、動かぬ三人を一瞥する。球磨川は未だ臨戦態勢ではなく、急に口を閉じたジャンヌを不思議そうに見ている。直にまた煽ってくる予感があるが、気にせず残り二人の英霊を見る。

 女の英霊の方はたおやかに構えているように見えて、その実隙がない。和やかに過ごしているように見せつつも、いつ襲いかかられてもいい()()()が出来ている。反面、男の方は好戦的なように見えて、しかし実力が伴っていないのを先程の戦いで確認している。隙さえ突ければ一撃で確実に退場させられる程度の自信がジャンヌにはあった。

 

『急に黙りこくっちゃってどうしたのさ』『僕が相手だからって何を考えてもいいわけじゃないんだぜ?』

 

 「……ハッ、別に貴方の事なんか考えていませんけれど?」

 

『それはそれで残念だけれど』『――さて、僕らにはこんなことを話してる暇はないんだった』

 

 大きな螺子を構えた球磨川を見て、戦闘か……!とジャンヌも旗を持ち直す。奇怪な武器ではあるが、舐めてはいけないだろう。この男は本当に得体が知れない。考えたくはないが最悪の場合、(ワイバーン)で逃亡するところまで視野に入れた。

 

『ほいっ』

 

 「!?」

 

 しかし構えた螺子をジャンヌに向けることはなく。球磨川は地面に深く突き刺したその螺子のヘッド部分に腰掛けた。

 

 

『何でそんな怖そうな顔してるんだよ、武器まで構えて』『それじゃあまるで僕たちがこれから戦うみたいじゃないか!』

 

 「は……!?そうじゃないの!?」

 

『違うに決まってるだろ!いい加減にしろ!』

 

 「貴方は一体何を言ってるんですか!?」

 

 そんな質問などせずとも問答無用で殴りかかれば済む話だとも思うが、ジャンヌはあまりの荒唐無稽さにその思考には至らない。同じように適当な場所で寛ぎ始めたサーヴァント二騎を見て、只只困惑するばかりであった。

 

『別に僕は、ジャンヌちゃんと戦いたくてここにいる訳じゃないんだよ』『ジャンヌちゃんよりも、ジル・ド・レェさんを倒す為にいるんだ』『ついでにいえばこの城は、敵の本拠地壊せば優位に立てるんじゃないかっていう僕の考えで壊してみただけさ』

 

 球磨川にしては珍しく普通(プラス)の発想かもしれない。しかし対峙するジャンヌはそんなことよりも、自分ではなくジルを求める姿勢に疑問を抱いた。

 

 「……何故私ではなくジルを?」

 

『え?』『そんなのこの特異点の聖杯を持っているのが、ジルさんだからに決まってるだろ?』

 

 「……ああ、()()が目的なのね貴方達。でも残念、聖杯は私の物よ? 誰が渡すものですか!」

 

『それならもう奪ったよ』

 

「は……!?聖杯は確かにここに……!?」

 

 焦るジャンヌに対し、球磨川は布のような物をヒラヒラさせてにっこり笑う。ジャンヌはそれを見て顔を徐々に赤く染める。

 

『……』『あっ、間違えた。こっちだ』

 

「ちょっと待ちなさいよ!? 今の絶対女物の下着だったでしょう!? 不潔です! 不健全です!!」

 

『おいおいジャンヌちゃん、何を根拠にこれを下着だと主張するのさ。股間を優しく包み込みそうな形状で、淫靡な魅力溢れる紫色……それに何かこう、凄く高尚なTバック……』『誰がどう考えても下着じゃないだろう!?』

 

「今明言してたじゃないッ!」

 

『ぐうっ』

 

「あっ、また死にやがった」

 

 ジャンヌにあっさり殺された球磨川は、『大嘘憑き』でちゃっかりと蘇る。そのまま襟を整え嘆息し、ジャンヌへ問う。

 

『で、これはジャンヌちゃんの?』

 

「違います!!」

 

『痛っ……』

 

 逆手に持った旗の持ち手の方で、ジャンヌは球磨川をぶん殴った。どうやら殺しても意味がないことを学習したらしい。

 

『旗でぶん殴るとかぶった斬るとか、聖女にあるまじき行動だと思うよ……』

 

「ハッ、今の私は"竜の魔女"。その時点で聖女でも何でもないのよ」

 

『……ふーん……』『で、聖杯ってやつはジャンヌちゃんが持ってるの?それなら意地悪しないで見せてくれないかなあ?』

 

「……何であんたの言うことを聞かなきゃいけないわけ?」

 

『なるほど、仰る通りだ』『それじゃあ仕方ないから、僕らは帰ってジャンプでも読むことにするよ』

 

「これだけのことをしておいて、私がこのまま貴方達を帰らせると思う?」

 

『そうだね。それじゃあ()()()()()()()()()()

 

「フッ、いいでしょう……」

 

 地面に刺してあった螺子を引っこ抜いて、球磨川は再びそれをジャンヌに向ける。ジャンヌも旗を構え、お互い睨み合う。

 先に動いたのは球磨川だった。

 

『よっと』

 

「!?」

 

 球磨川は螺子を勢いよく()()()()()()()()。吹き出した血も溢れる痛みも気にもとめず、球磨川はジャンヌに微笑む。

 

『ああ、勘違いしないでね。これは君に無礼を働いたことに対する、僕なりのけじめさあ』『ジャンヌちゃん。君を裏切ったフランスへと復讐する気持ち――嫌われ者で憎まれ者な僕にはよくわかるぜ』『その気持ちに共感した!祖国の為に尽くした君を、あっさりと見限ったこんな国をどうして許せるだろうか!?』『僕にも協力させてくれ!僕らは、君の軍門に下るよ!』

 

「――球磨川禊」

 

 真っ直ぐな瞳でこちらを見る球磨川に、ジャンヌは少し驚いて口を開く。そうして、彼に差し出された右手を掴み――

 

「拠点をこんな風にした男を信用出来るはずないでしょうが!!」

 

『ですよねー』

 

 思いっきり振り払い、旗で腹を貫く。今度こそ本当に戦闘の火蓋が切って落とされたのだった。


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