Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

19 / 50
第十七敗『彼女は黒なのか白なのか』

 

『その睨みは肯定として受け取るね』

 

 「構わないわよ、別に隠すことでもありませんし?ただ、さっきの質問に答えてあげるとするなら……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ジャンヌがそう言った直後、球磨川の足元の床が発火し、燃え上がり始める。

 

『あちっ』『暑っ!』『熱っ!』『あちちちちちち』

 

 「もう質問なんてどうでもいいわ。聞くだけ時間の無駄でしょうからね?()()()()()()()()()()私よりも苦しみは少ないと思うけれど、それでも十分苦しめると思うから安心して?」

 

 最早球磨川に興味などないのか、ジャンヌは手に持つ旗を翻して部屋から出ていった。

 

『熱っつ……!』『そういえば焼死したことってなかったなあ、苦しそうだから出来れば御免蒙りたいぜ』

 

大嘘憑き(オールフィクション)』を使用し、炎と十字架の拘束を『なかったこと』にする。腕や足を大きく伸ばし、首をぐるぐると、傍から見る分には若干不気味な挙動で回転させる。

 

『拘束っていうのはあんまりいいものじゃないよなあ』『さて、と……』

 

 拘束される際に没収されていてもおかしくなかったと思うが、携帯端末はしっかりとポケットの中に収まっていた。『意外とジャンヌの陣営は抜けてるのかな?』なんて思いながらシュシュシュと素早い手付きで操作する。

 

『えーっと、あったあった』

 

 「これで安心!安心院さんの聖杯戦争対策ぅ!」と書かれたアイコンをタップ。「stay night(聖杯戦争)編」、「EXTRA及びEXTRA CCC(月の聖杯戦争)編」、「Apocrypha(聖杯大戦)編」、「Strange Fake(偽りの聖杯戦争)編」などの様々な項目の中に、「Grand order(聖杯探索)編←ピックアップ中!」と書かれた物があった。

 

『これがピックアップ中なのか……よし、他のを見よう』

 

 聖杯探索編以外を適当にタップしたつもりだったが、何故か聖杯探索編の部分が点灯。表向きだけ選択肢を与えつつ強制的に開かせる辺り、安心院さんらしいというか何というか。

 

『やれやれしょうがない、素直に見てやるぜ』

 

 画面にはデフォルメされた安心院さんと思しきキャラクターと、いくつもの文字が表示される。

 

『ようこそ球磨川くん。この戦いの攻略法について、僕が丁寧に解説してあげよう。何から聞きたい?』

 

『……え、もしかして安心院さんと通話して教えてもらうってこと?』

 

『ははは、違うぜ。この僕は一京分の一のスキル『螺子込み(コピーリーディング)』で記録されたデータに過ぎない。いつかの教室と同じく、君の言いそうなことを予想して喋ってるだけだよ』

 

『そうか、あの時と同じように……』『じゃ、早速さっきのジャンヌ・ダルクちゃんのスリーサイズでも伺っておこうかな』

 

『平等たる僕としてはそんな下らないことを教えるわけにはいかないなあ、本人に聞いといてくれ』

 

『待ってろジャンヌちゃん……!』

 

 謎の決意を固めた球磨川に、録音された音声は次の指針を指し示す。

 

『サーヴァント二人を失った球磨川くんの取るべき行動は二つだ。①霊脈を探す。霊脈っていうのはアレだ、霊力やら魔力やらが集まったその土地の基盤と思ってもらえればいい。今回の場合、君が今いるその城が一等級の霊脈地だから動かなくてもいいんだぜ』

 

『……本当に録音なのかよってレベルで見透かしたことを言ってくれるね、安心院さん。流石全知全能と言った所なのかな?』

 

『なんでもは知らないよ。知ってることだけだぜ――なんてね。霊脈地に行ければ倒れたサーヴァントの再召喚や、カルデアとの通信の復旧など、色々と出来るようになる。まあ君としては通信なんて復活しない方がいいのかもしれないが、あんまりこう怪しげだと、そろそろ疑われ始めるから気をつけた方がいいよ?』

 

