「もしかして……エクスカリバーの方ですか?」
藤丸の少し間抜けな質問に、少し眉を顰めた少女だったが「ええ、まあ」と答える。
「真名、アルトリア・ペンドラゴン――この身は貴方の剣となる。これからよろしくお願いします、マスター」
「よろしくねアルトリアさん。俺は藤丸立香、魔術師としてもマスターとしてもまだまだ三流だけど……それでも精一杯頑張るから、支えてくれると嬉しいな」
『エクスカリバー!?』『ということはアーサー王かあ、かの有名なアーサー王が来てくれるとは百人力だなあ!』『ああごめん、自己紹介が遅くなったね。僕は球磨川禊、昔は"風"なんて通り名で呼ばれていた男さ』『僕はアルトリアちゃんのことをアルトリアちゃんって呼ぶから、アルトリアちゃんも僕のこと適当に呼んで!』
握手を交わす二人の間に割り込む球磨川。タイミングも性格も最悪である。アルトリアは明らかに嫌そうな表情を浮かべ、それ以外の面々は困惑、驚愕の入り交じった表情で球磨川を見ていた。
「…はあ。では禊、と。そのように」
『ありがとうアルトリアちゃん!』『……さて』
空に放った三つの石を、バシッと片手で掴み直す。が一個が零れ出て床に落ち、妙に締まらないカッコ悪い絵面になった。
『……コホン』『それじゃあ僕も、一丁強力な英霊を呼んでやろう』
とは言っても、球磨川は藤丸と違って
三個の石は浮かび上がり、砕けて光の輪を描く。立香と違い虹色を帯びなかった為、少し落胆した球磨川だったが――線が三本線に分かれたのを見て、もしやと思う。
(『アンリくんの時もアルトリアちゃんの時も三本線だった』『で、麻婆豆腐の時は一本線。サーヴァントの時は三本線ってことかな……?』)
球磨川の予想は正しい。降り注いだ光の後には、修道女の様な服装の女が一人いた。球磨川を見据え、聖母のような慈悲深い微笑みを浮かべる。
「クラスアルターエゴ、殺生院キアラ。救いを求める声を聞いて参上いたしました。でも……うっふふっ。私のような女を呼ぶなんて、何という方なのでしょう」
女――キアラは、頬に手を当てうっとりとした表情で球磨川を見る。
『えっ……?』『えっ………!?』『どうしよう、何か綺麗な女性が来ちゃった……』
「綺麗だなんてそんな、まあ……!」
「ちょ……ちょっと待ってくれ!クラス・アルターエゴ……?そんなクラス聞いたことないぞ!?」
「狼狽えるなよロマニ。多分エクストラクラスでしょ。名前に聞き覚えがないから何処の英霊かは分からないが……」
動揺するロマニを宥めるダ・ヴィンチ。しかしそれにしても、三回の召喚で二人、エクストラクラスのサーヴァントを引き当てるとは――
「ふむ……どうやら、
『初めまして、球磨川禊といいます』『……とりあえず、一つお願いがあるんだけどいいかな?』
「何なりとお申し付けください、マスター?」
その場の誰もが嫌な予感を抱いたという。不可解な行動を取ることの多い球磨川が、召喚したばかりの女サーヴァントに頼むこととは一体。
『その洋服のスカートつかんでひらってやって、お淑やかな感じにお辞儀してもらえます?』
「こう……でしょうか?」
『おっふ』
指示通りの行動をしたキアラに、余程感動が生まれたのか球磨川は微笑みながら涙を流した。それを見てキアラは、楽しそうに口元を歪めた。
「ちょいと失礼。マスターを探しに来たんだ……が……?」
「先輩いらっしゃいますか?って、人が増えてる……?」
扉が開き、マシュとアンリがやってきた。そこまで広くない部屋なので二人が入ると割と窮屈ではあるが、ついでなので顔合わせと紹介を済ませることにした。
「はー、またエクストラクラスをねえ。やーっぱり変なマスターだな、アンタ」
『えへへ』
「褒めてないからな〜?」
アンリと球磨川が間の抜けた空気の隣で、騎士王と盾兵は親交を深めている。
「アルトリアさんですか……あのアーサー王が一緒なら、とても心強いですね。よろしくお願いします」
「これからお願いしますね、マシュ。デミサーヴァントですか……で、融合した英霊の真名は分からないと」
「そうなのです……」
何か難しい表情をしているアルトリアだったが、「おいおい分かるといいですね」とだけ言って、アンリを見た。
「アヴェンジャー、その節はどうも」
「おっとセイバー、こんなところでアンタと再会してまさか共闘の運びとなるとはな。全く、奇妙なもんだ!」
『二人は面識があるの?』
「ん、まあ別の聖杯戦争でちょっとな……ってそんなことはどうでもいいだろ」
それよりも、と言ってアンリはキアラの方を向く。キアラの方もニコリと微笑んで興味深そうにアンリを凝視する。
傍から見ると見つめ合う恋人同士のようにも見える何とも言えない空間を引き裂くのは、無論彼らのマスターだった。
『まあ晴れて二人とも僕のサーヴァントになったわけだし、これからは仲良くやっていこうね!』
「ああ。
「ええ。
『それはよかった!』『さて、それじゃあ僕らは親睦を深める為部屋で昨今のジャンプ談義に勤しもうぜ。え?ジャンプ知らない?それなら布教談義に早変わりさせてもらうよ』
目立つ二人を加えた球磨川一行は、自室へと帰っていった。アルトリアは完全に気配が離れたのを確認してから、徐に口を開く。
「……マスター。出会ってすぐの身でこんな助言は信用出来ないかもしれませんが―――あの三人、大丈夫なんでしょうか?」
「先輩。私も正直、球磨川さんには信用しかねる部分があります。殺生院さんやアンリさんはよく分かりませんが……」
「俺としては特に問題なさそうに見えるけどなあ」
藤丸は困ったように頭を掻く。確かに不思議な部分は多いが、少なくとも球磨川は悪いヤツには思えない。そんな彼のサーヴァントなら、悪いヤツではないだろう、と。
「まあ、これから過ごしていくうちにわかるよ。それじゃ俺たちも部屋に……って、人数的に狭いし女の子二人を連れ込むってまずいねうん。ドクター、空き部屋あります?」
「あるよ。差し支えなければ二人部屋でも大丈夫?」
「私は問題ありません」
「私も平気です」
「じゃあこの場所にあるから――」
何処と無く雰囲気の似た二人を見て、上手くやっていけそうだなと早くも楽観する藤丸だった。