発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官   作:戦闘工兵(元)

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艦娘出そうとしたのになんでじゃ…orz

これ艦これの二次だよな…orz




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「ーー敵機直上っ!」

 

 その報告が見張員からなされた時、桂木の脳裏に昭和19年のレイテ沖海戦ーー当時、乗り組んでいた武蔵での事が過った。

 

「ーーおもぉぉかぁぁじいっぱぁぁい!急げぇぇ!!」

 

 “あの時”は敵機の投下した爆弾が艦橋最上部にある防空指揮所に命中。防空指揮所の甲板を貫いた爆弾が第一艦橋、作戦室甲板を貫通して爆発した。

 

 炸裂した際の爆風が第一艦橋へ逆流。第一艦橋に詰めていた主要の幹部達ーー航海長を含む39名が戦死、8名が負傷。

 

 防空指揮所では高射長、測的長を含む13名が戦死。猪口艦長を含む11名が負傷した。

 

 そして作戦室では前日に撃沈され、救助された摩耶の副長と軍医長を含む5名が戦死、2名が負傷。

 

 主砲射撃指揮所へ詰めていた桂木も負傷者の搬送に追われ、その時に目撃したのは艦橋の壁、床を問わず飛び散った血や肉片が所構わずこびり付く光景。

 

 グチャグチャとまだ生暖かく血が滴る肉片を靴底で踏み、呻き声を上げる者達を運び続けた。

 

「ーー敵機、爆弾投下ぁぁぁ!!」

 

 正にあの惨劇が起こる寸前と似た光景だ。

 

 あみだに被った戦闘帽の奥にある両目の眦を鋭利に吊り上げて敵機が投下した爆弾を睨み付ける。

 

 不意にーー艦全体が左へと傾いた。

 

 艦が右に向かい舵を切っているのだと気付き、その場で足へ力を込めて踏ん張り、倒れぬよう耐える。

 

 防空指揮所にいる誰もが息をする事すら忘れた。

 

 投下された爆弾が一直線に艦橋へ向かって来る。

 

 当たる、と誰かが悲鳴を上げた。

 

 ググッと尚も艦が面舵を切りーー爆弾が艦橋をすり抜け、左舷側の海面へ落ちる。

 

 躱したーーそう見張員の誰もが歓喜の声を上げようとした刹那の瞬間に爆弾が炸裂し、水柱が立ち昇る。

 

(ーー至近弾っ!)

 

 水柱の大きな飛沫が蔵王へ浴びせられ、海面から飛び散った爆弾の破片が襲い掛かった。

 

「ーーっ!もどぉぉせぇぇぇ!!各部の損害報せ!」

 

 水柱の飛沫を頭の上から浴びつつ艦長が伝声管に向かって吠える中、桂木の耳が防空指揮所の端からの悲鳴を捉える。

 

 桂木がそちらへ視線を遣るとーー大型双眼鏡へ取り付いていた筈の見張員の姿が無かった。

 

 その代わりに大型双眼鏡を掴んだままの格好で垂れ下がる二の腕までの右腕がズタズタとなった切断面からまだ生暖かい血を流している。

 

 悲鳴は防空指揮所の甲板からだった。

 

 海水を被り、用をなさなくなった煙草を吐き捨てると甲板を転げ回る見張員へ駆け寄る。その傍らには倒れた際に顎紐が千切れたのか鉄兜も転がっていた。

 

「ーー暴れるな!!ーー辛抱しろ!!」

 

 苦痛が混じった悲鳴を上げる者からすればーーそれも腕が千切れた者にとっては何の慰めにもならぬ言葉を吐きつつ尚も暴れる見張員の身体を押さえ込む為、桂木が馬乗りになる。

 

 すかさず見張員が被っている戦闘帽を乱暴に奪い取り、舌を噛まぬよう、そして歯を食い縛れるよう口の中へ突っ込んだ。

 

 腰に下げていた手拭いも奪い取り、出血が続く右腕をきつく縛り上げる。

 

「ーーグゥゥゥッ!!」

 

「ーー歯ぁ食い縛れ!!従兵!小川ぁ!!」

 

 桂木が自身に付けられた従兵の名を呼ぶ。

 

 名を呼ばれて駆け寄った従兵の顔が真っ青となり呼吸も荒くなっている。動揺しているのだ。

 

 それに気付いた桂木はーー無論、責める事は出来ないのだがこの状況では構ってやる暇は寸刻もなかった。

 

