Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

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第十八敗『人間は何度でもやり直せるんだ』

 

 「ふー……!酷い目にあったぜ全く」

 

 「名だたる英霊の方々に蹂躙されるこの感じ……!これこそが聖杯戦争ですか、くっ、私もゲー何とかさんになりたい……!」

 

『二人ともお帰り、僕が不甲斐ないばかりに迷惑かけたね』

 

 「「本当に」」

 

 な!というアンリの声と、そうですね、というキアラの声が重なった。球磨川が不甲斐ない男だということは、この短い付き合いでも十分に理解しているらしい。

 丁度ジャンヌがサーヴァント達を召喚したサークルがそのまま残っていたので、球磨川はそれを再利用させてもらって二人を召喚した。アンリは少し嫌そうな様子で召喚に応じたが、仕方ないと割り切り、手に持つ短剣をクルクル回した。

 

 「っていうかアンタこそよく生き延びたな」

 

『うん、まあ僕は色々と囚われない男だからね』

 

 常識に囚われないのか物理的に囚われないのか、そもそも浮世に囚われていない雰囲気の球磨川は若干着崩れした学ランをきちんと着直した。

 

 「何だそりゃ……んで、これからどうするんだ?」

 

『さっきの奇怪な襟巻をした、見るからに変態っぽい男が聖杯を持ってるらしくてね。彼からそれを奪えばこの特異点は解決するらしいよ』

 

 「よくそんな情報手に入れたな?」

 

『元カノが教えてくれたんだよ』

 

 「ハハッ」

 

 「フフッ」

 

『人の冗談を笑うなんて、人として最低だぞお前達!』

 

 「結局冗談なのかよ」

 

『ははっ』

 

 空笑いする球磨川。遊んでるのか何かを調べているのか、携帯端末を弄りながら二人に謎の質問を投げる。

 

 

『そういえば二人はどんな感じに戦ってどのくらい無惨に負けたの?』

 

 「私はサーヴァント一騎を道連れに槍で串刺しにされて消滅しましたわ」

 

『さっすがキアラちゃん、やるぅ!』『で、アンリくんは?アンリくんは何を道連れにして負けたの?』

 

 「弱っちい俺は、普通に致命傷も何も負わせることなくかすり傷だけ与えて死んだよ」

 

『えー……』

 

 「露骨に不満そうな顔すんな!悔しいならもっと強いサーヴァント呼べ!」

 

『アンリくんもそこそこ強そうなんだけどなー。お前、ヤドカリとか狩るの得意そうな見た目してるよな(笑)』

 

 「何だそりゃ……」

 

 ヤドカリ相手に宝具を放つ自分を幻視して、ないない、とそんな妄想を振り払う。いや、でも何処かの次元でそんなことをしている自分がいるような……?

 

 

『で、これからの話だけどね』

 

 いやに明るい声音で球磨川は話を戻した。彼が元気に未来の話を振る時、大体いいことはない。

 

『僕にはいい考えがあるんだ。二人共耳を貸してくれる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――――――

 

 ジャンヌ・オルタは不機嫌であった。原因は召喚されたもう一人の自分――白い方のジャンヌ・ダルクにある。

 主の声などもう聞こえないというのに、未だ彼女(わたし)を裏切ったフランスという国を守ろうとしている。いつまでも聖人気取りで綺麗事をほざき、己に唾を吐きかけた民すらも救おうとする。馬鹿らしい、というか最早見ていて哀れになった。あんな小さな小娘(わたし)に縋っていた、フランスという国の醜さが伝わってきた。――そういえば、サーヴァントを連れた魔術師らしき男もいた。もしかすると先程の球磨川とかいうやつの仲間なのだろうか。仮にそうだとしても、彼らが再会することはもう二度とないのだが――もうそんなことはどうでもいいか。