『そうだねえ、ぼちぼち通信してあげようかな』

 

『②、聖杯の回収。これに関してはロマンちゃんから聞いてるだろ?今回の場合はジル・ド・レェ元帥が持ってるからささっと倒して奪えば終わりだよ』

 

『ジャンヌちゃんじゃないのか、それはちょっと意外だぜ』

 

『球磨川くんのことだからジャンヌちゃんが持ってるんじゃないかとか勘違いしてそうだけど、全くもってそんなことはないんだぜ。だから案外、彼女を倒さずともこの特異点を終わらせることは出来たりする――これを言ったところで、どうせ君は彼女と戦うんだろうけどさ』

 

『よくわかってるじゃないか』

 

 ではそんな君に一つ話でもしてみようか、と画面の中の安心院はチョークを手に持ち黒板を向いて言った。

 

『カラスのパラドックスって知ってるかな?』

 

 広い黒板にデカデカと書かれた"カラスのパラドックス"

 の文字に球磨川は微妙な表情をした。

 

『寡聞にして知らないよ』

 

『そ。君にもわかりやすいように説明すると、カラスのパラドックスっていうのは対偶論法を用いた思考実験でね。対偶論法っていうのは「AならばBであるとすれば、BでないものはAではない」という理論で、「全てのカラスは黒い」とするなら、「黒くないものはカラスではない」という結論が導き出されるのさ』

 

『?』

 

 黒板に書き出された条件と結論に、球磨川はまたも微妙な表情をする。画面の中の安心院さんは小さく嘆息して、話を進めた。

 

 

『僕らは全てのカラスは黒いという事を知っているので、最初の命題は正しいという事になる。同じように「黒くないものはカラスではない」ので、世界中の「黒くなく、カラスでもない」物を見る事によって、世界中のカラスを調べずとも、「全てのカラスは黒い」という命題を正しいと導き出す事が出来るのさ』

 

『おいおい、カラスだってアルビノは白だろう』

 

『念のため言っとくがアルビノは例外だぜ。一々細かいところを気にするよね、君は』

 

『ぐぬぬぬ』『結局どういうことなの……?』

 

『うん、訳がわからないよって感じの反応ありがとう。しかしまあ、割と阿呆みたいな話だよね。カラスは黒いという、たったそれだけを調べるために世界中の黒じゃないものを見てそこにカラスが入っているかどうかを調べるんだぜ?極めて不合理的で非現実的だ。ただの例え話だからそこまで突っ込む必要はないだろう、なんて真黒くんなら諌めてくれそうだが――しかしまあ、面白い話ではあるよね。手当り次第全てを調べなきゃいけないって感じが、手当り次第全てに負けてる球磨川くんに近いものを感じなくもないよね』

 

『大きなお世話だよ』

 

『さっきのジャンヌちゃんを見ても分かるように、英霊だからといって心の底から英雄ってわけでも、勇者って訳でもないんだぜ。しかも英霊には一つの側面だけじゃなくて、幾つか分岐した別の可能性や、霊基(クラス)によっても年代や性格が多少変わってきたりする。さっきの論を引っ張るなら、「全ての英霊は善で、正しき白である」とするならば、それは間違いなく間違いである』

 

 間違いなく間違いって、矛盾を孕んでいるようでなかなか面白い文章になってるけど。と画面の中の安心院は、これも黒板に書き込む。

 

 

『ただまあ、彼女が黒なのか白なのか――それは周りの人間が。関わった人間が。球磨川くんが判断していけばいいんだぜ。さて、これだけ知っておけばいくら球磨川くんでも惨憺たる敗北はしないだろう。滑稽な敗北くらいは平気でしそうだけど、まあそれはそれで面白いだろうから、精一杯動いてくれ』

 

『ははは、今回ばかりは人理とやらが関わってるからね。また勝てなかったってわけにはいかないだろう』『全力で勝ちにいかせてもらうぜ』

 

『その意気やよし。んじゃまあ、頑張れ』

 

『頑張る』

 

『まずはジャンヌちゃんのスリーサイズを調べるのが先かな……』とくだらないことを考えながら、球磨川は再召喚の準備を始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。