 気付け代わりに彼の頬を軽く一発平手で張る。

 

 顔面に血の手形が浮かぶ従兵へ桂木が命じる。

 

「ーーこいつを降ろせ!!可能であれば衛生兵を呼んで搬送しろ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 運搬を任せようと桂木が馬乗りとなっていた見張員から離れようとした時、あれほど暴れ回っていた兵が大人しくなっている事に彼は気付く。

 

 顔を覗き込みーーややあって桂木が嗚呼と溜め息を吐いた。

 

 見張員の両目は血走ったまま、カッと見開かれており、その瞳孔は完全に開いていたのだ。

 

「…小川、頼む!」

 

 いまだ戦闘中。

 

 戦死した者にいつまでも構ってはいられないとばかりに桂木は見張員から離れて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛機の風防が、機体がビリビリと軋みを上げる。

 

 敵の第一波は既に艦隊が張る弾幕の只中にある。

 

 その渦中へ突入すれば対空砲火の巻き添えとなるのは必至だ。

 

 黒川一飛曹の鍛えられた眼が新たに接近する敵の編隊ーー第二波と思われる敵攻撃隊を捉えた。

 

 彼が先導し、水野大尉以下の真珠湾奇襲を成功させた第一次攻撃隊の戦闘機隊が黒川一飛曹の機へ続く。

 

 空戦をするだけの燃料、弾薬は世辞にも充分とは言えない。

 

 だが少しでも敵機を叩き落とし、艦隊への空襲を防がねば帰るべき母艦も着水した際に救助してもらう駆逐艦すらも残らないかも知れない。

 

 ーーそれだけは断じて許さない。

 

 その一心のみを抱く彼等の先頭を駆ける黒川一飛曹の機体が左90度へ大きく傾いた。

 

 戦闘機隊の約500m下方に敵攻撃隊がいる。

 

 敵編隊の上方から戦闘機隊が一斉に翼を翻し、獲物を狩る猛禽の如く襲い掛かる。

 

 狙うは艦隊へ攻撃を加えようとする雷撃機、或いは爆撃機だ。

 

 ーー気付かれた。

 

 敵直掩の戦闘機隊10機が迎え撃とうと上昇を始める。

 

 構わず彼等は吶喊を続けーー各機の搭乗員達が照準環へ捉えた敵機に向けて機銃の発射把柄を握り込む。

 

 それとほぼ同時に敵戦闘機隊も射撃を開始ーー空中で彼我の機銃弾と曳光弾が交差した。

 

 機銃弾で穴だらけになり火の玉と化した深海棲艦側の戦闘機の3機が、そして上方から吶喊する戦闘機隊からも1機が左主翼を砕かれ、錐揉みを起こしながら墜ちて行く。

 

 そのまま敵戦闘機隊とすれ違い、邀撃を突破した零戦15機が猛然と魚雷や爆弾を抱えた30機を超える攻撃隊へ襲い掛かる。

 

 先程の射撃で残り少なくなったであろう主翼の機銃弾を温存すべく黒川一飛曹は発射把柄のレバーを操作し、機首の機銃のみを射撃するよう選択する。

 

 射爆照準器の照準環に捉えた雷撃機がみるみると大きくなる。

 

 蜘蛛の巣を思わせる照準環から敵機が飛び出す程の至近距離ーーそこで彼は発射把柄を握り込む。

 

 瞬間、機首の機銃が銃弾を連射で吐き出した。

 

 時間にして1秒経ったかどうかで狙いを付けた敵機とすれ違い、下方へ抜け出る。

 

 操縦桿を引き付けつつ後方へ首を捻り、肩越しに戦果を確認すればーー敵機が炎を噴き上げて墜ちていくのが見えた。

 

 他の機はどうかと視線を巡らせる。

 

 先程のすれ違い様の一撃で敵攻撃隊の8機が撃墜、もしくは撃破。

 

 ーー上々と言った所か。

 

 そう判断した黒川一飛曹は新たな獲物を求めて愛機を踊らせる。

 

 久々の空戦らしい空戦は不謹慎ながら彼を奮起させるに充分だった。

 

 だが燃料も弾薬も残り少ない。

 

 母艦への着艦を考えればーー在空可能の時間は10分あるかどうかだ。

 

 無論、海面へ着水するのであれば時間は延びるのだがーー戦闘後の水泳は遠慮したいのが人情である。

 

