Fate/Losers Order   作:織葉 黎旺

15 / 50
第十三敗『さあ?』

 「それで、わかったことっていうのは一体?」

 

 「まずはこれを見てほしい」

 

 ダヴィンチがパソコンを操作すると、ロマニの背後に大きなディスプレイが現れる。それが点灯すると、マシュの姿が映し出された。何やら数値やらアルファベットやらが表示されている。

 

 「今のカルデアのサーヴァント達のデータを纏めるために、許可を取って霊基を見させてもらった。ここに表示されているのがマシュのステータスなんだけど……実はコレ、恐らく最大値ではないんだ」

 

 続けてアルトリア、アンリの姿も表示され、同じように数値やアルファベットが表示される。

 

 「この状態でもサーヴァントらしい人間離れした力を行使できるんだが……カルデアの召喚システムがまだ未熟だからか、本来の力を発揮しきれてはいないようなんだ。そこら辺はダヴィンチちゃんやアルトリアさんの発言を踏まえて出た結論だから、確かな筈だよ」

 

 「そうそう。なーんか本来のパーフェクトな私よりも微妙に?まあ二、三ランク程度だが、不完全な気がずっとしててね。アルトリアちゃんにその話をしてみたら彼女もそうだと言うのでね。調べてみたらこうだったって訳さ」

 

『いや、元がわからないから』『急にこうだったとか言われても僕にはわからないけど……』

 

 「でも、霊基ってそう易々と弄れる物じゃないんだよね?どうするの?」

 

 「丁度いいことに、()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 モニターの表示が切り替わり、何処かの森のような風景が映し出される。そこをうねうねと、何かが動き回っている。

 

 「ドクター、あれは……?」

 

 マシュが少し不安そうに聞く。ダヴィンチがキーボードを叩くと、謎の生物……いや、動く物体が拡大して表示された。

 

 

 「名前なんて探しても見つからないけど、呼称がないと不便だから……仮に僕達はこう呼んでいる。"種火"と」

 

 まるで地中に人が埋まっているかのように、大きな手が地面から生えている。掌には何やら石のようなものが付属していて、それぞれ銅色や銀色、金色の輝きを放っている。

 

 「どうやら何処かの魔術師……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……誰かが魔力で動き出す使い魔みたいなものを作ろうとして、アレができたみたいだ。太い霊脈の通った地にそいつらが自動で生まれる機構が組まれていて、それがこの人理焼却の状況と相まって小さな……言うなれば特異点モドキとでも言うべき物が出来上がっているのさ。不思議なことに、それがカルデアと直接繋がるというオマケ付きだ」

 

 とはいえ人理には全く関係ないから気負わなくていいよ、と明るく言うダヴィンチ。しかしそれがサーヴァントの強化とどう関係があるのか。

 

 

 「ん、前述の通りそいつらは魔力の塊だからね……倒せば倒すほど、()()()()()()()()()()()()()()()()。それを吸収すれば霊基の強化に繋がるよー」

 

 「それに関しては昨日、彼が実証してきてくれたから、効果は確かなはずさ」

 

 「三人称が間違っているという点にはツッコまないよロマニ」

 

 「……つまり、種火っていうのを倒しに行けば戦力の強化に繋がるってことですね?」

 

『ふーん、単純でいいじゃないの』『早速狩り(ハンティング)に行こうじゃないか』

 

 ダヴィンチの言った特異点モドキ――には、コフィンを使ったレイシフトは必要ないらしい。カルデア内部のトレーニングルームの一角に、種火のいる森へと繋がる異空間が出来たそうだ。魔術に疎い藤丸でも、割とおかしな状況なのだろうなと思った。

 

 

『うわあ……』『凄く漫画チックな感じになってるね』

 

 トレーニングルームの一角が歪んでいる。空間が螺子曲がっている。無機質な白い壁の間に、薄暗い森の風景が広がる。人一人が通れそうなその空間に、球磨川は躊躇なく手を伸ばし首を突っ込む。

 

『おー、森だねえ』『不知火ちゃんとのバトルを思い出すぜ』

 

 共通点は一文字の単語だけだと思われるが、そんなことは気にもとめず球磨川は空間の先へと入っていく。「オレ程度が強くなっても意味ないと思うけどなあ……」「どんな方が待っているんでしょう……」なんて言いながら続くサーヴァント。藤丸は少し、ほんの少しだけ不安な様子だったが――意を決して、異空間へ飛び込む。

 

 

『全員入ったようだね。そこまで大きな危険はないはずだが、戦闘することに変わりはない。十分注意してくれ』

 

 「「マスター、指示をお願いします!」」

 

 「う、うん……息ぴったりだね、二人とも」

 

『んじゃまあ』『僕の指示なんか受けず、適当に頑張って頂戴』

 

 「わかりました。楽しませて頂きますね?」

 

 「それならオレはサボっててもいいか?どうせ大した戦力にはなんねーよ、次の特異点でまた聖晶石とやらを集めてもっと強いサーヴァントを引き当ててくれ」

 