一刻も早く、この国を死者の国へと変貌させてやろう。ジャンヌ・オルタはほくそ笑む。その為にはより戦力を補給しなければならない。だからフランスを襲いたい気持ちを抑え、単身この城へと戻ってきたのだ。今のままでも十分だと思うが、蹂躙はより迅速で確実な方がいいだろう。さて、先程の魔方陣(サークル)を用いて、再びサーヴァントを呼び出そう――そう結論付け、ジャンヌは(ワイバーン)の背から()()に降り立った。

 

 「……は…?」

 

 ジャンヌは倒壊した瓦礫の山を見て目を白黒させた。つい先刻まで大きな建物だったと思しき()()は、今や砂埃を被って薄汚れた、竜の紋様の描かれた旗を除いて何一つ原型を留めていなかった。

 瓦礫の山の底から、ガラガラガラ、と何かが這い動くような音が聞こえる。この事態の元凶の可能性もある、ゆっくりと尋問し、先程の轍は踏まず今度こそ情報を吐かせてやる――! そう息巻いて瓦礫の山を吹き飛ばした。

 

 

『ぷはぁっ――』『全く、後先考えずにこんな立派な建造物を壊すなんてやめてほしいよね』『中からぶち壊したら逃げ切れずに生き埋めになるなんて、ちょっと頭を使えばすぐ分かるくらい至極当然の――――』『あっ』

 

 長々と、理解不明の独り言を呑気に語っていた生き埋めであった男――球磨川禊は、明るくなった頭上へと首だけ出して、傍から見たら生首だけが飛び出ているような構図になる。すると憎しみに満ちた表情のジャンヌと目が合った。堪えきれないとばかりに品なく歯噛みして、今にも襲い掛かってきそうな様子に、少し球磨川もたじろぐ。

 

 

『えーっと……そう!僕が燃やされ始めてすぐに、気づいたらこの崩落が始まっていたんだ!』『生き埋めになったおかげで上手いこと鎮火はされたんだけど、今度は地盤に沈下しちゃってね』『古そうな城だしきっと老朽化していたんだろう。管理者の顔が見てみたいね全く!』『だから――僕は悪くない』

 

 先程と矛盾した発言をしていることに球磨川は気づいているのだろうか。しかしジャンヌは気づかなかったのか、「何故生きているのです?」と怒りで震える唇で言葉を紡ぐ。

 

『おいおい、今言っただろう?崩落した拍子に上手いこと鎮火したんだよ』『聖女様ってやっぱり、ぬくぬくと温室育ちであんまり頭は良くないのかな?』『ちょっとは自分で考えてほしいよね、もうー』

 

 はあ、とこれ見よがしな溜め息を吐いた球磨川の首は、()()()()()()。サーヴァントの腕力で横薙ぎに振られた巨大な旗は、球磨川の首と――生命を無慈悲に刈り取っていった。

 

 

 「ああ失礼、本当に馬鹿な質問でしたね――殺せていなかったのなら、初めから()り直しておけばよかったというのに」

 

『それについては同意させてもらうよ』『人間は何度でもやり直せるんだ!』

 

 「……ッ!?」

 

 己が目を疑う。何事もなかったかのように、球磨川禊は平然と立ち上がる。あろうことか周りの瓦礫たちまで、最初から存在していなかったかのように消失した。

 

 「はー、やっと脱出出来たぜ……」

 

 「ふふ、心地良い苦しさでしたわ……」

 

『もうキアラちゃん、次からは気をつけてね?』

 

 「ええ。次からは注意しますね?」

 

 何なんだ――何だというのだ。倒したサーヴァント達は再召喚され、殺したマスターは蘇っている。焦るジャンヌは再び球磨川の体へ旗を振りかぶったが――今度は螺子によって受け止められた。

 

 

 「何なの――何なのよ貴方はッ!!」

 

『おいおい、何度僕に自己紹介させる気だよ?』『球磨川禊、どこにでもいる普通の過負荷(マイナス)だぜ』

 

 


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