 二機目の敵雷撃機へ銃撃を加え、穴だらけになった敵機が炎と黒煙の尾を引いて墜ちていくのを認めた彼が新たな敵へ向かおうと周囲を警戒したーー後方から反転して来た敵戦闘機の一機が喰らい付こうとしている。

 

「ーーチッ!」

 

 舌打ちを一発かました彼が敵機を振り切る為、左へ急旋回した。

 

 そのまま逃げ切ろうとするがーー眼前に爆弾を腹に抱えた爆撃機の編隊がいる。

 

 先頭を飛ぶ敵機へ銃撃を加えつつ上方へ抜け出るーー戦果を確認しようとしたが敵戦闘機が追い縋って来るのが見えた。

 

「ーーしつけぇな!」

 

 思わず語気が荒くなるがそれに構う暇はない。

 

「ーー相手になってやる…!」

 

 尚も追撃して来る後方の敵機へ宣戦するかのように彼は言葉を吐いた。

 

 操縦桿を一定に引き付けつつ、絞弁把柄や踏み込むフットバーを調整して水平に旋回を始める。

 

 自身の頭を上方へ向け、視線の先にある愛機の後方へ占位して銃撃を加えようと追い縋り続ける敵機を睨み付ける。

 

 旋回によりGが加わる。彼の身体が重くなり、座席へ押し付けられ、息も苦しくなる。

 

 腹筋に力を込めて耐え続ける。

 

 円環をグルグルと回り続けるかのような旋回は我慢比べだ。

 

 先にこの円環を抜け出た者が撃墜されるという我慢比べである。

 

 旋回の途中に彼は一瞬だけ周囲を確認するとーー粗方の敵機が片付いているのが見えた。それと同じく味方機の姿も少なくなっている。

 

 小隊の部下の機体を認められなかった事に一抹の不安が脳裏を過るーーが、それを追い出した黒川一飛曹は空戦へ意識を戻す。

 

 果たして何周目かになる旋回で視界の鮮明さが失われて来た頃、彼はふと気付いた。

 

(ーー敵機に搭乗員はいるのか?)

 

 もっとも根本的な事に彼は気付いてしまい言い知れぬ不安が襲う。

 

 これは敵機に“生身の者”が乗っていれば成立する我慢比べだ。

 

 万が一、搭乗員がおらずーー無人であった場合は圧倒的にこちらが不利。

 

 敵機が完全な状態で鹵獲された、という情報は彼が知る限りでは皆無だ。

 

 ではこのままいけばーーと彼の脳裏で弱音の虫が鳴き始めるがそれを頭を振って追い出す。

 

 改めて敵機の双眼のような風防らしき箇所を睨んだ刹那ーーゾクリと背中に電流が走る。

 

 向こうもこちらを見ているーーと根拠は無いが彼は確信した。

 

「ーー上等…!」

 

 思わず口角を吊り上げたーーその刹那だ。

 

 横合いから敵機に機銃弾が浴びせ掛けられた。

 

 視線を遣ればーー急接近して来るのは零戦だ。

 

 所属する空母ごとに違う識別帯はーー見覚えがない。

 

 恐らく空母の艦娘から発艦した戦闘機だろう、と彼は仮定した。

 

 直撃とはならず掠めた程度だが敵機が体勢を崩し、円環から抜け出たのを認めた黒川一飛曹が機体を翻す。

 

 反撃に転じた彼が敵機の後方へ占位ーー発射把柄のレバーを尾翼側へ倒し、両銃を射撃出来るよう選択する。

 

「ーー貰った!」

 

 敵機を照準環に捉え、発射把柄を握り込む。

 

 機首、そして主翼の両銃が射撃を始めーー直ぐに止まった。

 

 ーー弾切れだ。

 

 何度も何度も発射把柄を握り込むが、機銃はうんともすんとも言わない。

 

「ーー畜生っ!!」

 

 悪態を吐く彼が駆る機体の先でーー敵機が悠々とバンクを振った。

 

 ーー率直に言って、かなり腹が立つ。

 

 唇を震わせる彼だが、幸いな事に件の敵機は反撃に転じる様子はなく生き残った十数機と共に空域から離脱していく。

 

 見れば味方の戦闘機隊が集結を始めている。

 

 敵の第二波攻撃を未然に防げたのを考えれば上々だーー冷えて来た頭でそう考えた黒川一飛曹は味方と合流する為、翼を翻した。

 

 

 

 




次の話は艦娘主体にしよう(キリッ

もし嘘吐いたら……今のうちにご免なさいm(__)m

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