 積極的なキアラに対して、消極的なアンリ。球磨川は笑顔で右手を掲げた。

 

 

『令呪を以て』『アンリマユに命じる』

 

 「ちょ、おま!」

 

 右手の甲の紋様の一角が赤く眩い輝きを放つ。刹那アンリの身体は強ばり、球磨川の言葉を待った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 「ハアアアアア!?暴君かよアンタ!?」

 

『そんなわけで、手分けして狩り(ハンティング)といこうぜ』『あまり戦力が固まってても狩りづらいし、流れ弾が当たったりしたら危ないだろう?』

 

 「そ、そうだね……じゃ、俺らは向こうに行ってくるよ」

 

 マシュとアルトリアを連れて、藤丸は正面の道へ進んでいった。令呪を受けたアンリを見て、「私も無理矢理色々な命令を受けてみたいものです……」と邪な溜息を吐くキアラ。色々というか、色塗れだろう彼女は。

 

 

『早速お出ましみたいだねえ』

 

 地面から生えている大きな手が、真っ直ぐ平行に移動している。なかなかにシュールな構図だったが、こちらに気づいたようで臨戦態勢(?)に入った。

 

 

『ということで頑張ってね、アンリくん』『行こうぜキアラちゃん』

 

 「ええ」

 

 「オイちょっと待てマスター!何処行く気だアンタ!?」

 

『種火狩りに決まってるだろう?』

 

 「オレは!?オレはどうなるんだよ!?」

 

『僕らは向こうで遊んでくるから、一人でこの子と遊んでて』『大丈夫!アンリくんなら僕の指示なんて仰がずとも一人でやれるさ!命尽きるまで無理して全力で頑張って!』

 

 「終わったら覚えてろよっ!!」

 

 掌から魔力弾を発射し始めた種火と戯れ始めたアンリを背に、キアラと球磨川も移動して種火を狩り始める。ダヴィンチの説明の通りなら、球磨川が倒しても彼には何の利益(プラス)もないのだが……まあ、無意味なことに全力を傾けるのも球磨川禊という男の性質の一つなので、そんなことに一々突っ込んでいてはキリがない。

 

 「……むう、種火というものはなかなかに脆いですね…」

 

『我慢してあげなよキアラちゃん』『直にもっと脆く感じるようになるんだしさ』

 

 種火の群れを蹂躙していく球磨川とキアラ。彼女としてはどうやら、もう少し手応えのある相手と戦いたいらしいが……『強化されきってない状態でこれとは、なかなかに頼もしいぜ』と球磨川は螺子を投げつけながらほくそ笑む。

 

 「はっ!……とはいえ、少し疲れてきましたわ」

 

『無限に湧いてくるもんね』『まるでゴキブリみたいだ』

 

 両手で器用に螺子を扱い、二体の種火を同時に貫く球磨川。多分種火の方も最高級の害悪さと生命力を誇る球磨川に、ゴキブリ呼ばわりされたくはないと思う。

 ピピーと左腕に巻かれた通信機が鳴り、ロマニの立体映像(ホログラム)が映し出された。

 

 

『球磨川くんの方はっと……うん、何だその戦闘力は』

 

『まあ人でなしとか人もどきとかギリギリ人みたいな奴らしかいない、』『割と世紀末な環境ですくすく育ってきたからねえ』

 

『別に強くはないんだけどね』と内心で付け加えておく。誇張なく事実である。勝ちがないから負越(マイナス)なのだ。

 

『藤丸くんの方も順調に倒していってるみたいだし、もう少し経ったら戻ってきてくれ。こっちも作業があるから通信を切らせてもらうよ』

 

『おけおけー』『それじゃ気が向いたら帰るよ』

 

 通信が切れる。再び辺りの種火を狩ろうと螺子を構えた時、キアラが「あの」と口を開いた。

 

 

 「禊様。このまま狩り続けるのも乙だとは思うのですが……一つよろしいでしょうか」

 

『よろしいよ』

 

 「帰り道って、分かっておられますか?」

 

『…………はっ』

 

 右を見る球磨川、木がある。左を見る球磨川、木がある。前を向く球磨川、草原だから恐らくこちらではないだろうと読む。振り返る球磨川、またも木がある。

 

『一体どの木が正解なんだ……!』『おーいロマンちゃん、帰り道教えて頂戴?』

 

 「先程通信を切っておいででしたよね?」

 

『…………あっ』

 

 「ということで、帰り道はこちらです。着いてきてください?」

 

『普通に覚えてたのかよ……』『全く、人が悪いぜ』

 

 「うふふふふ」

 

 キアラの案内に従い、何とかカルデアへと帰ってきた球磨川とキアラ。先に帰ってきていた藤丸たちとも合流し、とりあえず疲れを癒すため休養することにした。人理修復の旅への出発は、もうすぐである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あれ?禊くん、何か足りなくない?」

 

『さあ?』

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。