「――――告げる」
シャンデリアの垂れ下がった高く立派な天井から考えて、城や貴族の館など、豪奢な建物の内部だろうか。薄暗い室内の中央には淡く輝く魔方陣が展開され、黒い甲冑に身を包んだ少女が詠唱を行い、不気味な雰囲気を纏う本を持った男が、焦点の合っていない大きな瞳でその様子を見守る。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
―――――――
「ここは……?」
柔らかい草の感触。目を覚ました藤丸立香は、立ち上がって辺りを見渡した。
綺麗でのどかな草原。柔らかな緑色が、空の青に映える。奥には森のようなものが見え、右の方には小さく村と思しき場所が見えた。
「目が覚めたようですね、マスター」
「ああ……おはよう、アルトリアさん」
「一々さん付けは面倒でしょう。呼び捨てで構いません」
「じゃあ今度からはアルトリアと、そう呼ばせてもらうよ。俺もマスターっていうのはなんか性に合わないし、立香って呼んでほしいな」
「それでは以降はリツカ、と呼ばせてもらいます」
「改めてよろしくね」
微笑み合う二人だったが、何が起きるかわからない特異点の中であることを思い出し。再び辺りを見回し、ひとまず危険がないことを確かめる。
「マシュや禊くんたちはどうしたんだろう……?」
「レイシフトの際に何かの不具合ではぐれてしまったのかもしれませんね……」
「無事だといいけどなあ……」
『おーい、藤丸くん!聞こえてるかい?』
ロマニとの通信が繋がった。少し安心して胸をなで下ろし、「聞こえてますよー!」と元気に返事をする。
「マシュや禊くんたちとはぐれてしまったみたいなんですけど、何処にいるかわかりませんか?」
『マシュはその近くに反応がある。サーヴァントであるマシュにはある程度藤丸くんの居場所がわかるはずだし、すぐに合流できるはずさ。でも、球磨川くんに関しては――何故か、
「え……!?」
『意味消失したわけではないはずなんだが……球磨川くんが一体何処にいて、どういう状態なのか把握することが出来ない。しかしまあ、無事レイシフト出来たことは確かだから、おいおい合流出来ると信じよう』
「はい……」
『今はそれよりも、特異点の状況を確認することの方が先決だ。まずは近くの村に向かって――』
―――――――――
閃光が晴れる。するとそこには七騎のサーヴァントがいた。黒い少女は語りかける。
「よくぞ来ました、
「まあ、それは――ふふ、素敵な
「なっ……!?」
部屋の入口の方から女の声が聞こえた。しかし、
「ただ、私は今この方のサーヴァント故――アナタの命令を受けることは出来ないのです。ごめんなさいね?」
「チィっ……!貴方たちはまさか!」
『んじゃあ、僕からキアラちゃんにお願いしちゃおっかな。破壊と殺戮って奴』『どうやら――それが一番手っ取り早いみたいだから、ね』
「オレも忘れんなよ、マスター?」
二騎のサーヴァントと一人の人間。特異なことに、敵の総本山にレイシフトした彼らは、得物を構え、戦局を掻き乱しにかかるのだった。